第25話『7夜後』
神子になる決意をしてから、足早に7夜が去っていった。
毎日のように神子になるための指導を受けている。お辞儀の仕方から、お誘いをやんわりと断る方法(わたしに必要だとは思えないけど)まで、気を配ることが多くて大変だった。
わたしとマリアさんが小部屋で練習をしていると、ニーナさんがわざわざやってきて「お下品なこと」と笑う。すぐにいなくなったけど、何がしたいんだろ?
でも、マリアさんに言わせれば、ニーナさんもできが悪かったらしい。
「ニーナ様はおてんばでとてもお元気な方でした。リボンを木の枝に引っかけたり、毒味係が食べる前の食事をつまんだり」
マリアさんの話を聞いて、小さなニーナさんがそこかしこを走り回る姿が想像できた。いつもはかたく表情を崩さないのに、マリアさんの頬がゆるむ。
こういう一面もあるんだと嬉しくなる。それで、もう少し優しく教えてくれたらなあと思うけど、わたしの考えは甘かった。すでにマリアさんは顔を戻していた。
「神子様もがんばりましょう」
「は、はい!」
とにかくマリアさんは厳しかった。元の世界でも習い事はしていたけど、ダメならやめればいいやという考えがあった。
でもこれ、ダメでも練習して克服しなくちゃならない。神子になるには大事なことだから、1つでももらすわけにはいかないの。
午前中の指導が終わると、それからお昼になった。昼食は大体、雨じゃなければ、中庭でいただいている。
特に、甘酸っぱい木苺ジャムをパンではさんだやつがわたしのお気に入り。クラウスさんも席に着くようにお願いして、話し相手になってもらう。
昼食のあとはサディアスの部屋で勉強する。ベルホルンの地理や歴史、代々の神子の功績など。サディアスの話についていくだけでも、頭のなかが破裂しそう。
「おい、聞いているのか?」
ろうそくの明かりがサディアスの不機嫌な顔を映す。
「聞いてますよう、でも、全然頭に入んない」
「それは本当の意味では聞いていない。聞くだけじゃなく、理解しろ」
「理解しろって簡単にいうけど、みんながみんなあんたみたいに頭がいいわけじゃないの」
サディアスは知識量が半端なくて、きっと物覚えもいいはずだ。わたしと違う。
「頭がいい? 本当に頭のいいやつが忘れないようにとこうやって紙片に書き入れたりするか? 本の角が丸くなるまで何度も読み返すのか? いいか、お前は頭が悪いんじゃない。頭の使い方を間違っているだけだ」
サディアスの言葉ももっともだった。頭が悪いことを言い訳にしてはいけなかったかもしれない。
「ごめんなさい」
「ふん。せいぜい努力しろ」
「ちょっと! こっちが謝ってるのに、その鼻で笑うのやめたら?」
「ぎゃーぎゃーわめくな、うるさい」
とは言いつつ、ちゃんと授業を再開してくれるサディアス。いまだに苦手な人間だけど、はじめの得たいの知れない感じはすっかりなくなっていた。




