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狼男と人魚姫2  作者: 渡邊裕多郎
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第五章 大臣の再来襲・その5

       3




 目をあけたら、記憶にない景色が見えた。少しして気づく、これは天井だ。それにしても豪勢だな。俺の家の天井とはずいぶんな違いだ。


「お、やっと目が覚めたか」


 聞き覚えのある声がした。起きあがると華麗羅の顔がある。相変わらず、『S&S』の民族衣装みたいなのを着て、刀を腰に差している。それからスタジャンにジーンズの柚香。もう『S&S』に戻っていたらしい。見まわして気づいた。ここは強利たちの寝泊まりしているホテルの一室である。俺はベッドに寝かしつけられていたらしい。


「ほう。ちゃんと動けるのか。やはり獣人類は違うな。本当なら死んでいると兄上が言っていたが」


 ベッドから降りた俺を見て、華麗羅が感心したような顔をした。俺は相当ひどい目にあっていたらしい。服は――白い寝間着だった。学生服はどこへ行ったんだか。よくわからんが、ふらつく。


「とりあえず、少しは安静にしておきなさい。解毒の魔法もかけておいたけど、まだ、どうなるかわかってないから。三日も寝てたんだし」


 これは柚香の言葉だった。毒だと? しかも三日だと? そんなに俺は寝ていたのか。


「俺、毒を食らったのか?」


 訊いてみたら柚香がうなずいた。


「最初に見たときなんて、全身が黒く変色してたからね。どんな種類の毒だったのかまではわからなかったから、とにかく、いろんな魔法をかけておいたわ。たぶん、どれかは効いたと思うけど。あなた、それで寝こんでたのよ」


「そうか。あの触角にでも塗ってあったのかな」


 あの大臣、嘘八百並べやがって。やっぱり殺す気だったんだじゃないか。俺は自分の身体をさすってみた。それから喉。触角で串刺しにされたはずだが、綺麗にふさがっている。柚香のおかげで助かったらしい。


「ありがとうよ」


「お礼なら、私だけじゃなくて強利様にも言いなさい」


「おう。で、その強利様は?」


「兄上なら、調べものとがあるとかででていった。もうすぐ戻ってくる」


「調べもの?」


 言ってる最中に部屋の扉が開いた。入ってきたのは強利である。噂をすればなんとやらだな。その強利が俺を見て、驚いた顔をした。


「さすがだな。もう動けるのか」


 華麗羅と同じことを言う。感心したような顔で強利が近づいてきた。


「よくわからないけど、気絶してる間に助けていただいたようで。ありがとうございました」


「気にしなくていい。以前と同様、僕の知識にない術式の『忘却の時刻』が発動を感知したから駆けつけたら、君がたおれていたんだ。あれはただの偶然だったよ」


「それでも助かりました」


 俺は手足を軽く振ってみた。大丈夫だな、まだ力は入らないが、ちゃんと動く。後は、どうやって『S&S』へ行くか、だ。このまま黙っていられるわけがない。静流が拉致されて三日か。早く助けに行かないと。俺は強利に目をむけた。


「あの」


「超法規的な手続きなら、僕はとらない」


 俺が言う前に、強利が口を開いた。そのあとで、少しいたずらっぽく笑う。


「手続きをとらないから、超法規的措置なんだ。君はパスポートなしで『S&S』へ行きたいのかな? 僕は手を貸すとも貸さないとも言わんがね」


「それは――ありがとうございます」


「僕は、君を友達だと思ってるんだ。これくらいは当然だと思ってほしい」


 このときほど、強利の言葉がうれしく聞こえたことはなかった。


「じゃ、いますぐ」


「待て。それは早すぎるだろう。三日も寝ていたんだぞ。まだ完全な解毒もできてないはずだし」


 華麗羅が俺の声をさえぎった。


「大丈夫でしょう。もう動けますよ」


「急く気持ちはわからなくもないが、死ぬぞ」


 強利が言い、俺の前まで歩いてきた。ひょいと手を伸ばす。べつに殴りつけたわけじゃない。軽く俺の胸の前ににぎり拳をだしただけだったが、なぜか、俺には避けられなかった。胸にポンと強利の手があたる。


「やはりな。こんな動きにも対応できないのか」


 手をひっこめ、強利が考えるように俺を上から下までながめた。普通に見たわけではなかったらしい。


「一応、全部つなげたが、前のように動けるかどうかはわからんな。何しろ、脊髄の神経まで切られて、しかも毒に侵されていたんだ。自分の身体の動かし方を、一から学びなおす――とは言わないまでも、ある程度のリハビリは必要になる」


「そんな暇はありませんよ」


「最低でも一日は我慢しろ。これは命令だ。はっきり言うが、いまの君は酔っ払い運転の戦闘機と同じだぞ。ポテンシャルは以前と同様のレベルだが、持っている能力を一〇〇パーセント発揮できるとは思えない」


「かもしれませんけど」


「ゴネるようなら、睡眠の呪文で動けなくさせることも僕には可能なんだがね」


「――わかりました」


 くやしいが、俺はうなずいた。強利が言うことである。信用するしかあるまい。


「じゃ、そのリハビリというのを」


「それ以前に、聞いてもらうことがある。座ってもらおうか」


 強利が言い、部屋の中央まで歩いて行った。椅子に座る。華麗羅と柚香もそれに倣った。仕方がないから、俺も椅子に座る。


「前に僕が暴走した件、覚えているかな」


「――そりゃ、まァ」


 俺は返事をした。あの核兵器騒動はひどかったからな。強利にとっついていた正体不明の敵。まァ、封印されてくれたからホッとしたんだが。


 強利が苦笑した。


「何を考えているかは想像がつく。あのときは僕も不覚をとった。勇賢者などと呼ばれていながら、まさか魔王の思念にあやつられていたとはな」


「はァ。あれってやっぱり魔王の思念だったんですか」


「おそらくはそうだったのではないか、という憶測でしかないが」


 強利の返事を聞きながら、俺は軽く華麗羅と柚香に目をむけた。ふたりとも表情に変化はない。もう強利から真実を聞かされているんだろう。自分の非はきちんと認める人だ。


「だが、あの魔王の思念が憑いたのは、僕ひとりではなかったんだ」


 強利が気になることを言った。


「たぶん、かつて魔王が封印されたとき、その思念が複数に粉砕され、あちこちに散らばったのではないかと思う。そのうちのひとつが僕に憑いた。当然ながら、ほかの思念はほかのものに憑く」


「――その、憑いた相手ってのは?」


「『M&M』の大臣だよ。君もTVで見たはずだ」


 強利の言葉はシャレにならなかった。

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