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紅の赤  作者: 青階透
鬼殺し編Death of Shadow Village編
44/61

1話 女難な旅々

新章開幕!今回の章めっっっっちゃ長いけどよろぴくねーー

 Scene1



 琵琶湖の側に建てられた館。その突貫とは思えない豪勢な姿はもう見る影もなく。

 大きな炎で包まれていた。館の外周には完全武装した鬼の軍勢、目の前には自分でも敵わない敵。


「ヤメろッ!!!!」


 骨はバキバキ、内臓はグチャグチャにシェイクされている。下半身の感覚は無い。もしかすると千切れているのかもしれない。辛うじて動く腕で地面を這いずる。


 痛い、本当に死ぬかもしれない。万全な状態で闘ってこうなったのだ、勝ち目などない。

 それでもあの人が倒れている。手を伸ばした。


「恨みの種は、摘まなければならない」


 奴はそう言うと足を振り下ろす。そこにあるものは、、、。


 この日、俺たちは大敗北した。



 Scene2



 10月24日


 都内病院にて


「やぁ、また会ったね。健くん、元気そうで何よりだ」


 その男は腹立つ顔で俺の眠るベッドの横に座っていた。俺はあの戦いの後、重傷でこの病院に入院していたのだ。しかも、利き手である右腕は未曾有の大火傷、回復の見込みなしで、泣く泣く切断した。本当に泣いた。今は黒崎印の義腕をくっつけている。


「このなりが元気?あと二週間はお入院ですわ」


「まぁまぁ命あっての元気だから」


 男はそう言いながら、ラフランスの皮を器用に丁寧にペティナイフで剥いている。その果実の身はとてもジューシーで、水々しく見える。、


「はい、ラフランス」


「俺は風邪ひいた時、入院した時はウサちゃんりんご派だ。我、りんごを所望する」


「わがまま言わない。まぁ、良いけど。初めからりんご持ってきてるし。はい、アーン」


「いや、それ梨ッむぐぅ」


 大声で非難を飛ばした俺の口に、男は無理やりラフランスを押し込んだ。それによって口の中にはりんごの甘みが広がった。ん?りんご、俺ぇ今ラフランス食ったよな。それってりんごだっけ?いや梨に違いない。


「何をしたッ!」


 考えられるのは、青鬼の『深々・幻夢ノ母(MOTHER2)』の様な五感に干渉する能力。それによって梨をりんごに誤認させた。


「言ったじゃん。端からりんご持ってきたって」


 男が指を刺した方向。そこには、さっきまで皮を綺麗に剥かれたラフランスがあったのに、今何故だか、ウサちゃんりんごが置かれていた。


「これがあんたの能力か?梨をりんごに変える」


「なわけ。そんなピンポイントな能力のはずないだろ?」


 ですよね、そんなバカな話は無い。だが、初めから能力で俺に誤認させていた?なぜ、何のために?誰にメリットが?


「どうやった?」


「現実改変能力って、言えばわかるかな。妖気で現実を捻じ曲げた」


 それはあり得ない。おっさんの最初に説明したルールでは、妖気は既存の物質、現象に変化、影響を与える物であって、世界を変える物では無い。いや、十分変えてるけど。


「原理は何だ!黒崎亜流(くろさきアル)ッ!」


「『認識』だよ。必要なのは、その物を深く理解する事で妖気はそれに影響を与える。お師匠の場合、人間の記憶の保存のメカニズム、脳の詳しい仕組みを『認識』してそこに妖気を練り込む事で、あの能力が扱える」


 人や場所の記憶を見て、奪い、保管する。明らか妖気法能力のルールから逸脱している。


「僕の場合は時の動きを認識してる。だから、一点の事を除いて、ある物を無しに、無い物をありに出来る。まぁ、細かなルールは沢山あるけどね。それよりもだ」


 アルはすっと手を差し出してきた。まるで握手を求めるかの様に。俺はそれに応じて握手した。いや、していたと言った方が正しい。反射的に手を返したのだ。

 次の瞬間、身体からゴッソリと何かが精気が抜かれた。そのまま力無くベットに背を付ける。


「俺に何をしたッ!」


「貸した妖気を返却させてもらっただけだよ。こんな風に」


 アルは手に十枚のメタリックなカードを持っている。それには何かの数字が刻まれている。それが何なのかは俺にはわからない。


「僕のもう一つの能力。それは『銀行(ザ・バンク)』ッ妖気を通貨として取引出来る。君は東京に来た時に妖気をほとんど持っていなかった。だから来たる青鬼戦の前に僕の妖気を貸したんだ。お師匠の命令でね」


「その能力まさかだが、俺に拒否権ない感じ?」


「無い。無理矢理貸し付け、利子を付けて回収する。払えなければ、妖気が体内から全て抜かれ死ぬ」


「ここで俺が払えなければ、俺死亡してるんだが」


「死んで無いだろ?利子は無いからね貸した分だけ返してもらった。そして、これは君の妖気から作った『先払い(プリペイド)』だ」


 どうやら人工妖気結晶をカードで固体化させた物らしい。今からさるに、先に作っとけば妖気を消耗した状態でストックも可能。年齢は取らないし、常に妖気の残量を目視で確認できるって訳か。


「他にも『後払い(クレジット)』とかもあるけど、そっちはあまり使えないかな、使用額が確認できないからね」


「そんな説明話知らん。話を初めから変え直せ、本当の要件は何だ?ご丁寧に能力説明ってわけじゃ無いだろ?」


 コイツとのやり取りに段々とイライラしてきた。最近黙り込んでるチャッキーが恋しい。いや、アイツの場合直接脳に来るから嫌い。


 俺のキレ言葉にアルも手に取ったプリペイドをしまい真剣な眼差しになった。この辺は師弟で似るんだな。


「謝罪を。本題だが、影村寿雄が僕達三人を琵琶湖に招集してる。そこには今日本の妖気法使い全員が揃ってて、あとは分かるだろ?」


「何かデカいことするから駒欲しいんだな」


「ビンゴッてことで馬飼琉助くんと共に僕と来てもらおう。交通手段は手配済みだ」


「怪我治ってないんだが」


「君の身体はファンタジアだ。唾つければ治る」


「お前が財閥の御曹司って事を忘れかける民間療法は止めろ。俺の身体は普通だ。ただ、千切れた腕がくっ付いたり、指が生えたりするくらいだ」


「それだけで十分だろ」


 自分で言ってて、だいぶファンタジアだな。てか、ファンタジアは映画や。ファンタジーだろ、そこは。いやイタリア語だからハーフ的には正解?


「それに君の体もう完全に治ってる」


「おいおい、またなんかの能力か?やめてくれ、一体いくつあるんだそういうの」


 ガチ戦闘の際なんか、臨機応変に対応するために複数能力持ってる奴いてもおかしくはない。実際、青鬼はそうだった。一つの能力でも応用性が効くってのに、さらに奥の手を持っていた。それに関しちゃ、俺も身体能力系に関しては複数持ちだが。


「いや、これは能力じゃあない。さっきカルテ貰ったから。予定よりも数日早く退院できるらしい。てことで許可は降りてる。今から退院だ」


「待て待て、俺はともかく琉助はッ!アイツ、戦いの負傷ほとんど治ってないぞ」


 今回の戦いはギリギリだった。途中、琉助の参戦なくして勝利はあり得ないほどに。俺と違って常人の琉助は青鬼からの直接攻撃は受けずとも、結構なダメージは負っていたはず。俺並みの回復能力がないのだから、安静にしとくべきであると考える。


「彼も大丈夫だ。唐暮勿牙(からくれないが)が治療して行った。先ほど目が覚めたらしいぞ。良かったな」


「分かった。だが、今日一日は待っていてくれ。お礼参りに行きたい」


 今回の戦いにおいて、俺がお世話になったあの人に旅立つ前に、一度会っておきたい。

 食住、情報をくれた大恩人だ。


「分かった。なら、今日はどっかの大物アイドルとおデートに行かせてもらう。週刊誌に載ったらヤバいくらいなあの子と夜の街に繰り出してやるよ」

 

 アルは茶化すが、俺も好きにするから好きにしろの意だろう。おっさんなら、ここは強引にきそうなところ、そこは似ていない気がする。


「ありがとう」


「必要ない。お師匠も天山さんもそこまでせっかちじゃあない。だから三分の二は問題ない」


 残す一人、茜月夜海。彼女が一番、性格が悪いってのは以前からの情報で分かる。まぁ、今の俺ならそこまで舐められないだろう。


 この楽観的な思考が後に、トンデモない悲劇をもたらすとはこの時の俺はまだ知らない。



 Scene3



 場面は変わって俺は何故か散髪させられている、吉田さんに。理由は分からん。

 俺がここに足を運んだ理由は先に退院した吉田さんの様子を見ることと、お世話になったからお別れを言うのと、ついでに事件のより細かな結末を知るためだった。特に青鬼の処遇。それなのに、俺は椅子に座らせて、髪を切られてる。


「気になってたんだが、お前の髪が伸びるのが早すぎる」


 確かにここ数週間で前髪が目に掛かる程に伸びた気がした。特に入院中はそれが顕著だった。もしかすると以上な再生力の副作用かもしれない。


「だからってお別れの挨拶に来た俺の髪切ります?普通」


「長い髪が気になって仕方ない。それにこれから恩人に会うんだろ?キッチリセットする必要があるんじゃないか?」


「無いです。そもそもあの人は恩人ってほどじゃあ無いです」


 あの人は俺に妖気法を伝えただけ、弟子とも思ってないし、俺も師匠と思ってない。ビジネスライクな関係だ。


「まぁどのみち、こんな不衛生な髪じゃあ送り出せん」


「はぁ」


 まぁこんな態勢になっちゃったからには、ねっ?

 吉田さんは手慣れた手つきで俺の髪をチョキチョキしてる。


「上手いですね。元は美容師志望でした?」


「なわけ?機会が多かったってだけだ。昔よく父や弟の髪を切ってた」


「ああ、もう姪っ子もいる。年はお前より少し若いぐらいのな」


 俺はここしばらく吉田さんとホームシェアしてたが、そんなことを微塵も知らなかった。


「写真あります?吉田さんの家族とか興味ありありなんですが」


「写メなら幾つか。だが実家に帰ればもっとある。なんなら実家の側に固まって住んでる」


「その口ぶり、結構な田舎から上京してきましたね?吉田さんのキャラだと、、、近畿あたり」


「・・・・・・千葉だ。それも船橋辺りのな」


「結構都会ですね。いつでも帰れそう」


 船橋ってのがどこなのか道民の俺には分からん。だが千葉は十分都会だ。そりゃあ東京と比べちゃあ田舎、でもド田舎じゃないのは確かだ。


「ああ、いつでも帰れた。だがもう何年も帰ってない。きっと帰ったら、早く結婚しろとかグチグチ言われるのが目に見えるからな」


 吉田さんの言った理由もあるのだろう。しかし、きっともっと奥深いものがある。それがあるから帰りたく無いんだ。


「俺は吉田さんのこと大事な人だと思ってます。家族に似た大切な関係、、、あまり恥ずかしいんですが、、姉、みたいな」


「そうだな。私もお前を弟の様に思ってるよ。まぁ、、歳は相当離れてるがな」


「磯野家もビックリな年の差姉弟ですね」


「だな」


 吉田さんはそう言ってクスッと笑った。

 しばらく雑談をしていると、吉田さんは俺の右腕に視線を落とした。やはり気になるか、この一見普通の腕に見えるがよく観察するとメチャクチャ異質なこの腕が」


「結局、腕は義腕にしたのか?」


 吉田さんは俺の異常な回復能力を目撃していた。となると、俺の腕が義腕になってる事は気になるのだろう。


「無茶し過ぎた結果です。あんだけ火ィつけりゃぁ大火傷、使いもんにならないです」


「もう、無茶はするなよ」


「リアクションはあっさり目ですね」


「いや、割と痛々しい腕を見て胸が痛い。でもだ。お前が東京、いやある意味で日本を救った証なんだから、誇って良いと思う」


「大袈裟なぁ。俺が街を救った?ただ言われた事をしただけですよ、、、、?」


「どうした?」


 村でのマテウスとの闘いは俺が村の英雄となるように、、おっさんに仕込まれたものだった。今回の騒動も、元を辿ればおっさんが情報が掴んだった情報からここに来た。

 まるで俺を英雄にする為に動かしているのようだ。


『お前が英雄?自惚れるなよ』


 考察していると脳内で荼鬼が声をかけてきた。この声は俺にしか聞こえないから、脳内で会話しないと変人に思われかねない。


『時既に遅しだろ。お前は昔から変人だ』


『久しぶりの登場なのに辛辣だな。どこ行ってたの?お土産ある?』


 荼鬼と俺は現在、共存関係にある。いや、共存というよりは一方的な寄生なんだけど。

 そのせいか荼鬼が脳内にいることが直感的に分かる。青鬼戦の時はどこかへ行っていた。このままずっとどこかへ消えて欲しい。敵になっても雑魚だし。


『お前のが辛辣だぞ。せっかく後処理しといてやったのに』


『後処理だ?なんだよそれ、俺ぁ処理が必要な事したぁ事ないぞ』


 青鬼はきっちり逮捕したし、木伐帆群は死んだ。・・・まさか木伐消したの!


『それはやってねぇ』


『じゃあ、何してたんだ?くだらない事なのは察せる』


『とにかく俺にしか出来ない後処理だ。言えない』


 荼鬼種の鬼についてはまだ謎が多いと、おっさんはかつて言っていた。その謎とやらに関わる事なのだろう。きっと。


「おいッ」


 俺が荼鬼と脳内会話してると吉田さんが異変に気付いて声をかけてきた。そりゃそうよな、会話中に黙り始めるんだから、相手からしたらビックリぽんだわ。


「すいません。考え事してたら眠気が」


「しっかり休め。髪はもう終わったぞ。技術がないから軽くすいただけだがな」


 あんだけ長かった髪がさっぱりショートにされていた。髪型としては、普通だ。ツーブロも何も無い。ただスポーツ刈りよりは長く残されている。


『ふん、似合ってるじゃあねぇか』


「ありがとうございます」


 待てよ、この流れだと俺が荼鬼に敬語でお礼言ったみたいにならないか?そんなこと今生の恥だッ!嫌だダァぁあああ。


『お前、失礼過ぎんだろ』


 テヘ♪


「ここ出る前に一回シャワーで髪洗ってこい」


「はーい」


「ところでその義腕は、、防水か?片手で洗える?」


「安心してください、防水ですよ」


 義腕を掲げてそれをアピールする。温泉なんかも安心して入れる。すんばらしい性能だ。これを作った人にはノーベル賞を与えるべき。


『荼鬼、どっか行け。もう自由に行けんだろ?お前に裸見られんのとか恥ずい』


『テンションの差ひでぇな。まぁ行けるけどよぉー』


 そう言いながら謎のテンションで荼鬼は俺の脳内から去った。幽体離脱ってやつだろう。アレって俺も出来んのかな。


「てことで、シャワー借ります♪」



 Scene4



 シャワーを終えて、ドライヤーで髪を乾かした俺は吉田さんと最後の会話をしていた。

 場所は玄関前。もう靴を履いていつでも家を出れる。


「あんな出会い方だったのに、今日までお世話になりました」


「そうだな、お勤めご苦労様」


 元はと言えば俺が刀を持ち込んで、血まみれの和服をクリーニングに出して、拘置所から逃げ出したことが原因でこの縁がある。そう考えると俺普通に大犯罪者だな。警察24時とかに出てくるレベル。それか、あの事件の真相に迫る的な番組に。


「また来ます」


「次は普通にこいよ。お前の取り調べは骨が折れる」


「わぁーてますって、わぁーてる。そんな毎回事件に巻き込まれちゃあ、大変だし」


「ふふ、そうだな」


 このままではずっとお話ししてしまう。だから、ドアノブを掴んだ。ここから出る。


「それじゃあ、行ってきます」


 俺は吉田さんの方を今一度向いて、そう言った。


「ああ、行ってらっしゃい」


 そうしてドアを開けた。もう振り返らない。別に今生の別れってわけでもない。顔ならいつでも見れるからな。

 ガチャリとドアが閉まった。



 Scene5



 亜流は歌舞伎町で二人の露出の多い女を侍らしている。どうやら、これからホテルに行ってお楽しみするようだった。


「さっぱりしたね。・・・健くん」


 明らかにお邪魔なタイミングで乱入したせいか、スゲェー嫌な顔されている。俺からしたら、どうでも良い。


「ああ、髪ごと色々置いてきたからな」


「ちっ、そのまま『初めて』も置いてきて良かったのによ」


「姉貴分だ。手は出さん。互いに」


「ちっ、冗談だよ、つまらねぇ奴。ささっとどっか行けっ。お前のせいで湧いてきた感情が盛り下がっちまう」


 俺のお堅い真面目な対応に女性の両肩に腕を回しながら悪態を吐く。こいつって結構いい性格してんな、さすがあのおっさんの弟子。


「私ぃ四人でもしてもいいですよぉ」「私もその子の顔、結構好みかもだし〜〜」


 二人の女性はアルの手を振り払って俺の方に駆け寄ってくる。正直、こういう女性は好みじゃあない。


「そいつは学無しの、文無しの、宿無しの、未成年だ」


「えっ、未成年?」


 俺は未成年。つまり、俺に迫れば犯罪者だ。それを理解して一人は一歩後ろに下がる。俺もついでに一歩下がり距離を取る。その姿を見てアルが鼻で笑ったのが見えた。俺をビギナーだからってバカにしやがって。

 ところが、残ったもう一人の方は豊満な胸を俺に押し付けてきた。これには俺もびっくり。


「でもぉ、合意ならねぇ。それにぃ破滅的なのっても結構ぉ好きよぉ。ワンナイトのお付き合いってのもおつなものよぉ。ねっ、行きましょ」


 俺は必死に触れまいと腕を上に上げる。しかし、このままでは押し倒される。


「ダメだダメ。杏姫(アンジー)。今日は俺との約束だろ。それにソイツは『ビギナー』のままにしろって言われてる。ささっと来い。その淫らなケツ、ひっぱ叩いてやるよ」


 アルがアンジーと呼んだ女性の手を引き。無理やり自分の元に引き寄せた。そのまま何処かから取り出した札束をアンジーの大きく開かれた胸元に突っ込んだ。キモい。


「あら、情熱的なお誘いねぇ。ごめんね、色々卒業したら今度こそ遊びましょ」


「そういう事だ。健くん、ささっとどっか行きたまえ」


 ピコンっと俺のスマホに通知がなった、決済アプリにカプセルホテル一日分の金がギフトされていた。

 どんだけ、俺に消えて欲しいんだよ。この女好きめ。

 気が付けば、三人はどこかに消えていた。一体どんな能力を使ったのか。俺にはさっぱりだった。


 俺は一人寂しく街を去った。



 Scene6



 翌日、新幹線にて


「お兄ちゃん♫」


 俺に妹ができた。

 そんなわけあるかッ!俺がトイレに向かおうとしている時に、足にこのちびっ子に捕まってしまった。流石に引き離せない。

 少女はピンクの和服を着て、髪は茶髪のショートだ。目はとても日本人だけの遺伝とは思えない青色だ。どこかとのハーフかな?可愛い。


「お名前教えてもらってもいい?」


「・・・お父さんが、なまえはかんたんにはおしえちゃダメだって」


 言いつけをしっかり守ってるわけか。偉いな。


「それじゃあ、お嬢ちゃん。今日はお父さんかお母さんのどっちかと一緒かな?」

 

 俺は恐る恐る声をかける。だって、一歩間違えたら事案よ、事案。下手すりゃあ、痴漢冤罪よりもタチの悪いことになる。だって、善意を持って助けても、親御さんがそれを汲み取ってくれるか分からない。


「お父さん、しゅっちょうでいまいないの。だからみずきさんといっしょ!」


 お母さんに触れないのは、居ないからだろうか?最近はシングルも多いと聞く。あまり触れない方がいいな。


『・・・・・・』


 不意に、荼鬼の唸り声が聞こえてきた。昨日の夜に定めたルールで会話する時以外は互いに不可侵だったのに。


『どうした?チャッキー』


『このガキ、、、まさか、、、いやありえないな。いや、なんでもない。てか、チャッキー言うな』

 

 まぁ、どうせ大した事ではないだろう。


「おじょうちゃん、席どこか分かるかな?チケットとか?」


「うっ!」


 優しく問いかけると、少女はポシェットからチケットをとし出してくれた。それを見ると結構ここから遠い場所に座席がある。アルと同じグリーン車だ。えっ、一緒じゃないのかって、アイツ俺と琉助の分はケチってカッスい一般席だ。おっさんよりもいい性格しているのかもしれない。


「連れてってあげるよ。しっかり手握っててよね」


「うんっ!」


 俺と少女は結構歩いた。しばらく歩いて目的地の付近に着くと、青色のスーツを着込んだ男性がこっちに気付いた。

 そのまま、探し物を見つけたかのように大きく目を見開いて、叫んだ。迷惑にならない程度に。


姫さま(プリンセス)ッ!探しましたよッ」


「あっ、みずきっ!」


 その男は少女をプリンセスと呼び、こちらに駆け足で近寄ってきた。

 見た目は細いと感じるがよく見るとしっかりと筋肉がついている。センター分けの黒髪に、黒縁メガネ。まるで元から生えていないかのように髭が綺麗に剃られている。顔は知的で美麗な顔だ、とても男性には思えない。駆け寄るや否や、少女をその身に引き寄せた。

 おおよその予想だが、この男は少女の父親の秘書とかだろう。

 

「プリンセスどこへ行ったのですか?ワタクシほんっっっっとうに心配してたんですよッ!プリンセスにもしものことがあれば、ワタクシもうお父上に合わす顔が、、、、あん?なんだテメェ」


 話している途中で俺の存在に気付いたようだ。急に口調を荒らげて、ガンを飛ばしてきた。さっきまでの知的さはまるで感じられない。隠れ不良みたいだ。


『ッ!?どうして、、ここに』


『この男がどうした?荼鬼、、、知り合いか?』


 荼鬼の知り合いとなるとこの男は『鬼』と言うことになる。つまり敵だ。


『何でもない。・・・ただの他人の空似だ』


『分かった。そう言うことにしておいてやる』


 荼鬼の奴は間違えなく嘘をついてやがる。だが、奴は俺の頭の中を除けても、俺はできない。どんな関係かは知ることはできないだろう。追求の無駄だ。


「そちらのお嬢さんを保護したもんで。それで、お連れしました」


「はっ!そうですよね、そうです。そうでないと駄目だ、駄目なんですッ!」


 急にどうしたこんなにテンションを上げてしまってとっても不気味だ。気持ち悪い。

 俺の両手を握って距離縮めてくるあたりもっと怖い。よく見れば、若干胸に膨らみがある気がする。もしかして女性、、、よく見れば顔にもうっすらメイクしてらっしゃる。俺も目が悪くなったな。

 

「みずきっ、こわいよ」


 少女は静かにそう言った。

 その瞬間、辺りの音が死んだ。周りから聞こえるお喋りすら完全に止まった。この空間を少女が支配したのだ。


「はっ、申し訳ございませんプリンセス。ワタクシとしてはつい興奮してしまいました。こんなにも善人な方に会うのはずいぶん久しぶりで」


 みずきさんが俺から手を離し謝罪すると、音が生き返った。まるでさっきまでの静寂が嘘のように感じる。俺は冷や汗が止まらなかった。この少女は数秒とはいえ、この空間の支配者になったのだ。まさに『王』そのものだ。


「健さま、先程は失礼いたしました。我々はここで失礼いたします。これはほんのお礼です」


 そういうとみずきさんは俺に封筒を渡してきた。お金でも入っていると思ったら、何も書かれていない便箋が入っていた。何だこれ。


「おやおや、もらっていきなり開封とは、しかも本人の前で」


「悪いなみずきさん。俺は人よりも好奇心が強いんだ。これって何です?」


「致し方ない人だ。お守りです。大丈夫です。怪しいものではないので」

 

 怪しい。この二人、絶対に裏がある。だが、今はそれを追求する必要はないな。


「分かりました、ここは信じます」


「ありがとうございます。では、また今度。行きますよプリンセス」


「はいっ」


 今度こそ、二人は自席に戻って行った。名乗ってもいない俺の名前を把握している。それに、また今度と言っている。どんな形であれ、再会は近いだろうな。

 俺も大人しく席に戻った。



 Scene7



 10月25日15時


 ようやく滋賀に着いた。滋賀県米原駅現着。

 近くにおっさんと笹原さんが迎えにきてくれてるらしい。俺はあの二人のことを思うと新幹線でも全然休めなかった。荼鬼の野郎も居るには居るんだが、ずっと黙りこくってやがる。かと言って爆睡してる琉助を叩き起こして相談するのもアレだし。ずっと、一人で悩んでいた。


「やっほーーー。みんなァーーー」


 ミニバンがやってきた。助手席からはおっさんが上半身を出して、こちらに手を振っている。150近くの年齢にしてはしゃぎすぎである。


「おしショーーーーーー!」


 だがはしゃいでいたのはおっさんだけでなくアルもそうだった。めっちゃ手を振ってアピールしてる。

 ここまで似たもの師弟だと一周回ってキモい。龍介も横で普通に引いている。


「何なんだアレ?」


「俺たちには理解の及ばないアホだ。気にしなくてもいいだろ」


 ミニバンは目の前で止まって、助手席からおっさんが降りてきた。おっさんは降りてくるや否や、アルに抱きついた。どんだけ好きなんだよ。アルにとってはおっさんは父代わりで、おっさんからしたらアルは息子代わりなのかもしれない。しばらく抱きつくと、俺たちに気付いた。


「おっと、これは健くんに琉助くんじゃあないか。元気だった?」


 抱き合うのやめたおっさんはこっちに歩いてくる。俺と琉助は互いに顔を見合わせた。

 どうやら考えていることは同じようだ。拳に力を入れた。


「「テメェ!もっと説明することあっただろうがッ!」」


「ソンナマリアァ」


 俺と琉助は阿吽の呼吸でダブルパンチを打ち、おっさんの顔面を撃ち抜いた。俺に関しては『赤破壊鬼(レッド・デーモン)』を使ってるから威力抜群だ。大きく後ろに吹き飛ばされるおっさん。俺も琉助も東京で強くなった。


「おしショーーーーーーッ!」


「やぁっ、いい呼吸だね、二人とも」


 笹原さんもいつの間にか運転席から降りていた。相変わらず物腰柔らかい、話していて気分がいい人だ。


「キューブの件は本当にごめんね。もっとお話ししたいんだけど。ねっ、みんなが早くしろって待ってるから」


 キューブの件とは、俺たちが笹原さんからもらったキューブに発信機が付いていた件のことだろう。アレは流石にキモが冷えた。だが、そんな重大な謝罪を彼は早々に終わらせた。早く車に乗れと。何を焦っているのか?


「分かりました。あれは良いんで?」


 おっさんは未だにノックアウトされてる。今必死にアルが叫んで呼び起こしている。


「影村さんは無理矢理乗せるからね。待ってる時間ないし」


 何に追われているのか、俺達は再会してから間もなく車で、天山緋麿(あまやまひまろ)とその弟子達が待っている琵琶湖周辺南東側の館に一時間掛けて向かった。

 周辺には住宅街もありある程度のインフラがある。山を挟んだ向こうに琵琶湖がある立地だ。

 そんな中館は山中に位置しており、さまざまな神社や寺も周辺にある。


「凄いでしょ。先生の別荘、室内温泉に露天風呂、サウナ。宴会場もありながらしっかりとパーソナルエリアとして和室以外の普通の部屋も完備している。弟子の一人、狛沢永生(こまさわえいせい)さんが設計建造したんだ。まぁここまで別荘を運んだのは僕だけどね」


「へぇー凄い豪華ですね」


「でしょ」


 今しれっと凄いこと言った気がするが気にしたら負けだな。ミニバンはようやく館に着いた。ちなみに道中おっさんは目覚めなかった。アルが時々こっちを睨んでくるがそっちも気にしたら負けだ。


「僕はこのまま車庫にしまってくるから、先に入っててくれ。中には夜海ちゃんが留守番しているはずだ」


 俺達は促されるままに、玄関に向かった。玄関戸を開けようとした次に瞬間。何者かがこちらに飛びついてきた。そのまま女性は俺に馬乗りの形に座り込んだ。

 どうやらついに現れたようだ。日本最強の妖気法使い。


茜月夜海(あかつきよみ)か、、お前が」


 俺は必死に顔を見るために自分の首を持ち上げた。結構体幹が辛い。


「はい。初めまして。山門健様」


 茜月夜海は優しく微笑み問いに肯定した。俺は大きく驚いた。

 夜海の美しさもそうだが、人間とは思えない火込まれそうなその真紅の瞳がこちらを見下ろしているのだ。


「真紅、、の瞳だと」


 思わず口に出す。口に出さずにはいられない。それほどに美しいのだから。宝石とも比べようのない瞳。まさにこの世の奇跡だ。それしか言葉では言い表せない。


「これ、カラコンです」


 彼女はそう言ってニコッと笑った。

 

特になし。


次回 2話 紅と緑の兄弟 


あの映画楽しかったなぁ

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