↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/17

夜勤


俺は鎖につながれたまま、通りを引きずられていた……。


というわけで、職場に着くまでの間、少しばかり物思いにふけることにしよう。


今夜もまた、素晴らしい夜だ……。


雲一つない空に、心地よい風が吹き抜けていく。辺りは静寂に包まれ、穏やかな空気が流れている。


道行く人々が俺を見て笑っていることなんて、気にしないでくれ。


きっと、こんな素晴らしい生活を送っている俺が羨ましいだけなのだろう……。


この頬を伝う涙だって、間違いなく嬉し涙に違いない!


アハハハハ!


さて、どこまで話したんだったか?


ああ、そうだ!


この美しい夜について語っていたんだった。


色とりどりの光を放つ星々が空に輝き、その中央に浮かぶ月が、石畳の道を優しく照らしている……。


前の世界では、発展と都市化が進み、街中に溢れる明かりに空の美しさを隠されていたから、こんな景色を楽しむことはできなかった。


この話は以前にもした気がするが、昔の人々は、俺たちが当たり前のように使っている便利なものが何もない環境で、いったいどうやって暮らしていたのだろう?


まさか自分が、携帯電話をはじめとする現代の便利なものから離れて、こんな生活を送ることになるなんて、夢にも思わなかった。


時々、都会を離れて、家族が昔住んでいた田舎の家に移り住むことを考えたこともあった。だが、生活に必要なものが何でも揃っている都会を離れることはできなかった。


それが今では、こんな奇妙な世界に来てしまい、少しずつこの世界にも馴染み始めている。


まあ、今の俺は借金を返すために昼も夜も働いているわけだから、そもそもそんなことを考える時間すら残っていないのだが!


アハハハ!


冷たい風が俺の周りを通り抜けた。


「はぁ……本当に平和な暮らしだなぁ……」


だが、どうやらこの穏やかな時間も、そろそろ終わりらしい。


「ずいぶんと楽しそうじゃないか、小さな奴隷君」


後ろからアサミ様の声が聞こえてきた。どうやら、俺を引きずるのをやめたようだ。


「アハハハ! そう見えますか、アサミ様? 実は、昔の生活を思い出していただけですよ……」


「お前の過去の話など聞いていない。興味もないからな」


……


そういえば、まだ言っていなかったが、アサミ様もなかなか優しい人だ……。


あの爺さんと同じくらいに。いや、マサト様のことだ!


アサミ様は、地面に横たわっている俺に近づいてきた。


「おい、小僧。どうしてそんなに顔が腫れているんだ?」


その質問、少し遅すぎるとは思わないか?!


アサミ様は少し首を傾け、俺の顔をじっと眺めた。


「うーん……もともとそんな顔だったか? 正直、よく覚えていないな」


くそっ! せめて、自分のところで働いている奴隷の顔くらい尊重してくれ!


「マサトがその痣を作ったに違いないな」


実際、その通りだ。


以前、あの爺さん……いや、マサト様に対して、自分の意見を言おうとしたときのことを思い出してほしい。


どうやら、あの人は批判を素直に受け入れられるタイプではなかったらしい。


だから、そう……今の俺の顔は、うっかりあの人を怒らせてしまった結果なのだ。


結局、悪いのは俺ってことだよな?!


「まったく、マサトめ……。お前の顔はなるべく殴らないように言っておいたんだがな」


おおっ! 間違いない! 俺のことを心配してくれているんだ!


アサミ様は真剣な顔で話を続けた。


「こんな痣だらけの顔なら、奴隷だと気づかれにくくなるだろう」


……


なるほど、俺が自分のところで働いている奴隷だと、誰にも気づかれないように心配してくれているわけか!


そういえば、このことも前に話していなかったな。


俺を奴隷として働かせることが決まったあと、その契約を正式に記録するための手続きが行われた。


そのとき、こういうことを専門にしている年配の女性が呼ばれ、何かの儀式……あるいは呪いのようなものを施したのだと思う。


すると、俺の顔の左側に奇妙な線が浮かび上がった。


こうして俺は、正式に自分の運命を決める権利すら持たない奴隷になったのだ!


いったい、この生活はいつまで続くのだろう?


それに、こんな俺でも受け入れてくれる女の子なんて現れるのだろうか?


おそらく、この世界で女の子を見つけるのは、魔法を覚えることよりも難しくなってしまったに違いない……。


まあ、そもそも俺には魔法の才能なんてないんだけどな!


アハハハハ!


本当に素晴らしい人生だ!


---


宿屋に到着すると、扉が開かれ、そのまま中へと引きずられていった。


中は騒がしかった。客たちの笑い声、グラスのぶつかる音、料理を注文する声……。こういう混雑した場所なら、誰もが想像するような光景が広がっていた。


なあ、知っているか?


自分たちの街を守り、平和を実現するために、日々努力している兵士たち……。


そう、そうだ!


まあ、ここにいる連中は、酒と食べ物が大好きな酔っ払いの集まりでしかないんだけどな!


これが人生というものだ……。


いつだって、最悪の人間に最高のものを与えてしまう。


絶対の法則だ!


「おい、オーナーのアサミ! 待ちくたびれたぞ!」


「ああ、遅くなって申し訳ありません、皆さん」


アサミ様は笑みを浮かべて、さらに言葉を続けた。


「ご存じのとおり、奴隷がいなければ、ショーを始められませんからね!」


そう言って、俺につながっている鎖をさらに強く引っ張った。


「アハハハ! つまり、このショーのスターは俺ってことですか、アサミ様?」


……


「まあ、ただの言葉の綾ですよ。結局、お前がいなければショーを始められませんからね。分かっているでしょう?」


「う、うん……分かっています」


そのまま厨房へと引きずられ、木の床に叩きつけられた。


ドサッ!


おそらく、まだ治っていない場所のどこかに、新しい痣ができたことだろう……。


それでも俺は、何事もなかったかのように笑顔で顔を上げた。


アハハハ! そんな細かいことを気にする奴がいるものか!


さて、今夜の出来事を簡単に説明しよう。


中へ引きずり込まれたあと、あの爺さん……いや、アサミ様が残りのことを引き受けてくれた。


そう、実は毎日、俺の入浴まで手伝ってくれているのだ。


ただ、この世界にはお湯がないので、見つけた水を使って何とかするしかなかった。


今は夏だから大した問題ではないかもしれないが、冬の寒い夜になったら耐えられるかどうか分からない……。


そして、素晴らしい入浴を終えた俺は、仕事用のエプロンを身につけ、夜勤を始めた。


---


「おかわりを一杯くれ!」


「俺もだ!」


「スープを一皿持ってこい!」


「こっちにはパンを頼む!」


そう、これが今、皆さんの目の前に広がっている光景だ。


この場所で夜を過ごし、何の悩みもないかのように飲み食いしている人々。


だが、今この場にいる俺の目には、こいつらが食べ物と酒を奪い合う怪物のように見える。まるで獲物を奪い合う野獣そのものだ!


「おい、坊主! 頼んだものを持ってこい! 何を突っ立っているんだ?!」


「いったい、いつまで待たせるつもりだ?!」


「おい、小僧!」


「岩みたいに突っ立ってないで動け! この役立たずが!」


正直、こういう人間という名の生き物を相手にし始めたときから、俺はもっと早くこの一歩を踏み出すべきだったのだ!


だが、俺が結んだ契約には、客は常に正しく、奴隷は常に間違っていると書かれている……。


だから、反論することすらできなかった。


それでも……。


もう我慢の限界だ!


俺は大きく息を吸い込んだ。


そして……。


「黙れええええ! ジプシーどもおおお!」


俺の声が宿屋中に響き渡った。


「この野蛮人どもが! 礼儀も教養もない連中め!」


そう、俺は大声で言ってやったのだ!


もうこれ以上、耐えられない!


店内が静まり返った。


胸の奥で何かが燃え上がるような感覚がした。そして、そこにいた全員の視線が俺へと向けられた。


誰も、今起きたことを理解できていないようだった。


すると、あのガラクタ……いや、ガイドの声が頭の中に響いた。


『告:検知された……』


お前も含まれているんだよ、このガラクタ! 俺が黙れと言ったのが聞こえなかったのか?!


ガイドの声が消えた。


そのほうがいい!


まず、何よりも先に……。


「ああ、よく見ておけ! 俺はこの六十日間、お前らの野蛮な注文にずっと我慢して付き合ってきた! だが、もうこれ以上は耐えられない!」


俺は周囲のテーブルを指差した。


「お前らは礼儀も思いやりも知らない、ただの獣の集まりだ! ここは食事と酒を提供する宿屋であって、闘技場じゃないんだぞ! 宿屋の中で喧嘩をするのは禁止だって知らないのか?!」


俺は手を上げ、壁に掛けられた看板の一つを指差した。


「この場所に入ろうとする前に、看板くらい読め!」


視線を下げる者もいれば、その場で動きを止める者もいた。


俺は話を続けた。


「店を壊すのはやめろ! お前らのせいで、俺がさらに奴隷にされることになったらどうするんだ?! だから、少しは文明的な振る舞いをしろ、このジプシーどもおおお!」


そして、もう一度深く息を吸い、話を続けた。


「それから二つ目! 野生動物が餌を探しているような、あの騒がしい声は何なんだ?!」


俺は厨房のほうを指差した。


「料理を作っているのはあの爺さんであって、俺じゃない! だから、誰かに怒鳴り散らしたいなら、あいつに向かって叫べ! それとも、あいつのムキムキの筋肉と大量のシワが怖いのか?!」


誰も答えようとはしなかった。


「チッ……」


俺は目を細めた。


「冒険者であることや、一日中、盾や武器を振り回して魔物と戦っていることが、そんなひどい振る舞いをしていい理由になるとでも思っているのか?!」


俺は一瞬言葉を切り、自分自身を指差した。


「お前らよりも、もっと苦しんでいる人間だっているんだぞ、この野蛮人ども!」


そうだ!


俺だ!


お前らのせいで、こんなにも苦しんでいる俺だ!


何の罪も犯していないのに奴隷として生き、まるで奴隷になるにふさわしい犯罪者であるかのように扱われている!


朝から働き続けても給料はもらえず、十分な食事すら与えられない!


だから、お前ら野蛮人ども! 次にここへ来るときは、まず自分たちが今の生活を送れていることに感謝し、それから人間らしく振る舞え!


……


正直、長い間胸の奥に閉じ込められていた何かが、ようやく外へ出ていったような気分だ。


だが……。


背後から声が聞こえてきた。


「おい、小僧……」


何だよ、お客様!


俺は鋭く振り返った。


すると、誰かが俺の耳元で囁いた。


「何か言う前に、後ろを見たほうがいいぞ」


俺は後ろを振り返った。


そこには、あまりにも巨大な何かが立っていた。大きすぎて、その全貌すら見えない。


とてつもなく巨大な何か……。


俺はゆっくりと顔を上げた。


……ん?


あの筋骨隆々の爺さんだ!


アサミ様!


な、何も心配することはないよな?


さて……。


それが、俺の顔が今のような状態になる前に考えた、最後のことだった。


---


ようやく夜勤が終わりを迎えた……。


最後の客が宿屋を出ていった。


男の一人が扉のところに立ち、連れの男に振り返って尋ねた。


「あの坊主、今夜アサミの怒りから生き延びられると思うか?」


連れの男はゆっくりとうなずいた。


「あれから待ち受けているものを考えると、気の毒でならないな」


そして、こう付け加えた。


「だが、あいつが初めて俺たちに向かって叫んだとき、妙な感覚があったんだ……」


もう一人の男が笑った。


「ハハハ! 俺もだ! まるで身体が勝手に動かなくなったような感じがした!」


二人は顔を見合わせた。


「あれはいったい何だったんだろうな?」


「さあな……」


そして、片方の男が宿屋の扉を見ながら付け加えた。


「せめて骨だけは無事でいてほしいもんだな! ハハハハ!」


---


宿屋の中……。


俺は地面にひざまずき、上半身を前に折り曲げていた。今にも木の床と一体化してしまいそうな姿勢だ。


どう説明すればいいだろうか?


そうだな。一言で表すなら……。


もう目を開けることすらできない!


アサミ様は俺の前に立っていた。その顔には影が落ち、まるで全身が闇に包まれているかのようだった。


「おい、小僧……」


「は、はい、アサミ様……」


「客に向かって怒鳴るなと言わなかったか?」


実際、俺が怒鳴っていたのは人間じゃなくて、動物の集団だったんだけどな……。


「はあっ?!」


俺の身体が震えた。


「相手が動物だろうと人間だろうと、鳥だろうと魔物だろうと、金を払っている限り、そんな分類はどうでもいいんだよ!」


……


そういうことか……。


「それで、お前は何をした?! 宿屋の中で騒ぎを起こしやがって! 言ってみろ、俺はどうすればいい? 客が壊した物の代金に、お前が大声を出して引き起こした騒動の分まで、借金に上乗せすればいいのか?!」


……


アサミ様の言葉を一つ聞くたびに、川の向こう岸に立っていた俺の自由が、こちらに手を振りながら別れを告げているような気がした。


さようなら、ヴィン……。


どうやら、お前には最初から自由なんて与えられていなかったらしい。


また会うとしたら、死んだあとになるのかもしれないな……。


「ア、アサミ様! どうか、この哀れな奴隷をお許しください! 少し調子に乗ってしまいましたが、もう二度と同じことはしません!」


頼む! こんなことをしていたら、将来、安定した生活を築くことなんて絶対にできないじゃないか!


アサミ様は腕を組んだ。


「それの何が問題なんだ? そもそも、お前に送れるような人生があるとは思えないがな」


……


「お前は本当に役立たずだな! 何の役にも立たない! 昼も夜も働き続けて、毎日増えていく借金を返すだけの哀れな小僧だ! まったく、大した才能だよ!」


そうか……。これが、今夜も素晴らしい働きをした俺にふさわしい、感謝と称賛の言葉というわけか!


ゴホン、ゴホン……。


これは今日の終わりと言うべきなのか、それとも新しい一日の始まりと言うべきなのか?


おそらく、今は午前四時だ……。


アサミ様は厨房のほうへ振り返り、最後に俺を一瞥した。


「ほら、そこをどけ。さっさと寝に行け!」


そして、さらに付け加えた。


「今夜は夕食抜きだ!」


「寛大なお心に感謝します、アサミ様……」


---


しばらくして……。


俺は残されたわずかな尊厳を抱え、部屋へと向かった。


そこは、馬が寝るための厩舎のような場所だった。


そして、これが……。


俺の素晴らしいベッド!


ただの藁の山だ!


正直、完全に騙された!


アニメでは、藁のベッドはまるで柔らかくて寝心地がよさそうに描かれているのに……。


実際は全然そんなことない!


ここ数日、藁の先端が身体に跡を残し始めているんだ。


くそっ……。


まあ、それでもいい。


結局、俺には仕事がある!


この世界で俺が最も恐れていたのは、まさにそれだった……。


仕事もなく暮らすことだ。特に、誰にも知られていないよそ者である俺にとっては。


俺は藁の山の上に横になり、天井を見上げた。


天井には大きな隙間があり、そこから空の一部が見えていた。


元の世界にいる家族は、今どうしているのだろう? みんな元気にしているだろうか? 俺が死んだという事実を受け入れられただろうか?


俺は暗い空を見つめ続けた。


それに、この身体の家族はどうしているのだろう? 息子のことを心配して、今も探し回っているのだろうか?


疑問は尽きない……。


だが、もう一つ、同じくらい重要な疑問がある。


この痣が消えたら、俺の顔は元に戻るのだろうか?


天井の隙間から、冷たい風が吹き込んできた。


しばらくすると、近くから鶏の鳴き声が響いた。


「コケコッコー……」


新しい一日の始まりを告げている。


また一日、労働と奴隷生活が始まるのだ……。


俺の目から涙が一筋こぼれ落ちた。


なんて過酷な人生なんだ……。


だが……。


まあ、他に言えることは何もない。


ただ、過酷な人生というだけだ。


そして、近いうちに明るい未来が待っているようにも思えない……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。