桃西家の家族談話 私と母娘と時々父子
桃西薫は、まだ数える程しかパーティに参加したことがない。しかも、その数少ないパーティ全てが親戚関係のものだ。そのことを、記憶として持っている私は、黄ノ宮家のパーティに参加する許可を両親から得るために居間へと向かった。
父は書斎にいるかもしれないけど、さすがに母はいるだろう。そう思って行った先には、母と、4歳上の姉がいた。私が部屋に入ると、話をしていたらしい2人が揃ってこちらに視線を向けてくる。
「お母様、少しよろしいですか?」
「ええ。どうかしたの?薫」
ええと、と言葉を続けようとした私は、そこで母が何かを手に持っていたことに気付いた。いや、何かじゃない。招待状だ。見れば、机の上には、他にも多くの招待状らしきものが置かれている。どうやら、2人が話していたことも、パーティに関することだったようだ。何というグッドタイミング!
「あの、それ、しょうたいじょうですよね?その中に、黄ノ宮家のものはありますか?」
「あら。もしかして、薫も黄ノ宮家のパーティに出たいのかしら?」
「え、その、そうですけど、私もって」
「まあ、薫もなの!?奇遇ね、私も、黄ノ宮の家のパーティに参加したいとお母様にお願いしていたところなのよ」
「えっ! 鈴姉さまも?」
ただパーティに関して話していただけじゃなく、まさかの黄ノ宮被りとは。
それにしても、姉はどうして黄ノ宮家のパーティに参加したがってるんだろうか。私というか薫の記憶では、姉も普段そこまでパーティには参加していなかったと思うんだけど。
その気持ちが顔にも出ていたのか、姉は私が何も言わずとも、疑問に答えてくれた。
「私の友達の家のパーティなの。詩織ちゃんっていうんだけどね、その子に、良かったら参加してほしいって頼まれちゃって」
「お友だち…」
えーと、友達の家のパーティってことは、その詩織さんは黄ノ宮家の子どもってことで、つまりはリンリンのお姉さんってこと?リンリン、お姉さんいたのか。初めて知ったわ。
いや、それよりも、だ。まさか、リンリンの姉と桃西薫の姉が友達っていう設定まであるなんて驚きだ。
杏の叔父の件といい、ゲームでは出てこなかったけど、色んなところで繋がりがあるっぽいなぁ。ホント、誰得設定。
「薫?どうかしたの?」
「あ、いえ、私も、お友だちの杏ちゃんに一緒に行きましょうってさそわれたから、同じだなって思ったんです」
「杏ちゃんに…成程ねぇ。小南の奥様は、黄ノ宮の奥様の従妹ですものね」
は?何それ初耳。ちょっとお母さん、一人で納得してないで、もっとkwsk!
ていうか、ついさっき新たな繋がりが分かったばかりなのに、更に繋がりか追加されるとか、一体どういうことなの…。もうこれ、登場キャラたちに寧ろ繋がりしかないんじゃないかな。ひどすぎる。
「でもそうね、多分、夕も行くでしょうし、鈴も薫もお友達が一緒なら大丈夫よね。分かったわ、パーティへの参加を許可します。一応、お父様にも聞いてみるけれど、きっと許してくれると思うわ」
「お母様、本当!?」
「ええ。家族全員で親戚関係のものじゃないパーティに行くのは初めてね。良い機会だから、新しいお着物を新調しましょうか」
「わぁっ、私、新しいお着物欲しかったの。嬉しい!」
知らなくても良かった(心情的には、知りたくなかった)新事実に茫然とする私の目の前で、きゃっきゃとはしゃぐ姉と、分かりやすくうきうきしている母。
何も言わない私を、言葉が難しくて意味が分からなかったと捉えたらしく、パーティに行っていいのよと5才児でも分かるように言い直してくれたけど、違う、問題はそこじゃない。
とはいっても、言っている意味は分かります、ただ改めてゲームの制作者のことを考えたら頭が痛くなっただけですなんて正直に伝えることもできないので、私は頑張って、姉のように振る舞った。
その後、母に呼ばれて、父と8歳上の兄(先程、母が言っていた夕とは、この兄のことである)も居間にやって来た。2人とも、私たちが黄ノ宮家のパーティに出たいと告げると、珍しいと驚きながらも参加することを許してくれた。結果、桃西家は全員参加となったわけだけど、少々シスコン気味の兄はそのことを殊更喜んでるし、姉は新しい着物を買ってもらえるとニコニコしてるし、両親はそんな2人(+表面上は嬉しそうにしている私)を微笑ましそうに見てるしで、もう何だこのほのぼの家族。
あまりにもほんわかしている桃西一家に、気が付けば私も、表面上じゃない、心からの笑みを零していた。
あぁ、本当に、桃西の家は幸せだなぁ。
私は、今更ながら、桃西の家に生まれて良かったと思うと同時に、今は一人ぼっちのあの子が、一刻も早く幸せだと感じる家を持つことができるよう、心底願った。