5話 東京連続殺人事件簿その四 遭遇と遭遇
前回に入りきらなかった場所を序盤にぶっこんでいます。
それでは衝撃に備えろッ
10月1日 新幹線内にて
「一つ聞きたいんだが、本当にホテル代を用意しなくて良いんだな」
俺の前の席に座っている琉助が尋ねてきた。いや、一応は必要だよ。一日分はね。
今回は一年前に俺の家に来たフリーの記者の斎藤壱の家にお泊りさせてもらおうと考えている。あの時は、色んなマスゴミニケーションの輩にイラついていたからな。
「大丈夫だ、問題ない。連絡を取ったら、快く許可をくれたよ」
スゲェ、嫌な事を言って追い払ったのに、何なら顔出ししていなかったのにな。名刺がポストに入っていたので、いつの日か謝罪しに行こうと思い取っておいたのだ。
『嘘つけッ、お前が「あっ、ラッキー」って言って名刺を発見した事は、俺が見ているんだぞッ!』
おいおい、記憶をおっさんに捏造されたのかよ。そんな事をしている訳ないだろ。はっはっ。
「どうした?急に変な笑み浮かべて、腹に悪いもんでも拾い食いでもしたか?」
琉助君は俺の地の文が読めないから、困惑してらっしゃる。
「いやな、昨日ネットで見た動画を思い出し笑いしてた」
「そうか。肝心な時にそれ出すなよ。あと俺は今から寝る」
そう言って、琉助はバッグからアイマスクを取り出して、眠りに入った。俺も寝ようかな。
『俺がいる限りお前に安眠は無いぞ』
『黙らないと俺の秘蔵のスプラッター映画見始めるぞ』
心の声で話すのは少々難しいな。練習の必要がありそうだ。まぁ、スプラッター映画見せても荼鬼にはダメージは無いだろう。鬼だし。
『黙るからマジでそれだけはやめろ。俺はグロは苦手だ』
いや、どの口が言ってんだよ。さんざん残酷な殺しやってきたし、ゾンビ操ってただろ。
『実際に見るのとやるのは全然感覚が違うんだよ』
普通、逆じゃね?と思ったが、気にしたら負けだと思う。だが、良い事を聞いた。これからは『チャッキー』がうるさければ、そう言って脅せばいいんだ。
「おいッ!人を殺人人形みたいな名前で呼ぶんじゃあねぇッ!つか、俺のどこにチャッキー要素あんだよッ!』
いや、ほら、『荼鬼』の『荼』って文字は漢字の『茶』に似ているじゃん。それで、『茶鬼』だろ。茶鬼→チャッキーって感じ。たった今思いついた。
『理由が俺の想像以上に酷かった』
よし俺も眠りに着こう。目的地まではそこそこ時間のかかるから体力は温存しておきたい。
荼鬼がうるさくない事を祈ろう。誰か、心の声専用の耳栓を作ってほしい。頼む、次世代のエジソン。
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現在 鉄格子の奥
『さてと、そろそろ脱獄するか』
心の声で返事を返すことにもだいぶ慣れてきた。これは慣れて良い才能なのであろうか?いや、今更もう遅いか。
『どうやって脱獄してやろうか』
『いやお前普通にあのキューブ使ってだろ?とぼけるな、お前にはそれしか出来ないだろ?どうせ』
『まぁ、そうだがよ。だから何だよ。能力はこれから開発すんだよ。黙っておけ』
能力の作り方はここに来る前におっさんに叩き込まれた。妖気法能力は『何かに変化』を与える。例えば、おっさんは脳に影響を与え記憶に関する様々な変化をもたらす。笹原さんなら、物質の中の原子の間を縮める変化をもたらしている。これは俺の考察だがマテウスの『伸・炎鞭腕』とかの能力は自身の体温を変化させていたのではないかと思う。
『お前って能力持っていないのか?荼鬼種の以外で』
『鬼族はその血に半分以上の荼鬼種の血が混じっていると、妖気法を一切として扱えない種族だ。そして、俺は純潔の荼鬼種だ。覚えておけ』
へぇー。コイツが純潔ね、同じ純潔の青鬼も同様に弱いと思ってしまう。
『油断すんなよ。青鬼様は俺の兄貴と体術だけで互角に戦える存在だぞ』
ヤバい増々弱く感じてきた。これは決戦時に本格的に気を引き締めなければ、俺の命が危ない。
『一つ言っておくぞ。青鬼様は中鬼の位だが、その中でもトップの実力で実際は高鬼50人の中でも真ん中より上の実力を有している。並みの妖気法使いならいともたやすく屠れるぞ』
これは、強く感じるセリフですわ。てか、それマジで俺で勝てるのか。なんか、一面クリアした直後に五面のボスに挑んでいる気がする。計八面中の。
『そんな事よりも、ここからささっと脱獄しないと、戦う以前の問題だろ?』
荼鬼に正論を言われてしまった。これはショック。後で腹を切って道連れにでもしようかしら。いやそれでは荼鬼に否、チャッキーに肉体を与えるだけになってしまう。
『だから、チャッキー言うなッ!』
うるさい荼鬼は無視して、そろそろここを出てしまおう。いい加減、琉助も待ちくたびれているかも知れないしな。
俺は隠し持っていたキューブを使って牢屋のドアを収納、そして、お手軽に脱獄した。あとは、バレずにここを出るだけだが、
「秘儀ッ!妖気法レーダー」
妖気を地面から流し周囲の人物の『動きの変化』を探知する。これは物質に妖気を流す技術の応用だ。使用する妖気は範囲と時間によって変わるが、俺の『貯金』ならば一週間出し続けても問題ない。
貯金と表したが、人の一秒間に溜め込む事の出来る妖気量は決まっている。俺の場合は45。おっさんは63、笹原さんは86。これの量が多い人程寿命が短いとされている。まぁ、本来、貯めていくだけの妖気を消費できる妖気法使いにはそのルールは適応されないが、逆に妖気が底を尽きるとどうなるのか?その場合は心臓などの生命を維持する為に必要な器官に『動きの変化』を与えられなくなってしまい危険らしいが、一秒間で妖気を補充出来るからほとんどそんな事は起こらない。ただし溜め込んだ妖気を超過するぐらいに妖気を消費したら話は別だ。その場合は溜め込まれるはずの妖気が足りない分の補填に充てられる為、そのまま死亡してしまうらしい。因みに俺がマテウスとの戦闘で消費した妖気は10桁ぐらいらしい。ギリギリセーフ。
それ加味して今後の能力開発を考えなくてはならない。
『お話が長いよー』
『地の文を勝手に読んだくせに文句言うな』
とりあえず、ここを抜け出す前に色々、手に入れておきたいモノがある。俺には青鬼がこの東京のどこにいるのかの手がかりが何一つとして無い。だが、青鬼が動いているのであれば、それに関する何かしらの資料が有るかも知れない。
『そんな事をしている場合かよ?いくらレーダーを使っても、そういう資料がある所ってのは警察官の一人や二人ぐらい常駐しているだろ?』
『安心しろ、なんとかするさ。妖気法使えば、気配ぐらい殺せるだろ』
『気配消しても視覚情報として残る事を忘れんなよ』
それでも、このチャンスを逃せば青鬼を探しに掛かる道が遠回りになってしまう。奴はおっさんの弟子を狙っているとしたら、それがタイムリミットだ。だから、遠回りしている余裕はない。
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その後、何も語る事もない程にあっさりと資料を手に入れることが出来た。ここ最近の事件の色々な資料を漁ったが、一つだけ明らかに妖気法使いが関与していそうな事件を見つけた。それもそれの発生は昨日の晩、予報外れの大雨が東京を襲った辺りだ。しかも状況も不自然だ。次いでと言ってはあれだが、『東京連続殺人事件』の資料も一緒にまとめられていたので持って来た。
資料を入手してからも段ボールに隠れるなりして、施設からの逃亡に成功した。これからは、警察にも追われる事になりそうだが、そんな早くは捕まらないだろ。現在時刻は夕方の5時、流石に琉助を待たせすぎたな、急がねば。
『しかし、財布とかほとんど取りに行っていないだろ?持っているのはキューブだけだ。これじゃあ、電車もタクシーも拾えないぞ』
『いや、しょうがないだろ。流石に刀と回収すんのは危険度的に優先順位が低かったんだ。今度、回収しに行くよ。準備が整ったらな』
『そうか、取りに行ける時に取りに行かないと後々、忘れて他の奴が尻拭いする事になるんじゃねぇか?』
『そん時はそん時だ。今は時間が惜しいんだよ』
という事で俺はダッシュで、東京の街を駆け抜けた。正に夕に駆けるってやつだ。
『何か違くね?』
細かい事は気にしてはいけない。
斎藤さんの家の住所は知っているが、ここがどこなのかもさっぱりとして分からん。どこかに地図が無いものか。せめて現在位置さえ分かれば。
そうして、三十分近く走り続けたが、、、
「この街は迷路かッ!何で似たような建物ばっかなんだよッ!」
俺は公園のベンチの上で叫んでいた。
完全に道に迷ってしまったのだ。誰かこの迷子の子猫さんを助けてくれる犬のおまわりさんはどこかに居ないものか。
『いや、お前は警察から逃げてきたんだから、今見つかったらまたパクられるぞ。そしたら、リスタートだ』
確かに、個人的にはこの状況は非常に辛い。お金もねぇ、装備もほとんどねぇ、地図もねぇし、警察俺を探してぐーるぐる。
『すべてお前が悪いって事を覚えておけ』
「そりゃねぇーぜ」
しかし現実問題、原因のほとんどは俺にある。残りは荼鬼。大体一対九で俺が悪い。
『それじゃあ、ほとんど俺が悪い事になっているんじゃあねぇか』
まぁ、細かい事は気にするな。ここは俺が悪くないって事が重要なんだよ。こ、こ、が。
「さてと、そろそろ行くか。今はもう5時半だよ。このままでは晩飯が食えなくなってしまう」
いい加減どうにかこの状況とこの魔宮から脱しなけばならない。
『再三言うが、この街が魔宮と化しているのはお前のせいだからな』
「はいはい、俺が悪ぅござんした。・・・・・ッ!?」
俺が張っていた妖気法レーダーに誰かが引っ掛かった。足の大きさ的には子供じゃあなく男性。それも一人だ。足の進め方は普通、忍びよる様な感じとも圧迫感を迫る様な迫り方でもない、至って普通。
「止まれッ!お前、何者だッ!」
俺に呼び止められた男は、そのまま歩みを止める事なく俺の正面まで歩いてきた。その風貌は白色のスーツの中に青色のシャツを着こんでいる。付けているネクタイは赤色をメインとして黒の斑点がついている。髪は金髪で顔は日本人よりだが肌の色は白く西洋人のそれだ。シルクハットの様な帽子を被っている。どう考えても常人の出来るファッションじゃなかった。どことなく雰囲気がおっさんに似ている気がする。
「驚かせてしまったね。でも、こんな時間に公園で座っている君の方が何者だ、って感じだけどね。僕からすれば」
とりあえず名乗っても問題はないだろう。まぁ、身分は偽っておこうかな。
「それは失礼した。俺は山門健。・・・ただの観光者だ。バッグをどっかに落としちまって、見ての通り道に迷っている訳だ。これで何者か分かったか?」
「おっけい。じゃあ僕も名乗ろうかな。僕の名前は黒崎亜流。見ての通りイタリア人の母と日本人の父の間に出来たいわゆるハーフってやつ?職業は高校生社長って感じ?」
なるほど通りで常人では着こなせない様なファッションセンスしているのか。良かった、『ヤ』の付く人の関係者とかじゃなくて。
「高校生?じゃあほぼ同い年って事で今後も敬語は必要なしで?」
「いや、君は17歳だろ?僕は高校三年生の18歳だ。DVDショップの18禁コーナーにも堂々と入れる。だから、君は僕に敬語を使うべきだと思うよ」
「俺、年齢言ったか?何で知っているんだ」
「ところで君は道に迷っているんだって?目的地の住所教えてくれれば、僕の車で送っていてあげるよ」
はぐらかされた。でも、今この蜘蛛の糸を掴めば楽に琉助と合流できる。ここは利用しない手は無いな。
『いや、ただより高いものはないって言うだろ。自力で行った方が良いと思うぜ。まだ、相手の正体をしっかりと掴めていない訳だからな』
『安心しろよ。コイツが敵でも俺が妖気法使ってボコすだけだ』
『慢心はやめておいた方が良いぜ。妖気法はお前が考えているよりも『無敵でも万能でもじゃない』からな』
妖気法使いじゃいくせに、嫉妬か?
確かに俺の妖気法はまだ未熟だが、一般人には負けるわけないだろ。
『もう知らん』
「で、どうだい?乗っていくかい?」
「是非ともお願いします。えっと、住所は、、、ちょっと何か紙と書くものありません?」
流石に斎藤さんの住所をまんま教えるのは問題だから、そこから一キロぐらい離れた位置を紙に書く予定だ。
「ちょっと待ってね。これで良いかい?」
亜流が胸ポケットから高級そうな万年筆と手帳を取り出し手渡してきた。物凄いマウントを取られた気がするが、借りている分際で文句は言えまい。
「ありがとうござます。ちょっよ待って下さい。今書くので」
万年筆は初めて握るから扱いがイマイチ苦手だ。それにしても手触りがすごく良いな。気に入った。
記憶の中の住所を思い浮かべ、そこから計算してある程度離れた所の住所を書く。
「ここです。ここまで送ってもらえると嬉しいです」
そうして書いた手帳を開いた状態で亜流に渡した。
「おっけい。公園の外に車止めているから」
亜流が指を指した方角にはいつの間にか車がそれも黒塗りのリムジンが停車していた。
いくら何でもありえないだろ。車の音がしていたらレーダー張る以前に誰だって気付く。
『荼鬼、あのリムジンいつから止まっていた?』
『知るかよ。人様の忠告を無視する様な奴には協力しないって心に誓っているんだよ』
使えない心の声めッ。今日お前は一切役に立っていないんだよ。少しは働けヒキニートめッ。
「どうした?そんなにリムジンが気になるのか?生憎あれは僕だけの所有物じゃあなくてね。親が保有しているから勝手に貸し出せないんだ。今度僕の愛車の『メルセデスベンツ』なら貸してもいいけど」
色々とツッコミたいがもうこうなったら気にしたら負けだな。俺が考えごとに集中しすぎていて気付かなかった事にしよう。てか、この人免許持っているのか?いや、そこも気にしたら負けだな。
「じゃあ、お願いしますね」
そのまま二人でリムジンに乗り込んだ。中は凄く広くてそして座席は座り心地抜群だぁ~
俺の正面には亜流が立ちながら付属の冷蔵庫から何かの飲み物が入った瓶を取り出していた。
「君の目的地まではしばらく時間の掛かる事だから、飲み物でも飲んでゆっくりとしようぜ。安心しろよ、これはアルコールの類じゃあない。長野県産のリンゴを使った果汁100%のジュースだよ」
そう言って亜流はリンゴジュースをグラスに注いで、俺に渡してくれてた。怪しいがここは飲まなきゃ失礼というもの。
「毒も入って無いぜ。試しに俺が飲んでみても良いぜッ」
そう言って亜流はグラスの中身を飲み干してみせた。
「それとも、そのグラスの淵に毒が塗っていると思ったのかな?そっちの方も俺が毒見しようか?間接キスになるけど」
キメ顔でそう言われると無性に腹立たしく思うが、何故だろう?そういうところもあのおっさんに似ている気がする。
「遠慮しておきます。それに俺を殺すメリットがないでしょう?」
そう言って俺はグラスを飲み干した。まず感じたのは炭酸の軽い辛さ、その次に口の中にリンゴの香りと甘味がいっぱいに広がる。何となくだが、高級な味がする。だが、
「すいません。俺、炭酸苦手です」
正直、炭酸系の飲料水は苦手である。微炭酸でも無理ィーーー
「ごめん、ごめん。でも、このリムジン炭酸しかないんだよ。本来は女の子達とパーリィナイトを楽しむ用のモノだからね」
「勝手に使って良いのか?母親の車だろ?」
「父親が他界してから、母親と二人三脚で会社を経営していて、僕が商談とかに行く時とかに借りているんだ。それ以外は車でパーティーに行く時とかね」
「へぇー。意外とチャラいんですね」
「僕はね今まで両手の指では数え切れない程の彼女が居たし、一か月前までは5人ぐらいと同時に交際してたかな、まぁバレちゃって全員に振られたけどね」
「へぇー。羨ましいですね。モテモテで」
「でも、君もモテるだろ?顔は悪くないし、頭も成績380人中100位以内って感じで悪くなさそうだし、ファッションセンスも雑誌を良く読み込んでいて流行を掴めている。髪は美容室に通う事をお勧めするけど。まぁ、しっかりと整えれば気にならないだろうし」
亜流は俺の身体の随所随所を指差し確認しながらそう言ってきた。何だろう、全体的に褒められている気がしない。あと、この人のセンスで俺の服装褒められるても、なんか嬉しくない。むしろ心配になる。
「生憎様、俺はパートの奥様方にしかモテませんよ」
「逆に凄い事じゃないか。僕なんて、やれ高校生モデルだとか、テレビ出演するほどの大人気アイドルだとか、名門大学のミスコン優勝者とかで、中身の薄っぺらい女ばかりだぜ」
何コイツ。さっきから俺にナチュラルにマウント取りに来てやがる。これは天然とかそんなもんじゃなくて、悪意を込めている。
「俺はそっちの方が良いですね。女性からモテるコツってあるんですか?」
「いやー。俺でも口説けなかった女が居たからな。俺のアドヴァイスなんて参考にならないぜ」
「それは気になりますね。どんな人だったんですか?その口説けなかった人って」
このイケメンマウント野郎のイタい失敗談はスゲェ―気になる。
「いや、思い出したくもないね。それに下手なこと言うと、また同じ目に合いそうだし。まぁ幼馴染的なというか妹的な奴なんだけどね」
「妹的な幼馴染を口説かないで下さい。てか、思い出したくない程の事って逆に気になるんですけど」
「そのうち分かるさ」
亜流はとても小さな声で何かを言ったようだが、全く聞き取れなかった。
「えっ?何て言いました」
「いや、何でもない。ただの独り言だ。それに思い出したくないって言ったろ?そういうものをむやみに詮索すると、モテないぞ」
「そういうものですかね?」
「そういうものだよ」
その後は軽い雑談を交わしながら目的地まで車で運んでもらった。辺りは今までのビル街とは異なり、普通の住宅街って感じでなんだか意外って感じた。この時期だからほとんどの家で暖房をつけているのもあるのかも知れないが、謎の温かさを感じた。
「どうやら目的地に着いたみたいだね。僕らもそろそろお別れか」
「そうみたいですね。おろす場所ここで良いですよ。後は自力で向かうんで」
「おっけい。運転手ッ!車止めてもらって良いかな。終点だッ!」
亜流は手を二度叩いて、前の方で運転してくださっていた運転手に止めるように指示を出した。
そうすると、何も返事のないまま車に緩やかにブレーキがかかりだして、やがて停車した。そして、ドアが自動で開いた。
「送っていただき本当にありがとうございました」
「いいや。どうって事は無いよ。困った時はお互い様さ。まぁ、この恩はもし今度会ったら返してくれていいよ」
「まぁ、俺が覚えていたら必ずこの恩を返しますよ」
「そうしてくれ。そうだ、僕と君のこの出会いを記念して、この万年筆をプレゼントするよ。これがあれば君は僕の事を忘れないだろ?」
亜流はそう言って、胸ポケットから最初に俺に渡した万年筆を取り出して手渡してきた。さらに言えば一万円札も俺の手にいつの間にか握らされていた。
「ついでに軽いお小遣いを」
「本当に何から何までありがとうございます」
「最後だし、握手でお別れしよう。また巡り合える様にね」
亜流は俺の前に右手を差し出してきた。それに応じて俺も自然と右手を差し出していた。
「またいつか会いましょう」
そして、俺の手と亜流の手が握手しようと触れた瞬間。ピリッと軽い静電気が起こった。俺はビックリして手を後ろに引いてしまった。だが、気のせいだろうか。一瞬、軽い光が目に映った気がした。
「もう十月だからね。手も乾燥しちゃったかな?それじゃあ、縁があればまた会おう」
そうして、亜流は車に乗り込んで、どこかに去ってしまった。俺の手は開いたまま放置されていた。そんな俺にはもう一つ疑問があった。
「俺、今妖気纏っていたか?」
妖気は人間には探知する手段はない。分かるのは別々の妖気が衝突した時だけである。それ以外だと、不確かな感覚を頼りにする必要がある。でも確かに今妖気を纏っているのが分かる。
『・・・・・・・・・』
荼鬼の奴は俺が車に乗ってから一切話しかけてこない。なんだか、それはそれで寂しい気がする。
俺は不意に手に握らされた万年筆に目線を落とした。どこから見ても高級そうな品だ。いくら金持ちでもこんな品を易々とあげる事が出来るのだろうか?
俺はその万年筆を思いっきり地面に叩きつけた。
『お前ッ!?何してんだよッ!』
おれの突然の行動に今までだんまりを決め込んでいた荼鬼がようやく反応を示していた。俺はそんな声に反応せずにその場にしゃがみ込み、壊した万年筆に注目した。
「やれやれ。これで貸し借りなしだな。あの野郎ッ」
万年筆の内部には謎の機械が仕込まれており、素人目でもそれがどんな機能を有していたか理解できる。
「発信機と盗聴器か。アルの野郎が何の目的があって仕込んだかぁ知らんが。次にで合った時は覚悟しておけよッ」
日は沈み。辺りは完全に闇に包まれていた。
「おいッアンタ。止まれッ!何者だ」
またしても俺の張っていた妖気法レーダーに何者かが引っ掛かった。今度は亜流の時とは足の進め方が不自然だ。その気配の主は俺に声を掛けられた事で歩みを止めた。
「・・・・・・・・・・」
流石に今度は完全な不審者だな。俺の予想は、、、、
「アンタが例の殺人鬼で良いのか?」
何故かそんな予感がした。違ったら俺が痛い奴になるだけだ。
「・・・・・・・・・。・・・・・・・・・」
「これは正解って事で良いのか?それで俺を殺害しに来たとッ。そろそろ振り向いて良いか、その顔を拝見したいんだが。いいよな?いいな」
俺はそう言って後ろを振り向いた。そこにはナイフを持った全身黒づくめの服を着た痩せ型の男が立っていた。身長は俺と同じぐらいだから170㎝ちょいって感じだな。コイツ捕まえたら俺の逃亡チャラにならないかな。無理か。
『相手がただの人間だからって油断すんなよ』
問題ない。この程度のあいてなんかな。
「・・・・・・・・・・・・」
俺が状況を理解すると同時に、合図もないまま、男はナイフの持ち手を両手で握り俺の腹部を目掛けて走って来た。俺は華麗なバックステップで最初の一撃を躱す。この程度なら余裕だ。
『馬鹿野郎ッ!』
ここで俺は明確な油断をした。男は俺が後ろに飛ぶことを予想したのか、ナイフを空中に垂直に投げてきた。
「ッ!?」
その油断が俺の反射的に躱す事を許さなかった。俺が着地すると同時にそのままナイフはその鋭利な刃が俺の腹に向ってきた。俺は反射的に腹に妖気を纏うがナイフはそれをいとも容易く貫き、腹に突き刺さった。その反動で俺は後ろに大きく倒れこんだ。男は更に追撃するかのように更に深くナイフを押し込んだ。
「ぐっああぁッ!」
『おいッ!大丈夫かッ!』
やばいってッ!意識がぶっ飛ぶ。なんか変な幻聴も聞こえるし。いやこれ幻聴じゃなかった。これは荼鬼の声だ。
『ふざけている場合じゃあねぇぞ。このままだとマジで殺されるぞ』
てか、既に手足の感覚がなくなってきた。
男はそのまま何度も何度も俺の腹部にナイフを刺してきた。背中を温かい液体が伝って行く。薄れゆく意識の中で俺は地面に転がる発信機の方に目をやった。もしかしたら、異変に気付いた亜流の野郎が戻ってくるかもと思ったが、発信機と盗聴器を壊したのは俺だ。当然、助け何て来ない。
そして、目の前が真っ黒になった。
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通報があった。現場はただの住宅街。
それも私たちが木伐帆群の家から戻って来て、山門健が脱走したと聞いてその捜索している最中にだ。私たちはすぐにその現場に駆け付けた。
そこには良く見覚えのある人物が仏様になっていた。
「どうして、山門健が死んでいるんだ」
山門健は腹部を鋭利な刃物で何度も刺されて死んでいた。
その手首にはローマ数字の7の字が刻まれていた。
これにて東京編プロローグの終幕です。
次回から第一幕が始まります。果たして吉田は犯人を捕まえる事が出来るのでしょうか?




