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希望



ライアスから受け取ったメモを見て、自宅ではなく街の中心部の駅へと足を向ける。

すこし速足で歩いていたら、



「あれ、黒崎君?」



 足を止める。振りかえれば、



「こんにちは……じゃなくてこんばんはかな?」



「……ああ、そうだろうな」



 いつかの夕方のように雪村沙姫はいた。







・・・・・・







 歩く。しかし先ほどよりも遅い。

 隣に雪村沙姫がいるからだ。

 駆は駅に。

 沙姫はその近くの文房具屋に用があるとの事で自然と一緒に歩いていた。

 もっとも。



「……」



「……」



 会話は無いが。

 いつかと同じように一歩ずつ踏みしめるように歩く。

 この前よりも目的地が遠いのは駆にとっていいことなのか。

 気が付けば駅の前だった。

 自分から別れようと足を踏み出そうとして、



「ああ、そうだ。黒崎君」



「……どうした?」



 沙姫が思い出したように口を開いた。



「クリスマスにね、家でクリスマスパーティーやるんだけど黒崎君もどう?」



「俺は……」



クリスマスと言う事は二日後。

はっきり言うと行けないのだ。

 先ほどライアスからもらったメモは仕事の依頼だ。

 普段、カンナと行う魔獣討伐のようなものではない。

 陰陽寮の手配書の魔獣や罪人の討伐だ。

 今回は東北まで出向いてイ種の陰陽師の捕縛又は殺害。

 イ・ロ・ハ・ニ・ホ・ヘ・トの六段階で戦闘力が評価される陰陽寮の最高位。

 この類の相手となると駆の終業の意味合いが強いので一人で戦う。

 本来なら一週間ほどは掛るので、 

 ……さすがにキツイな……。

 だから断ろうとして、



「出来れば来てほしいんだけどね……」



「……っ」



 何も言えなかった。

 沙姫が少しだけ。

 ほんの少しだけ寂しそうな顔をしたからだ。

 だから、思わず。



「……わかった、行くよ」



 そう言ってしまったのは仕方がないと思う。

 ……まぁ、何とかなるだろ。



「……本当?」



「ああ」



「そっか……」



 彼女は驚いて目を細め、



「楽しみにしてるね!」



 彼女にしては珍しい浮かれたような。



 満面の笑みを浮かべた。



「……ぁ」



 その笑顔を見て、ふと思った。

 つい最近、リーシャに自分が戦うのはただの自己満足の為だといった。

 ……でもそれだけじゃなかったかもな。



「ん?どうしたの、駆くん?」



「いや……」



 別にいまさら愛だとか恋などと語るつもりはない。

 そんなことは黒崎駆にはわからないのだから。

 それでも。



「なんでもない、俺も楽しみにしてる」



「――うん」



 それでも彼女の。



 沙姫のこの笑顔を何度でも見てみたいと。

 そう想った。

 この笑顔を守る為に戦っていると。

 そう、想えた。

 少しだけ、笑うことができた。。



「じゃあな」




 沙姫に背を向け駅へと向かう。



「うん、がんばってね」



 背に温かい声を受け取って。

 そして―――。 




















「いってらっしゃい、駆くん」

「ああ、いってくるよ。沙姫」

















第一章、完。

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