5話 笹原文和
はいっ。前回のあとがきと今回のタイトルが違います。
今回は早めに出せて良かったです。
で、今回なんですが、笹原文和の名前回です。でも、一応主軸は山門健です。
姫鬼姫は役目を終えるとすぐに眠りについた。
そんな姫鬼姫を笹原さんが起こさない様にそっと抱えて部屋に連れて行った。
琉助も影村のおっさんと部屋を去るし、アルもどっか行っちまった。天山さんとも琉助の作家の発言のせいで気まずい。
完全に孤立した。
天山さんが今一度作戦を練り直している間。食事兼自由時間だ。特に話す奴もいないし、早々に食事を終えた。
「風呂入るかぁ」
思えば、長い一日だった。新幹線でここまで来て、屋外で放置、そこから仲間外れ的に会議を琉助に乗っ取られた。
身体にも十分と疲労が溜まっている。
今日中に会議は再開されるのだろうか?戦いは明日。催眠時間を少しでも多く確保しておきたい。
俺が無気力に廊下を歩いていると、不意になにが体内に入り込んできた感覚がはしる。
『おい!少し良いかッ!話があるッ』
その心の声の主は荼鬼。
俺の最初の戦いで倒した鬼だ。その後に琉助に負け、俺の体内に取り憑いている。ここ最近は俺の身体からの脱出法を手に入れたのか、頻繁に声が聞こえなくなる。普段は俺を煽る程度しか脳の無いクソ野郎なんだが、今日はどうやら様子が違うようだ。
『お前の地の声も聞こえることを忘れるな』
それは失敬。まぁ、荼鬼だしセーフだろ。最悪無視しても良い。こんな奴より、早く風呂入りたい。
今日ずっと動いたり気絶したりしてたから、露天風呂でゆっくりとしたい。
『くだらない話は良い!それよりもマズいぞ。今すぐこの館から逃げろ!』
『落ち着け。その話、一旦俺が風呂に入ってからで良いか?とにかく後回しにできることはそうしたい』
肌をさすりながら寒いですよアピールする。
こいつは俺が外で夜海に拘束された時からどっかほっつき歩いていたから、どれだけ寒かったか分からないでしょうが。
『自分たちの生命が惜しけれりぁそんなことをせずにこんな所から一秒でも早く遠くへ逃げた方が良い。それがベストだ。命は大事しろ。ていうかお前ェどんだけ風呂入りたいんだよ!』
聞きましたか、奥さん?こいつ俺の地の声も聴こえるくせに。さっきの俺の理由を見て見ぬふりされましたよ。全く酷いですね。どんな神経していたら、人の地の文を無視できるんですか。
『そもそも普段からそれを読むなって言ってんのはテメェだろ!それよりも俺の話理解してんのか!こっから早く逃げろってんだよ』
脳内にギャンギャンとるせぇんだよな。コイツが脳内で叫ぶと、本当に響いてウザい。早くこいつのための死体を用意したい。
『分かった。何があった』
ここは間をとって風呂に向かいながら話に乗ることにした。
やっぱり風呂入りたいからな。寒いし。
『だからぁ!風呂入りに向かうんじゃなくて逃げろッ!ってんだよ。高鬼序列第三位・黒鬼がテメェら潰しに来てんだよッ!』
『誰それ強いの?いや、序列第三位ってんだから、間違いなく強いんだろうけどよ。さっきの水鬼さんが九位ってせいで実感が湧かないんだよぁ。・・・嘘です。めっちゃ強いんですね』
水鬼さんですら俺たちを全員殺す実力があるってのに、それを大きく上回る序列、そんなの確実にやばい。だが、なんで荼鬼がそんな事を知っているんだ?こいつ怪しいな。
『俺がいない間に奴らのアジトを見つけて、中身を見てきたからだ。敵側に荼鬼種がいなかったからできた芸当だが、相当気を使ったんだ。荼鬼の魂は万物を透過できるわけじゃない。有機物だけ、それ以外の物は普通に当たり判定がある。笹原文和のキューブで殺せるのはそれが理由だ』
なるほどそういう理論だったのな。納得納得。
そういえば、天山さんは敵方の最高戦力は序列二十位だかそんくらいの鬼って居たはずだな。それなのに、黒鬼がいるってことは、、、。黒じゃね?黒鬼だけに。
『だが、鬼強い黒鬼が居ても、勝算がないわけでもないだろ?あくまでも俺たちの目的は紅鬼の確保だ。それに関しては多少の支障あれど、遂行できるくないか?』
こっちの目的さえ果たせれば、そんな強敵と戦う理由はない。逃げちまえばいい。だいぶ作戦の修正が必要だがな。
『アホか。なんで敵が最高戦力投下してると思ってんだ。紅鬼は初めからここに来ちゃあいねぇ。多分、本土だ。最初からお前たちを鏖殺するために準備してやがったんだよ。罠に掛かったんだ。大方、お前らの中にスパイでも居て誘導されたんだろうよ』
天山さんスパイ確定か?荼鬼のいうこと全てをそのまま鵜呑みにすることは俺も不本意だが、これが真実なら、すごい事になるな。逃げるなり、新たな作戦を立てる必要がある。一旦、琉助と合流するか。いや、でも荼鬼のことは琉助には教えられない。なら、影村のおっさんか?いや、あの人もあの人で不安要素が多い。なら、夜海とかか?いや、あの辺は俺ぼプライド的に嫌だ。
『・・・考え事してる最中悪いんだけどよぉ。テメェ風呂向かってんじゃあねェ!もう暖簾目の前じゃねぇか』
「これはまずいな。頼れる人がみんな頼りづらい。てか、目が死んでる」
『おい!無視すんな!風呂張ろうとすんな!』
荼鬼がいくら叫ぼうが、俺の行動は縛れない。こればかりは主導権を握ってる方に権利がある。握られてる者は大人しく従うしかないのだ。ぐへへへ。
「何がマズイんだい?健くん」
暖簾をくぐった先には、何と笹原さんが立っていた。今まさに風呂に入ろうとして、脱ごうとしていた。しかも、さっきの俺のポツリ独り言をガッツリ聞かれていたようだし。まずったな。この人、天山さんの弟子だから、真っ先に俺の相談できる人候補から消えたんだよな。
「笹原さんッ!?」
「何か思い詰めているみたいだけど、ひょっとしてさっきの琉助くんの件かい?」
良い感じに勘違いしてくれたみたいだ。そうだよな、俺と荼鬼の脳内キャッチボールはパンピーには聞くことができない。俺一言じゃあ、そう憶測するしかない。
「いえ、少し明日の戦いの件で緊張してしまいまして。俺って結構重要なポジションじゃあないですか」
「うん、そうだね。夜海ちゃんと同じ、筆頭としての役割がある。これだけでものすごい名誉なことだよ。僕が同じ立場だったらって思うだけで足が震えそうだ。だから、僕の役目であるさあポートはしっかりとさせてもらうよ」
笹原さん筆頭に天山さんの弟子たちは誰も戦闘特化の妖気法を習得していない。いや正確には戦闘にも応用ができるが、あくまでもサポートがメインってだけ。鬼のような専業軍人でもない能力を戦闘特化にするのは異様とかって聞いたか。
「いつもありがとうございます。俺も笹原さんのサポートには感謝しています」
「いや、お礼には及ばないよ。それに東京では僕のキューブが迷惑をかけてしまったみたいだしね。まさか、GPSと盗聴器が仕掛けられていたんだなんて。今は製造元を変えたから、こう言った問題も起こらないようにしてるよ」
「あれは早めに気付けたから、そこまでですよ。こうやって、五体満足、ってわけでもないんですが、無事に勝てたんですし」
視線を義腕の方に落としながら、そう言う。まぁ、これに関してはキューブ関係ないところでぶった切ったんだから、笹原さんには責任はない。
「前の製造元って、確か天山さんの紹介ですよね?」
「そうだね。どこからか敵に漏れいたようだね。これには驚いた。確かに妖気法に関するアイテムを製造してくれる工場は、日本でも数少ないとはいえ、見つけ出してそこから工作をするのはかなりの苦労だと思う。鬼たちも本気なんだね」
その状況なら明らかに天山さんが怪しいに決まってる。それでも、信じているのか?気付かないふりをしているのか?判断がつかないな。
さっきの荼鬼の情報といい、琉助の発言、ここの疑惑を総合的に見ると、天山さんがスパイで確定でいいと思う。だが、あくまでも俺の主観だ、
『お前はどう思う?チャッキー』
『チャッキー言うなッ!』
っせえな。一々脳内で叫ぶな。叫んでいいのはジェットコースターの落ちる時と、一番くじで一発でA賞引いた時と、スマホをクソしたトイレに落とした時と、濃厚家系ラーメンのスープがお気に入りの白Tシャツに着いた時だけだ。男なら他は認めん。
『状況限られすぎだろ。もっと普段から湖に向かって叫べこの野郎。てか、そこはカレーうどんがセオリーだろッ!」
『いいだよ。それよりも今はテメェの意見求めてんの。さっさとしろ』
『俺が聞いた天山緋麿ってぇ男は、影村寿雄よりも数年古い、現存する最古の妖気法使いだ。鬼以外の人間の妖気法使いとしては世界原初って聞く。誰よりも妖気法を愛し、取り憑かれた男が簡単に捨てるは思えねぇなぁ。だが、お前の考えてる通り、疑念要素が多すぎるな。何か、お前たちを裏切ることで果たせる事があるんじゃあねぇか?』
確かに動機は不明。妖気法使いの誰かに復讐したいのなら、全滅に導くような計画を立てる必要は感じられない。だが、何らかの理由で俺たちの全滅が必要になってくると、この作戦でいい。わからん、根本が見てこない。
仮にそうだとして、俺しか動ける人はいない。動くか?いや、影村のおっさんだってそんなことにとっくに気付いているはずだ。理由があるのか、俺が勝手に動いていいのか?
「健くん!」
「ッ!?びっくりした。なんですか?笹原さん」
そういえば、笹原さんが居たんだった。俺はそのことをすっかり忘れていた。
「ずっとボォーっとしてたよ」
「すいません。会話中にボォっとするのは失礼でしたね。すみません」
俺は咄嗟に二回も謝ってしまった。これは相手にやましいことを考えてるとバレてしまう。
「・・・やっぱり君も疑ってるのかな?正直いうと、僕もなんだ。信じたいっていう気持ちと、信じることができないっていう理性が天秤に乗っているようで、傾き始めている」
笹原さんも俺と同じ気持ちか。いや、違うな。瞳が明らかに理性の勝ってるそれではない。
この人は俺と違って、信じなければいけないという強迫観念に支配されているんだ。いや、違う盲信しているんだ、天山緋麿という天狗を。
そのことで俺の疑惑が完璧で究極な確信へと変わった。
天山緋麿はスパイであり、俺たちの抹殺を企てている。おそらくここから逃げ出しても意味がない。
「笹原さん、、、、。俺は琉助のことを誰よりも信用しています。彼の言葉を信じさせてもらいます。このまま進んだら、笹原さんたちは俺たちを殺しますか?」
その進む先にあるのが天山緋麿の排除と、誰でもわかるだろう。これはお人よしな笹原さんにはとても残酷な質問だ。いや、答えが一つしかないものを質問をは言わないな。俺の覚悟の確認だ。
『やるんだな?山門健』
荼鬼の言葉にはあえて返事をしない。どうせ俺の地の文読んでるし。
「あの人には返しきれないほどの恩がある。できれば、ちゃんと返したいんだ。だから、どんな理由でも止めるよ」
殺すかと聞いたのに、止めるか。笹原さんらしいや。
答えを聞いた瞬間。拳の強烈な一撃を笹原さんの腹部に叩き込んだ。笹原さんは大きく吹き飛び、暖簾の外、壁に激突した。
この攻撃には妖気を一切込めていない。だから、確実に一撃で意識を刈り取った。
「俺のすること。そこから見ていてください。俺もあの人を殺しはしません」
もちろん返事など返ってくることはない。
大の大人を一撃で気絶させた。俺は北海道を出てからどれだけ強くなったのだろう?
『後戻りできると思うなよ』
『分かっている。ここからは俺の戦いだ』
Scene2
「対巨人用?二式?」
影村寿雄のおっさんから渡されたのは、大層な名前の付けられた弓だった。
この世界、鬼だけでなく巨人も居んのかよ。びっくりだ。
「いや、巨人用は言葉の綾だ。鬼のことだよ。鬼の存在自体は認知されていない。そこで、普通の人間よりも体の大きい鬼のことを巨人として例えているんだ。鬼の肉体は人間よりも幾らか強固で、銃弾程度では傷を負わせるのは難しい。この弓から放たれる矢はそれを破る」
確かに東京で、青鬼は銃で撃たれたはずなのに、その後もまだ戦う余力があった。
「でも、それならアサルトライフルやスナイパーライフルとかのハンドガンより高威力な銃火器でよくないですか?効くと思うんですけど」
「そうだな。戦場ではこの弓はあまり意味をなさない。ただの戦場ではな。この弓の真価はそこではない。この弓を開発したのは『アイルランド・ウェポン社』。『特殊能力』を織り込んだ武器を製造している世界でも数少ない武器会社だ」
「『妖気法』ってことか?その弓から能力を使える」
「いや、『妖気法』だけではない。古代中国の『札術』、ヨーロッパの『魔術』。まだあるが、特にこの弓は魔術に関わる弓だ」
「魔術、、、、。魔法もあるんですか?この世界には」
そんな話聞いたこともない。いや、それを言うなら妖気法なんてモノもここ最近で初めて知った。
考えてみればおかしくないことだ。
「あるよ。魔法はワシも一度だけ使ったことがある。高鬼序列十位の中の鬼にも魔術使い居るって聞いたことがある。どんな魔法かは知らないが」
「俺には魔法を使う才能があるってことですか」
「使うことは誰にも出来るよ。そこは才能の有無は関係ない」
「つまり、極めるのに才能がいるってことですか?」
「それもそうなんだけど、最も大事なのは師匠の存在だね。自分で魔法を習得していくのには、相当な才能と『知識』がいる。君には師匠も才能も魔術に関する『知識』もない。特に『知識』に関する魔術書に関しては人死が出るレベルで奪いが行われると聞く」
「じゃあ、なんでこんな武器渡したんだ?俺には扱いきれねぇだろ」
俺は弓を手に取って、弦を引いてみる、結構な重さだ。弦もそうだが、弓本体もずいぶんな重さだ。油断すると一気に体のバランスをに崩して転びかねない。こんなモノ嫌がらせしか思えない。
「魔術使えなくても殺傷能力は折り紙付きだよぉ〜。これで君も一気にレベルアップ。これでワシがいつ死んでも問題ないね」
「えっ?」
「えっ?言ってなかった?」
サラッと語る影村寿雄はいつもの口調も相まって、真実か冗談か分かりづらい。だが、なんとなく今回ばかりは人をコケにするための冗談には思えなかった。
Scene3
僕はその時、人生の節目に居た。
子供の頃からの夢であった教員を辞めた。僕は自分が多くの生徒を正しい方へ導けると信じてやまなかった。
結局、自分は馬鹿で信じたもの全てに裏切られ、裏切った。
「お前、行くんとこないのか。ガハハハ」
その人は大きな声で笑う人だった。耳障りで不愉快で、その声が憎かった。
あの日、初めて自分の生徒を殴った日。その日と同じように怒りに任せて手を出そうとし。そうして向かう足はすぐに止まった。
絶壁。すぐに分かった。この人には自分が何をしても届かない。
「なんや、やめんか。女子生徒をぶん殴ったつう聞いて、どんな暴力教師か気になっとったんやが、ガハハハ。ガハハハハハ。とんだ小心者やったな」
「アンタなんなんですか。なんでそんな事知ってるんですかッ!」
バサッ!っと翼が広がった。
その人には純黒の翼が生えていた。コウモリのような皮膜ではなく、鳥のような一枚一枚羽が生えている翼だ。
「ワシゃ天狗。つうても人間ではあるがな。この目でおまんの行動全部見てきぃた。この心眼は伊達じゃないでな。ガハハハッ!」
「どこまでッ!?」
「まっ、全部嘘なんだけどな!ガハハハハハハハハハハハハハハハハ!おまんの事件は新聞で知った」
「何が目的ですか!金?金を渡せば良いんですか!アンタにも」
「笹原文和、ワシの弟子になれ」
懐かしいな。そんなこともあった。
あれが天山さんとの初めての出会いだった。あの時はすごい失礼な人だと思った。でも、行き場を無くした僕たちを弟子として行き場を作ってくれた。
悪魔に落ちていた僕を聖者に戻してくれた。
「あの人が僕たちを裏切るわけがないッ!」
さっき健くんに打ちのめされたが、もう立ち直った。あの子を絶対にあの人の元に、死んでも向かわせない。これがあの人に報いることなんだ。
「健くんッ!まだ勝負はついていないよ」
「笹原さん。起き上がっちまったんだな。アンタとはやり合いたくない。そこで大人しくしてくれ」
「そうはいかないね。これでも今世代の一番弟子だから」
健くんは正直言って、勝てる相手ではない。多分、初めて会った時でもすでに僕より強かった。
だけど、僕の能力はその実力差を覆す。
「収縮・解放」
ほんの一瞬、肉体を収縮して一気に引き延ばす。その時に身体は一気に直進する。
そこから放たれる一撃は音速に乗る。素人では回避はできない。
「うおっ!」
健くんは避ける隙もなく、顔面を殴りとば、、ッ!?
顔面の前に両腕をクロスして僕の拳を受け止めた。しかも、義手の方を前に出していたことで、僕の拳が逆に粉々に砕けた。
「ああああッ!」
「身の丈に合わない早さは、身を滅ぼすだけですよ、笹原さん。もう動かないでください」
健くんは悶える僕を背にして立ち去ろうとしている。
「止まってくれ!」
砕けた骨なら、能力で治せる。
だが今はそんなことをしている場合じゃない。再び肉体を収縮、解放した。そのまま音速で健くんに飛び掛かる。
「だから、身の丈にあってないって言ってますよね」
「ッ!?」
健くんはいつの間にか僕の背後に回り込み、肩を掴んだ。
「凄いな。音速のはずなんだけど。なんで、追い越しちゃうかなぁ」
「動きが直線的すぎるんです。タイミングが分かれば、ちょっと速度出すだけで避けれるし、後ろにも回れます。コレでも、いくつか死線を乗り越えてきたんでね。・・・・痛みますよ」
健くんは掴んだ肩に一気に力を込めた。そのまま僕の肩を握りつぶした。もう右腕は上がらない。
「これ以上は俺もしたくないです。大人しくしてください」
「駄目だ!行っちゃあ駄目なんだ!」
立ち去る健くんを止めようと、足を動かす。
『僕の第一印象はどうだい?』『気持ち悪い』
『それでも君は僕の生徒なんだ!』『だから気持ち悪いって言ってるだろ!』
『今日で何回目!遅刻するの!』『来てるだけマシだろ!』
『タバコは没収!君だけだよ、まだ吸ってるのは!』『私の勝手!触んなクソ教師!』
『授業はキチンと聞きなさい!』『うっせぇ。どうせ大学なんて行けねぇし』
『ちゃんと服着なさい!はしたない』『お前オカンか!遅刻しそうだったから急いだだけだし!』
『こら!タバコ!』『これキャンディー♪』
『先生ぇベンキョ教えて!スウガク!』『僕、国語の教師なんだけど、、、、』『先生ぇしか頼れないんだけどぉ』
『決めた!私大学行くよ。アイツらとも縁切る』『・・・そうか。頑張ってね』
溢れ出る存在するかつての記憶。三年だけの教師生活。彼女を家に招いて『色々』と勉強を教えたなぁ。
ああ、懐かしいなぁ。あそこは凄い不良校だったね。みんな、いつも喧嘩して、校舎にはいつもお酒とタバコの匂いが充満して、時には妊娠、出産する子もいたなぁ。
コレは走馬灯のような物だ。このどうしようもない、不甲斐ない男の人生。
「すまねぇな笹原さん。ここで沈んでくれ。『赤破壊鬼』」
意識が戻ると同時に今までにない強烈な一撃が放たれた。腹部を殴られた僕は大きく、大きく後ろに吹き飛び、廊下を壁にぶつかるまで転げ回った。しまったな意識が飛ぶ。もう立ち上がれそうにない。
『先生ぇゴメン。あの人、殺しちゃった』
ヤメてくれ。そのことを思い出さないでくれ。辛いんだ。あの時の拳の感覚がずっとこびりついてるんだ。今、天山さんを失ったら僕はもう『聖職者』でいられない。
雫が床に溢れた。
「笹原さん。すいません」
笹原文和 再起不能
Scene4
10月25日22時30分
「あら?どうしましたこんな夜遅くに」
荼鬼が情報取集のために離れた後、俺は茜月夜海の部屋を訪れていた。
さっきの笹原さんのように天山さんの弟子に邪魔されたらキリがない。だが女ならきっと戦力になる。
「天山緋麿をこれから捕獲する。手伝ってくれ」
頭を深く下げ頼み込む。この女相手に頭は下げたくないが手段は選べない。
「良いですよ。そもそもそのつもりでコチラからもコンタクトを取ろうと思っていましたし。お互い羽虫は鬱陶しいでしょう。手を取り合いましょう」
「その話。よく詳しく聞かせてくれよ」
背後からふぁさぁっと翼の音が聞こえた。まさかと思い後ろを振り返ると、そこには大男が立っていた。
「ロビン・アンダーソン・天月ィッ!何の用だ!」
コイツは天山緋麿の孫。つまりこの場における敵である。ジジィ守るために自ずから動いたか。
「さっき言ったはずだ。話を詳しく聞かせろ」
「アンタは天山緋麿の孫だろ?教えるはずがない、闇討ちする相手の身内によぉ計画漏らすバカどこにいんだよ!」
「そうだな。確かにお前からしたら俺は敵か。だが、そこの女は違うだろ?」
そう言って夜海の方を向いた。いや、いくら腹黒い夜海でもそこまでバカじゃないはず。しかし、現状この場における主導権は夜海だ。万が一にも彼女が受け入れれば俺も飲まずにはいられない。
「良いですよ♪天月さんお強いですし」
「えっマジで!?」
「マジです」
真剣な眼差しでそう言われてしまうとこちらとしては反論ができない。
あくまでも主導権は夜海だ。大人しく従っておこう。渋々だがな。
「アンタとも手を組むことは受け入れる。だが、アンタが天山緋麿を裏切る理由が理解できない。アンタ一応、あの人の孫だろ?これはただの家族喧嘩じゃあないんだ。俺たちにまず理由を説明してくれ」
「それもそうですね。お互いの信用のためにも教えてくださいロビンさん」
「良いだろう。俺の婆ちゃんが、あの男に襲われて、生まれたのが俺の母親だ。そして、その隔世遺伝で俺にこの翼が授けられた。恨みってんなら俺たちが最も正当だな」
なんて言えば良いのか、、。中々ダークな理由に戦慄せざるおえない。てことは、ロビンさんは天山緋麿に復讐するために来たってことか。よくここで野心出さずにいられたな。
「ロビンさんの理由は分かりました。では次は貴方です健様。どうして、いえ、何故、貴方は天山のおじさまと戦うつもりなんですか?」
夜海が求めていることは、俺が天山緋麿を疑った理由。俺の心の中に荼鬼が住んでいて、ソイツが真実を掴んだことを正直に言えば良いのか?いや、違う。そんな信憑性に欠ける話を彼女が信じるとは思えない。
ならば、俺の根底にある理由を叩きつける。
「俺は琉助のことを信じている。ただ一人の親友だからな。それで満足か」
「あの方は一年前に貴方の家をネットに晒して、襲撃犯を送り込みました。彼自身も貴方と低レベルの殴り合いをしたと聞いております。一度裏切った者は何度も同じことを繰り返します。それでも、本当に命を預けるほどに信用できるのですか?」
「出来る。俺がアイツを信じるんだ。俺よりもアイツを知らないお前が疑うのはお門違いだ」
そう断言、即答した。
それを聞いて夜海はクスリと笑った。
「おかしいですね。それって貴方が天山のおじさまにしていることとに何が違うんですか?貴方、ここに来る前に笹原さまと意見の食い違いで衝突したはず。貴方は、貴方より天山のおじさまのことを知るあの方に自分が疑ったんだからで、自を通しました。これって今、私が貴方にしていることと何が違うんですか?」
こいつどこまで俺の行動把握してんだよ。これもこいつの能力に関係しているのか?
この館に来てから、プライバシーがまるでない。
「何も違わねぇ。ただ俺が笹原さんをねじ伏せる実力があっただけだ。お前もそうするだろ?」
次の瞬間、自分の目の前で何かを掴んだ。糸だ。
夜海は俺がそう言うと、即座に俺に向かって攻撃を仕掛けてきたのだ。
「もうその攻撃は俺には通用しない。天山さん曰く、俺とお前は対等らしいじゃないか?じゃあ、不意打ち以外ではすぐにつかねぇよな、決着はよぉ」
俺はこの女の性格を考えてあらかじめ、腕にのみ『紫電雷狼』を掛けていた。今までのパターンから夜海が先手を仕掛けるなら、首だと予測したからな。すぐに動けるようにしておいた。
「合格です」
どうやら本気でやり合うつもりはないようだな。彼女とここでやり合っても互いに無駄に妖気と体力を消費するだけだから、助かる。
「これから私たち三人は同盟です。目的は天山のおじさまの確保とこの場からの素早い離脱。時間はありません。手際よく行きましょう」
そう言って夜海は手を差し出した。何の合図だ?
「こう言う時は手を重ねあって団結を示すと聞いています」
「そうだな。最後にやったの前すぎて忘れてたわ」
こうして三人で手を重ねた。
ここに妖気法使い最高戦力での同盟が結成された。
お疲れ様です。かつてに書いた笹原さんの過去は実は嘘でした。まぁ、彼が自己申告していましたし、あの時の主観は琉助なんです。つまり後付けではないッ!俺は悪くないッ!ノーカウントなんだ。
はいって事で、まだ笹原文和の過去については以上!補足なんて要らないよね。要らないんだ。説明するの面倒くさい。細かくは作っています。それだけは言います。でもこれ以上は彼を落とすことはしません。
安心してください。
アレから三〇分が経過した。
笹原文和は目を覚ました。
確かに山門健の一撃は数時間は眠らせるほどの威力だったが、彼は起き上がった。それは執念によるもの、自身を救い出したあの人のためにか。
折れた骨も全て能力で治した。しかし、体力までは戻ることはない。
ふらふらとよろめき歩き目的地に向かう。ゆっくりとゆっくりと確実に目的に向かう。
「こうなったのは全部、君のせいだ。馬飼琉助くん」
手に握られたナイフ。握ったその手は憎悪の塊、必ず相手を殺すという意思が宿っている。
その表情には、かつての聖者の面影はなく。かつての悪魔の形相が浮かんでいた。
「必ず殺してやる」
かつての彼ならなら、絶対に言うはずのないセリフ。もう彼は元には戻れない。