邪竜との誓い
誰も動かない、誰もしゃべらない
風すら吹かない
ただ唯一、邪竜だけが天に向かい咆哮をあげる
残された道は一つだけ
死へ続く道ただ一つ
僕に、何が出来るだろう
戦えるだろうか
無理だ、どう想像したって勝てるビジョンが浮かばない
逃げるだけなら出来るだろうか
・・・何処に逃げるというのだろう
誰もいない森の深くに一人逃げるのか
それは生きてると言えるのだろうか
考えろ、考えるんだ
僕に出来る事
僕に出来る事・・・
(最近の人間と侮っていたが、なかなかどうしてやるじゃないか)
・・・?
なんだこの声?
これは、もしかして
(フフッ、久しぶりに気分がいい、今ならあいつの頼みも聞いてしまいそうだ)
邪竜の声!?
そうか、ダイジさんも言っていた
(「人語を解する魔物など、話にしか聞いたことがなかった、そういった魔物は隠れているか、やたらと強いと聞いたが」)
「話す魔物もいる」そして「やたら強い」
この邪竜にぴったりだ!
邪竜は話せる魔物なんだ!
ならば、何とかなるかもしれない
現代社会で、もっとも強い「力」を使う時だ
・・・これからするのは、みっともない事かもしれない
みんなが望まない事かもしれない
それでも、やらなければ
僕は、みんなに生きていて欲しい!
僕は覚悟を決めて、息を吸い込んだ
「すみません!!話を聞いてください!!」
まずは呼びかける
言葉が通じなければ何も出来ない
(なんだ?我に呼びかけるのは誰だ?)
第一関門突破!
「私です!目の前の小さな人間の一人です!」
僕は一歩前に出る
(ほう、人間が我が言葉を解すか、これはまた奇異な事だ)
・・・?
どういう事だ?
こんなにもハッキリ聞き取れるのに?
兎に角、次の関門だ
交渉のテーブルに着かせる事
これも運頼みだ
「あなたにお願いがあります!」
(人間が我に願い事だと・・・?)
邪竜と目が合う、表情が動かないから何を考えているかは判らない
けれど退いてはいけないと本能が叫ぶ
僕はジッと、目を合わせたまま耐える
(・・・ふ)
ふ?
(ふはははははっっ!!今日は愉快だ!!言葉を解す上に我に願い事だとっ!!!ック、フハハハハ!!)
笑い声が響く
あまりの音量に肌が震え、萎縮しそうになるが耐える
(フフッ・・・なんだ、申してみよ)
第二関門突破!
運良くここまで来れたが、ここからが本番だ
「どうか私たちを見逃して欲しいのです」
さて、どうくる?
(見逃す・・?生きて帰すという事か?)
「そうです、どうか生きたまま帰してはくれませんか・・?」
要は、尻尾を巻いて逃げるのを見逃して欲しいという事だ
情けない、恥知らずだと言われても、死んでしまえばそれまで
立派に死ぬより、恥を晒して生き残る
それが僕の生き方だ
たとえその結果、生かした仲間に恨まれようとも!
(何故だ?)
なぜ?
(何故我がお主らを生かさねばならん?)
やはりか、価値観が全く一緒な訳がない
僕たちが生きたいからからという理由で納得するだろうか
否、それはこちら側の事情だ
相手には関係のないこと
さて、ここからが踏ん張りどころだ
幸い相手はそこまで短気には見えない
「そのお言葉からすると、私たちを殺すつもりだとお見受けしますが、それは何故なのですか?先ほど私たちの仲間があなたに攻撃したからですか?」
(フフッ、先ほどの人間の攻撃は、驚きはしたが不快ではなかった・・むしろ快い最後だったぞ)
攻撃が理由でないとすると、
(なに、お主らが我の領域に入ったからだ、目の前をウロチョロされるのは癪に障るからな)
やはりか、ここは彼の縄張りなんだろう、だから侵入者である僕たちを退治したいんだ
「しかしそれでは他の動物たち、私たちが魔物と呼んでいる存在もまたあなたの領域に入っていたのではありませんか?」
ちょっとキツいかもしれないけど、通るか・・・?
(フンッ奴等には知性がない、侵入した奴を皆殺したところで何度となく侵入してくる、その点人間は優秀だ、何度か皆殺せば来なくなる)
・・・ちょっと斜め上の回答だ、味方だからとか、身内だからではなく効率の問題なのか
では、相手の機嫌を損ねる前に仕上げだ
「では私たちはすぐに撤退します、これからはこちらには伺わないようにします」
(それで?)
くそ、間髪入れずに要求を釣り上げて来た
「そうすれば、僕たちは仲間にここには来ないように伝える事ができます」
相手のメリットは提示した、これで駄目なら後がないぞ!
(なるほどなるほど、我の皆殺しの手間を省いてくれるという訳だな)
しかしこの邪竜、本当に知能が高い
これでもずっと学校で勉強してきて、この世界ではそれなりに頭が回る方だと思っていた
対してこの邪竜は、交渉自体滅多に行わないはずだ
だというのにすぐに順応してきた
恐らく僕たち人間と同等、いや、それ以上に頭がいいのだろう
(確かに悪くはない、悪くはない)
いけるか・・?
(が、それでは私に益がなさすぎるな、大体お主らが他の人間に伝えたとて、その他の人間が実際にこちらに来ないかは別問題だ)
やはり、知能が高い
そこいらの人間なら騙されてくれただろうに
・・・終わった
ブラフも破られた
もう手札はない
(さて、お話はもうお終いかな?)
こんなところで死ぬのか
いや、もう十分生きたのか
でも、まだ何か
何か
何か手が残されているはず
(それでは退場願おうか)
考えろ
どんな絶望的な状況だって
きっと何処かに一筋の光りがあるはずだ
考えろ
邪竜にとってのメリット
僕たち人間じゃない存在にとってのメリット
(この世から)
考えろ!
僕たちではありえない
それでも邪竜からしたら意味のある
そんなメリット・・
(永遠にな)
・・・・!!
「あります!!」
昔本で読んだ事がある
とある騎士と魔王の物語
(何がだ?)
「あなたにとっての益、私たちを生かして得る事の出来る益」
(ほう、申してみよ)
騎士は幼い頃、魔王に殺されかけて、一つ誓いを立てた
それは通常ではありえない誓い
自らの命を縮める誓い
しかし、それにより魔王は騎士を見逃し、騎士は生き長らえた
これは賭けだ
とても危険な賭けだ
でも、これに賭けるしかない!
「私は!!」
心臓の音がヤケに五月蝿い
目が回りそうな程頭に血が巡る
人生最大の大一番!
「いつかあなたを殺す男だ!!!」
魔王は幼い騎士の誓いと、その可能性に何かを感じ、騎士を見逃したのだという
・・・言ってしまった
こんな事言って大丈夫なのだろうか?
でももう、時間は戻らない
後は、邪竜次第だ
(・・・)
「・・・」
沈黙が流れる
命がかかったやり取りの果ての沈黙
これ程の重さがあるだろうか
汗が体中から吹き出す
だが、僕の誓いに嘘はない
いつか人間の領地を取り戻すに当たり、また邪竜と戦う事になるだろう
今はまだ倒せないだろう
明日も明後日もきっと倒せない
けど、数ヶ月、数年
時間が経てば
その先はわからない
何故なら
未来は未知の可能性を秘めているのだから!!
(・・・いいだろう!!貴様の度胸、誠に見事なり!!それに敬意を表して、今回は私が退こう!!)
・・・勝った?
掛けに、僕が勝った?
(だが次出会う事があれば、それがどちらかの最後だ!!しかと胸に刻め!!!ゆめゆめ忘れるな!!!お主が立てた誓いを!!!)
邪竜が羽ばたく
風圧で吹き飛びそうになるが、ぐっと堪える
(また再び出会う、その日まで!!!!)
砂煙を腕で防いで、視界を遮られている隙に、邪竜は何処かに消えた
僕は、僕たちは、生き延びたんだ!!!
如何でしょうか、この小説は萌えに対抗する燃え小説を目指しています(今考えました)
読者様の血が滾ってくれれば幸いです
これまで1ヶ月?2ヶ月弱、何とか駆け抜けて来ました
もうそろそろ限界です
ちょっと休ませて貰います
具体的には一週間ぐらい
I'll Be Back!