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紅の赤  作者: 青階透
鬼殺し偏赤鬼偏
8/61

1話 修行の続き

 新章開幕です。

 今回は説明回ですが、少し短めです。そのうち伸びていきます。


 とある病院にて


「母さん。怪我はもう良いのかい?」


 馬飼琉助(うまがいりゅうすけ)は、先日の件で入院していた母の病室を訪ねていた。


 約一日ぶりに意識を回復した母に単身会いに来た。

 二人はまだ学校で、クソは今の時間帯は懲りずにパチンコにでも行っているのであろう。


 俺はベッドの脇に置かれた木製の四つ足の椅子に座りながら()うた。

 背もたれは無いため少しだけ前かがみの姿勢になるが、でも、そっちの方がよりしっかり目を見れえるから、今は都合がいい。


「私はもう大丈夫よ。でも、琉ちゃんその顔どうしたの?凄い腫れてるわ」


 母さんは体の向きを変えて腕を伸ばしてまでも、そっと俺の方を撫でてくれた。それはまるで、教会に祈りに来ている聖女が赤子に触れるように柔らかい手つきだった。

 心配して見舞いに来たのに、逆に心配を掛けてしまって申し訳ないと思う。


「友人と喧嘩しちゃってな。でも、もう大丈夫だよ。仲直りしたから」


「友人って、(たける)君のこと?」


 これは単純に俺の友人が少ないことが分かっているのか、相手がすぐに特定されてしまった。 


「そうだよ。初めて本気で殴り合ったよ」


「あら、まぁ」


 歯とかが折れていない事が不思議なくらいに本気で殴られた。もちろん俺も本気で殴り返したが、ピンピンしてやがった。


「そのことは置いておいて。コレを」


 俺は役所で貰ってきた離婚届を母さんに渡した。


「コレはなんのつもりなの?琉ちゃん」


「もう、あんな奴とは別れて母さんの自由に生きてくれないか?二十年近く頑張ったんだから。もちろん、俺も働いてお金をたくさん家にいれるからさ」


 この間の出来事で分かった。親父は母さんを愛していない。同様に俺たちのこともだ。


「ありがとう。でも良いの」


「えっ?」


 渡したそれを優しい口調で突き返された。


「私は離婚する気はありません。お父さんのことをずっと支えたいから」


「で、でも!」


 アイツはとうとう一線を越えたんだぞ。そう言おうとすると、母さんが俺の唇に人差指を当てて口止めした。


「こら、病院では静かに。琉ちゃんの言いたいことは分かっているわ。でもね、私はねそれでもお父さんを好きなの。これはサガね、私のお母さんもおばあちゃんもひいおばあちゃんもその前も、皆んな一度ついて行くと決めた人には生涯付き添って生きたの。アナタも恋人でも友人でも良いからそう言う人出会えれば分かるわ」


 そう言う問題ではない。

 だが、その台詞を言った母さんの瞳は恋する乙女の様に輝いている。


「今回は俺が折れるよ。でも、次アイツが母さんや二人に手を出すようなことがあれば、母さんの方が折れてもらう。その時はもう一度これを渡す」


 離婚届を俺は丁寧に四つ折りににして、胸ポケットにしまった。


「それじゃあ、また来るよ」


「ええ、また。今度はあの子たちも連れてきてね」


「うん。そうするよ」


 俺はそう言って、ゆっくりと病室を後にした。


「生涯を捧げたい相手か。臭い台詞だな」


 時刻はもうすぐお昼時だ、昼飯を作りに行かなきゃな。アイツに怒られちまう。

 


 ##############



 地面は昨日の雨の影響でぐちゃぐちゃだった。足元一面に広がる雑草を軽く踏んだだけで、雨水が絞れそうだ。

  

「眠いんだわ。昨日色々あって」


 とりあえず、目の前のおっさんこと、影村寿雄(かげむらとしお)に愚痴を零した。

 昨日は琉助とガチ喧嘩したから、体のあちらこちらが痛む。それに彼女の幻覚を見たせいで全然寝付けなかった。

 琉助との喧嘩ははっきり言って、

 それは妖気法をまだちゃんと扱えてない証拠でもある。


「君の過去を見れば分かるよ。まだまだだね」


 一応は攻撃が来る所ならば、そこに妖気を纏ってガードできるだが、そのことに途中で勘付かれた、やっぱ琉助は頭の回転が物凄く早い。

 むしろ、俺でなくアイツに妖気法を教えるべきではとまで考えた程にそう思った。


「おっさんは、なんで俺なんかに妖気法を伝えようとしたんだ?他の奴居なかったのか?」


「そもそも、この術を扱うにはそれなりの素質が必要なんだよ。君と喧嘩した彼にはその素質はない。万人に一人と言われる才能だからな」


 おっさんは人差し指を上向けながらそう言った。そのまま、こちらの方を指さした。


「そして君にはさらにその先の十万(とうまん)人に一人の素質を持っている。以上が理由だ」


「おっさん。人に指を差しちゃいけませんよ」


 迫真の顔でそう言われたので照れ臭くなったので、少し茶化してみた。


「じゃあ、なんでこの指は人差し指と言われるのかな?人の名前に意味があるのと同じようにモノの名前にはそれぞれ意味があるのだよ。この指は人を差すためにあるから人差し指と呼ぶ」


 思ったより真面目に返されてしまった。でも、多分意味違う気がする。

 まぁ、これから行われる妖気法講義には微塵も関係ない事でだ。


「話が脱線してしまったな。本題に戻すことにしよう。いくら才能が有ろうとも、大切なことはその才能をどう扱うかだ。大昔のことだが、今の弟子を取る前にワシには別の弟子が居た。彼はワシや君よりもより優れた才能を有していた。しかし、本来なら燻っていた才能を目覚めさせてしまった。彼はそれを間違った方向に向けてしまった。その時、彼は既にワシを遥かに上回る力を身に着けてしまっていた。だから・・・ワシはこの手で彼を始末した」


「それはどうやって?今おっさんよりも強いって言いましたよね?」


「ここが今回の本題だ。才能をどう扱うか、妖気法は使用者の使い方次第では遥か各上にですら勝ちゆる可能性がある。ワシはそれを利用して彼を封印した」


 最後の方はどこか悲しげにボソリと言った。

 その後すぐにおっさんは顔を上げてて気分を変えるために手を叩いた。


「君に教えたのは妖気法の基礎の序章に過ぎない。ワシが本土に帰るまでには基礎を全て終わらせたいんだよ」


「えっ、おっさん。途中で帰っちゃうんですか?」


 てっきり俺も連れていてくれるものだと思っていた。てか、キッチリと叩き込むって言ていなかったっけ?


「そうだね。ワシは本来なら仕事でここに来ていたんだ。そこで偶然君の存在を知ったんだよ。本当は、しっかりと君に教えたかったんだが、昨日、(あま)ちゃんに仕事が終わったならば、さっさと帰ってこいって言われたんだよ。あっちも忙しいらしいんだよ。てことで、あと二日ぐらいかな。教えられるのは


 おっさんの仕事ってなんだよ。てか、いつ終わらせたんだよ。

 というよりも、


「短ッ!そんな短時間じゃ、覚えられないですよ」


「君、それ社会に出ても同じこと言える?締め切りはいつも直前に言われるものだよ」


 おもくっそ、パワハラだった。アンタは鬼の始祖じゃなくて、(さつ)する側だろ。

 

「この間のレッスンツーの続きだ。二日ぶりだから、妖気を物質に纏うことのおさらいをしよう」


 くっそ、今の発言に気にすることもなく、解説を続けるつもりだわこのおっさん。


「ちょっとこれを持っていてくれ」


 また四次元ポケットみたいなアイテムから金属バッドを取り出した。その両端を掴むように手渡された。

 するとおっさんは小学生が公園で拾ってチャンバラごっこに使うような木の枝を取り出した。

 前回と同じ事をされると思ってでバッドを掴む腕に妖気を纏った。


「おリャァッ!」


 その枝をバッドに思い切り叩きつけた。

 妖気を纏っていたおかげで腕にしびれは無かったが、木の枝は綺麗にへし折れて、おっさんの後方に飛んで行った。


「な、な、何をするんですかッ!危ないですよ」


「どうせ妖気纏っていたんだろ?」


「いやだとしてもですよ。やるなら事前に言ってくださいよ」


 おっさんは間髪入れずに二撃目を繰り出してきた。

 さっき折れたせいで短くなった木の棒の攻撃は金属バッドをいとも容易くへし折った。

 その際に一瞬カメラのフラッシュのような光が見えた気がするが、その事にツッコむことをせずに、すぐさまおっさんに今の事の解説を求めていた。


「前々から思っていたんだけど、妖気法ってそんなに威力上がるもんなんですか?俺ここ最近、金属バッドをまともに使われている場面に出会ってないんだが」


 毎回、へし折られるのマジで可哀そう。

 他に何かないだろうか、太くて硬くて棒状の物。なんかやだなそれ、卑猥です。


「いやワシの纏った妖気の量が多かったからだ。妖気による破壊力はその箇所に纏った量に比例する。それは物質の時も同様だ。そこで一つ良いことを教えよう。妖気を纏ったモノ同士が衝突した場合、どうなると思う?」


 いきなりの質問だな。分からんから適当に答えとこ。


「反発するとかですか?」


「その通り。二つの相反する妖気が衝突すると互いに弾きあう。さっきワシが木の枝に妖気を纏って金属バッドを攻撃した時に何か感じなかったか?」

 

「一瞬、ピカってした気がしました」


 確かにあの時反動に恐れて妖気を纏っていたが、それがおっさんの妖気と衝突したってことか。


「その際に、妖気はより量の多い方が勝り、そっちの妖気が相手側の方を取り込みより強大になる。この原理を使うことが物に妖気を纏う事の基礎的思考になる」


「反発するんですよね。それをどうやって利用するというのですか?」


 俺も一瞬頭で考えてみたが、やはり想像できない。


「全ての物質は妖気を有しているが纏っているわけではない。要するに池のようなものだ。池に河をつなぐと、池の水と混ざるだけだろ?ただその池の水より多くの水を流し込むことで水は大きく溢れる。すべての物質にある妖気量は生物の物よりも少ないから、どんな妖気法使いでもこの技術は使用できる」


「はぁー。でも、俺は別に妖気をバッドに纏うつもりはなかったですよ」


 だが、バッドからは妖気同士が衝突した反応が出た。その事についての説明が欲しいんだけど。


「妖気を纏った箇所で触れば意識せずとも自然と流れる。意識すればより流れる。このぐらいの感覚で覚えていなさい」


 なるほど、だからおっさんの妖気がより強固なものになってバッドを破壊できたのね。てか、それ込みで最初から説明しなかったんだな、このおっさん。


「やり方さえ分かれば簡単に出来る。これは自主練しておきなさい」


「分かりました。で、次は何を?」


 これがメインではないことは容易に想像つく。

 いったい何を教えられるのか。わくわくする。


「これから、ワシがランダムに君へ攻撃を行う。もちろん妖気は纏わずにだ。それに対して瞬時に反応して、攻撃を防げる量の妖気を反射的に纏う訓練だ。レッスンスリー、反射神経を鍛えよう!」


 前言撤回。

 急にウルトラマンレオみたいな訓練始まったやん。

 そんなことを考えた隙に、俺の顔面をおっさんの拳が殴り抜けた。


「グッツっち!」


 俺は地面に大きく背を叩きつけられてしまった。


「普通こういうのって合図ッ!」


 俺が抗議している最中におっさんがジャンピング踏みつけ行ってきたので速攻で体を転がして、回避した。


「回避しちゃ駄目だよ。耐える訓練なんだから」


「今の攻撃は避けなかったら、確実に妖気どうこうの前に圧死するわッ!」


 その後、一時間近くに亘っておっさんからの理不尽な暴力に耐えた。



 ##############



 昨日の傷と相まって俺の身体はボロボロだ。


「さぁーてと、今日はこのくらいかな。また明日に今日と同じ時間にここに集合ね。明日は鬼についての説明と妖気法能力についての解説を行いたいと思うから、遅刻厳禁ね」


 なんだろう、おっさんの方が遅刻する気がする。実際今日も遅刻してたし。


「分かりました」


「じゃあ、また明日」


「はい。また明日」


 そうやっておっさんと別れた。

 帰りの最中、琉助と会った。泥まみれの衣服を見られ心配されたが、適当に流して家に帰った。


 翌日、公園にはおっさんは、影村寿雄はいくら待っても現れなかった。

 そして、俺の携帯におっさんから一通のメールが届いた。その最後の行にはこう書かれていた。


『心配するな。クリスマスまでには帰れるさ』



 突然、姿を消した影村。

 次回より、本格的に赤鬼編スタートです!

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