12話 私は深淵魚
水鬼さんのお話
メインは黒鬼vs水鬼の序列十位対決です。
私、朱蘭渦来は生まれつき特異体質だった。首元にはエラのような機関があり、水中でも呼吸ができる。だから、今もここで息をしている。
私の家系は赤鬼の純血種である『唐暮家』の分家『朱蘭家』で、本家とは異なり貧しい生活を送っていた。それに私が生まれるより二年前に本家の『唐暮勿牙』が鬼王殺しを行い、追放された。その為に、分家を含めた一族全体が大きな打撃を受けた。そんな中で私は生まれた。
父は生まれた子が女児であることを知ると、母を叩いた。父は男児であれば軍に入隊させて、高鬼にまで育てる。そこからの家の復興を狙っていたのだ。鬼の軍の全体から見て女性は三割しか居ない。
私が生まれてから数日が経った時、父は私を川の底に捨てた。でも生きてた。父曰く、捨てる時もずっと泣き叫んでいた。それから一週間経っても、川の底から泣き声が聞こえ続ける。ついに父は川を確認しに行った。
そこで父は気付いたのだ。私は遠い祖先から隔世遺伝で特異能力を持っていたことに。
Scene1
10月25日23時30分
「久しいな。影村寿雄、俺が誰だか分かるか?」
「生憎、人の顔を覚えるのは苦手なんだよねぇ。ワシが人を人と認識するのはそいつのエピソードだけだ」
今し方、高鬼や中鬼を数人葬り去った。だから分かる。この肉体、この圧力、その力に関わる全てが今までのどの鬼よりも強い。おそらく外で遭遇した白鬼よりもさらに格上だ。
「なら、とっておきのエピソードがある。俺の記憶を覗きな」
コレは罠だ。自分以外の記憶を除くには約一三秒間、左手の瞳で相手を見続けないといけない。普段ならその時間は短く感じるが、戦闘中では長い。
「生憎、記憶を見る間に君から攻撃を受けないという保証はどこにもない。直接、正体を教えてくれないか」
「俺は貴様とは違う、卑怯な手は使わない。それに俺から言っても貴様は信じん。百聞は一見にしかずという言葉もある。見ろ」
「上から目線で、君は何様のつまりだ?強いのは分かるが、年下がっ「見ろ」」
ただ一言、睨みつけるように放たれたその言葉が空間を揺らした。いや、廊下の炎が吹き飛んでいる。圧だけで炎を掻き消したのだ。
鬼の発する圧に思わず屈して、左手を向ける。左手の瞳がその鬼の脳に刻まれた記憶を探る。
本来『視る眼』でみる記憶は一人称視点、その為、記憶を見たとて相手の正体などわかるはずがない。
「『視る眼』」
随分と長い記憶だ。若造かと思ったが百年は裕に過ぎてる。更に記憶の海を潜り続ける。そして辿り着いた。ワシにも存在する記憶。
「お前はまさかッ!いや、そんな訳がない!殺したはず!」
あり得ない光景を見た。鬼の記憶にワシが若かりし頃の姿がある。ワシの愛する妹の姿がある。
「ようやく気づいたか。俺はお前を殺すためだけにこの百年生きてきた。この筋肉はお前を殺すためのギロチンだ」
見せつけるように筋肉に力を入れる。黒鬼は自身の纏う黒の衣を内側から破り、その美しい筋肉が顕になる。
それはまさに『暴力の擬人化』
「さぁ、復讐を始めようか」
鬼は構えをとると、その場に止まる。先の眼力だけで火を掻き消す技があることから、この距離でも攻撃は当たると考えていい。
「『見る眼』『眺る眼』」
額に第三の目である『見る眼』を形成。肩から『眺る眼』を排出する。これで奴のあらゆる動きに対応できる。そして、ワシも攻撃の構えを取る。
両目以外の妖気で生成された瞳は瞬きの必要がない。常に動きを感知できる。
「まずはジャブだ」
鬼は何かをした。その直後の風圧だけでワシは壁に激突させられた。全身を強く強打し血を吐き出した。
早過ぎる。動きどころか予備動作すら見えなかった。圧倒的速度と威力、まさに悪魔的だ。今の一撃だけで、
「もう根をあげたか。攻撃は続くぞ」
目では追えない速度で放たれる風圧に身体中が破壊される。全く動けない。このままでは殺される。なんとか左手を動かし、手の平を自分の顔に向ける。
目が瞬きした。
直後に身体から傷とダメージが消える。『視る眼』は対象の記憶を見ることと、記憶の書き換え、植え付け、剥奪が出来る。今回は剥奪した。これによりダメージを受けたという記憶を消し去る。記憶がないという事はダメージを受けてないということ。
デメリットとしてはダメージの原因すら忘れてしまうこと。使ったことも忘れること。そして、ひどく間抜けに見られること。
「今、攻撃したのか?初撃はワシから行くぞ!」
勢いよく走り壁をそのまま走り抜け、奴の背後を取る。勢いよく左手の平を向ける。
瞳が瞬きした。
「『神・炉偽』ッ!」
鬼の背中に爆発が炸裂した。これはかつて紛争地帯で観測した地雷の爆発を記憶をしたもの。並の相手ならこれだけ再起不能に出来る。
だが、コイツは普通ではなかった。この頑丈さまるで!ダイヤモンド。
「何なんだ?今のはっ「『神・雷鎚』ッ!」」
続けて雷撃をお見舞いする。落雷の直撃を喰らえば命を取らなくても大ダメージは与えられるはず。
「効かんわ!」
「ッ!?」
無傷と言わんばかりに、手を薙ぎ払うように振るう。その風圧で再び壁まで吹き飛ばされる。そのまま、床にずるずると落ち、立ち上がる気力がなくなった。せっかく、閃きがあったというのに。
「爆発も雷撃も、俺の肉体には通じねぇ。それがお前と俺の差だ、影村寿雄。なぁ、もう死ねよ」
ジリジリと近づいてくる『暴力』
「そこまでです!黒鬼!」
「「ッ!?」」
突如、黒鬼の背後に現れたのは水鬼。
彼女は鬼の仲間で敵ではないのか、それに右腕がないではないか。様々な疑問が頭をよぎる。しかし、この状況、囮になってくれたと考えた方がいい。今のうちに逃げる。
「お師匠!ご無事ですか!」
「アルかっ、お前こそ無事で良かった」
「水鬼が時間を稼いでいるうちにコレを」
アルはそう言って『先払い』を渡してきた。しかし、名義が『朱蘭渦来』となっている。これはおそらく水鬼の本名。
「僕のは『後払い』を含めて、すでに使い切ってます」
「彼女から借用したということか、これはお前が持ってろ。ワシはまだ妖気が残っている」
正直、この形態を維持するだけで消費が多いが、どうせ老い先短いワシよりも未来あるアルに使ったのがいい。
「なら、とりあえず避難を。僕は彼女のサポートを」
確かにアルの能力なら、相手にデバフを与えることは出来る。しかし、危険だ。
「ここくらい格好つけさせて下さい。お師匠の弟子として誇りある戦いをしたいのです」
そういうアルの頭を左手で撫でやる。そのついでに記憶を覗く。それによりここまでの経緯が見えてきた。そして、悟る。
「アル、行く前にワシの妖気をお守り代わりに持っていきなさい」
「でも、そしたらお師匠が」
「それが正しい道だ。ワシの妖気はきっと役に立つ」
「分かりました、受け取ります」
そう言ってアルはワシの身体から十日分のカードを生成した。正直、結構キツいがワシにはもう不要なモノ。
「ワシは一時、ここを引く。体力が回復次第帰ってくる。だが、命の危機を感じたら逃げるんだぞ。でば、さらばだ」
「ああ、必ず生きて会いましょう」
その言葉に手を軽く上げて返事をする。
愛弟子他の今生の別れを終え、ここから素早く離脱する。能力で回復できるが、思いついた突破口もダメージと共に忘れてしまう。
Scene2
四年前 鬼の本土
今日は高鬼序列第十位、第九位、第八位の就任式である。前任は昨年から始まったアメリカとの戦争で戦死した。いくつかの繰り上げで私たち三人は序列十位のメンバーとなった。
ここまでが長かった。本当は戦闘なんて嫌い、でも今の赤鬼家の一族は大鬼にはなれない。これしか選択が無かった。とてつもない緊張で足が震える。そんな私に隣の男が声を掛けてきた。
「水鬼ちゃん、ひょっとして緊張してる?」
彼は白鬼。私よりも上の序列の存在だ。
彼の噂は前から聞いている。『戦場の悪魔』やら『悪意の塊』など散々な評価だ。他仲間からも呼ばれていたはず。確かに性格変わるそうな様子だ。
「こんな大役。私には役不足だと思いまして」
「役不足ってのは自分の器よりも小さい仕事とかをするときに使うんだよ。いきなり序列九位は自分には過小評価だって?」
確かにこの鬼は性格が悪い。言葉の揚げ足をわざわざ取りに来る。
「そんなわけ無いです。文脈を理解してください」
「俺は言葉をそのまま受けたる。俺に対しては意味を正確に伝えるんだなぁ」
「君たち、うるさい」
私たちの会話に割り込む形で、第十位の翠鬼が文句を言ってきた。
彼も彼で謎の多い存在だ。仲間からは死神と呼ばられているらしい。なんでも、一度の戦場で三〇〇人近くを殺したとか。そらが事実なら彼は序列十位の中でもかなりの上位の実力者と同じことが出来る実力者と言える。
「みどぉ、そんなに会話に加わりたいなら早く言えよ」
「重要な式典だ。純血五家も揃っている。この場くらいでは大人しくしろ」
彼らは序列三位の黒鬼の直属の部下だったらしく仲が良い。一方の私は序列五位の朱鬼様の部下だった。彼女はイギリス貴族の末裔で、妖気法意外な特別な力を持っている。この三人だと私が浮いている。
「そぉういって、みどぉは水鬼ちゃんと近付きたかったんじゃあないの?」
「馬鹿なことを、式典中にナンパまがいの事をする君こそ、そうじゃないのか?」
「いや、俺は薄っぺらい壁には興味ないね。彼女みたいな乳は君のせいへ「貴様らッ!静かにせんか!鬼王、山吹鬼様の御前だぞ!」」
私そっちのけでセクハラトークをしようとした彼らに怒号が飛ぶ。その声の主は壇上に立つ序列四位の鈍鬼様だった。
彼は杏鬼と共に序列十位メンバーのまとめ役を司る人物、真面目人間だ。にしても声がでかい。彼の他にも他の序列十位メンバーが勢揃いしている。
「良いじゃん。楽しそうだしよ」
「ならぬ!貴様もだ蒼鬼!この式典は重要な「だぁーれも興味ないって。むしろ、ここで序列を賭けた大会開いた方が、観客は沸くぜぇ」
そんな中、鈍鬼さまを序列第一位の蒼鬼様が茶化す。彼らも元は同じ部隊だったなどと聞いた。そんな彼らの後ろからものすごい圧が飛んだ。
「お二人とも、お静かにください」
その主は序列第二位の杏鬼さま。彼女は先代序列一位の菫鬼の相棒だったと聞く。この中では一番な古株の鬼だ。彼女の一言であの二人を黙らせてしまった。そして、その圧はそのまま私の隣の二人にまで届く。彼らも静まった。かくいう私も縮こまってしまった。
この場の全ての会話が静止させられた。
この場の支配者は間違いなく彼女だった。
それから数分後に、鬼王山吹鬼が登壇し開始かの言葉を始めた。
「それでは、これより高鬼序列第八位、高鬼序列第九位、高鬼序列第十位の任命式を開始する」
数時間後
式典の後に私は、本家である唐暮家の邸宅に招かれていた。
「お疲れ様。渦来そしておめでとう」
「はい、ありがとうございます」
私の目の前で紅茶を淹れている方は、この家の当主、唐暮鳴乃。かの大罪人唐暮勿牙の妹である。鬼の貴族なのにきている服はユニクロの物、それもサイズが合っていないので、一部がピチピチになっている。
以前聞いたが、今例の事件でお金がないらしく、式典用の衣装以外は最低限の出費で済ましているらしい。これでは、どっちが客人か分からない。
「いいえ、お礼を言うのはわたしからです。あなたのおかげで、私たちの一族も少しは豊かになりますね。ほんとうにありがとう」
唐暮勿牙の起こしたことは、国家に対する反逆、そして追放先での民間人の虐殺。これを発見した米軍に捕縛されて、鬼の本土の刑務所に収監された。これほどのことをすれば純血種の一族とはいえ、タダでは済まない。誰も大鬼にも高鬼にもなれない。私は朱鬼さまの推薦によって運良く慣れたにすぎない。
私が序列十位に入ったことで、これからは活躍次第でお家の復興に繋がる。
「そうです!あなたに二つ名を与えましょう!他の序列十位の方も持っているのでしょう!恥ずかしくない物を考えます!」
「ああ、彼らの二つ名は戦場の功績や、相手からの畏怖の面からきている物で、身内で勝手に決めるは違う気が、、します」
だが、このマイペースさんは聞く耳を持たない。真剣に私の二つ名を考えているようだ。
数分の沈黙の後、彼女は口を開いた。
「決めました!『深淵魚』です!あなたの能力にピッタリだと思うの、どう?」
私が生まれつき潜水艦以上の水圧に対する耐久性を持つこと、魚のように最中でも長時間活動できるの両点を考えると、いい名前かもしれない。
「いいですね。すごく気に入りました」
「良かったぁ。あなたの活躍を期待していますよ。私の『深淵魚』」
私は駒に過ぎない。生まれ持ったことの力を自分の一族を守るために使うことが使命であり、運命、天命、宿命である。
Scene3
10月25日23時35分
目の前の黒鬼が自分よりも遥かに格上なのは知っている。だが、それは単純な身体能力の面である。妖気法使いは仲間同士でも滅多なことがない限り、能力を明かさない。私も噂程度でしか知らないが、黒鬼の持つ能力は触れたものを破壊するというもの。あのフィジカルと合わされば、とても危険な能力であることは明白。ならば、能力を発動させなければいい。
黒崎アルの能力は相手の妖気を奪って自身のものにする。また、それを第三者に与えることができる。常に黒鬼から妖気を奪いつつ、私の能力『迷い人の末路』で攻撃する。これがこの同盟の作戦。
これなら片腕でも闘える。
「何してんの?お前、水鬼」
「あなたたちのやっている事はただの虐殺だ。到底許される行為じゃあない」
「質問に答えろよ。俺の復讐の邪魔をして、何をしたいんだよ」
「あなたたちを止める」
「アホか、誰にもの言ってる?この俺を誰だと思ってるんだ?」
攻撃に合わせて、カウンターで初撃を決める。構えを取る。その直後、私の隣の壁に大きな穴が空いた。見ると、黒鬼が正拳突きの構えをしている。
「今のが見えない時点で差がありすぎる。今程度の攻撃でも当たられば、お前は一発で死ぬ。まだやるかい?」
これは噂以上だ。だが、勝てない訳ではない。先のプランは未だ健在、あの威力も妖気を奪えれば、威力も下がるはず。目配らさせで、アルさんに合図を送る。
「ええ、私にもプライドがあるんですよ。そして、主君との誓いも」
「そうか、なら来い。この『砕けぬ金剛石』が相手になろう」
黒鬼が大振りの攻撃を繰り出す。コレなら躱せる。攻撃を躱しながら黒鬼の腹部に全力の蹴りを喰らわす。この威力を受けてもなお、黒鬼の身体は浮くどころか、微動だにしない。
「今のが全力か?」
「ッ!?」
「プライドが無駄に高いだけ。それでも序列十位の一人か」
黒鬼の攻撃力と攻撃速度は異常だ。正面からじゃあ闘えない。なら、まずは攻撃を出来なくすればいい。
「いいえ、これが序列第九位の闘いです。『迷い人の末路』ッ!」
この能力は空気中の僅かな水分があることで作用する。たとえ、それが熱さから滲み出る汗でさえ、能力に使える。
相手に無限に増加する水圧を掛ける。通常なら一瞬で押しつぶされて弾け飛ぶ、一撃必殺能力。しかし、白鬼のように再生能力を持つものや黒鬼のような高い耐久力を持つ相手には通じない。
「何ッ!動けんッ」
今は深海一〇〇〇メートル分の水圧を掛けている。いくら黒鬼とてこの重さの前には動けない。
「流石ですね。黒鬼さま、常人ならもう死んでいますよ。アルさんッ今です!」
「任されたッ!」
いくら動けなくても、こっちの攻撃が通るわけではない。まずは、妖気から削る。アルさんが相手から妖気を奪う際には、二つのパターンがある。相手との合意の上での『贈与』、相手に合意なしで奪える『借用』である。後者の場合は一日五%の利子がつき、利子を含めた借りた妖気の全体量が、自身の妖気量を一瞬でも上回ってしまうと、破産する。つまり死亡する。だが、相手が死ねば無効になる。
「小僧、俺に触れたら死ぬぞ」
アルさんが触れて能力を使用しようとした瞬間、とてつもない『殺意』が部屋を包んだ。
信じられないのが、動くこともままならない男からこれが放たれていること。その言葉には重みがあり、確かな真実であると思えてしまう。
「ハッタリです。いくら黒鬼さまとてこの状況じゃあカウンターを決めれないッ!さらに水圧を掛けますッ!」
現在の水圧は深海一三〇〇メートル分。あと二秒で一五〇〇メートルに到達する。ここまでの時間、三秒近く経過している。このわずかな短時間でこの水圧を受ければ、いかなる生物とて生きられない。
「嗚呼嗚呼ッ!」
黒鬼の絶叫が響き渡る。全身を力ませて、堪えるが骨が、血管は耐えられない。もっと水圧をかける。二〇〇〇メートル分だ。自分もここまで掛けたことがない為、限界が分からない。だが、分かるもっと行ける。まだ行ける。
「今ですッ!アルさん」
「あああッ!?」
アルさんがついに黒鬼の身体に触れた。その直後、真正面に吹き飛ばされた。
「ッ!?何故ッ!?」
吹き飛ばされたアルさんの方を見ると全身がズタボロにされて倒れている。特に触れた腕は骨が見えるくらいに破壊されている。
これが黒鬼の能力、触れた相手を破壊する。
「ちっ。ちっがうぞ。水鬼さんッ。こいつ妖気法使いなんかじゃあない」
「大丈夫ですかッ」
「死にゃあしないが、意識が飛びそうだ。だから、これだけ伝える。あいつに触れた、瞬間、気づいた。恐ろしい事に、奴には妖気が一切ない。つまりこの芸当は、フィジカルだけで行なって、やがる」
そう言い残して、アルさんの意識は途絶えた。
「説明をッ!」
「これを、これを解けば、してやるよ」
この水圧を解けば今度は私が殺される。現在は二三〇〇メートル分で固定している。それが原因か、黒鬼の体は徐々に動き始めている。微かに体が動いたのが見えた。
「断ります」
さらに水圧を増加させる。一秒間に一〇〇メートル分負荷する。一秒、二秒、三秒、四秒、五秒、六秒、七秒経過。深度三〇〇〇メートルに突入した。このまま押しつぶす。
「ささっとこの水圧を解除しろッ!」
「三五〇〇、三六〇〇、三七〇〇、三八〇〇、三九〇〇、四〇〇〇メートルッ!」
ついに黒鬼にの体勢が崩れた。地面に伏したのだ。これからもっと掛け、水圧がこれ以上上がらない。まさか、四〇〇〇が限界なのか。
「まさかッ!私の体験したことのある深度までしか使えない」
「はははッ盲点だな。自分の能力の限界を知らないとは」
黒鬼はこの水圧の中で笑いながらゆっくりと起き上がってきた。恐怖がそこにはあった。まだ奴には余裕がある。ゆっくりとしかし確実にこちらに近づいて来ている。この水圧に適応したとでも言うのか。なら、まだ策はある。
「解除ッ!」
急激に水圧が下がれば、身体はそれに対応できない。ブロブフィッシュが海面に引き上げられることで水圧の変化に対応できず、細胞組織にダメージが入るように。身体を破戒する。
「ぐははぁっ」
流石の黒鬼とは言え再び身体のバランスを崩す。今度は血も吐いた。内部が破壊されている証拠だ。これを治せる能力なんてこの世に無い。
「終わりです。黒鬼さま、あなたの負けだ」
そう宣言する。そう私たちの勝ちだ。今ならアルさんの力で妖気を奪える。急いで彼の元へ向かう。辛うじて息はしている。
「良かった」
頬を叩きアルさんの意識を強引に覚醒させる。我々は同盟で私は役目を果たした。彼にも果たしてもらわないといけない。
「みっ、みずっ、、さん。うっ、しろ」
覚醒途中で朧げな意識の中、私の後ろの方に指をさす。私も馬鹿ではない。振り返るとそこには回復しきった黒鬼の姿が。
Scene4
10月25日23時40分
途絶えた意識を無理やり起こされる。水鬼さんは黒鬼を追い詰めて仕上げのつもりで俺を起こしたのだろう。だが、僕にはその役目を果たせない。
そして、そんな水鬼さんの後ろに起き上がる巨躯の姿が見えた。
「みっ、みずっ、、さん。うっ、しろ」
必死に僕は指を差して、そのことを伝える。水鬼さんもそれに気が付き振り返る。その瞬間に吹き飛ばされ壁に激突した。
「馬鹿な!何故動ける。早すぎる!」
見ると黒鬼は正拳突きの構えを取っている。
「俺は黒鬼。それだけで説明するつもりはない。確かに数年振りにダメージを受けた。これはあのクソッタレの序列第一位とやり合った時以来だ」
絶望は膨れ上がる。黒鬼未だ健在となれば、もはやこの二人では勝つ術がない。
「逃げて、、ください。・・・みずきさん」
「漢気見せるじゃねぇか。影村寿雄の愛弟子。だが、お前を殺すのは影村寿雄のあと、それよりも先にこの裏切り者を始末する」
黒鬼の足は水鬼さんの方へと。ゆっくりと歩くのは余裕の現れか。それ自体が逃げれないと悟らせる。
「才能有るぜ、水鬼。このまま成長さらば序列の上位も狙えた。いや、むしろ代が違ければ既に第三位くらいにはなれたはずだ」
黒鬼が水鬼さんの前に着いた。結局逃げれなかった。
「だが、今代の序列十位は歴代最強。お前如きの遅咲きでは、実質戦闘力は第十位の翠鬼にも劣る。なんで、そんなお前が九位だ?」
水鬼さんの左腕が宙を舞った。
「→☆♪1$6[5々5×÷〆|5:〆÷8〆ッ!!!!!」
水鬼さんの声にもならない悲鳴が響いた。
そんな彼女の左腕が目の前に落ちてきた。
「ああああ!」
そんな彼女に追撃のように口撃を浴びせる。
「それはお前が女で純血五家の分家だからだ。優遇されたんだよ。お前が朱鬼の奴に拾われたのもそれだ。才能があると見込まれた?奴が求めたのは家柄と恩だ」
今度は右脚が宙を舞った。
「→→→→→→→→°」
もはやそれは声と認識出来ない。そのまま水鬼さんは地面に倒れる。それを黒鬼は見下す。
「深淵魚というよりも芋虫だな」
そう言って顎を蹴り上げて身体を上に飛ばす。そして、ちょうど良い位置に来た首をがっしりと掴む。
「黒崎亜流羽斗ッ!俺とお前には絆がある、だから教えよう俺の秘密を」
奴らは俺の本名すらも把握している。全てが掌握されている。その恐怖がさらに加速する。
「俺に妖気を持たない。何故だが分かるか?俺が影村寿雄を恨む亡霊だからだ」
「あっ、あり得ない、お前はっ、二十年前にっ、初めて軍に所属した。その時は影村寿雄の交戦は確認されていない」
水鬼さんがなんとか気管を確保したのか。黒鬼の言葉に返した。
「俺がそんな短い人生を生きてるとでも?俺は一五〇年物のヴィンテージだ」
その言葉で黒鬼の正体が分かった。
「お師匠の妹さんを殺した男か」
「正解だ。もう一つ良いことを教えてやる。俺の身体は特殊でな、筋肉が多過ぎて軽く触れるだけで相手を爆散させることが出来る。だが、こうやって水鬼の喉を掴めるのは『殺意』を込めていないから。水鬼、お前はここまで俺に本気を出させなかった。故に最後は本気で葬る」
黒鬼の言葉本当ならば、今までの遠距離からの正拳突きすら殺意がこもっていないとなる。その状態であの威力。本気となれば、一体どうなってしまうんだ。
「やめろーーーーォ!」
黒鬼は手を離した。そして水鬼さんの身体が地面に引かれて落下し始める。そのタイミングで黒鬼は今までにない程の正拳突きを炸裂させた。
「神・覇級人」
その最後の瞬間、水鬼さんは僕に向かった微笑んだ。
爆風は轟音と共に館の一階全体を破壊した。
Scene5
僕は生き残った。耳が聞こえない。鼓膜に大きなダメージを受けたからだ。爆風は黒鬼が盾になったことで、来なかった。しかし、目の前は何もないし熱くもない。火が全部消し飛んだのだ。
「あっ、あああっあ」
水鬼さんの死体は無くどこかに飛ばされた?いや木っ端微塵に消し飛ばされたのだ。
「あああああっっっあああ」
「精神が壊れたか。哀れだな。だが殺すのは最後だ。『恨みの種』を摘むのはケジメをつけたあと」
そう言って黒鬼は僕の元から離れる。もう何も考えられない。このままお師匠共々、自分たちは皆殺しにされるのだ。
「出てこいよ。影村寿雄」
「気付いていたか」
僕が絶望に打ちのめされるなか、一時的に姿をくらましていたお師匠が現れた。
「お前の倒し方が分かったのでな」
お師匠はそう宣言した。
ということで水鬼はここで退場です。彼女のバックボーンはもう語り尽くしたので書くことはない!
けど、ここではもう少し設定を掘り下げます。
彼女の能力は読んでいると分かるのですが水圧操作です。ほんのわずかな水分でも発動できる初見殺し能力。
それと、彼女のレベル配置を説明します。
肉体レベル64と妖気法レベル16の計レベル80です。レベル的には白鬼よりも高いですが、白鬼のレベル配置を見ましょう。
肉体レベル52と妖気法レベル22の計レベル74です。
肉体面では水鬼の方が高いですが、妖気法能力の練度は白鬼のが上です。数話前の戦いの時点で妖気法能力で戦った為に手痛い敗北となりました。




