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辺境貴族
初めて執事として仕事に向かう最中、行商人の馬車に乗せてもらったことがある。
「マイドロス家の執事?あぁ、新しく雇ったのか。あそこはここらじゃ有名な領主様でな。俺もここで用があるんだ。」
「ここら一帯の流通を仕切っていると聞いた事があります。」
「よく知ってるな。」
辺りは生き生きとした樹木が立ち並び、整備された山道を木漏れ日が照らす。
「何で、執事になんかなろうと思ったんだ?まだ若いのに、貴族に仕えるなんてストレスだろ。」
「……」
この時、俺がすぐ言葉を出せなかったのは、理由がなかったからじゃない。ただ、少し迷ったのも事実だ。
「仕えるんじゃなくて、学ぶんです。」
「そ、そうか。」
予想外の回答に戸惑う行商人。それを横目に僕は、木々の隙間から見える豪邸を見つけた。
「見えてきたぞ。」
辺境の領主とは思えない豪華さは、遠くで見ても存在感を発揮する。
”六大貴族”。それに一番近づく方法は、手柄を挙げて執事としてスカウトしてもらう事。
「じゃあ俺は、料理長に食材を届けてくるよ。また何かあったら頼ってな。」
行商人は馬車を豪邸の左奥へと進め、馬車を降りた僕は豪邸の玄関らしき所で立ち尽くしていた。
「執事、か。」
門を前に、覚悟を決めて前へと進む。
貴族への成り上がりの物語は、辺境のとある領主の元で始まる。




