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紅の赤  作者: 青階透
鬼殺し編Death of Shadow Village編
54/61

11話 各々の終着へ


 今回はなんと三話同時公開!

 だから遅かったです。すいません。でも、だいぶ話は進めます!


 ちなみに今回は長いです。戦闘ばっか。


 これは米軍が調べた黒鬼についてのデータである。


 その男は『黒鬼(くろおに)』と呼ばれている。数多居る鬼たちは、全員が自らの名を伏せ、色の名を冠する。鬼の中で色が被る事も多くあるだが、歴史上、黒の名を冠した鬼は未だかつて居なかった。


 黒鬼。彼の中にあるただ一つの願い。それは復讐。長年にも渡る彼の憎悪は、彼の肉体をダイヤモンド以上のモノに仕上げた。それにより実現する無敵の肉体。それは銃火器の攻撃すらも耐え凌ぐことができる。その肉体だけで序列十位の内に入ったとされる。


 巨躯を駆使したその豪快な戦い方は狂気。黒鬼の出現した戦場での生き残りは言った。「今でも夢に見ますよ。あの時、仲間の中に結構な体躯の兵士が居たんですよ。彼の肉体は長年の厳しい訓練に打ち勝ち、とても美しく育ってたんですよ、ええ。彼を筆頭に戦場を進んでたんです。そこに来たんですよ、あの鬼が。その光景は恐ろしいってありゃしない。その鬼が例の兵士に軽く触れるだけで、その兵士の肉体は弾け飛んだんですよ。信じられます?ただ触れただけ、美しい筋肉が装備ごと跡形もなく消し飛んでしまう。残ったのはなんの変哲もない肉片ですよ。ありゃあ恐怖でしたよ。えっ?私がなんで生きてたかって?そりゃあ、なんででしょう?気まぐれで見逃されたって感じですかね。とにかくその後あの場では数人がミンチにされてました。とにかく、生き残れたのは幸運だったのかなぁって思います」


 黒鬼については謎な部分が多くある。いつから存在していたのか、彼が初めてその存在が確認されたのは一八年前、イラク戦争でのこと。この時はただの小鬼であったと報告されている。鬼の中の序列が大きく動いたのはその四年後、当時の序列第一位の菫鬼が、韓国の兵士であるイ・ジョンソンに敗北、殺害された。これにより鬼の軍内でも大きな動きがあり、高鬼序列十位内に一時的な空席が生じた。翌年にイ・ジョンソンを殺害した蒼鬼が序列第一位に就任した。同年には黒鬼は当時第三位の鈍鬼を退け、第三位に就任したことが確認された。

 前述した通り黒鬼の年齢は不明である。なぜこの年齢という部分に着目したのか、今回の高鬼序列十位メンバーの調査の際に改めて米国内、さらには鬼の軍に送り込んだスパイからの情報を見直した。この際に第一次世界大戦の戦場に黒鬼と思われる存在が確認されたのだ。通常の妖気法使いであれば、妖気の消費による老化の抑制は可能、それは米国内での最強の妖気法使い『ヘルクライマー』が、第二次世界大戦から存在している点や、日本の妖気法使いうち二名が一九世紀から存在している点から証明されている。しかし、黒鬼は妖気法使いではないと調査から判明しており、仮に上記の情報が正しいのであれば、妖気法とは違う『何か』によりこの長寿を実現していてると考えられる。


 ここで先日、帰還したスパイから提出されたある人物についてのデータと照らし合わせる。



 Scene1



 白鬼の攻撃を見て健くんは沈黙した。脈を測ったが止まっている。すでに死んでいるのだ。彼を貫いた棘を触ると、それは土や細かな砂利、木屑の集合体だった。その棘を丁寧に抜いて、死体を地面に静かに置いた。


「すまない巻き込んで、後で必ず埋葬してあげるから、そこで待っていてほしい」


 ワシにはまだすべきことがある。健くんを殺した鬼はワシを殺すのは自分じゃないと言っていた。つまり、今回の襲撃にはワシに対して恨みを持つ誰かが関わっているということ。


「ついに来たか。『書』に記された予言の時が」


 白鬼クラスの実力者が来ているのなら。ワシも全盛期に戻る必要があるな。上着を脱ぎ捨て、その上半身を顕にする。百を超す人生も妖気法によって四〇代の姿に留めている。これでも体は全盛期に比べ老いている。だが、ワシの持つ妖気法能力を使えば、肉体から老いを完全に取り除ける。


 眼が開いた。


 

 Scene2



 10月25日23時15分


 私は自室に戻り即座に衣に身を包んだ。このまま逃げることもできるが、あのレベル実力者がこの館内をうろつくことは、危険すぎる。それにまだあの衝撃の正体も判明していない。


 私は急いで元の場所に戻る。私の寝室は三階でさっきは四階だ、階段を駆け上がる。四階に着くとすぐにあの男が待っていた。


「良い着物だねぇ。さぞ高いんだろう。それを戦闘のためとはいえ、ダメにしてしまうなんてな。流石、日本三大財閥が一角。茜月グループの人間だよ」


「お話は以上ですか?私にわざわざ戦う準備をさせるなんて、アルノルド様はよほどの実力者とお見受けします」


 見たところ肉体の実力は私より少し上、そして妖気法の実力は最低でも天山のおじさまの弟子より上と考えていいでしょう。つまり、アルノルド様の実力は総合的に英雄級上位から怪物級の下位と判断できます。

 私の今の実力は英雄級上位、その為後者でも戦い方によっては十二分に勝ち星を狙えます。


「ああ、そうだな俺は強い。改めて名乗ると高鬼序列第八位、白鬼だぜ」


 つまり後者、怪物級は確実。

 影村寿雄のおじさま曰く、高鬼序列十位のメンバーはその全員が怪物級の実力を持った者。私が知る限りはそのクラスの実力の集まりは米軍の七連星や五怪人(エナジーズ)、英国の四騎士、あるいは中国にいる特殊部隊ぐらいですね。


「おや、肩書きを聞いた途端、目に怯えが。自分より格上と対峙するのは初体験ってこと?女性の貴重な初体験を頂けるなんて、男冥利に尽きるねぇ」


「その汚い口をこの糸で縫い合わせてあげます」

 

 私の能力は着用している衣服に妖気を纏うことで発動します。妖気を纏われた服は布から糸に変換され、それが破格の切れ味を持つ。


「『解き糸(スレッド)』」


 ある程度の袖を消費したことで両腕に装着したある盾が顕になる。それは拳を握ることで盾が大きく展開される。盾の造形は糸切り鋏を模しており、盾の先端には実際に刃が着いている。さらに盾の真ん中には大型ボビンがついており、そこに糸を巻きつけることで、糸のストックと攻撃に方向性を持たすことができる。普段から能力を使う時にボビンの機能だけを使っている。


「カッコいいなァ。アイルランド・ウェポンズ社製というよりは米軍製だな、あそこには能力者に応じて、装備を作成する科学者が居ると聞いたことがある」


「そんなことはどうでもいいですわねッ」


 相手との実力差が分からない場合は距離を取る必要がある。後ろに下がりながらも白鬼から視線を外さない。私の能力は中遠距離戦にも対応できるのが強み。

 私の糸は妖気によって強化されている。その切れ味は人体はおろか鋼鉄すら切断できる。

 

「熱い視線なんて送っちゃって。ファンかな?」


「どういうことです!?」


 身体を斜めに両断したのにも関わらず、白鬼は平然としている。だから、私は驚きながらも、両手から糸を放出して、さらに細かくバラバラにする。

 これだけすれば多少なりはダメージが入るはず。


 白鬼はバラバラにされた個々のパーツを一つ一つ丁寧に組み立てその場に復活した。余裕そうな表情がこちらとの差を物語っていると感じる。


「残念ながら俺には通じないね。そういう能力だからね、基本的に斬撃、打撃を含む物理攻撃が効かないんだ」


「それだけ聞ければ十分ですわッ!」


 身体をバラバラにされても問題ないと仮定しても、心臓だけは破壊されればどうにもならないはず。


「こっちもやられっぱなしじゃあつまらないねぇ。傷付けない程度に攻撃させてもらうよ」


 白鬼は私の方に指を差した。その指を輪切りにして、距離を詰める。正確には相手に距離を詰めさせる。手首に巻きつけた糸を引っ張り、こちらに引き寄せた。そこへ心臓目掛けて盾を突きつける。


「それはまずいなぁ。抑えさせてもらう」


 突き出る右腕を何かに掴まれた。

 それは畝る様に出現した。触れるこの感触は木そのもの。考えるに壁そのものを変形させたもの。


「センスがいいね、今の一撃」


 白鬼は私の巻きつけた糸を最も容易く引き千切ってみせた。通常の人間でも英雄級の身体能力では不可能な芸当だ、鬼特有のフィジカルの強さが出ている。


「だが、勝負を焦りすぎているな。勝負はお互いの手札が割れるまで、じっくりコトコト楽しまなきゃな」


 この変形した壁も攻撃の通じない白鬼の身体もおそらく同じ能力。身体や周囲の物の形を自在に組み替える能力。


「分かりましわ。闘い方が」


 この能力を前に中遠距離戦はむしろ不利、能力の範囲は分からないけれど、この廊下一体の壁、床、天井の全てに至るまでは能力で操作可能と考えていい。

 ボビンから出ている余分な糸を盾の先端で切る。さらに妖気レーダーを展開、常に全方向からの攻撃に集中する。


「それじゃあお互いにウォーミングアップは終わりとしようか」


 背後より床が変形して私の腕を締め上げた。しかし力を込め破壊する。大量の畝りが至る所から生えてきた。それを盾と筋力だけで破壊する。


「これはどうかな!」


 更に数の増える攻撃に、手数が追いつかない。

 これだけの数を同時に操作するのは相当な訓練が必要、更に一つ一つに使う妖気の量も相当なはず。


「これだけの妖気。長続きはしませんね」


 妖気をある程度使い切れば、攻撃を防ぐのはできないはず。そうすれば妖気を温存している私の身体能力で勝ることができる。


 でも何か疑問があります。

 この能力、攻撃の意思をまるで感じない。手数は多くてもそれは殺傷能力になってない。


「そろそろ俺も攻めるよ」


 本人が前に出た。素早い動きで距離を詰めてくる。攻撃を受ける。カウンターを使用にも狭い空間で常時この畝りが襲いかかるため、下手な行動は出来ない。

 損切りをするしかない。


蜘蛛の巣(マリッジ・ウェブ)


 両盾から糸を蜘蛛の巣状に放射する。自分の正面以外を糸の壁で塞ぐ、これなら目の前の白鬼に集中できる。白鬼がニヤリと笑った。

 次の瞬間、両腕が何かに捕まった。横を見ると畝りはが糸の壁をすり抜けている。畝りのサイズよりも細かな隙間にしたのに、それを意に介さずこちらに向かってきている。最初の拘束の時よりも力強い。握りつぶされる。


「今、降伏すれば命は助ける。怪我も両腕を折る程度だ。それも治療で治る範囲。でも、しないなら、もう少し痛い目に遭ってもらう」


 そう言うと白鬼の目の前の床が変形して畝りが出現した。しかも今回のそれは異様に鋭い。身体を簡単に貫けそうな程に。両腕に力を込めても妖気を込めてもこの拘束が破壊できない。

 でも、手段がないことはない。動くなら白鬼の隙を突いて。


「お優しんですね。敵を殺さずに降伏を促すなんて。鬼とは思えませんね」


「俺も俺なりの目的で行動しているんだよ」


 今、館が全体が燃えている。私たち妖気法使いは妖気を消費して煙から肺を守ることができる。更に妖気を纏えばある程度の炎からも身体を守れる。それは身体以外の物も同様。この空間が燃えていないのは、おそらく白鬼が能力のために壁、床、天井の全体に妖気を流しているから。


「そんな事をしても問題ないのでしょうか。今回の指揮者は貴方ではないのに。おそらく貴方よりもより序列の高い鬼が指揮を取っているはずです」


「そうだな。今回のリーダーは序列第三位の黒鬼だ。当然、このような行動はバレればヤバイ。でも、リスクがないってのはつまらないよな。ダメで元々、人生はギャンブルだぜ」


 白鬼の言葉はどこか熱のないモノ。一見、感情を込めているようで、実際はそうではない。今の言葉も自分の立場の危うさを謳ってるいるが、顔は真顔だ。


「さてと、もう良いだろ。・・・降参、、しな」


「ええ、そうですね。白旗をあげるべきですね。でも、人生はギャンブルなのでしょう?私はまだ賭けてません」


 白鬼がフロア全体に妖気を流している様に、私の糸にも妖気が流れている。だから本来は決して燃えることはない。妖気の性質を少し変化させる。両端の『蜘蛛の巣(マリッジ・ウェブ)』に引火しやすい性質を付与する。これにより妖気を纏った炎が誕生する。これならば妖気で守られているこのフロアを燃やせる。


「これで分析完了ですね、ここからが本番です。」


 両腕の拘束が外れたと同時に目の前の畝りを燃える糸で破壊する。これにより、この能力の原理を完全に理解した。この能力は面ではなく、点の集合体。おそらく『蜘蛛の巣(マリッジ・ウェブ)』の網目よりももっと細かい点の集まり。

 おそらく能力は、分解と再構成。それを極小サイズで行う。それを自身の体にも応用して、攻撃の際に分解、回避を実現する。


「考えたな」


「これがダメなら白旗をあげますよ」


 通常の物理攻撃が通じないのなら、全体を焼き尽くす炎で挑む。逃げ場を完全に奪うこの炎の糸で。


「この糸、名付けるなら『情熱の糸(ラヴァーズ・スレッド)』ですね」


 直後、フロア全体の壁が消失した。



 Scene3



 10月28日 米国 とある軍人宅の一室


 男は葉巻を加え、その煙を堪能した。

 男はアメリカの妖気法部隊の要、七連星の一角『ウィストン』。彼はチェアーに深く腰を沈めて目の前の男の話を聞いていた。


茜月夜海(ヨミ・アカツキ)。これは懐かしい名前だな」


「あなたの弟子だと聞いていた」


「ああ、彼女は私の弟子の一人だ。と言ってもそんなに珍しいことじゃない。私には百人を超す弟子がいるからな。その一人だ。っで『マールボロ』くんは彼女について何のようだ?」


 マールボロはウィストンの言葉が嘘だとすぐに見抜いた。彼には百を超す数の弟子を持つが、それは彼の部下にすぎない。一部の部下しか名前を覚えない彼が名前を覚えているという事は、珍しいに分類される。


「先日、彼女に会った」


「ああ、君が手痛く敗北を喫したあの時かぁ」


 今から三日前に彼は任務の為に極秘に日本に向かっていた。しかし、米軍でもトップクラスの実力を有するマールボロは右腕を骨折し、連れた部下を半分以上失うとい、任務も失敗するという大失敗を犯した。


「それで、彼女がどうした。死んだか?日本妖気法使い達に死者が何人も出たのは報告で上がってる。その中に彼女がいてもおかしくはない。それほどの戦力差があった」


「いや、彼女は生還した。話の話題はそれじゃない。あなたは彼女にどんな教えを?あれじゃあ、才能の持ち腐れだ」

 

 マールボロから見て、夜海は取るに足らない存在。息を吹けば消し飛ぶ蝋燭の火のような物。


「彼女の才能か、、確かにアレに教えたのは一般的な米軍式の戦い方だな」


 米軍は約一万人の妖気法使い兵士を抱えている。全体から見た数は少ないが、この数を揃えてるのは世界でも鬼軍を除けばアメリカだけだ。

 しかし、コレは裏がある。通常の兵士の多くは妖気の力を肉体能力の向上に充てる。それは一対一の戦闘ではなく軍として動かすためである。一方で七連星を含む一部の兵士は、敵の能力者と戦いや大統領勅命の任務、政府関係者の護衛などの任務を行うために、妖気法能力を扱えるようにしている。


「彼女を見たら分かるが、アレは『真祖化』させる、あるいは妖気法能力を伸ばすのが一番ではないのか。アレは身体能力を補助するためにしか使ってない。何故、才能に沿った育成をしない」


「あの能力は彼女に合う能力だ。能力を作るのを手伝っただけで、私は戦い方を教えたわけじゃない、自然と米軍の戦いを身につけたんだろう」


 夜海の能力『妖糸端麗(ウェディング・ドレス)』は攻撃の通じる相手になら強いが、かつてマールボロが遭遇した菫鬼の様な攻撃を無効化する能力を前には無力。上位の妖気法使いであれば、必ず能力を使った耐性を持つ。


「あんな能力じゃあ、攻撃が通用しない相手に出会った時、あれじゃあ一方的にやられる。実際に『純度100%の悪意(イービル・クリスタル)』には手も足も出なかった。今回は運に助けられたが、次回はそうとはいかない。あなたが大事な弟子を易々と殺させるとは考えられない」


 マールボロに彼女個人にに対する思い入れはない。ただ純粋な疑問だけでこの足を運ばせたのだ。自身と同じく『才能』を持つ彼女がここまで無駄使いしているのが勿体なく感じていた。


「その点は大丈夫だ。才能は才能、私たちがいかに彼女に真逆の教えを与えても、才能はいずれ開花する。それは先人が証明している」


 言いながら、ウィストンは二本目の葉巻に火をつけて煙を嗜む。煙がウィストンの顔を覆い、その表情が見えなくなる。


「なるほど」


 マールボロは誰かを育成したことなどないし、殺しの基礎技術は父から学んだ。妖気法能力の基礎も適当な相手に軽く教わった程度で、この怪物を作ったのは独学だ。そのせいかウィストンの育成論は理解でない。だが、もう聞いても無駄だと判断した


「君も一本、吸うか。ワシは上等なのしか嗜まなん、君も極上の体験を味わえるぞ」


「いや、遠慮しておく。『タバコ』は臭くて敵わないんだ。俺からの要件は済んだ、失礼させてもらう「話してて思いだ」


 チェアーから立ち上がり、退室しようとするマールボロをウィストンは引き止める。

 

「なんだ?」


「諜報部から聞いたんだが。あの日、中国が特殊部隊の『朱雀』を日本に派遣したそうだ」


「怪物の一人も居ない使い捨て部隊をか?奴ら何を考えてる」


「おそらく影村寿雄の持っていた『秘宝』を求めて」


 それは今回の米軍と同じ目的、しかし影村寿雄は目当ての『秘宝』を持っていなかった。


「奴らは間抜けか、それほどの重要任務だ。『白虎』か『玄武』を出すだろ。そこなら序列十位のメンバーともやり合える」


「だが、それが項を制した。影村寿雄の館に派遣された『朱雀』のメンバーは全員もれなく失踪、おそらく全員死亡している」


 『朱雀』のメンバーは逸脱者から英雄級下位の実力者で構成されている。マールボロなどの怪物級の実力をもつ者からしたら圧倒的な格下であるが、一般の米兵が逸脱者に届かないレベルであることから、十分に強い部類だ。それを殲滅させたとなると、怪物級以上の実力は必須。


「なるほどな。もしも『朱雀』を殺した相手が『白虎』『玄武』のメンバーよりも強かったと仮定すると、幸運だな。だが、日本で鬼以外に怪物級以上のやつがいるのか」


 仮にその二つが壊滅したら、中国は大打撃を受ける。国を守るための力を失うと、ロシアが何をするか分からない。


「中国はその辺を調査中だと。私が知っているのはこの程度だ。君も再び日本に行くのなら気をつけるんだな」


「ご忠告、どうも。この腕が治り次第にすぐに行くさ」


 

 Scene4



 10月25日23時25分


 燃え盛る館の中、天山緋麿の弟子たちは逃げるしかなかった。


「奴らなんで銃なんてもってっ」


 並の妖気法使いでは銃火器を前にただ蹂躙されるだけ、それを戦場を知らない彼らは理解していない。


「これで壊滅か?天山一派は」


「そうだな。さっき報告があり使用人も全員始末したそうだ。現在、白鬼さんが茜月夜海と交戦中。黒鬼さんも突入している。我々の目的は黒崎亜流だ。見つけ出し、必ず射殺しろ」


 彼らの任務は敵妖気法使いの抹殺。これは戦争であると言い聞かせて、心を鬼にして殺害している。


「君たち、何をしてるの?」


 声が聞こえた。振り返るとそこには異様な姿に変貌した影村寿雄が居た。

 全身に百近くの目が生えており、妖怪の見た目をしている。だが、その程度なら問題はない。


「こちら影村寿雄を発見。黒鬼さんにこちらの場所を報告しろ」


「あんたを殺すの私たちじゃない。ここで大人しく待ってもらおう」


 そう言いながらも逃げ出さないように銃口を向ける。少しでも動いた瞬間に脚を撃つ。


「そんなおもちゃでワシの動きを止められるとでも、能力は使わないのか?」


 影村寿雄は悠々とこちらに向かって歩いてくる。だから撃った。次の瞬間、意識が飛んだ。


 Another Side


 隊長が銃を発砲した瞬間、影村寿雄はそれを躱し、一撃で隊長の頭部を殴って粉砕した。


「ばっ!バカな!」


 黒鬼様のような一部の猛者であれば、可能な芸当。しかし、それを行なったのは人間で、対象は人間よりもはるかに硬い頭骨を持つ鬼。まるで悪魔だ。


「君たちは一人残らず生きては返さないが、死ぬ順番は選ばしてやる。死にたい奴から撃つんだな」


 選択肢は無かった。俺たちは一斉に影村寿雄目掛けて銃を乱射した。しかし、弾は掠ることもなく数秒の後に壊滅した。


 Another Side


 鬼を殲滅した。

 そのまま落ちている銃に、右手をかざす。その物の記録を読み取る。


「武器はアメリカ軍のだな。なるほど七連星が来ているのか」


 今のこの百々目に覆われた姿は、妖気法使いの末路、長年の酷使で変容した物に近い状態。元々この姿に至ったのが三十代の頃、そこで身体から老いを抜き、完全に変体する前に人間に姿を戻した。そこから今の四十代の姿をキープしている。

 このように再び老いを取り除き、本来の姿まだ遡ることでこの姿で自由に戦えるようになった。この姿こそが全盛期、怪物の力である。ただしこれをするとデメリットも当然ある。


「ぐはぁ!」


 口から血を吐き、手を地面につける。身体を蝕むアレが全身に転移した時代でもあるからだ。


「はやくアルを探さなくては」


 健くんには申し訳ないが、どうやら予言の若者はアルだったようだ。色々と準備をしていたが無駄だったか。ならば急いでアルを!


「待てよ。俺たちを皆殺しにするんだろ。まだ一人残ってる」


 声が聞こえた。だから振り返る、そこには巨躯を持つ鬼が立っていた。

 

 

 Scene5



 10月25日23時15分


 ロビンは裏切り者である。

 初めから疑いはしていた。天山緋麿もおそらく裏切り者。ただし目的が違う。天山の場合はおそらく保身のための裏切り、それに対してロビンはおそらく天山への復讐のための裏切り。


「その為にも使ったツールは鬼と米軍だ。双方、目的は秘宝だ。そこの過程に妖気法使いの抹殺がある」


 秘宝が何かはいまだに理解はしていないが、こいつらだけが求めているものではなさそうだ。おそらくもっと多くの勢力も狙っているに違いない。


「まずは逃げたロビンちゃんの足取りを辿ったところ、ヨーロッパのイタリアとドイツ、そしてイギリスに潜伏していたことが分かった」


「それがどうした?」


「イギリスにも秘宝がある」


「ッ!?」


 その一言がどれだけ恐ろしいのかは流石の俺でも理解できる。


「ロビンちゃんはイギリスの『真珠』とアメリカの『杖』に触れている可能性が高いってことだ。まぁ、これは未確定な為に置いておいて、その時に紅鬼と接触した可能性が高い」


 紅鬼、今回のターゲットであり悪の鬼たちの首魁。


「おそらくそこで天山緋麿についての情報を得た。そして、ロビンちゃんを密偵として日本に送り込んだ」


 そのタイミングには、すでに天山緋麿とも繋がっていたのだろう。つくづく紅鬼は策士だな。


「数日前、日本から鬼に送り込んだスパイが帰還した。お前たちも東京で会っただろ」


「ああ、あの俺の腹をぶち抜いた野郎だな」


 その傷跡はすっかり塞がっちまったが、あの痛みは今でも記憶に新しい。


「KENTだな。そいつにロビンちゃんが自分の情報を売ったらしい。もしかしたら、東京にもいたかもな。ロビンちゃんが売った情報は二つ、本人が日本に居て妖気法使いと合流していること。もう一つは影村寿雄が秘宝を所有しているということだ」


 これも全部、紅鬼の入れ知恵か。だが、紅鬼はなんで影村のおっさんが秘宝を持っていることを知っていたんだ。


「疑問なんだが、秘宝を持つ人間は特殊な妖気法能力を使えるのか?」


 あの記憶に干渉する力。記憶の中の事象を引っ張り出す力。明らかに妖気法能力の範疇を離れている。それにマールボロが秘宝の力を盗んだと言う言葉。まるで、ものを持たずとも力だけを扱えるとでも言える言い方だ。それに持つものに何か特徴があるのなら、それが判断になる。


「さぁな。俺の権限じゃ、そこまでは知らない。だが、影村寿雄には『真祖化(しんそか)』の傾向があるという。その状態になると妖気の力はこの世界の法則を超える。そう言う実験結果がある」


 また知らない単語を。真祖っていえば吸血鬼か?だが、それと妖気法使いがどう関係ある?いや、その疑問は後回しだ。


「話が脱線した」


「おいおい、君が車線を変えたんだろ。まぁ、いいけども」


 マールボロは話を続ける。俺の実力ではこの状況を脱する術はない。かと言って、こいつらに協力する気は微塵もない。だが、俺の推測が正しければ、必ず脱出する機会は訪れる。

 

「俺たちを誘い出したロビンちゃんは二つの罠を用意した。それは他の妖気法使いをこの地に閉じ込めること。この森に囲まれた区間では通常の妖気法使いは逃走が困難。まぁ、この地域を選んだのは天山緋麿だが、理由はわかるよな」


「自分だけ飛行能力を持っている。それと、山火事でも起これば効率的に敵を排除できる」


 おそらく先の館で上がった火の手は、この辺で山火事を起きたという言い訳に使える。何人死のうが、その死因はわからない。自分は空を飛んで楽々脱出する魂胆。そう言うことか。


「ロビンのやつはそれを読んでいた。天山緋麿の逃走経路は確実に空。そしてあいつ自身も飛行能力を持つ。いくら夜間でも空を飛ぶ人間がいたら、それはとても目立つからな。そこで仕留める気か」


 しかしだ。天山もロビンが飛行できるのは知っているはず。というより、自分と同じ翼を持つものが同じことをできないとは思わないはず。あるいは、鬼にロビンも始末させるつもりか。


「だろうね。それが第一の罠、次の罠が、私たちの存在。銃火器の用意と屈指の強さの兵士。ロビンちゃんと接触した時点で、アメリカに日本の妖気法使いを殺さないという選択肢は消えると考えるはず。さらに秘宝の力を持つ人間が二人もいるのなら、最低でも私のような『七連星』が出張ってくるのは必須」


 と言っても、コイツらはその銃を鬼に渡している。それでは意味がない。

 いや、おそらくそこまでは間抜けではないな。おそらく何かしらの契約を結んだ上で、保険もかけているはずだ。それに笹原文和の能力のようなもので、まだ隠し持っているかもしれない。


「自分が殺せなくて、返り討ちにあってもアンタ達が代わりに始末すると言うと言うことか」


 確かにマールボロレベルの兵士が来るなら、それも可能だろう。だが、これなら鬼にも情報を渡していた理由が分からない。天山がすでに渡しているのなら無駄なことだ。つまり、ロビンが鬼に流した情報は別なこと。


「気になったんだが、アンタらは本気でロビンに動かされて、天山緋麿達を殺すつもりなのか」


「いや、殺すなら、君に情報を与えてなんかいない。目標はあくまでもロビンちゃんの抹殺と秘宝の奪取」


 なるほどな。これでロビンの考えが全て分かった。それが俺がここから脱出する鍵。

 今はそのことを胸の内に秘めておく。コイツらが気付かないように。



 Scene6



 10月25日23時40分


 どれだけこの時間を待ったか。

 鬼がマールボロ率いる部隊と戦闘を開始した。


「マールボロ隊長ッ!これは一体どういうことですか!」


「俺に聞くな。少なくともアイツらが裏切ったことは確定だ」


 米兵達はやはり隠し持っていた銃で応戦するが、襲撃した鬼の中で一人だけ明らかに動きが異常な鬼が居た。それは西洋騎士のような甲冑と両刃の剣を持つ鬼だ。そいつは銃弾の雨の中、気にすることもなく一人、また一人と米兵を両断していく。


 俺はその光景の隙に亡骸の横に落ちていた拳銃を密かに回収する。


「そうはさせねぇな。鈍鬼(どんき)ぃ」


 その鈍鬼と呼ばれた鬼とマールボロがついに激突する。マールボロは二本のトマホークで、鈍鬼の剣と拮抗する。おそらく両者実力は同等。恐ろしい戦いだ。


 俺は壁に張り付くように息を殺した。二人の怪物が互いに一切の集中を乱さない戦いを見守る。誰もが、その光景に目を奪われている。


「噂に違わない実力者だなマールボロ。菫鬼から聞いているぞ」


「君こそ、その程度の実力かッ!四位程度で私が抑えられると思うなよッ!」


 マールボロの斧捌きは素早い、一本が弾かれても、すぐに二本目からの攻撃が行われる。鈍鬼はそれにただ防ぐしかないように見えるが、防戦一方というよりもいつでも反撃を狙えるように隙を伺っているように見える。下がる鈍鬼を追う形でマールボロが迫る。そして二人は壁際に徐々に近づいている。


 ついに壁に鈍鬼の背がついた。そのまま、マールボロは大きく斧を振り下ろす。

 斧の刃が、鈍鬼の剣に刺さる。


「ッ!?」


「言っとくが妖気なんてこめてない。ただのフィジカルだッ」


 その光景に動揺する鈍鬼の腹にマールボロが蹴りを決める。その威力は洞窟の壁に大きなヒビを入れ、銃弾すら弾く鈍鬼の鎧を砕いた。


「なんて暴力っ聖鎧(せいがい)だぞ貴様ッ!」


「嘘をつくな。本物ならおたくの三位の蹴りでも壊れねぇよ」


 そのままマールボロは鈍鬼の首を斧で跳ね飛ばした。


 それで米兵達からは歓喜の声が上がる。その反対に鬼達は絶望の表情を顔に浮かべていた。士気を高めた米兵が一気に鬼達を殲滅する。そのままこの洞窟から脱出を目指す。俺もそれについて逃げ出す。

 しかし、気になったことがある。さっきの戦い、何故二人とも妖気法能力を使わない?マールボロはともかく押されていた鈍鬼が使用しなかったのは違和感がある。


 なんとなくい嫌な予感がした。俺はマールボロの背に張り付くような距離で走る。


「ずいぶん余裕そうだな。あれは結構強敵に見えたぞ」


「素人が、あれはただの雑魚だ。動きなどは本物さながらだが、筋肉量が違いすぎる。違和感に気付け。お前達俺に並ぶように走れッ」


 そう言ってさらに加速する。そしてとうとう洞窟から脱出した。その時、洞窟の出口から巨大な金属の棘がいくつも出現して、俺とマールボロ以外の全ての米兵を貫き殺すか、洞窟内に閉じ込めた。


「「ッ!?」」


 これによりマールボロ隊は彼を除き壊滅した。


「たいっちょ」


 副官だと思われる男はその攻撃で体が両断されて、最後にこちらに手を伸ばして息を絶えた。


「あらかじめ、そこには大量の鉄を埋めておいた。白鬼に頼めば、それくらい準備は簡単にできる」


 そこには銀色の鎧を纏った鬼が立っていた。それで理解した、さっきのやつはコイツの影武者。これが鈍鬼の本体。それがさっき能力を行使しなかった理由。できなかったあるは、この罠を隠すために。


「俺としたことが、完全に油断したな。俺の部下はこれで全滅か。ロビンにしてやられたな」


「ッ!?」


 鈍鬼が反応できない速度でマールボロは首元に斧の刃を当てていた。刃先にはほんの少しの血が。そのまま振れば、首を跳ね飛ばせるというのにそれをしない。


「お前らの差金は誰だ。紅鬼か、ロビンか?米兵を惨殺したんだ、戦争で済むと思うなよ」


 その気迫に押された鈍鬼は大きく後ろに下がる。


「素晴らしい。これが七連星か、戦いがいがある。初めから全力で行かせてもらうぞ。貴殿も全力で来てもらう」


 鈍鬼が右手を挙げると、地面に埋まっていた鉄がどんどんと現れる。これが鈍鬼の能力。

 どんな攻撃をするのかと思ったが、その大量の鉄は一つにまとまり形を変え始めた。


「金棒だと!」


 それはおとぎ話なんかで見る鬼の金棒。全体に棘のような突起がついている。あんな大量の鋼をあのサイズにまでしてしまうなんて、そしてその質量を浮かせる力量。まさに怪物。


「マールボロ、いくら貴殿の肉体強度といえこれを受ければ無傷はありえまい」


「なら飛ばせよ。鈍鬼、君の能力なんてとうに割れてる、もったいぶる必要なんざない」


 鈍鬼の周りを金棒は大きく弧を描き高速で廻る。徐々に外側へ向かい、木にあたれば、それを幹ごとへし折る。俺も急いで高台へ避難して、目視で見れる範囲まで距離を取る。

 マールボロまさか攻撃にはまずいと思ったのか、大きく上に飛ぶ。垂直に一○メートルを裕に越したそれは、人間の技じゃない。


「逃げ道はそこだけだ」


 鈍鬼は上に逃げたマールボロに向い、何かを連続で飛ばす。それをマールボロは簡単に斧で弾き飛ばす。かなりのスピードで撃ち込まれたはずなのに、その余裕ぶりには敵ながら惚れ惚れする。


 そのままマールボロは斧を鈍鬼に向かって投げる。それを剣で弾くが、斧は落ちることもなく、ブーメランのようにマールボロの手元に帰っていく。


 そこで観察する。鈍鬼とマールボロについて。奴らの能力を分析するのだ。


「マールボロの方は、身体能力が高いな。それに対して、、能力はあくまで補助にすぎないか」


 マールボロが着地すると、彼の元に追撃するかのような金棒が向かってくるが、それをバク宙でかわす。そのまま一本の斧を鈍鬼に投擲するが、それは弾き飛ばされる。


 さっきの鎧を破壊した蹴りの威力を見れば分かるが、マールボロは身体能力が以上、アスリートとか金メダル級とかそういった次元の話ではない。対する鈍鬼は、鬼が持つ天然のフィジカルを持ったとしてもマールボロに及ばない、その点を妖気法能力で補っていると見れる。


 距離を詰められた鈍鬼は剣を持って、斧と鍔迫り合いをする、やはりかマールボロが押している。


「鬼でもない貴殿のどこにそんな力がっ」


「俺は元世界最強の殺し屋(アサシン)だ。戦闘能力は伊達じゃない」


 鈍鬼の身体はどんどんと押されていき、とうとう剣が地面に落ちる。その時、鈍鬼が正面の斧に最大の警戒をした。その瞬間に、背後から斧が飛んできた。それが右肩に突き刺さる。


「何を!」


 刺さって止まった斧がドンドンとマールボロの方へ引き寄せられる。明らかにおかしな軌道だ。


「これが貴殿の能力か!」


 鈍鬼が吠える。マールボロの能力が分かった。あらかじめマーキングした武器を投擲した際に、その軌道を操る。言えばシンプルだが、あの身体能力に一番相応しいとも言える。


「そうだな。種明かしをされれば単調、故に付け入る隙がないっ」


 そのまま、刺さった斧の柄を掴み、一気に振り抜く。鈍鬼の右腕が地面に落ちた。鈍鬼は出血の止まらない。右肩を抑える。


「この斧はなんて事もない。せいぜい骨すら容易に断つ切れ味程度しか誇るところはないな」


 強すぎる。

 

「まぁ、当たったのが私だった。来てたのが、No.3以下の七連星だったら、互角にはいけただろう」


 言うがままに、鈍鬼の顔を蹴りをかます。鈍鬼は受け身を取ることもできずに地面を転がった。


「ぐはぁ」


 俺はいよいよヤバイと思い息を殺し潜伏する。まともにやって逃げれるわけがない。


「馬飼琉助!しっかり見とけ、私がいかに強いか。これから、この序列第四位の首を切り落とす」


「私の負けは確定だ。だが、最後の抵抗をさせてもらおうッ!」


 鈍鬼は立ち上がり、左手を落ちている金棒の方にかざした。それは宙に浮かび上がり、マールボロの方を向く。


「当たるかよ」


「『磁場群(ジパング)』・『滅里剣(メリケン)』ッ」


 金棒が射出された。

 マールボロはそれを躱した。しかし、そこで俺は気付いた。あの金棒はマールボロを狙ったものではない。あの方向はっ。

 館のある方角だ。そこに飛ばしたのだ。


 マールボロもその意図に気付いたのか、鈍鬼の元は歩く。勝ちを確信した勝者の歩みだ。


「あれは確かに黒鬼のか。最後に仲間に武器を託すとは粋だな。死ね」


 斧を振り下ろし、鈍鬼の頭をかち割ろうとした、その時。斧が発砲音と共に弾き飛ばされた。


「「「ッ!?」」」


 銃声の方向には、


「ロビン・アンダーソン・天月ィ」


 ロビンが壊れた銃を構えていた。



 Scene7



 10月25日50分


 別にあの鬼は見捨てても良かった。軍人だ、死んでも心は痛まない。


「アンタの絶頂顔が嫌いなんでな。邪魔させてもらった」


 壊れた銃は地面に捨てる。そのまま、二本目の枝を手にして、もう片方で砂利を握る。

 ショットガンが炸裂した。散弾はマールボロを貫き、後方へ吹き飛ばす。鬼にも多少当たったが、あれの態度じゃ死なないだろう。

 銃をまた地面に捨てて、三本目の枝を。


「ロビィィィィン」


 どんどん近付いて、ショットガンを撃っては捨てるを繰り返す。いかにマールボロとて散弾の前には無力だ。


「アンタは俺が逃げたと勘違いした。俺はアンタがそこそこの鬼とやり合って、意識を外すのを待ってた」


「すべては俺を消すためか」


追跡者(チェイサー)を始末する。そのための鬼と琵琶湖だ」


 そもそも天山に対して、マールボロは遥か格上。始末できるウチした方がいい。このレベルを始末すれば、アメリカも追跡者を送るのもやめるだろう。


 俺はマールボロの頭の前に銃口を近付けた。斧の件も問題ない。あれは投げた時限定の能力。落としたら使えない。

 後ろを向けば、鈍鬼の姿は無かった。おそらく逃げたのだろう。


「その能力はっ、私は知らないなっ、秘宝のっ、力かっ」


「ああっ、『アーリオ・オリーオ』の力だ」


 あれに触れた時、俺は物体を別の物体に、『可能性を広げる力』を得た。


「くくくっくく。こんだけ弾ぶち込めば、私が死ぬと思うか?とんだ間抜けだ。能力の外観しか見ていない」


 マールボロは笑う。このまま最後の銃撃を頭に撃ち込まれれば死ぬというのに。


「この能力、見るに一発撃つごとにその銃は枝に戻る。だから一発ごとに新しい枝を持つ。つまり、元通りになるのは枝だけじゃなく、弾丸も元に戻る」


「ッ!?」


 まさに盲点。開発こそしたが情報が漏れるのを恐れて使用を控えていた。そのため自分の中でデータが不足していたのだ。


「良いことを教えてやる。最後の訓練(レッスン)だ。七連星が七連星たる所以を教えてやる。『Star of North Carolina(ノースカロライナの星)』」


 マールボロの軍服に付けられたバッヂが光り輝き出した。


 嫌な予感がした。翼を広げ即座に距離を取る。


七連星(セブンスター)五怪人(エナジーズ)、そしてヘルクライマー。私たち一三人がアメリカの守護神。アメリカ最強、星の称号を与えられし者。アメリカにおける星とはすなわち州を表す。一三の星は始まりの()だ!」


 そんな話、軍時代からも聞いたことがない。一瞬、ハッタリも疑ったが、そうは思えなかった。確かに星の称号を持つ者は一つの州軍に匹敵する個人戦力と言われているのは知っている。だから、何か特別な力が与えられていてもおかしくはない。


「私の身体能力が高いのは知っているだろう?だから妖気法能力もあくまで足りないものを埋め合わせるための手段にすぎない」


 マールボロは一気に距離を縮めてきた。あのバッヂの効果はいったい何なんだ。連続で放たれるパンチを腕で防ぎつつも、さらに後ろに下がる。攻撃力、速度はいつもと同じだ。つまり身体能力を上げる効果ではない。

 奴は拳では無意味と判断したのか、斧を拾うために一度下がる。その隙を見て、二本の枝を手に取る。それを刀に変換する。しかし、斧を取らせたことは悪手だったか。あの投擲攻撃はいまだに攻略法がない。


「決着をつけようか」


 枝を使って打ち合っても、すぐに破壊される。そしたら、もう刀を出す手段はなくなる。斬り殺される。撤退するしかないか。奇襲で殺せなかった段階で逃げなかったことを後悔する。


「マールボロさんよぉ」


 こちらに走るマールボロはその声に立ち止まる。


「なんだ。馬飼琉助。今から私とお前たちにとっての裏切り者を始末するところだ」


「アンタ、そのバッヂをノースカロライナの星って言ったよな。一つ気になったことがあって、つい声を掛けちまった」


 小動物が隠れていればいいものを。KENTに言われてあの場から離脱させるために、ここまで運んだにすぎない男だ。わざわざ連れてくるまでもなかった。と思っていた男が今更何のつもりだ。


「後にしろ」「いいや、限界だね。話す」


 強引に話を続けようとする馬飼琉助。この会話の隙を狙って、マールボロに攻撃をしようかとも考えたが、チラリとこちらを見て警戒されているのが分かったから、止めた。


「アンタ、体力が一番最初の頃に戻っているだろ。何なら怪我も元通りになっている。さっきまで鈍鬼って鬼とほぼ互角の戦いをしていたのに、疲れを微塵も感じない。それにさっき受けた銃撃も弾が元に戻ったって痛みが消えるわけじゃあない。なのにダメージをまるで感じさせない動きだ。あくまでも観察した感じだがな」


 マールボロはいよいよこちらへの警戒を緩めて、目の前の小動物に目を奪われていた。


「となると、疑問が浮かぶ。そんな便利な回復能力があれば戦い毎に、さらには戦闘中に使えば良い。なのにしない。しないってことはそこまで便利な能力ではないということ。例えば回復できる回数が決まっていてるとか。例えば、一ヶ月に一度とか」


 ついにマールボロは斧を馬飼琉助に向かって投擲した。それに対して琉助は正面から拳を突き出した。


「馬鹿ッ!」


 あの斧の切れ味は骨を容易に断つほどだ。思わず叫んでしまった。

 しかし、結果は予想外で、斧は拳で止まった。


「ッ!?メリケンサックだと!?」


 馬飼琉助は拳にメリケンサックを嵌めていたのだ。ただの刃物ならともかく、その程度で妖気で強化された刃を止められるとは到底思えない。


「もう一つ見てて分かった事がある。そのブーメラン能力は、最後に必ず持ち手の方がアンタの手に吸い付くように飛ぶ。刃の方が飛んできたら危ないもんな。つまり妖気を纏っているのは持ち手のみで、刃はそのまま」


 そんなこと知りもしなかった。わずかこれだけの時間で暴いたのか。


「それにこれを投げる時は飛ぶ方向を操れないのも見てたら分かる。そして、帰る際もまっすぐ直帰だ。つまりあらかじめ決まった軌道でしか動かせない」


「クククククッ。ここで消すべきはロビンちゃんでもなくお前だったか。馬飼琉助(リュースケ・ウマガイ)、このクズリめっ」


 それはある意味の降参宣言。能力が全て図星ということ。妖気法使い同士の戦いでは能力の底が見えたものが敗北する。それに則ればマールボロの敗北は確定。しかし、馬飼琉助ではマールボロを倒す手段はない。


「俺が終わらす。そういう事だな」


「あとは任せた」


 彼の言葉が正しければ、あの回復はもう使えない。あの斧も怖くはない。しかし、牙と爪を奪われてもグリズリーはグリズリーだ。


「本当の決着と行こうか」


「そうだな、ロビンちゃん」


 マールボロは再びこちらを向く。互いに小細工はない。ここで始末する。


 俺が飛び掛かる。マールボロは全集中をこちらに、しかし、その隙を逃さなかった者がいた。馬飼琉助だ。


「斧を持たない手は、妖気を纏う必要なし!つまり、この戦局では最も無防備だ」


「ッ!?オマエェ!」


 この局面で、馬飼琉助はマールボロの右腕にメリケンサックをつけた拳を叩き込んだ。彼の予想通り、妖気を纏う隙はない、防御の体制に入るも、そのまま右腕の骨を折ったのだ。そのまま地面を転がる。


「これはさっきの肩の分だ。これで俺からのツケは返した」


 立ち上がり、マールボロは俺たちを睨みつける。


「骨が折れるとなると、流石にロビンちゃんの相手は厳しいか。ここは引かせてもらう、それでお開きだ」


 仮に勝てたとしても、まだ序列十位が来ている。そしたら今度こそお終いだ。

 だがこの絶好のチャンスを逃すわけには。


「逃すとっ」


 枝を銃に変えようとする俺の手を馬飼琉助は止めた。力強くはない。けど、ウチに秘める何かはあると分かるちからだった。


「やめとけ、ロビンさんや。俺たちは早く館に戻る必要がある。抵抗されてさらに深手を負ったら、意味がない」


「そもそもこの状況は、俺が天山緋麿を殺すために仕組んだ。戻る必要はない」


 自分の手でなくても鬼の手で始末すれば良い。何とも情けない考えだ。


「鬼と天山は手を組んでいる。それを踏まえてここに来ただろ?アレが真実だ。理解してんだろ、アンタの復讐を果たすには戦力が必要だ。生き残りを救出に行く」


「その通りだ。さっさと行け。リベンジはいつでも受けてやる」


「クソッ!」


 俺は馬飼琉助に従うしか選択肢がない。

 初めは追手を殺すために、しかしこれではただのタクシーではないか。


 10月25日23時55分


 そして終着へ


 お疲れ様です。

 とりあえずロビン・琉助パートはここで終わりです。まだまだやることが多いですね。

 次回はあの同盟のお話がメインです。


 解説


 鈍鬼vsマールボロ戦

 鈍鬼は序列4位ですが、マールボロには勝てません。全力で能力展開しても多分勝てないです。

 初めにマールボロの能力を解説します。劇中で馬飼琉助が説明していた事の補足で、本来妖気法レベル20以上でないと操の妖気は扱えません。しかし、あらかじめ決まった動作だけをするなら、簡易的に使用可能です。例としては赤鬼編のマテウスの炎の壁とかです。あらかじめ内側に進むというセットが必要です。

 今回のマールボロは自分の最短距離で手に帰ってくるという設定で使っています。では、マールボロは何故妖気をさらに鍛えなかったのか?

 それは妖気を鍛えるほど身体能力の限界が狭くなるからです。例えば妖気を25レベルにまだ鍛えると、肉体レベルは75までしか上がれません。(例外あり)そのために、一般的な米兵は肉体を優先するので、マールボロもそうしています。

 ちなみにマールボロは七連星のNo.2です。一位は到達者。


 噛ませになった鈍鬼さん。

 彼は時代が違えば序列一位、二位を狙えた才能を持ちます。現代は一位がぶっちぎりなんで、無理です。二位はそもそも三位に勝てないので無理。でも、五位以下には絶対に負けないという感じです。彼の詳細はまた別の回で。まだ生きているので出番は有ります!


 てことで次回は続く












 目が覚めた。

 空を仰ぐように寝ていたようだ。いや、正確には意識を失ってたというべきか。起きると、貫かれた腹の傷は治っていて、さらに力が漲った感じもする。


 何をすべきか。生きているのなら、まだ戦いは終わっていない。


 俺は、山門健は館へと向かって歩き始めた。

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