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紅の赤  作者: 青階透
鬼殺し偏東京偏
28/61

8話 東京連続殺人事件簿その七 郷田鉄彦


 今回は物語が大きく動きますっせ


 10月7日 十八時 東京某所のコンヴィニエンスストア


 そこには未成年に思われる数人の少年たちが煙草を吹かしながら大声で騒いでいた。服装は今の時期には合わない薄着などでとても寒そうだ。服装の事は今は置いておき、こんなバカ騒ぎを起こせば当然近隣住民の方から警察への通報が入る。

 だから、俺は、郷田哲彦は彼らを補導する為に現場に駆け付けた。

 財布の小銭入れを確認してから、車を駐車場に止めて彼らの下へ駆け寄った。


「またお前らかッ、通報が有ったぞ未成年が煙草吹かして大声で騒いでるってッ」


 遠目から見て薄々気付いていたがやはりいつもの悪ガキたちだった。彼らは夜中や深夜にこうして集まっては様々な問題を起こす不良たちだった。初めての会ったのは半年前、彼らが同年代の少年にカツアゲを行っているとこを偶然目撃した時の事だった。その時は彼らに注意だけし見逃したが、その翌日には騒音問題の通報を受けて彼らと再会した。その時はっかりと学校の名前や親への連絡をしてその場で解散させた。それからも時には暴力沙汰を起こしてその度に彼らを補導していた。


「またおっさんかよッ!いい加減アンタに補導されんのは飽き飽きなんだよッ美人警官とかいねぇのかッ」


 不良のリーダー格の男が最初に突っかかってきた。その他の不良も後ろでそうだそうだと騒いでいる。


「お前らが問題を起こしている方が悪い。家に居たくないのは分かる。俺もそういうお年頃があったからな。でも、コンヴィニエンスストアで集まって近隣住民には迷惑をかけるな」


「うるせぇ!。事件もろくに解決出来ない無能警察のくせして偉そうなことを言うんじゃあないぞッ」


 そこを突かれると痛い。実際は事件はクソガキのお陰で解決に向かって進み始めた訳だが、それを言えばネットに情報を流出されかねない、そうすれば犯人が逃亡されるかもしれない。犯人の引き渡し条約を結んでいない国にでも逃亡されると面倒くさい事になりそうだ。


「ああん?何も言い返せないのかよおっさんッ。悔しいなら言い返して見ろやッ」


「悪いが捜査に関する情報は流せないんでな。それよりも目先の治安も守れないようじゃ警察官失格だと俺は考えている」


「屁理屈は良いんだよッアンタら警察が連続殺人の犯人を捕まえていないという真実は不変のモノだろ。なぁあ!」


 後ろの取り巻き達を煽る様に大声で言う。それに呼応するかのように取り巻き達は更に叫び始める。


「とりあえず今回の煙草の事とか含めて署で話を聞かせてもらう事にする。全員付いて来い」


 流石にこうまで舐められれば、署でしっかりと話しをした方が他の方々の迷惑にならないだろ。


「嫌なこったッお前ら逃げんぞッ」


 そう言って不良共は自転車に乗り全速力で漕ぎだした。


「自転車に乗って逃げる不良って・・・・・。やっぱり中途半端じゃねぇか」


 彼らの家庭はどこかしら問題を抱えている。シングル親だったり、貧乏で学費をギリギリ払える様な経済面をしていたり。リーダー格のアイツに至っては両親が常の喧嘩をしていていつ離婚してもおかしくない空気をしている。


「追ってちゃんと叱るのが大人の責任だよな」


 だが、自転車を自動車で追うのは危ないし走って追いつく訳もない。ただしアイツらの逃げ場所を知っていれば話は別だ。この近くにはアイツらが良く集まる高架下の公園があるそこに逃げた可能性がとても高い。そこまでなら走っていける。


「しょうがねぇいっちょ行くかッ」


 そうして俺は彼らの逃げて行った方向に向かって走り出した。

 街灯の明かりのみが道を照らす住宅街。どこか不気味な雰囲気があるが、そんな事はどこの国の夜と同じだ。夜は暗くて恐ろしい。何が潜んでいるのかが分からないからだ。


 スッと何かが俺の腹を横切った気がする。そればかりか急に身体が冷えてきた。俺は思わず立ち止まり、自分の腹を撫でた。そしてその手のひらを確認するとそこには、、、、、、、


 赤い血がついていた。


「ッ!?これ全部俺の血、、、だとッ」


 それを視認した瞬間、俺の背中に何かが突き刺さった。これは刃物だ。俺は思わずその場に倒れこんでしまう。これはもしかしなくても例の犯人だ。

 まさか『本当』に俺が狙われるなんて。せめて顔ぐらいは拝んで逝ってやる。だがこの慎重な犯人が態々顔を見せてくるなんて事はない、やるなら自力だ。


「ああ、良いよ良いよ。態々動かなくたって。冥途の土産に顔と声ぐらい聴かせてやるよ」


 犯人が喋った。しかもこの声には聞き覚えがあった。


「き、木伐帆群(きばつほむら)ッ」


 木伐帆群は地面を這いつくばる俺に対して見下すようにしゃがみこんできた。黒いフードの影のせいで顔は分かり辛いが、この間見た顔である事は間違いがない。


「正解だ。おめでとう、やっと俺に辿り着いたな。そう、俺が連続殺人の犯人だ。でも、これは冥途の土産だ。その出血量じゃあもう助からないから教えてやっただけだ。これもついでだが、あのクソガキ共を通報したのは俺だぜ。誰でもいいから警察官を呼び寄せる為にな」


 最初から警察官を殺すつもりだったのか。完全に罠に嵌められた。

 

「な、何がぁ、何が目的でお前は人を殺してきた。何の為にッ」


 俺が殺される理由なんぞどうせ見せしめ程度の理由だろう。だが、他の七件の犯行の理由がどうしても分からない。だから俺は叫ぶようにそう尋ねた


「おいおい。そう叫ぶなよ。近所迷惑だぜ、あのクソガキ共と同じ。話してやっても良いが、その前にそのポケットのそれなんだ?ボイスレコーダーじゃないよな?」


「ッ!?」


 木伐は俺のスーツのポケットの膨らみに気付き、そこに手を入れてきた。今の体力じゃあそれに対して抵抗なんかできない。実際にもしもの事があった時用に俺はそれを持ち歩くように提案されていた。証拠にする為に。


「本当にボイスレコーダーがあった。でも残念、電源が入っていないみたいだ。これなら俺がベラベラ喋っても問題ないな」


 木伐はとても慎重な男だ。現場に決して証拠を残さない。家にもだ。だから、ここまで油断する事は大きなチャンスだ。この場を必死に逃げ切れれば、誰かに伝えられたら俺の勝ちだ。最悪ここで死んでもバトンさえ繋げられれば木伐の負けだ。


「は、話せよ。テメェの下らない犯行理由をッ何が目的で何人もの人を殺めたんだッ」


「俺の母親は殺された。なのに警察はろくに捜査もせずに自殺として処理した。そんな腐った組織の信頼を地に落とす為だ」


 木伐帆群の身辺は調べたが確かに母親は自殺したとなっていた。その杜撰な捜査を行った警察組織全体に対する復讐が目的なのか。


「それが理由かッ」


「馬鹿。そんな理由じゃあないに決まってんだろッ殺すのが楽しいからに決まってるッ」


「テ、テメェッ」


「俺が初めて目の前で人が死ぬのを見た時思ったんだよ。他にどうやって殺せばどんな風に死んで逝くのか。即死か、痙攣しながらか、はたまた恐怖を抱きながら徐々にか?それを観察するのが楽しいんだよ」


 ヤバいコイツは本当に狂ってやがる。

 今の体力では俺の爪にコイツの皮膚片を付ける事は叶わない。せいぜいこの場から離脱して逃げる事しかできない。コイツの存在を誰でも良いから伝えなくてはッ

 俺が起き上がろうとしたその時木伐は俺の手首を掴んだ。


「そうそう。死ぬ前に俺の犯行だっていう証拠残さなきゃな」


「止めろォッ!」


 これ以上の出血はマズい。しかも手首に切り込みを入れられたら間違いなく死ぬ。

 だが、抵抗虚しく木伐は俺の手首にローマ数字の8の文字を刻んだ。


「ウア嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ァッ」


 激痛が走る。しかしまだ意識がある。ならば逃げる事が出来る。俺は油断した木伐を押しのけ、起き上がりもう片方の手で手首の出血を止め、その手で腹も押さえながら走り出した。 


「まだそんな体力があんのか流石警察官だな。まっ、せいぜい頑張りなどうせその出血じゃあ直ぐに逝っちまうと思うけどな」


 木伐は追ってくる気配はない。予想だが、防犯カメラを恐れているのだろう。これで何とか証拠だけは残せそうだ。向かう先は必ず人がいると思う、高架下の公園を目指す。そこならアイツらが居るはずだ。

 朦朧とする意識の中、何とかそこに辿り着いた。最悪居なくても良いが誰かに情報を伝えておいた方が確実だと思う。


「み、見つけた、ぞ、おま、えたち」


 そこには俺から逃げていた不良たちが全員集合していた。後は彼らに犯人の名前を教えて通報してもらうだけで良い。


「ゲッ、見つかった」


 最初に反応したのはリーダー格の男だった。俺の口が回る内に早く彼らに伝えよう。


「おっさんも歳だな。ぜぇぜぇ言ってるぜ。それに腹押さえている。ジム通ったらどうだ」


 後ろの取り巻き共はその言葉を受けてゲラゲラ笑っている。どうやらこの暗さのせいで俺の出血に気付いていないようだ。


「おい!おっさん。俺たちはアンタに散々楽しみを妨害されてムカついてるんだよ」


 なんだ急に様子が変だぞ。

 いやな予感がする。


「おっさんは警察学校で柔道とかやってたと思うよ。だから普段の俺らなら抵抗できなかった。でも今のおっさんは体力ギリギリで俺らでもボコせる」


「ッ!?」


「日頃の恨みだ。みんなやっちまえッ!」


 そう言うと取り巻き達が一斉に俺に襲いかかって来た。既に抵抗する体力は無い。俺は殴る蹴るの暴行をその身で受けるしかなかった。


「や、やめてくれぇ」


「フハハッハ。なっさけねぇ大の大人がよォ」


 俺は地面にうずくまり更に攻撃を受けた。不良共の眼は笑っていた。木伐と同等の狂気。弱者を集団でいたぶる快楽に浸っているかのような。


「「「「死ね死ね死ね死ね死ね死ね」」」」


 『死』それが目に浮かんだ。殺される。彼らは俺の事を半殺しにするつもりなのだろうが、俺は既に瀕死だ。俺は手を伸ばすもその手は踏みつけられて、誰にも届かない。


「きばつ、ほむらが、はんに、ん」


 意識が無くなりかけてきた。

 

『ごめんな。ぬいぐるみ買ってやれなくて』


 最後に浮かんだのは最愛の家族の笑顔だった。完全に意識が無くなってもそれに気付かずに彼らは攻撃を続けた。


 郷田哲彦・・・・死亡



 ##############



 2017年 梅雨 都内某喫茶店にて


 二人の男女が向かい合いながら座っていた。二人は別に恋仲と言う訳ではなく仕事の同僚であった。

 

「で、郷田話しって何な訳?こんな雨の日に呼び出して」


 最初に口を開いたのは女性の方だった。彼女は紅茶を一口飲んでからそう切り出した。


「ああ、以前からお前に協力頼んでただろ?吉田とのこと」


 郷田は以前から同じく同僚の吉田に恋愛感情を抱いていた。しかし、当の吉田があまりそういう事に興味が無い為、同じく同期で同僚の花咲紗由枝(はなさきさゆえ)に協力を頼んでいたのだ。


「ええ、そうね。学生じゃあないんだから自力で頑張りなさいと思っていたけど。遂に踏ん切りがついたってわけね」


「いや、その逆だ。吉田の事は諦めようかと思う」


 郷田はどこか申し訳なさそうな顔でそう言った。彼は喫茶に入ってからまだ何も口に含んでいない。


「へぇ。それはどうして気が変わった訳?私からすれば結構お似合いだと思うけど」


 その言葉を聞いてもなお、花咲は冷静に言葉を続けた。そこに驚きは感じられない。


「最近、俺の両親が早く孫の顔が見たいだの言ってうるさいんだよ。だから、最初は覚悟を決めて吉田に告げようと思った。でも、気付いたんだよ。アイツの瞳は俺の事を仕事仲間の友人としか見ていない事に。だから、諦める」


 吉田倉佐(よしだくらさ)は恋愛沙汰とは真逆の人生を歩んできた女性だ。後輩たちに陰で『鬼の処女(デーモン・メイデン)』と呼ばれるほどに。だが、人並みに恋愛に対する感情は持っていると郷田は思っていた。しかし、現実は違った彼女はそのような感情を持っていない。初恋すら知らない可能性がある。その事に気付いた郷田は今まで築き上げてきた関係を守る為に諦める事にしたのだ。


「ふ~ん。まぁ、アンタがそれで良いなら、良いんじゃない。でも、どうするつもり。この国は沢山の人が暮らしてるけど、その中でも出会って関係を築けるのはほんの一握りよ。その中で良い出会いとなるともっと少ない」


「その点は問題ない。高校時代の先輩から婚活パーティーに誘われているんだ。良い出会いは自分から探しに行く」


「それ健全な奴よね?止めてよ、停職処分とかになるの。アンタは大きな戦力なんだからね」


「安心しろ。ちゃんと大手が運営している奴に参加する。あっちも俺の仕事の事には理解を示してくれている」


「なら良いわ。くれぐれも問題を起こさないでね。


「それ位は理解している。お前らにぁあ迷惑はかけない」


「なら、問題ないわ」


 その後、互いにこれと言った会話もなく。周囲の会話の音と外の雨音だけが店内に木霊する。

 そして、紅茶を飲み終えた花咲は徐に口を開いた。


「じゃあ、私は先に失礼させてもらうからね。長居すると、旦那に浮気疑われちゃうし。お代はアンタ持ちで。呼び出したんだからそれぐらいは払ってよね」


 彼女はそう言って立ち上がりバッグを手に取った。


「分かった。じゃあな」


「また、職場で会いましょ」


 そのまま、彼女は店を出て、郷田だけがこの喧噪の中に取り残された。

 それから数日後、郷田はパーティーで知り合いになった女性と恋仲になり、二年後に挙式を上げて子宝にも恵まれて幸せな生活を送りました。


 めでたしめでたし



 ##############



 遡る事数日前 2021年10月3日


 山門健はとある人物(馬飼琉助(うまがいりゅうすけ))に自前の携帯電話で連絡を取っていた。

 

「ああ、今言った所が住所だ。そこを張って貰えると嬉しい」


『了解だ。何か妙な動きをしていたら逐一報告させてもらう』


「助かる」


『気になったんだが、お前は何で警察に協力してるんだ?単純にお前がその犯人に負けたからか?それとも『正義感』で動いているのか。俺にはこの捜査が青鬼探しに必要であるとは到底思えないんだが』


 電話越しの声ですら琉助の真意が伝わってくる。

 俺が目的を見失っているという事を言いたいのだろう。俺がこの事件解決に動く理由がない。でも、どうしてだろうか。俺はこの事件を解決したい。


「理由はないし、思いつかない。それに俺たちの任務には一ミリも貢献しないかもしれない。それでも、黙って俺の我がままに協力してくれないか?」


 直観だが、この事件からは何か大事なモノが得られる気がする。


『お前の気持ちは良く分かった。まぁ、どっちにしろ協力するつもりだったしな』


「本当に助かる。ついでで悪いんだが、もう一人調べて欲しい奴が居るんだよ」


 俺は現在迂闊には行動できない。

 外で自由に動ける琉助はとてもありがたい存在だ。せっかくなんで使える限り利用させてもらおう。


『人使いが荒いな。まぁ良いが』


「いや、こっちの方はもしかしたら任務に関わるかもしれない」


『そうか。で、誰を調べれば良い』


黒崎亜流(くろさきアル)って言う高校生社長だ。俺は昨日、ソイツと遭遇したんだが、奴は俺に盗聴器とかを付けてきやがった」


 あの行動は明らかに怪しい。興味本位って理由にしては金を掛け過ぎている気がする。考えられる可能性は二つ、鬼側の者か、もう一人の探している人物の影村寿雄(かげむらとしお)の弟子かも知れない。おっさんは自分の弟子の容姿をなぜか教えてくれなかったが、正体を探るのも試練の一つなのかもしれない。てか、鬼側はおっさんの弟子知っているんでしょ?滅茶苦茶不公平な気がする。


『その名前は聞いた事がある。若くして大企業の社長に就任した自称イケメンハーフ高校生。テレヴィで見た事がある』


 アイツ意外と有名人なのね。でも、俺は彼の存在を知らなかった。まぁ、家すぐテレヴィ壊れるからあまり見ないんですけどね。


『確かにその行動は怪しすぎるな。分かった、こっちの方も俺の方で調べておく。ところでだが、さっきから気なっていたが、そのエンジンの音はなんだ。電話越しにも響いてうるさいんだが』


 そもそも何故俺が動けないかと言うと、俺は吉田さんの『フェラーリ』の助手席に座っているからだ。てか、捜査の協力すると言ってしまったので監視がてら、連れまわされている。


「気にすんな。ただ車で移動しているだけだ」


『そうか。なら、こっちもお使い頼んでいいか?』


「別に動ける範囲でなら良いぜ」


 さっきも言ったが俺は警察に協力している身だから。行動範囲がとても狭い。


『問題ない。一昨日起きたであろう事件の現場に行ってもらうだけだ。もし、あったのならその事件には能力が使用されたかもしれない。お前ならそれぐらい調べられるだろ?』


「グッドタイミングだな。丁度その現場に向かっているところだ。多分こっちがお前の言っている方だぜぜ」


 俺の証言により一昨日、殺された女刑事の事件が一連の犯人ではないと確定した。そして、その事件の数十分前にも別の事件が起きていたらしい。そっちの方も犯人が違う事はほぼ確定しているが、容疑者がまだ見つかっていないらしく、こっちの方を優先で調べる事になった訳だ。で、そっちの方が不可解な死に方をしていたから俺も連れて来られた訳。


『なら問題ない。そっちの方も情報が掴めたら教えてくれ』


「了解。じゃあ、こっちの方もうすぐ目的地に着くから。一旦切るわ」


『了解だ。こっちも何か分かったら連絡させてもらうわ』


 そうして通話を終えた。そのタイミングでフェラーリも停車した。

 エンジンを切ると同時に今まで運転に集中して黙っていた吉田さんが口を開いた。


「電話は終わったようだな。で、お前の友人が『木伐帆群(きばつほむら)』を尾行するわけだな」


「その手はずです。仮に昨日俺を殺したと思っているのなら、今日明日じゃあ動かないかもですけど、犯行の計画は立てている可能性が高いと思いまして」


 俺はシートヴェルトを外しながら答え、車の外に出た。それ合わせて吉田さんの方も車から降りて話をしながら現場に向かう事になった。


「つまり犯行を先回りして、寸前を現行犯で確保するっていう事か?」


「それが理想ですね。最悪の場合は、その計画と犯行が一致していれば、事後に押さえられます」


「いや計画の証拠を形として押さえる事が出来ればな」


「そうですか。まぁ、何なら俺が現行犯で捕まえますよ。木伐の奴だって俺が生きているとは夢にも思ってないはずですからね」


「そりゃあ勇ましい事だ。だが、出来れば警察にも花を持たせてくれ。このことが最低なのは分かっている。でも、ここまで来て犯人確保が通りすがりの少年Aとかは顔が立たないって上は言うだろう」


「分かりましたよ。じゃ、せめてこっちの方の犯人は俺が貰いますね」


「それがお前たちの目的なんだろ?だが、ソイツは明確に人を殺めている。人間なら人間の法で裁く必要がある。だから殺すなよ」


 鬼は人間か否かと聞かれればきっと人間なのだろう。だから人権もある。それでも、青鬼は推定でも10人は確定で殺害している。そんな奴を人権を盾に生かして良いのか?その答えはおっさんに聞いても答えてくれないのだろう。自分で探すほかは無い。


「そうですね。俺は人間なんだから、殺せば俺が裁かれる」


「そうだ。それが法治国家の在り方だ」


 そのまましばらく進み、現場に辿り着いた。

 丁度建物と建物の(はざま)にある路地だった。


「何か感じる事はあるか?」


「と言われましても、感じるというなら不気味な雰囲気って事しか」


 妖気レーダーを使って残留している妖気を確かめたいが、反応が特にない。ここに来る前に吉田さんから事件の資料を見せてもらったが、アレは明らかに妖気法使いによる犯行だと思う。てか、でないと説明が出来ない。


「でも、この事件の犯人が俺が追っている人物である事は間違いなさそうですね」


「そうか。それだけか。出来れば被害者の名前さえ分かれば良かったが。しょうがないな」


 確か遺体は身元が特定不可能な様にされていたらしいな。仮に青鬼がこの人物を殺したとして、それは何故だ?

 聞いた話によると、荼鬼種以外の鬼の角は妖気の結晶化したもので特殊な光の反射によって目に見えるようになっているらしい。つまりただ潜伏する為なら角を妖気を使って隠せばいい。それをしないという事は、出来ない理由があるのかそれとも、しない方がメリットがあるかのどちらかだろう。この出来ないっていう事はほぼない。つまりメリットがあった。ターゲットに近づき安い身分になり替わった可能性が高い。この場合は家族の居ない独り身の方が都合が良さそうな気がする。

 この過程からすると、被害者は身長180cm越えの独り身。仮にアルの奴がターゲットだとしたら、それに近づく事が用意な身分である。だが、近すぎてもアル本人に気付かれかねない。つまり取引先の人間になった。これなら身元が絞れそうだ。


「少し分かった事が有るかも知れません。証拠がないので確定ではないんですが、この事件の捜査俺達に任せてもらっても良いですか?」


「初めからそのつもりだ。あともう一件、事件があった所に行く予定だが、付いて来い」


「分かりました。その前に電話良いですか?」


 俺は追加の捜査依頼を琉助に頼むために電話をした。その電話において琉助から良い情報を仕入れた。木伐がボロを出したらしい。入手手段は分からないが、木伐の次のターゲットは警察官の誰かを見せしめに殺すつもりらしい。


 俺は電話を終えるとネットにて二つの物を購入した。



 ##############



 10月7日 十八時半


 郷田哲彦は何者かに攻撃を受け、その後死亡した。

 俺は被害者となった郷田さんの財布を手に取った。郷田さんにはあらかじめ外に出る時に、常に財布を持ち歩くように指示をしていたのだ。


「お前。何漁っているんだ?それはお前の財布じゃないだろ」


 俺の不審な行動に対して、吉田さんは突っかかって来た。その言葉に耳を貸すことなく俺は、財布の小銭入れを開けて、手を突っ込んだ。


「何やってん、、、、だ」


 俺が手に取ったモノに気付き、吉田さんは何か察したようだ。

 俺が手に取ったのは小型のボイスレコーダー。そして、録音ボタンは押されていたままだった。


「この間、郷田さんから聞いたんですよ。もしも自分の身に何かあっても犯人の音声でも、残せるように小銭入れに常にこれ入れているって」


 このボイスレコーダーに録音された音声には木伐帆群が自身の犯行を認める音声が記録されていた。少なくとも、郷田さんを殺した犯人が木伐である事は確定したわけだ。


「これで証拠は手に入れましたね」


 俺は吉田さんにそのボイスレコーダーを手渡した。

 

「これは郷田さんが吉田さんに繋いだバトンですよ。木伐を捕まえましょう」

 

 それを受け取った吉田さんは俺に背を向けた。そして、そのバトンを強く握りしめた。

 そして一言。


「郷田。お前からのバトンは私が受け取ったよ」


 そう言った。彼女はどんな感情を抱いているかは分からない。だが、今は悲しんでいる場合ではない事を理解しているはずだ。

 その後、郷田さんの血の跡を辿り、木伐が襲撃したと思われる場所に歩いていた。そちらの方にも何か証拠になる物が有るかも知れないからだ。

 だが、そこに向かわなくても既に木伐はチェックメイトにはまったのだ。だから、片方は片付いたも同然、そう安堵した瞬間。

 圧倒的暴力が壁をぶち抜いてきた。その場に居た全員がそのとっさの出来事に静止した。そして、その暴力は反応の遅れた俺の腹を殴り飛ばした。


「グゥアアッ!」


 その一撃で俺は吹き飛ばされた。とっさに背中に妖気を纏ってダメージは軽減したが、初撃はもろに喰らってしまった。このパンチ、マテウス以上の威力だ。肋骨が何本も折れた気がする。


「ブッハァッ」


 次の瞬間、俺は大きく咳き込んだ。だが出たのは咳だけではなかった。俺の眼にははっきりと赤い血が見えていた。


「大丈夫か!?」


 吉田さんは俺のそばに駆け付けてくる。だが、そんな事は今は眼中に無かった。俺はこの暴力の犯人に対して睨みを飛ばしていた。


「へぇ~。まだ血は出るのか」


「何者、、、、だッ!テメェ」


 もしかして青鬼か?いや、一年前と出会った時とは顔が違い過ぎるし、こうして奇襲を仕掛けてくる理由が分からない。どう考えても新手の鬼だ。


「そうだな。俺はァ唐暮勿牙(からくれないが)。なァ~にィただの赤鬼だ」



 ##############



 10月7日 十九時


 琉助の方も単独で黒崎亜流関係の捜査で動いていた。そうして、もうすぐ青鬼の変装したであろうと思われる人物の特定まで至る所であったが。


「何もんだ?アンタ」


 俺が帰還しようと、斎藤さんに連絡を取った直後、目の前に角の生やした男が現れた。どう見ても新手の鬼だ。

 

「俺は裂喰の魂(れっくうのこん)って呼ばれている荼鬼だ」


「俺に何の用だ?そんな強そうな鬼様が?」


「君のせいで殺された弟の仇だよ」


 これは厄介な事になったな。この状況、何とか逃げ切らなければ。


 こうして長い夜が幕を開けた。


 次回、久しぶりに戦闘回です。多分。

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