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狼男と人魚姫2  作者: 渡邊裕多郎
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第六章 異世界へ殴りこみ・その1

 第六章 異世界へ殴りこみ




       1




 翌朝、俺は強利のホテルでゆで卵を一〇個くらい食って気合を入れた。学校は休みまくってるが、もう知ったことじゃない。俺は渡されたジャージに袖を通しながら、強利を見つめた。


「俺の感覚じゃ、手足は自由に動きます。こんなこと言ったって強利様は信用しないと思いますけど。昨日の約束通り、リハビリをしたいんで、付き合っていただけますか? それで合格を貰ったら、即『S&S』へ行くってことで」


「いいだろう。僕も大学は休む。きてくれ」


 言いながら強利が部屋をでた。後につづく。その後ろを、さらに華麗羅と柚香がついてきた。


 俺たちが強利につれられて行ったのはホテルの地下一階である。扉をあけて気づいたが、なかは武道場になっていた。畳が敷き詰められている。俺は入口で靴を脱いで上がってみた。軽くジャンプする。


「ふむ、ただの畳じゃなくて、ちゃんとスプリングで吊ってあるな。柔道で思い切り投げ飛ばしても問題なさそうだ」


「最初はべつの用途に使う部屋だったんだがね。うちで購入した際、大幅に改装したんだ」


 金持ちの言うことは違うな。感心する俺の前で、強利が何やら呪文を唱えはじめた。青い光が強利から放たれ、武道場の壁がうっすらと色を変えていく。


「これでいい。簡単な結界を張った。少しくらい暴れても、壁が壊れることはない」


「俺は壁なんか壊しませんよ」


「君は壊さなくても、柚香くんがどうするかはわからないのでね」


「はァ」


「じゃ、まずは私がでていいわけですね?」


 強利に確認したのは柚香だった。強利がうなずく。


「相手は佐山くんだからな。死なない程度に本気をだしてもかまわんだろう。佐山くん、まずは柚香くんとの手合わせで勘をとり戻してもらおうか」


「べつにかまわないですけどね」


 女性が相手というのはやりにくいが、そんなこと先に言っても負けたときの言い訳にしかならない。俺は武道場の中央へ行った。強利と華麗羅は壁際に立ったままである。柚香にむきなおると、俺と同様、武道場の真ん中に立った柚香もこっちを見すえていた。人間とは異なる、魔力に長けた鬼族の美貌である。もっとも、その口元に友好の笑みはない。これからやるのは模擬戦とは言え、結局は喧嘩だ。


「じゃ、行くわよ。本当に加減はしないから」


「いいぜ」


 俺の返事と同時に柚香が呪文を唱えはじめた。見る見るうちに全身から稲光が放たれはじめる。炎のように破壊的ではなく、それでいて天空を駆ける神秘と力の象徴だ。前のときも、これで電車を暴走させたり、無茶をやったっけ。


 柚香の詠唱が終了すると同時に、その頭上に白く輝く光の球が浮きあがった。それも複数。大小いろいろあるが、最大のものは一メートルくらいある。花火の三尺玉って、あんな感じかもしれない。バチバチと音を立てて、空中に浮いた光の球同士が近づいたり離れたりしていた。あれは雷じゃなくてプラズマか? まァいい。やってみればわかるだろう。俺は目一杯息を吸いこんだ。力まかせに吐きだす。


「GRRRRR――」


 獣人類の唸り声に柚香が眉をひそめた。


「一緒にいたときは頼もしかったけど、こうやって敵意の視線をむけられると恐ろしいわね」


「殺したりはしないから安心しな」


「それは勝利宣言と受けとってもいいのかしら?」


「ただの模擬戦だぜ。気にするな」


「余裕ぶって大怪我しないようにね」


 柚香が言い、軽く俺にむかって右手の人差し指をむけた。同時に空中に浮いていた白い光の球のひとつが飛んでくる。大した速度じゃない。中学のときやった野球の速球くらいだな。時速一三〇キロかそこらだと思う。


 直後、いい音がした。本物の銃の発砲音を、すぐそばで聞いたらこんな感じではないだろうか。軽く右手をあげた状態で普通に立っている俺を見て、柚香が目を見開いた。視界の隅で、華麗羅も口をあけている。強利だけは冷静な顔をしていた。五獣王なら、この程度は可能だと思っているのかもしれない。我ながら、かなりすごいことをやったと思ったんだが。


 俺は、飛んできた光の球を、力まかせにブン殴って消滅させたのである。電気の塊なんて、固形物じゃないんだから、ブッ叩きゃ、跡形もなく姿を消してしまう。ちょいと右手がしびれたが、俺の身体にダメージはない。――はずだ。右手を見たら、拳を獣毛がおおっていた。無意識にやったらしい。さすがに“変貌”は必要だったか。


「信じられないわね」


 柚香が言うと同時に、光の球が飛んだ。今度は複数。さっきとは比べ物にならない速度である。俺は両手を突きだした。爆音が轟き、左右から迫っていた光の球が姿を消す。その光の球が消えた背後から、さらに光の球が飛んできた。対応しきれず、俺は顔面をかばった。その頭上と左右、腹部にも光の球が飛んでくる。直撃を食らい、俺の全身が異常な勢いで震えだした。俺の意思とは関係なしに、感電で筋肉が痙攣しているらしい。


 その感電以上の根性をだせば、筋肉の痙攣はとまる。俺は光の球を全身に食らいながらも前にでた。光の球で視界は塞がれているし、爆音で耳もいかれているが、それでも柚香の位置は把握できている。理由は俺にもわからない。これが野獣の勘か。俺は全身を光の球の電撃に蹂躙されながらも、距離をとろうとする柚香にむかって歩きつづけた。


「こんな――私の稲妻を受けているのよ!?」


 柚香の声は悲鳴に近かった。気持ちはわからんでもない。どこかの神話で、雷は神様の鉄槌だったな。


「俺の親父は聖騎士団と喧嘩したそうだ。神様と殴り合うのは伝統芸なんでね」


 光の球を受けながらも、俺は歯を剥いた。そろそろ、柚香の生みだした雷は打ち止めのはずである。目をあけると、柚香の姿がうっすらと見えた。その頭上には、最大級の光の球が残っている。全長一メートル。こいつがラストか。


「それで終了だろ。きな」


 返事もせずに柚香が俺を指差した。一メートルの光の球が俺にむかって飛んでくる。さすがに腕じゃ無理だろう。俺は右足を跳ねあげた。光の球のサイズと同様、いままでで最大級の爆音が轟く。ほかの奴と違って叩きつぶされず、帯電しまくった俺の足との反発で強制的にベクトルを変えられた光の球が天井へむかって飛んでいった。


 天井に激突する寸前、光の球が消滅した。


「そこまでだな。勝負ありだ」


 強利の声が飛んだ。ホッとしたように柚香がかまえを解く。俺も両手を降ろした。光の球が消滅したのは、壁と同じように、天井にも強利の結界が貼られていたおかげだろう。強利が微笑する。


「大したものだな。打たれ強さは合格だよ。いや、以前よりも力を増したかもしれないな」


「そりゃ、時間がくれば、誰だって変わりますから。俺だって成長します」


「ですが、私には、打たれ強さを披露しただけに見えました」


 これは華麗羅だった。


「確かに最初、柚香の電撃を素手で叩き伏せたのは認めるが、それだけだったな。あとは対応できなかった。殴り合いなら撃たれ強さだけでなんとかなると思うが、敵が武器を持っていたらどうなる?」


 言いながら華麗羅が近づいてきた。腰に差している魔法剣を抜く。


「おまえはよくやった。下がっていろ」


 柚香に言い、華麗羅が俺の前に立った。


「次は私が相手になろう。戦場で武器にも対応できるのか、私が試してやる」


「そりゃ、かまいませんけどね」


 俺は自分の身体を見降ろした。柚香の電撃で、服はボロボロである。


「服を着替える時間くらいはくれませんか?」


 華麗羅が薄くほほえんだ。


「実戦にそんな場はないぞ。それとも、時間稼ぎをしてダメージの回復を狙っているのか?」


 読まれていたか。まァいい。華麗羅の言うことも真実である。

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