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紅の赤  作者: 青階透
鬼殺し偏東京偏
32/61

12話 『優秀』な家族と、


 お待たせしました。

 お待たせさせすぎたかもしれません。


 最新話です!

 前回よりも短めです。10000文字ぐらい。

 では、楽しんで下さい。


 懐かしき我が元実家


 そう思えるのはアレから十年近く経っていらからだろうか?頼るべき親族などは居ない。そもそも頼って良い身分ではない。俺はもう何人も人をこの手に掛けた。そんな俺を温かく迎入れる人など、逆に俺以上の狂人だろう。


 逃げ場がない事を知ってても尚、俺は逃亡して結果的にこの家に来てしまった。警察に捕まって裁判に掛けられれば、問答無用で死刑あるいは無期懲役の刑に処されるだろう。初めて人を殺めた時から、自分はまともな最期を迎えることはないだろうと悟っていた。

 今でもこの手には初めて手にかけた時の感触が残っている。その時は二度と味わいたくない感触だと思った。だけど、気がつけば次の犯行を行なっていた。よく使われる表現だが、殺人はクセになる。ドラッグの様なもの、いけない行為だと認識しているからこそ、その中毒の虜になる。


 俺の実家に現在住んでいたのは『青木家』だ。家長は青木渡志(あおきわたし)。偶然にも彼は俺の懐かしき高等学校時代の先輩であった人物。先輩のことは色んな意味でよく覚えていている。

 だが、君の悪いことにこの家はあの時からまるで風貌が変わっていない。

 しかし、今はそのような事は関係のないこと、表札の下のインターホンに手を掛ける。

 ピンポーンッと音が鳴る。時間も夜遅い、普通の家ならばもう寝静まっていてもおかしくはない。だが、この家はまだ明かりが灯っており、誰かが起きている可能性がとても高い。

 カメラに自分が映らないように死角に入りながら、誰かが反応するのを待つ。待ち構える。


「はぁーい、アナタ?」


 インターホンの先から聞こえてくる声は女性のものだ。アナタと聞いてくることから、まだ主人が帰宅していない事が分かる。ふと、横を見ると駐車場に車がないので、ドライブにでも出掛けたのだろう。

 ここはどう答えるべきか?郵便といってもこの時間の郵便は不自然すぎるし、疲労のせいか頭がそこまで回っていなかった。


「ちょっと待ってて、今開けま〜す」


 コチラが次の一手を考える前に相手が鍵を開けるといって、インターホンを切った。コレはラッキーだ。

 相手が出てくる前に門を通り、玄関ドアの横に壁に背をつけるように立つ。


「おかえりなさい♪」


 とびら開けて、出て来た主婦に対し素早く手際よく背後に回り、口を押さえて喉元にナイフの刃を立てた。


「俺はお宅の旦那様じゃあない。木伐帆群(きばつほむら)だッ。ニュースは見ているな?ここに匿わせてもらうッ」


 そのまま女を首を押さえたまま後ろに下がり自宅内に侵入した。案外簡単に事が進んだ事に自分の恐ろしさを改めて実感する。


「ちょっと、何をするですか!?まさか、ここで私を犯す気ですか。ダメです、まだ娘が寝ていないんですから」


「ちょっと何言っているかが理解出来ない。アンタみたいな女に興味は無い」


「酷いです!?こう見えても私は!」


「うるさい。これ以上騒ぐとその首掻っ切るぞ」


「ッ!?」


「理解したのなら大人しくしていろッ。言っとくが俺は誰かを手にかける事に何の抵抗もない。この程度で躊躇うようじゃあ『優秀』ないだろ?」


「その口癖は。まさか、夫の知り合いですか?」


「高等学校時代の先輩後輩の関係ってだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」


「そうで、すか」


「肝心のアンタの夫はどこにいんだ?助けを求めて連絡を取られたら困る」


 外には車が停まっていなかったし、さっきのこの女の発言から察するにまだガキしかいないようだ。

 この時間まで働いているとは考えにくい。どこかにドライブしている程度に考えて良いだろう。


「それがさっきから連絡とっているんですが、取れなくて」


「そうか。ガキはどこだ?顔だけ拝んでおきたい」


椿芽(つばめ)なら、そこでテレビ見てます。本当はお父さんと見る約束だったのに、時間までに帰って来なくて」


「そこまでの情報は求めていない。リビングって事だな。女ッお前も着いて来い。俺の死角から通報されでもしたら、面倒だ。」


「すいません。私の名前は青木琴里(あおきことり)って言うんです。女ッって呼ぶの、やめて下さい。失礼ですよ」


「それはすまなかったな。でも、名前で呼ぶ気はない」


「なっ!酷いです」


「ダァーッとけッ。ささっと案内しろッ。言っておくが俺はテメェら全員を殺しても俺がこの家に潜伏する事には何も問題がないんだぞ」


「なら、そうすれば良いじゃないですか?むしろそれをした方があなたにとってメリットがあるはずです。わたしたちを殺さずに放置していると、逃げ出して通報する可能性もあるのですよ」


「ッ!?」


 今までの態度とは打って変わっていきなり冷静な声音で指摘された。

 急な態度の方向転換に一瞬戸惑ってしまい、行動が遅れた。女は反応の遅れた俺の手からナイフを奪い取り、それを俺の首元に向けながら、俺の背中を壁に押し付けた。瞳に宿る覇気は確実に俺を殺すつもりでいるようで、あの時の母さんとどこか似ている気がした。

 まるで抵抗できない。男女には明らかな腕力の差がある。そのはずなのにただの主婦如きに俺が押さえつけられている。ナイフの刃が俺の首元に段々と近づいて来る。このままじゃあ殺される。


「な、何をするんだ。女ッ貴様」


 必死の抵抗をしながら俺は大きな声を上げた。


「えっ?私何もしてませんよ。それよりも名前を教えたのにそれで呼ばないって失礼じゃないですか!」


「はッ!?」


 気付けば、俺は先ほどの位置から全く動いていなかったし、手には未だにナイフが握られていた。またか、昔から度々最悪なことを空想癖がある。

 女ッは急に声を上げた俺に驚いていた。その困惑に染まった瞳は先ほどまでの覇気を感じられない。別人みたいだ。


「なんでもない。ささっと、案内しろ」


 どこか俺の不審な行動に疑問の目を向けてくる。

 もしさっき見た幻覚のようにこの女ッが俺よりも強かったら、俺は忽ち返り討ちに遭うだろう。この家に潜伏するのは危険かも知れない。


 俺が女ッの出方を警戒していると、玄関ドアがいきなり開けられた。


「ただいま」


 俺が振り返ると、そこに立っていたこの家の主人、青木渡志(あおきわたし)だった。

 まさかこのタイミングで帰ってくるとは。


「・・・・・君は誰だい?」



 ##############



「はぁ、はぁ。予備の死体用意しておいて良かった。まさか、長年愛用していた肉体が死ぬとは」


 荼鬼にとって肉体はとても重要だ。同じ肉体をずっと使い続けた方が良い。魂が肉体に馴染めば馴染む程に神経伝達の速さが上がり体のコントロールが簡単になるのだ。

だがしかし、肉体が死んだ以上は肉体を交換する必要がある。だから荼鬼(兄)はあの事故現場から魂だけの状態になった後、すぐさま予備の肉体を冷凍保管していたコンテナまで来ていた。目的の場所の前に着くと、一部だけ木製に加工された壁を通り抜けて中に入る。


「今回はどれにするか」


 彼にとって新しい肉体はどれであっても関係はない。理由としては荼鬼種の入り込んだ肉体は、どれも本人のイメージする姿に変形する。この原理は現状は不明だが、『荼鬼種』という存在そのものの歴史に関わっていると思われる。元となった鬼の種は関係のないのだ。


「これだ」


 目の前にあるのはとある青鬼種の死体。

 この死体は、心臓部を一撃で撃ち抜かれて死んでいた。この死体の身元が誰かなんて興味はない。所詮は自分に塗り替えられるものだからだ。


 魂が肉体に入り込む。それと同時に心臓が動く出き、血液が全身を巡るのを感じる。しかし、触れる体温は冷たい。実際は心臓も動いていないし、血液も流れていないのだから、しょうがない。しかし、いつまで経ってもこの違和感だけにはなれない。

 

「いつまで経っても不気味だ、気味が悪い」


 鏡に映る自分の姿はいつもの自分そのもので、この変わりようはまるで『魔法』だ。

 魔法なんてファンタジーのものだと皆口を揃えて言うが、俺は案外実在していてもおかしくはないと思う。まずは妖気法の存在、荼鬼種のような魂を管理する存在。これらだけで十分な根拠になりそうだ。


「いつまでも見惚れているわけには行かないな。ささっと服でも着るとするか」


 肉体は元の姿になっても服装までは同じようには行かない。元々着させていた服は肉体の変化によって破けているので、着替える必要がある。

 もちろん、それようの服もこのコンテナ内に用意してある。それを適当にチョイスしてそれに着替える。着替えが終わったら。コンテナの正規の扉を開けて外に出る。そうしないと誰とも連絡できないからだ。

 青鬼の奴があの程度で死ぬとは考えられない。多少の傷は負っていると思うが、すでに新しい変装先を見つけていてもおかしくは無い。

 問題はどう合流するかだが、その点も問題はない。アイツの事だからあの肉体が死んだことを察知したら、ここに来るだろう。

 その為ここで待っていればそのうち合流できるはずだ。


 不意に妙な気配を感じた。そして、その主にすぐに気付いた。


「うん?アンタ、ここに何しにき、、、、」

 

 気配の主に声を掛けたが、言葉を言い合える前に、ドカッっと言う音と共に俺は後頭部を殴られて意識を失った。



 #############



「俺とアンタの仲だ。教える必要があるか?それにニュースで顔が見れるはずだ」


 ニヤリと笑いながら、そう言ってやった。それを聞いて、青木渡志は一瞬戸惑いを見せた。


「いや、すまないが君の顔は見覚えがない。不法侵入だ、今なら通報しないから出て行ってくれ」


「ニュースを見ていないのなら、教えてやる。俺がこの()で起きている連続殺人の犯人だ」


 俺は堂々とそう宣言した。

 今更このことを隠す必要はない。それにさっき女ッにそう告げたから、ここで教えても教えなくても、そのうちバレる。


「そうか。なら、ここから出すわけには行かないな。ここでゆっくりしてもらおうか」


 ガチャリッっと青木渡志は玄関ドアの鍵を閉めた。


「ほう?それでこそアンタだ。先輩」


 普通だったら、ここで追い返した方がリスクが少ない。それでもこの選択をした。イカれてやがる。


「そう言うことだ琴里、今から彼はお客様だ。だから『紅茶』でも出してもてなしてくれ。僕は自室で着替えてくるよ」


「あら?ウチには『コーヒー』しかないわよ。忘れちゃったかしら」


「・・・・そうか。なら『珈琲』を淹れてやってくれ」


 今の会話、何か妙だ。あの青木渡志が間違えた?それにそれを指摘した女ッの言葉も先ほどまでのお惚けボイスとは異なっていて、疑いをかけるような感じだ。


「分かったわ」


「着替えが終わったら降りてくる」


「待て。これからのこの家における生活のルールを説明する。着替えはその後だ」


「いや、先に着替えさせてもらう。この家の主人は僕だ。お客さまの命令には従うつもりはない」


 そう言って俺を横切って階段に進もうとしたが、俺は青木渡しの肩を掴んでそれを止めた。一瞬手の感触に違和感があった。服の見た目の材質と触れた感じの材質が違う気がする。そう言う素材だろうか?

 まぁ、そんなことは関係ないな。


「今から主人は俺だ。それがルールその1」


 俺がこの家に潜伏している以上は好き勝手な行動を取られると困る。

 特に外部との連絡関係とかだ。そう言うのもこっちで管理していかなければならない。


「・・・・仮にルールを僕たちが無視したらどうする?」


「分かるだろ?」


 俺は手に持っているナイフをチラリと青木渡志に見せた。コイツならばこれで意図は伝わるだろう。なんせ、『優秀』なんだからな。

 しかし、青木渡志の行動は俺の予想とは反していた。咄嗟に俺の顔を手で掴み、そのまま壁に押し付けた。


「やはりお前の存在は俺の『潜伏』には邪魔だな。このまま死ね」


 壁に押し付ける力はドンドンと強くなっていき、メキメキと何かが砕かれる音が聞こえてくる。

 明らかに人間業ではない。これは夢だ、いつもの空想に違いない。

 そう考えるが、体は徐々に浮いていく。青木渡志が俺の頭を掴んで片手で持ち上げているのだ。頭を握り潰されるその激痛は今までに経験したことのない位だった。本格的に不味い。本当にこれは俺の空想か?謎にリアリティを感じる。


「はっ!?」


 気付いた。これはやっぱり俺の空想に違いない。何故なら不自然なまでにそこの女ッが微塵も動いていないのだ。

 それに気付くと、やはり俺は最初の立ち位置から動いていなかった。


「で、どうなるんだ?」


「さぁな。ご想像にお任せする」


「じゃあ、その2は何だ?」


 コイツは何か危険な気がする。さっきの空想は現実でこそはなかったが、俺の恐怖の具現化。いつ実際になるかが分からない。


「この家から出かけるときは最低でも一人は人質として残してもらう。アンタやガキには仕事や学校があるのだろ?流石にずっとこの家に閉じ込めたら怪しまれるからな。もし外で誰かに俺の存在を知らせて、その事を俺が知ったら。人質はすぐに殺す」


 さぁ、空想は来るか?

 どこかドキドキしてきたな。


「それは理にかなっているな。了承しよう」


 この言い回しは問題はないな。地雷をいつ踏み抜くかは分からない。


「それなら良かった。外での行動は通報以外は自由にしていいぜ。先輩ィ」


「その3はあるのか?」

 

「俺に必要以上は関わるな。飯も全部自分で用意させてもらう。これら3つだ守ってもらうルールだ」


「じゃあ『コーヒー』は要りませんね?」


 俺たちの会話の様子を伺っていた女ッが割り込んできた。かと思ったらすぐに部屋にこちらに背を向けて、リヴィングに行ってしまった。


「何なんだ、先輩の奥さん」


「さぁな、長年一緒にいる僕にもイマイチ分からない。もう着替えに行っていいかな?」


「勝手にしろ」


 

 #############



 リヴィングに行った。

 そこにはガキがいた。ガキがテレヴィジョンを見ていた。そこで流されている番組は昔世間を騒がせた連続女児誘拐事件。それを見ているガキは見たところ10歳前後の女の子だ。この胸糞悪い事件の再現を当時の被害者と同じくらいの年齢の女の子が見て良いのだろうか?トラウマになったりしたら大変ではないか?

 それにしても部屋に見ず知らずの大人が入って来たっていうのにこのガキは一切動じる事なくテレヴィジョンを見続けている。せめて年相応の反応が欲しいところだが、不気味なガキだ。


「おい、ガキ。名前はなんて言うんだ?」


 だが、そんなガキでも今回の俺の潜伏において一番の重要な存在となるだろう。ガキの口は緩い。いくら大人連中が黙っていてもこのガキがうっかりと漏らしてしまえば、俺はお終いだ。だから仲良くしておく必要がある。

 名前はさっき女ッが言っていたから知っている。名前は青木つばめ、漢字は知らん。素直に燕とかはないだろう。最近は変わった読みをする名前も多いしな。


「・・・・・、おじさんは猫さん?」


「猫さんだと?」


 何を急に、気味の悪いガキだ。

 俺をどう見たら猫に見えるんだ?どこからどうみても人間だろ。


「かえるおウチがないの。迷ってるみたい」


「帰る家なんざ、もう必要ない。時が来たらココからも出てくよ」


「ふーん。かっこいいね猫さん」


「猫って呼ぶな。それと名前聞かれたんだから答えろよ」


「あっ、ごめんなさい。聞かれたことにすぐに答えないとダメだよね。ぼくは青木椿芽(あおきつばめ)。かんじも書けるよ」


 そう言って小走りで、メモ用紙と鉛筆をこちらに持ってきた。


「かんじはこう書くの」


 どうやら名前は椿(つばき)()と書いて椿芽(つばめ)と読むらしい。やはり変わった名前だ。これが俗に言うキラキラネームというやつか。

 椿の花言葉って確か、、、『気取らない優美さ』とか『至上の愛らしさ』的な意味があったはずだ。女の子につける名前にぴったりかもな。


「いい名前だな。俺は|帆群だ。意味は帆のように自由な風で進み、多くの友と生きるって事らしい」


「ヘェ〜すてきな名前だね」


「ありがとよ。父さんと母さんからもらった最高のプレゼントなんだ」


 今となってはこの名前を背負って良いような人間ではない。あの世にいる父さん母さんも泣いてるだろうな。だが、これも俺が自由な風に乗って選んだ人生だ。

 

「いいね。ぐっど」


「それよりこんな番組見ていて楽しいのか?怖くないのか?」


「ううん。ともだちみんな見てるから。こわくないよ」


「そうかよ。俺は当時、このニュースを見る度に怖かったよ」


 結局犯人は分からずに捜査は打ち切られた。 その時から感じていたがやはり警察は無能だ。

 俺も捕まえられなかったから新しい恐怖を生んだ。


「いまは?」


「今?」


「怖くないの?」


「もうそんな歳じゃない」


 一々昔の事件に怯えるような人間ではない。それに世間が俺に怖がっているのに俺が顔も知らない犯人に怖がっているっていうのも、どこか変で気持ち悪い。


「かっこいいね。大人って」


「いや、『俺は』格好悪いよ」


「じゃあ、猫さんはかわいい!」


 俺が自己憔悴していると、ガキは『純粋無垢』な笑顔でそう言ってきた。そんな顔で言われてしまっては、こっちも否定する事が申し訳ない。


「・・・・・それでいいよ」


「やった!」


 ガキが大袈裟に喜びを表現する中、後方から足音が聞こえてきた。俺が振り返るとそこには青木渡志がやってきており着替えを済ませている。


「君は子供には優しいんだね?」


「ああ、子供は国の宝だ。優しくもなるさ」


 テレヴィジョンに映ってる殺人鬼と違って俺は子供に手を出していない。高校生は殺したが。


「殺人鬼の分際で、国の宝を語るか」


「それよりもだ。自分の子供にあんな番組見せても良いのかよ?教育に悪いぜ」


 俺は指で後ろのテレビを指す。

 そこにはたった今少女を誘拐する再現VTRが流れている。


「君はアニメや漫画などがその子供の教育に悪影響を与えると考えるタイプかい?子供の成長に一番影響するのは、『環境』だよ」


「それくらいは俺も理解している。だが、アレはトラウマにでもなるかもしれない」


「それを言うのならば君の存在こそトラウマの種じゃないかな?いつ襲ってくるか分からない殺人鬼と一つ屋根の下というこの状況」


「そう言っても俺はココから立ち去るつもりはない」


「そうかい」


「アンタ、変わったな。高等学校時代とはまるで雰囲気が違う。あの頃は口癖のように『優秀』って言いまくってたのによ。まるで別人だ」


「・・・・人は変わるものさ」


 そう言って青木渡志はキッチンの方へ向かった。

 俺もテレヴィジョンの方を向き直った。画面は丁度切り替わりCMが流れている。


 俺はそれを無言で見つめていた。



 ##############



 深夜


 俺は眠る事が出来ずに下のリビングに居た。

 正確には寝ることは許されていないのだ。仮の少しの油断でこの家族全員に逃げられてしまえば、即座にどこかの警察署に駆け込まれて、俺の事を告げるだろう。そのリスクを解消出来るほどに俺はこいつら全員を信用するつもりはない。


「だめだ。眠気に勝てねぇ」


 思えば、ここ数ヶ月は激動の日々だった。俺の殺人の犯人であるというあらゆる証拠を残さないように集中力と緊張感を断つということはなかった。だが、ここに来て俺が犯人であるという事を隠す必要がないと思ってしまうと途端にガスが抜かれてしまった。

 これではマズい。本格的に爆睡してしまう。


「確かコーヒーがあるはずだ」


 気が付けば俺はキッチンの方へと足を運んでいた。

 あの女ッの話を聞く限り、青木渡志は重度のコーヒー愛好家だ。眠気覚ましになるコーヒーぐらいどこかにあるはず。普段なら他人の家の食品棚や冷蔵庫は勝手に漁るなんてことはしない。しかしだ、外に調達に行けない現状仕方なかったってやつだ。


「君は寝ないのかい?」


「ッ!?」


 俺が食品棚を漁っていると、後ろから青木渡志から声をかけられた。

 

「先輩こそ、まだ寝ないんですか?こんな時間まで何を」


「同僚に電話を掛けようと思って、スマートフォンを使用していてね」


 その言葉を聞いた瞬間、キッチンの包丁の入っている棚を開けて、取り出したそれを青木渡志の首に向けた。

 包丁の場所は、昔住んでいた時から変わっていない。


「もうルールを破るつもりか?」


「いや、毎晩連絡をとっている相手でね。欠かせば、怪しまれると思ったんだよ。まぁ、繋がらなかったけどね」


「そんなことは関係ない。外部の誰かと連絡を取る際は、俺の目の前だけだ」


「それは聞いていないな」


「『優秀』なアンタなら理解してくれると思っていたんだがな」


「包丁を持つ手が震えているぞ。それでも殺人鬼か?」


 確かに俺の包丁の柄を握る手は小刻みに震えている。何故だがわからないが、この男と話していると得体の知れない寒気を感じる。長袖で隠れているが、腕の毛などは鳥肌が立っている。


「こうでもしないと、一思いに行きそうなんでな」


「強がりめ。僕のことが怖いんだろ?分かるよ。その気持ち」


「本当に殺されたいのか、お前ッ!」


「いや、君に僕は殺せない。ほら、」


 青木渡志はそう言いながらナイフに向かって首を前に進める。俺は反射的に刃の先端を刺さらないように下げていた。その姿を見て、青木渡志はニヤリと笑う。


「少し調べた。この家は事故物件だってな。君はここを更なる事故物件にしたくないんじゃないのか?理由は分からないし、興味もないが」


「まだお前を殺しては、潜伏が終わってしまうからな。手を出す気はない」


「言い訳。既にルールを守っていないのは君の方だ。ここで僕が警察に電話しても、手を出せないんじゃないのかな?」


 青木渡志は手に持ったスマートフォンを取り出して、電話のアプリケーションを開いた。1・1・0のボタンに次々と指を押していく。残るは、コールボタンだけだ。


「今刺せば、電話は掛からないよ。さぁー刺せよ、刺せよッ!」


 青木渡志は大きく目を開いてそう叫んでくる。

 指がコールボタンに触れる直前、俺は包丁を床に捨てた。


「刺さない!今はだッ」


「なら、僕も電話する事ないな」

 

 青木渡志はこちらの背を向け、この場から立ち去ろうと歩き始めた。

 完全にこっちを掌で弄んでいる。この男。俺が本当に刺したらどうするつもりだったんだ?ノープランなはずがない。手に何か持っていたりしないのか?青木渡志の体を見回す。やはり、何も持っていない。

 

 ポタ、ポタ、ポタぁ〜


 何かが床に落ちる音がする。これは『水滴』?今までは全く聞こえてなかったが、急にそれが聞こえてきた。その音の発生源を目線で探す。そして、見つけた。


「手、なんで拭いていないんだ?」


 青木渡志の手が濡れている。それも水滴を落とせる程にたっぷりと。今までなんで気が付かなかったんだ?

 俺がそのことを青木渡志の背中越しに伝えると、急にシルエットが変化した。頭部から大きな2本の角が生えてきて、まるで鬼のような姿になった。


「貴様、気付いてしまったな?せっかく殺さない為に隠していたのに」


 振り返って見えるその顔は、青木渡志のものではなかった。見たこともない人間?いや、『鬼』だ。

 いや、これが現実なはずがない。いつもの悪い空想だ。俺は目を瞑り、目の前の景色から逃避した。


「どうしたんだい?僕の全身を舐め回すように見て?」


 目を開けると、目の前には『青木渡志』が居た。やはりあの鬼の姿は俺の空想だったんだ。


「何でもない。ささっと寝てください。それと、スマートフォンはリビングのテーブルに」


 だが、嫌な予感のした俺は、先の問いを口から出す事をやめた。


「分かってるよ。それじゃあ、おやすみ」


 立ち去る青木渡志は人間そのもの、でも何故、俺の空想ではただ人間が鬼に化けているように見えたんだ?

 やはりこの家は不気味だ。



 ############



 10月9日 朝



 俺がこの家に潜伏してから2日経過した。


 あの後は一睡もせずに朝日が昇るのを見届けた。今日も同じで一睡もしていない。奴は朝早くからどこかに出かけたし、ガキも同様にお友達と外に遊びに行った。結果、残されているのは俺と女ッだけだった。女ッはテレヴィジョンでニュースを見ている。そこでは俺が容疑者として逃亡中と報道されていた。いまいち偉いのか分からないコメンテーターの解説で俺を語るが、それでは俺という存在の本質を掴めていない。


 ピンポーンッっとインターホンが不意に鳴らされた。


「ッ!?」


 いきなりの出来事に多少は驚いたが、冷静にカメラに映る人物を観察した。


『宅配便でーす』


 カメラに映る男はよくある配達業者と同じ制服と帽子を被っている。


「女ッ、荷物を頼んでいいって誰が言った?」


「頼んでません!誰も」


 嘘はついていなさそうだ。

 なら、コイツは何だ?明らかに配達員だ。何の変哲もない、、、、


「ッ!?」


 ほんの一瞬、帽子のつばの下から顔が見えた。


「あり得ない!コイツは殺したはずだ」


 その顔はほんの数日前に自分が殺害したとある少年とそっくりであった。しかし、死者が生き返るなんて事はあり得ない。


 その少年は帽子を上に大きく上げて、こう言った。


『荷物がとても重たいので、中に直接運んでも良いですか?玄関開けてください』



 木伐帆群はのちに彼の名前を思い出す。

 この少年の名前は『山門健(やまとたける)』という。



 今は語るべき事はない。

 てことで、次回


『東京連続殺人事件簿その十二 三者面談』

               でお会いしましょう。

 早めに出せるよう頑張ります。

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