第36話『神子の道のり』
クラウスさんと一緒にやってきたのはお城の入り口だった。はじめて来たときには気づかなかったけど、お城の敷地内には王さまが住むメインの建物以外にも別に建物があった。
神子の神殿もその1つに入る。ヴェールであんまりよく見えないけど、花に囲まれた建物だった。この花は神子の部屋の壁にも描かれたものと似ている。建物のてっぺんはドーム型で、外観は同じ色に統一されている。
今まではお城で生活していたけど、神子になれば、この神殿で暮らすことになる。これからはお城に行くことも無くなると聞いて、心細かった。
だけど、引き続き、クラウスさんが護衛をしてくれると言った。それだけでも心強く思えたんだ。
神殿までの道のりは細長いじゅうたんが敷かれている。レッドカーペットってこんな感じかな? 裸足だからじゅうたんが守ってくれるのはありがたいかも。
ここから先はクラウスさんはついてきてくれない。仮神子のわたしだけが先に神殿に入ることを許されている。その後、じゅうたんは回収されて、他の人たちも入れるらしい。
先に進む前に、もう一度だけクラウスさんに近寄って、高い位置にある顔を見上げた。
「クラウスさん」
「何でしょう?」
「『大丈夫』と言ってもらえますか?」
クラウスさんに「大丈夫」と言ってもらえたら、この後もうまくいく気がする。わたしの願いを聞いたクラウスさんは、ヴェールに顔を近づけてきた。口の端を上げて、黒い目を細める。
「大丈夫です。すべてうまくいきます」
「ありがとう」
胸の奥がぽかぽか温かくなってくる。ここからはわたしひとりで行くけど、きっと、大丈夫だ。クラウスさんに向けていた顔をじゅうたんへと移す。深呼吸をして、じゅうたんに足を置いた。
裾が長いので足で踏まないように気をつけながら、ゆっくりと神殿の内部へと入っていった。




