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竜国に『非竜人族の番を迎え入れる際の決まり事』という法が制定された理由  作者: 重原水鳥
竜国に『非竜人族の番を迎え入れる際の決まり事』という法が制定された理由

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2/8

後編

「婚約は、解消されたそうだよ」

「やっとですか?」


 カウチに腰かけて編み物をしていたセレーヌの横に、ガイオは人間一人分の隙間を開けて座った。

 それから彼に告げられた言葉に、セレーヌは片方の眉をキュッと上げた。


 アンジェリーヌが起こしたあの出来事から、既に一ヶ月が経っている。


 騒動の中心であるアンジェリーヌとアロイージオの関係は国も絡んでいたから、すぐに正式な発表は出来ないとはいえ、遅すぎる発表だった。

 人々が熱心に騒ぎ立てていたのは最初の二週間ほどで、それが過ぎると、「そういえばあの話は何か発表があったの?」「いえまだないみたい」なんて会話がどこそこで繰り広げられていた位だ。


 そう思ったセレーヌは素直に、


「国同士のやり取りって、大変ですのねえ……」


 と感想を漏らした。


 彼女の感想にガイオは困ったような顔をした。


「うぅん、どちらかというと、殿下がごねたのが原因かな」

「あれだけ拒絶されたのに、まだ頑張っていらしたんですか?」

「うん」


 驚くセレーヌに、ガイオは頷いた。


 ガイオがはあ、と溜息を吐く度に、小さな火種が生まれている。

 本気で疲れている様子である。


 編み物の手を止めて、カウチに深く腰掛けなおしたセレーヌは、ぽんぽんと自分の膝を叩いた。


「寝ます?」

「………………………………ね、寝る」


 長い葛藤の後に、ガイオはそっと、セレーヌの膝に頭を置いた。いわゆる膝枕というやつだ。


 ガイオの角は後ろに向いて生えているので、間違ってもセレーヌの膝を傷つけないように、彼はいつも、セレーヌの腹側に顔を向けて頭をのせてくる。


 それは良いが、ガイオはいつも、セレーヌの膝に頭を預けてはくれないのだ。

 少し頭をのせたぐらいでセレーヌの膝はつぶれないといっているのに、ガイオは首に力を込めて体重をかけまいとしてくる。


 なので、そんなガイオの頭をぎゅっと膝に押し付けるまでが、二人が膝枕をする時にワンセットになっている流れであった。


「殿下は、アンジェリーヌ様を手放したくないとか仰ったのですか?」

「おおまかには、そうだ。嫌がって、暴れて火を吹いた。お陰で溶けた王宮を直すのに、駆り出されて大変だった」

「まあ危ない。どうやって納得させたのです?」

「陛下が雷を落とした」

「……この前の大きな音って、それでしたのねえ」


 ガイオのいう事は比喩ではなく、本当に雷を落とした、という話だ。


 竜人族は火を吹いたり、雷を呼び寄せたり、色々と自然に干渉する力を持つ。

 火を吹いて周囲にも危険をまき散らせながら、我儘を押し通そうとした息子を、陛下は許さなかったのだろう。


「陛下たちは、アンジェリーヌ様に対して負い目があったのだと思う」


 とガイオがいう。


「当初、国同士の繋がりや利益の観点から、アンジェリーヌ様と殿下の離縁を認めなかった彼女の祖国に、多額の賠償や、相手国に有利な貿易の決まりを結んだそうだから」


 息子を信頼していた国王夫妻は、アンジェリーヌに対するいやがらせも、息子がしっかり対処していると思い込んでいた。

 故に手を出さず放置して、結果として、彼女の不遇な時間を伸ばしてしまった。


 もし最初に、小さないやがらせの段階で、国王が王太子に「しっかりと対処をしているか」と問うていれば、もっと早い段階でアンジェリーヌに対するいやがらせ――中には本気で命を奪おうとするようなものもあった――が発覚していたはずだ。


(でも、そんな事実は、なかった)


 アンジェリーヌはずっと虐げられた。

 人間の基準で言えば、アンジェリーヌは十分に強い女性だった。そうでなければ何か月も虐げられてなお、自分の足で立ち続ける事など出来なかっただろう。

 そんな彼女ですら、王宮であの扱いで甘んじる他ないほど、竜人という生き物は、別の次元の生き物だった。


「……陛下方が便宜を図ってくださっても……それでも、きっと祖国に帰られても、アンジェリーヌ様の立場は苦しいはずです」


 アンジェリーヌがアロイージオに嫁いでいれば、彼女の祖国はずっと、「竜国の王妃は自国の出身だ」と他の国に大きな顔が出来たはずだ。

 たとえアンジェリーヌが亡くなったとしても、亡き王妃の祖国として胸を張る事が出来ただろう。

 それは、一時的な賠償や少しの貿易で生まれる利益より、さらに大きいものだったかもしれない。


 あったかもしれない利益を永久的に失う行為をした。そうみられてしまう事があれば、アンジェリーヌはきっと、表向きは心配されて同情されても、裏ではある事ない事言う人間に、苦しめられる事になる。


(……アンジェリーヌ様はそうした先の事も勿論承知の上で、例えそれでも、一生を殿下となぞ過ごしたくないと、番の絆を断ち切ったのでしょうけど)


 そうと分かっていても、アンジェリーヌは大丈夫かと、つい、考えてしまう。


 黙り込んでしまったセレーヌに、ガイオは恐らくだけど、と付け加えるように口を開いた。


「あまり心配しなくても良いと思う」

「えっ?」

「アンジェリーヌ様は、祖国には帰らず、別の国に向かったそうだから。母君の故国、と言っていたかな。…………そこで、女性一人でも生きていける事を証明するから、心配しないでくれ、と君に伝言を頼まれたよ」

「……もう行かれたのですね」

「何日か前に」


 アンジェリーヌは一連の事件の後、保護され、本人の希望に従い面会謝絶の状態だった。そこから彼女の情報は極秘にされ、出国するタイミングは秘密にされていた。

 ガイオがそんな彼女に会ったのは、会えたのは、ガイオはセレーヌの夫だからだった。セレーヌに直接会いに行くことはない。別れの挨拶は、既に済ませている。

 ただ、一言伝えたいと、ガイオは呼び出されたのだという。


(アンジェリーヌ様のお母様の祖国……)


 たった一度、茶会にて聞いた記憶がある国だ。竜国から見ると、かなり遠い国。

 高い山々と深い谷を越えて、アンジェリーヌの祖国すら飛び超えて、さらに二つ分ぐらい国をまたいだ、向こうの国だとセレーヌは記憶している。


 いくら空を飛べる竜人族といえど、簡単にはいけない所だろう。アロイージオからも距離が取れるし、母親の故郷なら親族という縁もあるだろうし、新たに一から人生を築くにはちょうど良いのかもしれない。


「他の女性たちも、各々、番と分かれた後の算段自体は立てていたそうだから、大丈夫だと思うよ」


 皆、無策で婚約や婚姻関係を断ち切ったわけではないらしい。

 彼女たちにとっては最悪の敵ではあった運命の番の竜人たち。しかし同時に、彼女たちの生活を支えていた事は事実。

 生家の家族と仲が良ければ良い。帰ればいいだけだ。

 しかし全ての女性がそうではない。中には、家族である女性を竜人に差し出して、代わりに良い思いをしていた家族もいるだろう。

 そういう家族の元には、帰られない。

 それが分かっているからこそ、準備はされていたのだ。しっかりと。日程が定まっていた儀式の日に向けて。


 そう、綿密な計画があったのだ。セレーヌは知らなかったが。


 アンジェリーヌとアロイージオの婚約に際して国同士が色々な契約を結んでいたように、どこの家も、家同士で契約を結んでいた所ばかりのはず。

 既に結婚し、子を成していた女性もいた。

 そうした、今出来上がっていた関係全てを急に破棄する事になったのだから、簡単に「はい終わり」と別れる事は難しい。


 だから、事前に話し合いがあった。作戦が立てられていた。


 本当はセレーヌにも連絡がいくはずだったらしいのだが、セレーヌに伝える担当の女性が自分の準備に手間取り、セレーヌに連絡するのを忘れていたとか。なんて単純連絡ミスだろうか!

 アンジェリーヌが直接人に伝えて回る事は、番の儀式が近づくにつれて周囲の竜人が増えていき、難しかった。だからこの形になった訳だが……。


 結果的に、アンジェリーヌが声をかけた(つまり、番との関係が良くないとアンジェリーヌが判断した人々)つもりだった人間の女性のうち、セレーヌだけが全く何も知らないまま、番の儀に参列していたらしい。


 事前に知らなかったのが良かったのが悪かったのか、セレーヌには分からない。


(知っていても、私は参加しなかったけれど……)


 でもそれは、結果論だ。


 ()()()()ガイオが、セレーヌにとって、悪い人ではなかった。

 ()()()()セレーヌにとって十分な気遣いを、ガイオがする人だった。

 彼に不平不満を抱く事はあれど、憎むには至っていなかった。


 もしセレーヌの番が、セレーヌにとって一番許せないことをするような人だったなら、アンジェリーヌたちの仲間になっていただろう。

 そう思ってしまうので、セレーヌは、番を捨てた人たちの気持ちを、否定は出来なかったし。

 彼女たちを責めるような事は、出来なかった。

 それだけなのだ。


 アンジェリーヌたちは()()()()()()の道を歩んだセレーヌで。

 そしてきっとセレーヌや、他の番の人間たちもまた、アンジェリーヌたちから見たら、()()()()()()の道を歩んだ自分だった。


 ガイオの体が浮き上がる。特にセレーヌは引き留めず、上体を起こしたガイオを見つめた。


「……今度、番を自国に連れ帰る際の、決まりを新たに制定してはどうだろう、という話が出ているんだ」

「決まりですか?」

「うん。つまり、新しい法を作ろう、という話なんだけれど」

「法」


 ガイオが言うに、今まで、他国で番を見つけた場合の対応は、個々人に任されていた。

 一個人に介入するなんて事は、国はしてこなかった訳だ。

 それはそうだ。一部、立場や影響の大きい貴族家の婚姻には注意を払ったとして、一平民にまでは意識を払ったりはしないだろう。


 しかしそうやって自由にされてきた結果、実際には相手の気持ちに寄り添わず、竜人族という強い立場から、強制的に連れ去るケースが多かったわけだ。


 それの積み重ねの結果が、今回の、多数の番による、絆の断ち切りだ。


 絆をより深く結ぶ儀式に使われる道具が、番を断ち切れるなんて、殆どの人が知らなかった。

 番の儀はまだとはいえ、アンジェリーヌの立場は実質的な王太子妃であった。

 王宮の様々な秘められた書物を見る事が出来たアンジェリーヌだけが、あの短刀の力の使い方に気が付いたのだ。


 竜人達はそもそも、番の絆、縁を断ち切ろうなんて考えに至らない。

 だから、危険性に気が付かなかった。


 すべての竜人が、番――運命の番に出会えるわけではない。

 だからこそ、番に出会えることは幸運な事で、お互いがこれから幸せになれると分かる、素晴らしい出来事だ。


 少なくとも竜人から見た運命の番とは、そういうものだった。

 これは獣人族からしても、同じはずだ。

 その番という関係性が、人間から見たらどういうものかなんて、考えてもこなかった。


 ……だから同じ資料を見ても、真逆の用途に使えるなんて考えた人は、今までいなかった訳だ。

 いや、アンジェリーヌが凄いだけかもしれない。彼女以外では、気がつく事は、なかったかもしれない。



 現在、王太子アロイージオをはじめとして、今回の一件で絆を断ち切られた竜人族たちは、殆どが再起不能になっている。


 寝ても覚めても番を求めて騒ぐので、殆どが監禁措置をされている。



 あの一件以降、王家だけでなく、当事者となった家々は、不名誉な形で国中に名が広まってしまった。罰を受けるべきだという声もある。番は大事な存在。それを貶め苦しめた竜人など、竜人ではない。成り損ないだ。殺してしまえ。そんな声も多く上がっている。


(怖いわ)


 と、セレーヌは思う。


 ただ、民意に押されたとはいえ、そう簡単に死刑を下したり、処分する事は難しい。


 なぜかと言えば、竜人の肉体はあまりに強靭だからだ。


 同じ竜人であっても、殺すのには苦労する。相手が最初から死を受け入れている場合ですら、簡単に殺す事は出来ない位だ。

 なので現状出来る措置は、監禁する事ぐらいになってしまうのだった。


「この出来事で起きた事から、学ばなければ、また同じことが繰り返される。それは絶対に防がなくてはならない。それが国王陛下以下、上の方々の意見なんだ」


 国の中枢で、今回の悲劇はどうすれば防げたのか? という話が上がるのは当然の事だったかもしれない。


 そして、今まで個々人に任せていてこんな事になったのならば、ある程度は国が管理する必要があるのではと考えられた。

 竜人同士が番だった場合は、まだいい。

 しかし非竜人族が番だった場合。そして特に、人間が番だった場合には、しっかりとした手順書に沿わないと一緒にはなれないと決めるぐらい、厳しく決まりを定めた方が良いのでは? という意見が出ているのだと、ガイオは語る。



 ――少なくとも。


 ――相手としっかり話し合い、納得して嫁いできてもらっていれば、今回の悲劇は起きなかった。



 そう多くの竜人たちが思ったそうだ。


 主に、セレーヌを見て。


(私を見てというのがなんだかおかしいような……?)


 セレーヌ自身はそう思ってしまうのだが、周囲曰く、似てるのだという。セレーヌとアンジェリーヌが嫁いできた流れが。

 いや似てないと、セレーヌは思う。似てるのは、祖国の言語が同じなので似ている名前の音ぐらいだ。

 確かにガイオには誘拐同然に連れてこられたと、いえなくもない。そこは否定はしない。少なくともセレーヌ視点では、まあ、誘拐に近かったとは思う。


 初対面の時――抱きしめられて、その後セレーヌの家族も交えて、なんだか早口に説明もされたけれど、セレーヌは殆ど理解は出来ていなかった。

 そしてそのまま、気が付いたら、ガイオに嫁ぐ事が決定していた。

 あっという間に荷物は詰められた。ぼんやりしている間に、竜国に移動する為の準備が終わり、家族に別れを告げて、セレーヌは祖国を後にした。


 あまりに早すぎて、瞬きをしたら竜国に来ていた感覚だった。

 とはいえ。

 あまりに急ではあったけれど、ガイオはセレーヌの親や祖父母という家長たちにしっかりと話を通していた。


 ほかの国はともかく、少なくともセレーヌの祖国では、貴族の令嬢の婚姻は、家長が許可したら本人の意思など関係ない。


 だから書類上として、ガイオの対応はあまりに急だった事以外は何も問題はないのだ。


(でも急ではあったわ)


 恋人がいないとしても、急に他国に嫁ぐ事が決まったとしたら、心は付いて行かないだろう。

 普通は結婚の為の準備をする期間の間に、気持ちに折り合いを付けたりするのだ。

 家族にだって、容易には会えない他国に嫁ぐのなら、なおの事。


 それもなく竜国に連れて来られて、ケロリとガイオを受け入れて、竜国で生活を始めたセレーヌの方が多分、普通からずれている。


(最初のころ、竜人からも人間の方々からも、やたら大丈夫? と言われていたし、私……)


 心配をすごくされる割に、セレーヌ本人の割り切りはあまりに早かったと言える。

 心配されていたから割り切れたのかもしれない。気遣われているという事は、気を楽にする。

 今となってはどちらが先か、分からない。


 とりあえず。

 セレーヌを基準にされても、割と問題が起きそうだなと思ったのだけれど、ガイオの話を聞いていると、そういうガイオの連れて来たやり方も含めた上で、考えられてはいるらしい。



 アンジェリーヌとセレーヌ。

 形だけ見ると似ている、二人の少女。



 竜人の番だったからという理由で、半ば無理矢理、竜国に連れてこられた、人間の少女。


 けれど片方は自ら番の絆を断ち切り、片方は誘われても断った。



 竜人たちからすれば、「似ているのに、彼女たちが選んだ選択が違うのは、竜人(じぶんたち)の対応の差なのでは?」と思う人が多かったらしい。


(簡単に考えすぎでは?)


 と、セレーヌは思ったりした。



 セレーヌは祖国での扱いは良いとはいえなかった。

 彼女は価値のない子供だった。


 一方、アンジェリーヌは祖国でも高位貴族の娘として生まれ、大切に育てられてきた人だった。



 セレーヌは一応、連れ帰る前に竜国に来て欲しいと懇願されていて、それに本人も、家族も同意して来ている。


 一方、アンジェリーヌは、祖国に利益はあれど、本人には脅しのような状態になって、アンジェリーヌが頷くしかない形式になって、連れてこられていたらしい。



 セレーヌは竜国に来てから祖国に帰ったことはないけれど、家族と手紙のやり取りはしているし、伯爵家の支援によって、実家の家族は数度、竜国を訪れているので、ホームシックになって帰りたいと思ったことはない。


 一方、アンジェリーヌは竜国に来てから一度も、手紙のやり取りすら出来ていない。今回の婚礼の儀ともいえる番の儀にすら、祖国の家族は招待もされていなかった。



 国の上層部は、一応、二人の少女の待遇を見比べた。

 で、出した結論が以下のものであるようだ。



 ――問題は、番を見つけた後の対応に違いない!



 そして見つけた後の対応(問題)を解決する為に、定められる事が決まったのが、新しい法律。それが、ガイオが説明してくれた、新法。


「非竜人族の番を見つけた場合は、まず、国に申請して、『今から非竜人族にアプローチを開始する』とハッキリさせた上で、婚姻の申し込みをしなくてはならない形にする予定らしい。万が一にも相手や相手の家族の許可もなく連れ去ってきたならば、その時の状況に合わせて、色々な罰を与える形にするみたい。細かい問題については、まだ、詰めてから施行されるとは思うけど」


 何をすれば相手が納得するか、は一人一人違うだろう。


 ただ、しっかりと事前にそうした部分も含めてすり合わせする事を徹底していれば、今回の悲劇は防げたのではないか?


 法で縛っても従わないものもいるかもしれないが、少なくとも、国がそれを認めず、しっかりと厳罰を処していく事によって、他国人の他種族も、竜国に嫁ぐ事への抵抗が薄まるのではないか?


 そう、結論が出て、現在は急いで法律を制定しようとしているらしい。


 今こうしてセレーヌとガイオが会話をしている間にも、また新しい竜人が、非竜人族の番を見つけているかもしれない。

 新しいアンジェリーヌのような被害者が生まれている可能性は、ゼロではない。


 だからこそ、法律の制定が今、急がれている。



 勿論、連れてきた後の対応についても別途、法律を作るか、制度を作るか、話し合いが持たれている。国がどこまで責任を持つべきなのか、という部分も、争点らしい。



「……その法律があれば、アンジェリーヌ様は、アロイージオ様と心を通わせられたのかしら」


 既に過ぎ去ったことだけれど、そう、思ってしまった。


 これはセレーヌの勝手な想像であるが……。多分、アンジェリーヌも最初からアロイージオを憎んでいたわけではないのだ。


 でも少しずつ失望が積み重なって、どうしようもなくなって。


 その後に()()、セレーヌが手助けをして。


 その結果、アロイージオは謝罪をした。


 アンジェリーヌは、そこで、アロイージオを拒絶出来ればよかったけれど、出来なかった。多分、色々なしがらみが、彼女にはあった。セレーヌにはないような、色々なしがらみが。


 だけど。一度は耐えようと考えた、そのしがらみすら捨てて、アロイージオとの関係を断ち切りたいと思う何かが、おこってしまった。

 何か一点、どうしようもなく、アンジェリーヌが許せないことが起きてしまい……。それで、アンジェリーヌは、こんな騒動を起こしたのだと、セレーヌは思っている。


 それが何かは、セレーヌはわからない。

 調べるつもりもない。


 アンジェリーヌは既にこの国を去ると決まり、アロイージオは永遠に唯一の存在である番を失う。

 起こした問題が大きすぎて、王太子としての地位を保つ事は不可能だとされている。


 この状況で、わざわざ調べる理由はない。セレーヌ個人としても、アロイージオから色々と書き出して理由を解明するような、探究心はない。


「セレーヌ」

「はい、なんでしょう」


 名前を呼ばれ、視線を上げれば、ちらりちらりと、ガイオがセレーヌを見下ろしていた。


「その……嫌な事があれば、すぐ、言って欲しい。私はその、空気が読めないから……」


 ガイオの言葉に一瞬、セレーヌはきょとんとした。

 一拍おいて、そういえばあの悲劇の日、ガイオの事を「空気が読めない」と言った事を思い出した。


 どうやら婚約者はずっとその事を気にしていたらしい。


「分かっていますわ。何か思った時は、いつだってガイオ様にお伝えします。……ガイオ様だって、私がした事で嫌な事がありましたら、隠さず伝えて下さいね?」

「……うん。……でも、君が嫌な事をした事なんて、ないよ」


 本当に、セレーヌの婚約者は、甘い。


 セレーヌは、再び、ガイオの頭を自分の膝に導いた。

 愛しい婚約者の頭を撫でながら、


(どうかアンジェリーヌ様が、彼女なりの幸せをつかめるように)


 と、願った。


 何もできないけれど、願うくらいはしても許されると、思いたかった。


 二人は同じレールを敷かれて、けれど、真逆の道を歩むことになった。



 それでも、アンジェリーヌと共に色々な話に花を咲かせた時間が楽しかったのは、嘘ではなかったのだから。

◆セレーヌ

 人間。ガイオの番。

 結果論であるが、番に選ばれた事で幸せになった少女。

 ガイオの実家である伯爵家にて、成熟(成人)するまで嫁修行中。

 アンジェリーヌの事はなんとなくお姉さんみたいなものに感じていた。



◆アンジェリーヌ

 人間。アロイージオの番だった。

 白髪赤目

 願われて実質的に嫁いだはずなのに、冷たい態度を取られる、周りからも舐められ見下されるハメになった。

 対人間なら一人でも立ち回れたが、基礎ステータスが何もかも違う対竜人だった為に、物理的に逆らう事が難しかったり、命の危機だった事案も多数受けていた。

 セレーヌの事は恩人と思い、感謝している。



◆アロイージオ

 竜人。王太子。

 黒髪青目のイケメン。

 見た目は完璧な貴公子だが、今まで本当に好きな異性ができた事がなく、小学一年生でもしないようなつっけんどんな態度を取った。元々人気が高かったために、いろいろな思惑のある人間の悪意がアンジェリーヌに集中したが、自分が強い故に、ただの人間のアンジェリーヌに、竜人の悪意が集中したらどうなるか、想像が回らなかった。

 番を失い暴走したので、幽閉処置になった。(殺す方が反発が強くて大変なため)



◆ガイオ

 竜人。伯爵令息。

 竜人基準ではおとなしくてむしろ気弱とか言われてる。

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― 新着の感想 ―
私の認識違いなら申し訳ないのですが。 番=溺愛のイメージが強くて、なんで竜人王太子が番をないがしろにしたのかいまいち納得がいしませんでした。 番って言ってる種族(男)は番(女)に害あるモノは全て滅す的…
番というものをそれだけ神聖視してる割には、王子の番を王子の態度がアレって理由で害するのはどんな気持ちでやってたんだ……? って気はする。 もし殺してたら王子が廃人になるのはわかってたんじゃ?
まとめられる以前にも一度目を通していましたが、 改めて思うのは、改正法を施行する際に まだまだ内容が充実していないという事でしょうかね? 少なくとも、番の儀式の場に於いて 神の御力をもって絆を断ち切…
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