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紅の赤  作者: 青階透
鬼殺し編Death of Shadow Village編
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16話 裏切りの天狗


 今回は短め。

 敗戦処理ってのと、ある意味次への布石かな。


 Scene1


 天山緋麿(あまやまひまろ)は気絶させた姫鬼姫を抱き抱えたまま。館の跡地に降り立った。『四人』の序列十位はその姿を地上で待っていた。


「いやぁっ凄まじい花火だったなッ!!ガハハハハッ!」


 開口一番、大きな声で笑う。彼らが目撃したのは、影村寿雄の成れの果てとも言える巨大な怪物が一瞬にして消滅したのだ。そのことを大きく笑う天山に対して四人の怪物が冷たい視線を向ける。


「くだらないことは良い。はやく姫鬼姫をこちらに渡せ」

「おっと。契約と違うんじゃねぇか、黒鬼。ガハハ。ワシと紅鬼の契約は、貴様らがワシを除く全ての日本妖気法使いを始末すること。何人か取り逃しているじゃあねぇか。ガハハ」


「貴様如き、この場で容易にリンチに出来るということを忘れたのか」


 天山緋麿は所詮、英雄級中位の実力、どんな能力を用いても、この場を切り抜けることは不可能だ。そんな存在の要求を拒否する。通常ならば、あり得ない行為である。


「黒鬼、お前らがワシを殺すよりも先に、ワシはこのクソガキを殺せる。カードはどちらにあると思う?」


 凄む黒鬼に対して、天山は姫鬼姫の首元に、鋭利な手のひらを当てる。一秒も満たずに首を、抱える幼子の首を切り飛ばせる。ということをアピールする。


「このクソガキが死ねば、お前らのボスである紅鬼は、緑鬼との交渉のカードを失うんだろ。そうすればお前らは問答無用で敗北だ」


「そうだな。だから、カードはこちらにないといけない」


 黒鬼は姫鬼姫を抱き抱えながらそう言った。


「ッ!?どうやってッ」


 大きく動揺していいた天山の首元にカラミティナイフが当たる。彼の展開する妖気レーダーにも掛からずにその鬼は接近していた。


「ミスター天山。拙者ですよ」

「ヌシは、翠鬼(みどりき)ッ!!」


 現代の忍者服、翠の迷彩服を見に纏った鬼。その名も高鬼序列第十位『緑影の翠魔(グリーン・グリーンズ)』・翠鬼。

 今回の作戦に参加していた最後の序列十位にして、隠密特化の鬼である。


「序列最下位如きがァ粋がるなよ」

「御言葉のご訂正を、五〇人の中の十位です」


「そいつはもう九位だぜ。水鬼を俺が始末したからな」

「まだ正式に昇進したわけではないのでこれが正しい序列です」

「真面目め」


 翠鬼はナイフを引っ込めて、天山を解放する。天山は即座に翼を使って、常食気流にのり、大きく距離をとる。そのまま気流に捕まり空中に止まり、序列十位の鬼たちを見下ろす。


「お前たちは、交渉カードを無くしたワシを殺す気か?」


 黒鬼は影村寿雄に対して並々ならぬ殺意を抱いてた。それと兄弟弟子である天山にも同じ殺意を抱いていてもおかしくはない。

 その時、その地に黒き炎が降り、フードを深く被った鬼が降臨した。


「その心配はないですよ。天山緋麿くん、私はあなたの偉大なる目的を応援しているのでしてね」


 その鬼の姿を見て、黒鬼は大きく驚いた。そしてすぐさまその鬼に対して膝をつく。それに他の序列十位のメンバーも続いた。その鬼は、彼ら中世を誓った偉大なる鬼。それが鬼人・紅鬼なのだ。


「何故ここにッ!貴方さまがッ」

「私はただ、可愛い姪を回収しにきただけです。これ以上は大変でしょうし」


 全身を薄汚いローブで覆い、何もかもを秘密のベールに隠した鬼人。


「アンタが紅鬼か」

「Exactly.私こそが、鬼人・紅鬼だ」


 この状態で唯一、天山緋麿は紅鬼と対等に立つ。しかし、一瞬の圧が彼を襲った。目の前の鬼の圧倒的な存在感が、何もせずに天山緋麿を跪かせた。


「直接話すのは初めてだな。天山緋麿くん、立ってもいいんだぞ、私とキミは対等だ」


 対等だと?っと口から出ようとした言葉が、その圧に当てられて口を開くことも叶わなかった。


 顔を上げることもできない。まるで顔を見られることを恐れているかのように。


「これがっ対等か」

「私は何もしてない。君が私と同等の強さがあれば立ち上がれる。跪くことを強制していない。君は君の意思だけで動いてる。そういう意味では、他の鬼達と違って対等だろう?」


 天山緋麿は立ち上がる為に、身体に妖気を纏い力む。しかし、謎の圧は筋肉を圧迫して、骨を押しつぶす。身体がミシミシと言って壊れる音がした。そして、抵抗をやめた。


「それは自殺行為だ。まぁっ、私は君の自死も止めるつもりは無い。本当に全ては君の自由意思にまかせる。それが対等ってやつだ」

「死と屈服の二択で、自由意志だと?冗談はやめろ!」


「何を勘違いしている?さっきも言ったが、私は本当に『何もしてない』。君が勝手に跪いているだけだ。生物は自分よりもヒエラルキーの高い存在を前にすると、屈服するしかできない。それが本能なのだろう?君の本能だ」


 天山緋麿は静かに絶望した。彼は今、身体に妖気を纏っている。それなのに、妖気の衝突が起きてない。それはこの圧が妖気法能力ではないという証拠だった。故に、本心で彼に恐怖しているのだと認識させられる。


「黒崎くん。面を上げよ。我が愛しき姪をこちらへ」

「はっ、ただちに」


 黒崎と呼ばれた黒鬼は立ち上がる。そして、抱えていた姫鬼姫を直接、紅鬼に手渡した。これにより妖気法使い達の敗北が確定した。

 そんな中で天山緋麿は黒鬼の本名に違和感を感じた。黒崎、そこまで珍しくはない名字だが、影村寿雄の弟子の黒崎亜流と同じ名字。そして、影村寿雄にとって最も重要な名字の一つでもあった。


 黒鬼は元の位置で再び跪く。


「黒崎くん。それに鈍鬼くん、白鬼くん、翠鬼くん。よくやった。残りの妖気法使いたちは、私の姪を奪還するために動いてくるだろう。その時に、今度こそ皆殺しにしなさい」


 命令を下し、この場を去ろうとする紅鬼に、白鬼は手を挙げ、口を開く。


「紅鬼さま。恐れながらも、一つ願いを聞いてください。敵の茜月夜海だけは生かして捕縛させてください」

「理由は?」

「個人的な理由です」

「彼女は序列十位以外の鬼なら簡単に殺せる存在だ。相当の理由がないのなら、生かしておくメリットがない。君の個人的な理由で、他の部下を危険にはさらさないんだ」


「その点は安心を、捕縛すれば彼女の心は完全に破壊します。成功すれば、それにもう戦場には姿を現すことはないかと」

「・・・・分かった。序列第八位の君を信じよう。ただしやむ得ない場合は殺しなさい」


「待て!契約が違う。全員殺すっだ!その為に協力した!!」

「別に用が終われば殺すから。タイミングが変わるだけと思ってくれ」


 天山緋麿は引き下がることしか出来ない。この場の者全員が怪物なのだから。


「では、今度こそもう帰りますね」


 姫鬼姫を優しく抱き抱えるその鬼はフードで顔こそ見えないが、血の繋がりのある者の様子だった。


 次の瞬間、二人を眩い光が包み込み、それが天高く伸びて、さらに光の道を生み出した。三秒後、そこには館地面だけが残されていた。


 Scene Change


 全てが終わり、黒鬼は戦場となった館の跡地を歩いていた。全てが焼け落ち、恨みを抱いていた存在を踏み殺した。頭蓋骨を踏み潰す感触は初めてではないが、今まで以上の悪意を込めて行ったことは初めてだった。


「こうして因縁を終わらせたが、心は清らかになれないものだな」


 黒鬼は影村寿雄に対して強い恨みを抱いていたが、その一方、百年以上前は心を許していた人生最大の親友だったのだ。彼にはさまざまな感情を、抱いていた。それを殺した。


「影ちゃんか」


 友の愛称を呟く。その言葉は誰にも届かない、虚空に消えた。


 しかし、不思議なことだ。

 戦場を常に観察していた翠鬼(みどりき)の報告によれば、この戦いで、山門健が例の牙、それか刀を持っていたという事実はない。この館に入る前にはその姿が確認されていることから、この館にはあるはず。この館は私と影村寿雄との激闘で崩壊、ならば、このフロアに落ちていないはずがない。


 『竜王の牙(ブレメネス・ギバル)』はどこへ消えた?


 Scene Change


 山門健たちは烈喰の魂(れっくうのこん)を撃破したのちに、住宅街に到着した。完全に負け戦だったが、もはやどれだけの戦力を残せるかであった、そして、最大戦力のメンバーだけは生き残ることができた。


 先の荼鬼の撃破で、山門健は再び眠りについた。


「・・・・・」


 しかし、彼らは生き残ったことを喜ぶはずにはいかなかった。

 沈黙が彼らの心の傷を物語っていた。そんな中で、馬飼琉助が口を開いた。


「次はどうする?天山緋麿が姫鬼姫を攫ったんだったなら、どう助ける」

「助けるって。あの黒鬼からか?無理だ」


 それに対してアルが反論する。この中でも、数少ない黒鬼と対峙した彼だから、その恐ろしさが脳に刻まれている。


「しかし、このまま放置すれば、緑鬼が不利になる。あの暴力装置みたいな鬼の軍団が人間を攻撃するかもしれない」


 琉助は実際はそうなるなんて微塵も思っていない。少なくとも、緑鬼は娘を人質に紅鬼の傀儡になることは確定だろう。そこから、奴らの目的が世界征服なんて、九〇年代の漫画みたいな壮大なことは考えるはずがない。


「馬飼琉助、戦場でろくに戦ってないアンタが、予測論だけで、語るんじゃない。今度こそ、全員が殺される」

「なら、鍛えるしかないだろ。少なくともそこで寝ている健は序列十位のメンバーにに勝った。今は別行動している、ロビンの奴も戦場に居た七連星を撃退している。怪物共に勝った」


 琉助の言葉を聞いて、夜海は一人顔を下げる。彼女もまた、この戦場での敗者なのだ。元々は、日本の妖気法使い最強と称していただけあって、そのプライドは跡形もない。


「良いか、聞けッ!個人の才能には限界があるんだよッ。そうホイホイ、怪物の力を持つことができたら、序列十位、七連星のような、軍の中で数で括られないんだよ。頭がいいなら、それくらい考えやがれ」


 アルの言うとおり、怪物以上の戦闘力を持つ戦士や兵士は、大国でも一握りしかいない。世界人口からみても一%も存在していないのだ。


「だから?お前らは、本当にその限界にぶつかったのか?まだ二十歳にもなってない若さで、その怪物共は本当に同い年の頃に怪物に届いたのか?俺はそう言う影の伝記は知らねぇから、分からない」


「琉助さま、そこまでです。アルが運転を誤ったら、目も当てられません」


 アルが口をつぐむ間に、夜海が口を挟む。彼女はアルの運転する車で助手席に座っていて、彼のハンドルが一瞬ブレたことに気が付いたのだ。


「私たち以外はみんな死にました。これが現実です。私たちは、彼らよりも強かったから生き残れた。今はそれでいいでしょう。これ以上心の傷を深くするのはまた後日に」


 夜海は静かに、兄弟の喧嘩を優しく止める聖母のように。優しく、そして悲しみのこもった言葉を指す。


「今は、生きてここに居ることに。おじさまたちが残してくれたこの命に感謝すべきです」


 その言葉にアルは涙を溢した。そして全員が静かに祈りを、山に向けた。

 そんな時、後部座席のドアが突如、開いた。そっと、琉助がその方向、眠りについた親友の方に目を向けた。


 そこに、山門健の姿はなかった。


 Scene Change


 山門健は静かに、車窓から景色を眺めていた。その手にはいつの間にか持っていた刀を携え。

 たった一人、東京行きの新幹線で全てを捨てて、孤独に景色を眺めた。


 お疲れ様でした。続く17話は、第二幕へのプロローグです。

 短く書きますので気楽にどうぞ。

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