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紅の赤  作者: 青階透
鬼殺し偏赤鬼偏
10/61

3話 旅立ち


 プロローグも終わってとうとう物語が動き出します。と言っても最初の戦いまではそんなに長くはないです。

 

 まぁ、そんなことはさておいて、どうぞお楽しみ下さい。

 

 おっさんからメールが送られてきてから、今日で一年経過した。

 『クリスマスには帰れるさ』とか書いてあったが、歴史は繰り返すものでスケールダウンはしたものの、その文言は綺麗なフラグとなり回収されたわけだ。

 メールの続きも送られることもなく、俺には何が起きたかさっぱり分からん。その為、この一年間で俺にできることはバイトしながら基礎トレーニングをするぐらいだった。


 何故バイトを始めたかは、親の遺産に縋って生活しても良いが。少しは社会で生活してみようと思って、近所のコンビニエンスストアで働くことにした。文字通り二四時間どの時間帯でも働いている。おかげさまで、パートさんの奥様方達とも同年代の人以上に仲良くなっている。給料は毎月六桁ほど貰っているよ。そこから生活費を引いて、俺の趣味や衣服に使うお金を引くと半分も貯金に回せないのが、悲しいところ。

 今のとこは色恋沙汰には今は興味がないが服装や髪形には気を付けている。母親がセンスが良かったので、遺伝的に俺もセンスがまぁまぁある。それに加えて琉助が仕事の為に買ったファッション雑誌をこっそり読んでいる為、流行には付いて行っているはずだ。因みに髪形などはパートさんからは大好評である。店長からは程々にしておけと仰せられたが、琉助よりはましなので、良いだろう。

 

 琉助で思い出したが、アイツもこの一年で色々あった。まずは半年前、アイツの親父が死んだ。その件はニュースでもあまり報じられなく、新聞の隅っこの方に小さく取り上げられるぐらいで詳細はあまり分かっていない。その後、琉助の母親も病気がちになり事件から二か月後に息を引き取った。双子の弟妹は母親の死後に札幌の郊外に位置する孤児院に引き取られてしまった。その際にアイツは既に経済的な自立は行えているとみなされ、今はアイツも一人暮らしをしている。最初は俺の家に一緒に住もうかと提案したが、それは断られてしまった。それ以来琉助は二週間近く元気がなく、仕事も休んでいた。

 そんな琉助だが今、目の前に居る。そして旅行雑誌を広げている。


「岩手って若者が行く先にはちと地味じゃないか?」


 琉助は少し嫌そうな顔をしながら、そう言った。そんな琉助だが姿は派手派手だ。髪は毛先の方は黒く染まっているが毛元の方になるにつれ地毛の濃い茶髪が目立つ。長すぎず短すぎずに綺麗に後ろで縛られている。服装はと言うと良くネットで悪い意味で話題になる人々が身に着けているブランド品の服を纏っている。色は白を基調とした黒の柄に真ん中にはアルファベッドで書かれたブランドのロゴが見受けられる。普段の仕事ではもっと派手派手らしいので逆に気になる。


「いや、温泉とかあるだろ。何もない都道府県はこの日本国にはねぇよ」


 俺は一週間前から岩手に旅行したいと考えていたのだが、その事をコイツに見つかり琉助も旅行に参加することになった。しかし、この旅行の真の目的は観光にあらず。

 先週、テレヴィジョンのお昼番組を見ていたら岩手県特集なるものをしていて、そのVTRにおっさんこと影村寿雄が映りこんでいたのだ。これには俺もドラゴンボールZのオープニングのミスターサタン張りに驚いた。しかしふと思った。このロケーションを行ったのはいつかと。なので問い合わしてみたところ、三か月前に行ったことが判明した。流石にその場にはもう居なくとも痕跡ぐらいなら見つけらるでしょう。と思いだって計画を練っていたわけだ。


「でも、そこは京都とか大阪、沖縄辺りがメジャーじゃねの?」


「いや、俺は岩手の温泉を巡りたい。心と体をリフレッシュしたいんだわさ」


「はぁー、ジジクサァ。若者なら青春をエンジョイしなきゃでしょ」


「お前は青春から落ちた身だし、俺も捨てた身だろ?諦めたものの模倣はだせぇよ」


 っと建前はそう言っているが、実際は俺もそっちが良い。海行きたいしユニバとか行きたい。でも、今回は我欲(がよく)を堪え岩手に行きます。い、行きます。はい、行きます。


「ホントにそれが理由か?ただの温泉巡り」


 急に声音を替え尋問のように尋問のように問われた。


「良いじゃん!温泉巡り、きっと楽しいよ。多分」


 冷たい声音で言われた為、俺はワントーン上がった声で返してしまった。


「俺の見解を述べていいか?答えは聞いていない」


 そう言うと、琉助はスマートフォンをこちらに見せてきた。

 そこに映っていたものは、俺がテレヴィジョンで見たおっさんの映像を収めた画像であった。


「これが理由だろ?」


「チ、チガイマスヨ。ウン、チガウヨ」


 焦った結果、棒読みで返事をしてしまった。ついでに言うと眼も逸らしてしまった気がする。


「ホントぅ?」


 琉助は生態系の上位に位置する捕食者が獲物を追い詰めた時のような残忍な目をしながら、顔をこちらに近づけてきた。


「ちょ、近いって。つか、香水クッサッ!」


 至近距離になると、琉助からあまり好意的な印象を持たない『香水』の臭いがプンプンすぜぇーだったので、つい鼻をつまんでしまった。


「ひどっ!このドルチェアンドガッヴァーナの香水高かったんだぞッ!」


「知らんがな。どうせ、仕事先の店長が使ってたのに触発されただけだろ」


「失礼な。ソーシャルネットワークサービスで流れてきたから買ってみただけだしッ!つか、話逸らしてんじゃねぇよ。お前の岩手県に行こうっていう動機を問うてるんだよッ!」


 いや、どっちにしろ動機しょうもねぇな。SNSを約ささず言う奴初めてみたよ。

 俺の述べた方がエピソード的には面白いだろ。よし、このまま勢いに乗って先程の質問をうやむやにしてしまおう。


「理由は温泉巡りだって言ってんだろ!それ以外はねぇんだよッ!」 


「見え透いた嘘ついてんじゃねッよ。同行するんだから、せめて理由ぐらい教えやがれッ!」


 確かにそれは正論かもしれない。しかしッ!


「同行って、お前が勝手に言っているだけだろうが。俺は別に誘ってねぇんだよ」

 

 そもそもその前提を忘れてはいけない。


「嫌だよッ寂しいかよ!」


「いや乙女かよ。つか、仕事の方どうした。人気ホストのはずだろ!店長怒らねぇのかッ、そんな長期休暇取って」


「残念ッ!店は先日閉店して店長は薬物で逮捕されました!」


 コイツしれっと大事なこと言ったぞ。その話物凄く気になるんだけど。


「おいおい!仕事無いなら稼ぎどうするつもりなんだよ。お前、金あまり貯金しないタイプだろ、家賃とかどうするつもりなんだよ」


「俺の事どういう目で見てんだよ。貯金ぐらいはあるわ」


 そうやってカバンから銀行の通帳を見せてきた。

 そこに書かれていた数字は俺の貯金プラス親の遺産に匹敵するほどの額だった。


「悪いことは言わない。早めに自首しとけ」


 俺は琉助の後ろに周り込み肩にポンっと手を置いて自首することを促した。俺の一年かけて稼いだ額より多いなんて、きっと裏稼業で稼いだに違いない。だってほら、お前の働いているとこの店長が薬やってたんだろ。ならきっと、その感じで。


「いや、お客さんが貢いでくれた金だ。これはきちんとホワイトな金だッ!」


 どっちかってと、グレーだろ。

 

「それに貰った金のほとんどは弟妹のとこに送ってるから、貯金のほとんどはきちんとした給料だよ。ホストのな」


「どっちにしろグレーだろ」


 よしこの調子で、話を逸らすんだ。

 そんなことを思っていると、二人のスマートフォンに通知の音が部屋に響いた。

 琉助がその文字を読んだ瞬間顔色が悪くなった。俺も自分のを確認した。それにリアクションする前にドスンという琉助がスマートフォンを床に落とし素早い手つきでテレヴィジョンを点けた。


『ええー、ただ今札幌市郊外に位置する孤児院にて大規模な火災が発生しました。孤児院の従業員の通報により、消防が消火活動を行っていますが、札幌市から離れた位置にある為、消火活動が遅れてしまった為、火は近隣の森林までに燃え移っているようですので、近隣住民の方は急いで避難してください。また、出火の原因はまだ判明していない模様です』


 アナウンサーが少し驚いた表情をしながらも感情を表に出さずに淡々と読み上げたのちに、映像はヘリコプターから上空で撮影していると思われる出火元の孤児院に移り変わった。物凄い炎に向かって多方面から水が掛けられている。その周辺は避難したと思われる子供たちや従業員の姿が小さく確認出来る。だが、俺のよく知っている双子の姿は確認できない。琉助はテレヴィジョンにしがみつくように映像を見ている。


「クソッ!」


 琉助の怒りがこもった声を上げた直後、先程のアナウンサーの声で最も恐れていたことが告げられた。


『ただ今入った情報によると、この火災による怪我人は九名で、死者は双子と思われる男の子と女の子の二名になります』


 琉助はそれを聞いて、膝から崩れ落ちた。


「・・・・・・・そんな、馬鹿な、、、、、、、。ふざけるナァァァァァァァァァ!」

 

 そのまま、画面を殴り割った。

 その行為にどんな感情が宿っているのかは容易に想像できた。いや、もしかしたら俺の想像以上の感情がこもっているやもしれん。

 

「くそが、クソが、クソが、クソがァァァァァァァ!」


 何度も画面を殴り続ける。完全にテレヴィジョンは壊れてしまった。

 やがて、その痛々しい血塗れの拳は音を立てずに床に落ちた。

 俺はなんて声をかけていいのか分からない。さっきまで俺たちはふざけた会話をしていた。そんな俺がどんな言葉をかけてやれるというのだろう。

 俺には琉助を助ける資格はあると思っている。 

 しかし、それが出来ない程に俺の頭を真っ白だった。


「なぁ、健。俺はどうすればいいんだ?どうしたら良かったんだ?」


 俺に背を向けながらそう聞いてきた。

 先程までの怒りは完全に身を潜め、冷静となった結果、悲壮感に完全に支配されていた。


「お前は悪くないよ。何も」


 俺にはそれしか答えが浮かばなかった。

 俺の答えを聞いた琉助は涙を浮かべることもなく、そのまま、どこかへと去って行った。


 遠くで玄関が開く音がした。

 それを聞いて俺は静に、割れたテレヴィジョンの電源を消した。

 だが、壊れたテレヴィジョンはとっくに電源は切れていた。



 ##############


 

 夕暮れの道、覇気もなく俺はただ道を歩いていた。

 手はまだ血が垂れているが痛みはあまり感じていない。


 俺は何故、生きているのだろうか?

 何故普通に生活しているのだろうか?

 どうして健は俺の事を許したのだろう?

 

 分からない。


 神は実在していて、ヒトの運命(さだめ)を決めているのなら、どうして俺だけが生き残るということにしたのだろうか?俺もあの場に居れば、もしかしたら助けることが出来たかもしれない。いや、無理だな。事故当時の状況が分からない以上、可能性を述べることは出来ない。頭は冷静に合理的に作用しているのがまた腹立たしい。きっと、マックスの怒りは拳の血と一緒に出尽くしたのだろう。


 今の俺には何もない。


 気付けば、歩道橋の上に立っていて柵に手を掛けていた。黄昏時だろうか、沈みゆく太陽の橙色がわずわらしかった。

 その場から下を覗くと、時間が時間だけあって車が結構の頻度で歩道橋の下をくぐっているのが見えた。

 別に死ぬ気はない。

 俺の心には確かに大きなひびが入っているはずなのに砕けていないのだ。それは俺がまだ健への償いを終えていないと判断しているからであろう。そんな様子で夕日に黄昏ていると、徐々に悲しみも失せて行った気がする。


 そんな時に、


「ワンッ!ワンッ!」


「ウワォッ!」


 突然、後ろから犬に吠えられた。それにびっくりして落ちそうになったが、柵が意外と高かった為何とか落ちずに済んだ。

 振り向くとゴールデンレトリーバーとその子と散歩しているお爺さんが立っていた。


「君、何が有ったかは分からないけど、早まってはいけないよ」

 

 本人にはその意志はなくとも、周りから見た今の俺は歩道橋から身を投げ、自殺を図ろうとしている若者なのだ。


「いえ、別に身を投げようとは考えていません。そう見えてしまったのなら、すいません、お騒がせしました」


 そう言って頭を下げた。

 迷惑をかけたことに関しては本当に申し訳なく思っている。そして、公平な優しさに触れられたからだ。


「まぁな、どちらにしろ君はまだ若いんだから、どんなこともゆっくり乗り越えていけるんだよ。長い時間かけてじっくりとね。それでも、無理なら誰かに相談した方が良い。一度の衝動に駆られてそれを捨てるのは勿体ないことだよ」


「分かりました。ありがとうございます」


 そう言ってお爺さんはゴールデンレトリーバーと一緒に去って行った。

 

 お爺さんとの会話は短ったものの、今俺に何が必要なのかがはっきりと分かった。

 こんなあっさりと受け入れてしまうのは、不謹慎だとか思われるかもしれない。それは俺も思う。だが、神が俺に与えたこの運命(さだめ)にはきっと訳がある。それは今は分からないが、一つは健に対する償いだ。アイツはそんなことはいらないというかもだけど、俺にはそれが必要なんだ。

 

「時間をかけてじっくりとか」


 俺の愛した弟妹はもう居ない。

 その真実を受け止め、先に進むんだ。一度付いた心の傷は永遠に癒えることはない。だが、それを言い訳にすることは失礼だと思う。

 

 だから、俺は来た道を戻り始めた。



 ##############



 後日


「本当にいいのか?危険な旅になるかもだぞ」


「ここにはもう何もない。それに温泉で心身を癒したいしな」


 あの後、顔付の変わった琉助が戻って来た。

 そして、俺の旅に同行すると告げられた。正直、影村寿雄のことや妖気法の事を教えていない。教えていいなら教えてあげたいのだが、それはおっさんに許可を取ってからだ。それだけはすまないと思う。


「もうすぐ船来るぜ。早く行こう」


 今回の旅は船で津軽海峡を渡ったのちにバスと新幹線などを使用して岩手入りをするつもりだ。

 ゆっくり地道に行くことにした。お金勿体ないし。


「おっけぇだ。行こう」


 これが長い旅の始まりだ。



 ##############


  

 津軽海峡の海上にて、一隻の小舟が浮かんでいた。


「与作は木を切る。ヘイヘイホー、ヘイヘイホー」


 小舟に乗る男は呑気に鼻歌を歌っている。その男の頭部には生えているのだ二対の歪な角が。

 そして、その小舟を漕いでいるのは、悪臭漂う二体の屍であった。


 彼の名は『荼鬼(だき)』魂を司る鬼である。



 旅立ちと題しましたが、メインはプロローグ偏の続きですね。

 琉助の葛藤する場面が短いのですが、この章は、、、、。これ以上は語れませんね。ですが、まだ彼の葛藤のエピソードは後々重要になってくるので、今は短くしておきます。


 ここからは、琉助周りの事件について解説します。


 父親はパチンコの帰りに酔っ払いと口論になり、そのまま刺殺されてしまいました。

 弟妹の件は、琉助が仕送りでたくさんのお金を送っていたものですから、欲に駆られた従業員が二人の部屋から遊び疲れて寝ているうちに現金を盗み、その後、二人の部屋にマッチで火を放ったことで発生しました。その後、その従業員の通報で消防が動いた形になります。因みにその従業員は彼らの旅立ち後にしっかりと逮捕されました。っと、今回の解説はこの繰りで十分ですかね。


 次回は最初の鬼戦なのでお楽しみに。


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