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紅の赤  作者: 青階透
鬼殺し偏赤鬼偏
9/61

2話 何気ないお昼

 前回の続きです。


 札幌内のとあるホテルの最上階の一室。


 窓にはしっかりとカーテンを閉じ、外から様子を伺えない様にした。この行為自体には意味はなく、単純に普段から誰と電話をするときや話す時はそうする癖があるからだ。

 風呂から出寝巻きに着替えた時のことだ。着信履歴に知り合いの名が有ったからである。電子文字で書かれた名前は天山緋麿(あまやまひまろ)。自分と同じ妖気法使いの名前だ。

 この名前が書かれている時点で、要件は七、八割方予想はつく。

 といってもそれが確実に正しいとは限らないので、折り返しの電話を掛けた。

 二、三コールの後に電話が繋がった。


「もしもし。(あま)ちゃん?さっきの電話ってなんの用?」


『あぁ、それか。すまんなぁ、全国各地で鬼の行動が活発化しているんだ。明日にでもこっちに戻って来れないか?』


 だと思ったよ。トホホ。


「やはり例の件が響いているのか」


 あの客船襲撃以降は日本における鬼の活動が目立つようになった。鬼たちは、自分たちは人間より優れた種族だと思っているようで、一部の鬼は人間を殺すことで快楽を得る者もいる。だが、彼らの起こした事件は人間による殺人や交通事故による件数より遥かに少なく、それらの犯人も彼らの法律によって裁かれる。そうやって人間と鬼は秘かに共存してきた。


『そうだな。あの一件で山吹鬼(やまぶき)が辞任して、鬼の中で次期鬼王(おにおう)を決める権力争いが勃発したらしくてな、その候補の片方が人間との共存反対の思想を抱いているらしくてな、『ソイツ』に惹かれた様々な鬼が事件を起こしているらしいんだよ。推測だが、あの客船の黒幕も『ソイツ』だろう』


 山吹鬼と先々代の鬼王は人間との共存を目指していたらしく、アメリカとの対談をしていたと聞く。だが、それらの交渉は先々代がアメリカにてアメリカ人によって殺害されたことで一転、宣戦布告を行ったと聞く。この一件を聞いて、鬼側に非はないと思ったが、もしかしてこの一件にも例の『候補者』とやらが関わっている気がする。


「その候補者についての情報はどれくらい手に入れられた?『ソイツ』を我々で打倒して、もう片方を就任させて和解交渉をするとかは出来そうか?」


『それなら現在調査中だ。今まで使えたコネクションとかスパイが『ソイツ』に全て潰されたらしくてな、今新しい情報入手経路を確立している。だから、影ちゃんには本土で起きている事件を鎮圧してもらいたいんだ』


 『ソイツ』は随分と用心深く、そして頭の回る奴だな。

 慎重に調査しなければこちら側も危険かもな。


「それは了解だ。彼らはどうする?」


『彼ら?あぁー。君の弟子と山門健やまとたける君のことか?両方とも置いていった方がよかろう。彼らは彼女と違ってまだ未熟だからな。今後大規模な作戦でも行う時にでも招集でもするさ。それにこの世界で本気で生きていくつもりなら、自分で学ぶぐらいしなければこれから使えないからな』


 彼女と比べられると若干可哀そうだが納得できる。

 あとで説明を彼にメールで送るか。あっちは東京にでも出向いたら会えるし、いいか。


「了解。てか、天ちゃん今どこに居るの?一番近くの空港に降りたいんだけど」


『うーん。今は京都かな。着く時間を後で教えれば笹原を迎えに送るぞ』


「天ちゃんは来ないのかい?寂しいね」


 ワシが海外から帰って来たときとかも大体迎えに来てくれたのにな。


『少し面倒臭いことが起きてな。そのうち紹介するよ』


「そっちも大変そうだね」


 その後は二時間近く軽い雑談を行った。


『もう切るぞ。笹原によろしくな』


「はいはい。じゃあね」


 そうして電話を切った。

 その後、二、三十分の熟考を終え山門健にメールを送った。

 

「これでいいだろう。なんか色々申し訳ないな」


 これだけは『本心』だ。こちらの都合で巻き込んだんだからな。


 明日は早い。

 もう寝るとしよう。



 ##############



 約束の時間に公園に行ったがおっさんは居らず、もしやと思ってメールを確認すると、昨日の晩におっさんからメールが来ていたことに気付いた。送られてきた時間が時間なだけに既に寝ていたので、その存在に全く気付かなかった。だって夜の十時よ、とっくにお眠だわ。


 帰宅後に自室でメールを確認した。

 

 とりあえず確認したメールの内容はこうだ。


『急に仲間から呼び出されて()まった。どうやら、鬼たちが暴れたらしくてな。戻って来いとうるさくて適わん。すまないが、一旦本土に帰る古都(こと)になったので明日の約束は無しという事で頼む。無責任ですまないがワシが帰ってくるまでは自分で自主トレーニングでもしていてくれないか。電話番号やアドレスは変えておかないからいつでも相談してくれ。本当は君にもう少し妖気法や鬼についてをもう少し説明したかったがそれをメールで書くには少しややこしいので明日の昼までにはメールで送ろうと思う。次に君に一つ課題を与えよう。それは次会った時までに君が戦う理由をじっくりと考えてくれ。君は復讐に興味がないと言って(いた)かも知れないが、本当にそれを超えられる理由を考えてくれ。それを聞いたときに、もう一度君と深い話をしよう。心配するな。クリスマスまでには帰れるさ。』

 

 メールはここで終わっていた。所々の誤字は気になるがその点は置いておいて。

 

「課題。俺が鬼と戦う理由かぁ」


 一応は両親の仇と言う大義名分があるが、それ以外の理由を考えろと書かれていた。

 そもそも復讐を考えようにも、あの船での事件の際の出来事のみを不自然な程に覚えていない。赤鬼とかいう鬼に会ったぐらいだ。


「あれ?あの時名乗られたっけ」


 いや、赤鬼ぽっい見た目してたから自然にそう解釈してしまっていた。

 

「そう言えば。鬼ってなんであの船を選んだんだ?」


 タイミングが偶々合ったのか、それともほかに何かしらの狙いでも有ったのだろうか。

 襲われた身分的にはちゃんとした理由が知りたい。


「まっ、そんなことを俺が考えても分かるわけないか」


 文の内容的になそのあと何回かメールが届きそうだな。

 ベッドの傍の置き時計で今の時間をチラリと見ると、十一時とちょっと。琉助がもうすぐ昼飯を作りにくる時間だ。

 携帯を閉じてリビングに向かう。一つ気になるのは、琉助に妖気法の事を教えていいのだろうか?

 アイツに相談出来れば、色々と考察が捗るのに。でも、これから起こることに巻き込んでいいのだろうか。

 そんなことを考えているとインターホンが鳴った。


「インターホン鳴らしたとこで鍵が掛かってないから勝手に入るぜ」


 俺が許可も出す前に勝手に乗り込んできた。

 しかし、その事はいつもの事なのでさして驚かなかった。だが、これだけは話が別だ。


「お前、その髪どうした!それに耳」


 とても特徴的な濃い茶髪を真っ黒に染めており、右耳には赤い小さなピアスを付けていた。


「ああ、これか。イメチェンだよ。イ、メ、チェ、ン。ピアスは母さんから貰ったもんだ」


「いや。受験どうするつもりだよ!ピアスの穴なんて開けたら、面接で落ちるぞ」


 琉助は半年近く頑張って勉強していた?はずなのに、どうして努力を焼畑で燃やすような真似を。


「いやぁな、そもそも受験する気が失せた訳。お前もあの学校辞めちまったしな。だったら、今までのイメージを払拭するためにイメチェンをと思った訳さ」


 どういう理論だよ。

 てか、お前中学の頃に高校大学まで行かねぇ奴は社会のクズ以下だって言ってただろ!


「これからは素早くコツコツと金でも貯めて、母さんを楽にする。だからな、これに応募した」


 携帯の画面を見せてきた。

 それは、ガッツリ夜のお店だった。いや、お前にホストは無理だろ。


「あの感触から分かるが確定で働けるぜ。酒は飲めねぇけどな」


「だとしたら、なんで黒色に染めたんだ?あのままの方が派手じゃないか?」


 むしろ、金髪とかでいいんじゃねぇか?ほら、なんかホストって金髪とか茶髪とか派手派手の見た目してるじゃんか。偏見だけど。


「これは俺の精一杯の誠意だ。お前に対するな、それに巻き込んで捕まっちまったアイツへのだ」


 ヘリウムガス野郎ね。忘れてたけど、琉助のせいで警察に現行犯でパクられたんだよな。聞いたところ、もう釈放されているはずだし復讐に来ないかだけ心配だわ、琉助に。


「流石に髪を丸くは出来なかったんだが、それは流石にやだなぁと思ってな」


 おい、反省しろよ。


「そうか。夜道には精々気を付けろよ。友人からの忠告だ」


「大丈夫だよ。そこまで深い関係を客と作るつもりないしぃ」


 そう軽く手を広げて見せておとぼけてみせた。


「それならいいや。俺も探そうかなバイト。一日中親の遺産と預金で暮らすのはとても気が引けるし」


 親が亡くなってから、自分の口座を作成した後に多少面倒臭かったが手続きを行って両親の貯金を全て移した。結果的に俺が半世紀を生きるまでしっかり管理すれば生活できる程の金を得たが、金は無限ではない。だから、働ける内は自分の力のみで経済活動をしたい。


「そう言うと思ってよ。いい求人見つけたぜ。近所のコンビ二なんかどうだ?ほら、最近話題の」


「ああ、あれか。謎の強盗事件」


 二人組の犯人の片方が店員を脅している最中にいきなり発狂してそのまま失禁したとか。事件の証人である2人の店員や防犯カメラの記録にも何も残っていなかった。

 

「確かに少し興味あるんだよな。接客業とか」


「おっ、お前もホストやるか?」


 俺の回答を理解しているくせにニヤつきやがって。


「そっちには興味がないぜ。俺はお前みたいに女から金を巻き上げる必要があるほど、金に飢えていない」


「だろうな。さぁーてと飯作るか」


 そういうと琉助はキッチンに向かった。

 

「食材が今日の晩の分ねぇぜ。あとで買いにでも行こうぜ」


 そうだな。おっさんと出会ってから色々ありすぎて買い出しいけなかったんだ。

 てか、色々の一つは琉助、お前のせいだぞ。

 

「了解」


 俺はダルそうに短く返事をした。

 

 その後、三十分ぐらいで昼飯が完成した。そのまま、机に運ばれてきた。

 運ばれてきたのは、それの材料どこで見つけたんだと思ったジェノベーゼソースに少し厚めのパスタを絡めたものだ。


「家にバジルなんて有ったか?」


「いや、俺が買ってきた」


「お前、そんなに金使っても良いのか」


 あまり言葉にしたくないが、琉助の家は貧乏だ。俺の為に食費なんて出して欲しくないんだが。


「金なら心配するなよ。ちょっとした親父にバレない様に稼いだもんだからな」


 そうやって、琉助はフォークでパスタを絡め口に運んだ。

 コイツが良いなら、良いか。俺も琉助に倣いパスタを口に運んだ。


「といっても余り稼ぎが良いわけじゃないから。偶に弟と妹に軽く小遣いやれる程度だがな。とても家計に回せる額じゃねぇんだわ」


 いったい何をすれば稼げるんだ?ブログか、もしかして今話題の動画投稿者とか?琉助なら前者だな。


「ところで気になったんだがよ。お前最近変な武術でも学んだのか?」


 それって妖気法の事か?

 適当にはぐらかした方が良いのかしら?う~んそうした方が良きな気がする。


「うーん。特にはやってないぜ」


「話は変わるが最近な、不審者が出没したらしくてな、その特徴が白いスーツを着た派手な格好のおっさんらしい。お前何か知らないか?」


 知らない。僕はそんな影村寿雄なんて知らない。


「いや、見てないな」


「そうか。お前がその不審者と公園で何かしている姿が目撃されているんだが。もう一度聞くぞ。健は何か知らないか」


 明らかに疑問形じゃないな。

 コイツ初めから何か知って聞いてるな。

 とりあえず、パスタをもう一度口に放り込み、お茶を飲んで頭の中を整理した。


「・・・・どこまで知っているんだ?」


「逆にどこまで知らないと思う?」


 そう言って琉助はニコッと笑った。

 琉助は子供の頃から情報の取集と裏どり、分析が得意で勝算なき賭けには乗らないつまらない奴って昔陰口で聞いた事がある。


「俺を追いついめて、どうするつもりだ?」


 不味い今のところ、質問を質問で返す、物凄く頭の悪い会話が続いているぞ。


「いや、俺に嘘つく理由が気になって、な」


 いぃぃやぁ、お前は面倒臭い彼女か。


「これを言って良いのかなって。結構、機密性の高い話だったから」


 妖気法の事っておっさんの口ぶりから、てか、俺が知らなかったことから世間では誰も知らないと分かる。てか、確認せずに言って後で怒られるのがマジで面倒臭い。せめて責任の所在をはっきりとしてからがいい。


「ふーん。まっ、言えるときになったでいいや」


 そう言って、琉助はコップのお茶を飲みほした。

 それを優しく、コップを机の上に置いて、何かを思い出したように口を開いた。


「あっそうだ。お前って本当に船での出来事何一つ覚えていないんだよな?」


 なんだ、藪から棒に。俺はあの事件の事を何とも思っていないから良いけど。相手によっては炎上ものだぞ。


「少しだけならな。俺が警察に証言したことしか覚えていないぞ」


 おそらく、船を襲撃された際の衝撃で頭を強くぶつけた事で記憶が曖昧になっているってお医者さん言われたもんな。


「そうか。本当に何も『覚えてない』んだな。すまんな。気分を害してたら謝る」


「いや、俺はそこまで気にしてないから。お前も気にすることはないぞ」


 そこで会話が途切れた。

 その後は軽い感じの雑談をしながら、後片付けをして琉助と別れた。


 

 ##############


 

 家に帰り、パソコンを開いた。

 今日は親父はパチンコに入り浸っているはずなので、好きなだけ調べ物が出来る。


 あの掲示板にはもう居る事は叶わない。今でも俺の個人情報を特定しようとする動きが活発に行われている。まぁ、特定に使われるような情報は健の住所以外載せていないので、そうそうは見つからないだろうし、健なら襲われたとしても、例の謎パワーで撃退できるであろう。

 今回はとある港町の地元掲示板に入る事にした。

 この港町は健が保護された場所で、ここである目撃証言が見つかれば俺の推理はほぼ正解に近い事が分かる。

 

『白いスーツを着た髭面の不審者について』


「やっぱ、有ったか」

 

 このスレッドの中身は主に主婦層が書き込みしているものらしく、遊びの帰りが心配などの書き込みも見受けられる。

 健は知らないと思うが、例のコンビニ事件の起きた時間帯のその場所の近くで、ここと全く同じ目撃証言が有った。健も船でのことを覚えていないと同じでコンビニの店員も事件当日の事はほとんど覚えていない。

 このことから、俺はこの不審者が何らかの手段を用いて人から記憶を奪っているのではないのかと推測していた。もちろん、証拠は無いので推理の域を出ることは決してない。更に言えば動機もイマイチピンと来ない。


「何かに勧誘するためか?」


 この間の殴り合いで分かったが、健も原理の分からない攻撃を使ってきた。もしかして、この男から

教えてもらったのだろうか?それも理由も不思議だ。何故?

 何故、記憶を奪った?そして奪った記憶をどうしたんだ?そのことについて考えると、一つ思いだした事がある。


「確か、自殺した少年が居たよな。あの事件」


 船に乗っていなかったはずの少年が何故か、船での記憶を持っていて。それを手記に書き残して自殺した。その事件は記憶に新しい。ネットでは酷い虐めを学校で受けていて、死ぬ直前に世間から注目を浴びたかったからではないかと。


「もしも奪った記憶を他者に移せるとしたら」


 嫌な考えだ。

 だが、逆にそれが健から奪ったものであったとしたら、自殺していたのは健の方ではなかったのか。だと言っても、それを言い訳に一人の若者を自殺に追い込んでいい理由にはならない。


「まぁ、俺も人のこと言えた義理じゃねぇけどな」


 これ以上考えても無駄だな。健が何も言わないなら。


 

 ##############



 結局、その後おっさんからは連絡が一切来なく、クリスマスにも帰ってこなかった。


 そのまま、一年が経過した。

 

 次回から一年後の話になります。


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