第62話『行かなくちゃ』
なんて、あの心の小さい(今は体も小さい)サディアスが歩み寄ってくれるわけがなかった。犬になっても生意気な態度は変わらないのだ。
わたしだってムキになってきて、すきを見て触れようとした。だけど、素早いサディアスは噛みつこうとする。
「いいじゃない、ちょっとくらい」
諦めきれずに手を伸ばしたとき、森の入り口から大通りにかけて騒がしくなってきた。やばい。ルルさんの効果がなくなってしまったのかもしれない。
大通りに集まってくる兵士さんたち。どんどん人数がふくらんでいく。かなり集まったなあ……と、ゆっくり見ている場合じゃない。逃げないと捕まっちゃう。
視線を外そうとしたら、兵士さんたちのなかに一際目立つ長身を見つけた。クラウスさんだ。おそらく、わたしのせいで出動することになってしまったのだろう。
ずいぶん距離はあったけど、クラウスさんと視線が合わさった。何でだろう。あんなに離れているのに「ミヤコ様」と声が届く。
今は男の子みたいな姿なのに、クラウスさんにはわたしだとわかるんだ。何かくすぐったい気分がした。けど、申し訳ない気持ちのほうが大きかった。
「ごめんなさい、クラウスさん」
優しいクラウスさんを裏切ることになってしまった。もう二度と会えないかもしれないから、目に焼きつけるように見たい。でも、サディアスが先をうながすように「わん」と鳴く。行かなくちゃ。
――さよなら、クラウスさん。
きっと、あの大好きな笑顔を見ることはできないだろう。




