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狼男と人魚姫2  作者: 渡邊裕多郎
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第七章 戴冠式で大臣と大決闘・その3

       2




 俺は周囲を見まわした。瞬間移動したのはわかる。潮の香りの強いからな。さっきまでの、魔法陣の部屋ではない。


 ただ、見えている景色は白濁した霧のなかのままだった。それ以外は何も見えない。いや、俺の横を半漁人が歩いていく! あわてて蹴りを放ったが、俺の蹴りは半漁人の身体をすりぬけた。よく見たら半透明である。


「ダムズ島全体を『忘却の時刻』で覆っているんだ」


 強利が俺のそばまで近づいてきた。


「すなわち、ここは陸上でありながら海中でもある。君が攻撃を加えた相手は、たまたま焦点が合っただけで、本来は遠くにいたんだろう」


「どうすればいいんですか?」


 俺は焦った。マスクをしたままの強利が手をあげる。周囲の魔力をを感じとっているらしい。


「安心していい。この島を覆うだけの『忘却の時刻』など、本来ならばつくれるはずがない。しばらく経てば、自然と解けるはずだ」


「そうですか」


「問題は、どうしてこんなものをつくったのか、という理由が見えてこないことか」


 強利が言う通りだった。三〇分ほどで『忘却の時刻』が晴れていく。


 俺は目を見開いた。巨大な玄武岩を削りだしてつくった東京ドームみたいなものが眼前にそびえている。目測だが、サイズもそれくらいあった。


「なんだこれ?」


「彼らのつくりあげた巣――いや、要塞だな。なるほど。この岩を運びだすために、『忘却の時刻』で陸上と海中をつないでいたのか。海中なら、ものは飛躍的に軽くなる」


「連中も妨害に備えていたってことですね。で、このなかで戴冠式は行われるわけですか」


「ちょっと待ちたまえ」


 強利がお妃様を背負ったまま、携帯をとりだした。画面をのぞく。すぐに顔をあげた。


「もう戴冠式ははじまっているようだ」


「そりゃ大変だ。えーと、すみません」


 俺は言って背中の王様を降ろした。ドームに近づく。軽く叩いてみたら、またずいぶんと硬そうな音がした。ぐるっと周囲を歩いて入口を探す――のは巨大すぎて無駄だな。入口があったとしても鍵はかかってるだろう。


「海神ダゴン様が切りだした海溝の岩板だよ。まさか、大臣がこれまで持ちだしてくるとは」


 俺の背後で王様がつぶやいた。声にあきらめが内包されている。


「世界が生まれた直後から、深海の重圧に耐えてきた岩石だ。陸上の、こんな軽い空気のなかでしか動けない人間に砕けるものではない」


「だからって、帰るわけにもいかないでしょ」


 俺はかまえた。思いきり腕をひいて、思い切り打ちこむ。ボクシングで言ったらヤケクソのフルスイングだ。もちろん、かまえている間は拳を緩めておいて、殴りつける瞬間だけにぎりこむという基本は守っている。


 除夜の鐘みたいな、すごい音がした。


「無駄だよ。それは力で破壊できるものではない」


 王様が背後で声をかけてきたが、俺はやめなかった。このなかに静流がいる。二発目。またいい音が響いたぜ。


「やめておきたまえ。私たちのために死力を尽くしてくれるのはうれしいが、そんなこと、何十年やっても、ダゴン様の岩盤は――」


 五発目だったか、ブッ叩いたら音の種類が変わった。やっとヒビが入ったらしい。結構かかったな。何十年じゃなくて何十秒だったが。ヒビの奥から、内部の連中のアタフタした声が聞こえてくる。背後の王様と同じで、あるはずのない現象に仰天したらしい。


「――待ってくれ。そんなことが」


 もう一発。俺の打撃で、岩板が崩れ落ちた。まだ反対側に抜けてない。殴るだけじゃ無理があるな。力まかせに蹴りを入れてみる。ヒビの奥から光が漏れてきた。よし。


「馬鹿な。あるわけがない。この岩盤は、ダゴン様が切りだしたものだぞ?」


「だったら、これからは、この岩盤は五獣王の息子が穴をあけたものだと言うといいですね」


「五獣王だと!?」


 あ、この王様も知っていたか。


「まさか、君は――」


「気にしないでください。じゃ、行きますか」


「君で無理なら僕が行こうかと思っていたが、必要なかったな」


 王様を背負いあげた俺の横で、強利が苦笑するような声をだした。


「守るもののために力を得るのが本来の獣人類とは聞いていたが、これほどとは。生まれついての才能とは恐ろしいものだな」


「強利様だって似たようなものじゃないですか」


「僕はただの努力家だよ」


「あなた、勇賢者強利だったの? 話は聞いていたけれど」


 強利の背中でお妃様が茫然と言った。まずい。うっかり名前を言ってしまった。マスクをつけた強利がにらみつける。


「わかってると思うが、なかに入ってからは――」


「はい、すんませんでした」


 俺は王様を背負ったまま、右腕で頭をガードした。


「頭、かばっててくださいよ」


 背中の王様に言い、俺は岩盤に体当たりした。ビルが倒壊するような派手な音がし、そのまま突き抜ける。俺は岩盤をブチ壊してドームのなかに飛びこんだのだ。同時に潮の香りが強まる。内部は『忘却の時刻』のままらしい。


「まさか! こんなことがあるはず――」


「衛兵!! 不審者だぞ!! 早く!!」


 内部に突入した俺たちを半漁人どもがとり囲んだ。クジラの骨かなんかを加工したんだと思うが、まっ白い槍みたいなのや、昆布で編んだみたいな投げ縄をこっちにむけてくる。――そのうちの何匹かが気づいたように俺の背中を指差した。


「お、おい、あの蛮族の背中の」


「まさか、王か? 病に倒れていたと聞いていたのに。あの男、まさか王を人質にとって。この戴冠式をブチ壊しに――」


 馬鹿野郎、俺が王様を人質にとるわけあるか。戴冠式をブチ壊しにきたのは正解だが。俺の背中の王様にどう対処していいのかわからないらしく、遠巻きにする半漁人を無視して俺はドームを見まわした。


 ドームの中央に、同じく岩盤でできた高い台があり、そこに神官らしい格好をした半漁人の爺さんと、それから白いドレスを着た、人魚のお姫様がいた。遠目からもわかるが、瞳を半透明の膜が多い、顔色は蒼白でひび割れている。かつては雪のような、生命感のあるやさしげな純白だったのに、いまはそれを超えて完全に血の気が失せていた。世話を忘れられてほったらかしにされた水槽の、死にかけの魚に似ている。


 それが静流だった。

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