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魔血吸の在り方  作者: スクロー
黄昏の出会いと結束の章
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黒い海の在り方


「なんだよこれ・・・っ!」


グランさんが驚愕の表情を浮かべたまま呟く

レフィさんの背後では、現実感を失うほど巨大な顔がこちらを見ていた

いや、顔なのか・・?

紅い丸が二つある、海が山の様に盛り上がった物体があるのだ

それなりに遠い位置にいる筈なのに、馬鹿みたいな大きさのせいで遠近感がおかしくなって、近くにあるように感じる


「魔物、なんでしょうか・・・?」


僕がした質問に、誰も答えを持たない

しかしその間にも魔物はさらに変化を見せた


「おわ、わっ!!」


地震と共に魔物がさらに大きくなった

立ち上がったのである

そう、これまで見えていた部分は顔だけで、体もあったのだ

結果、空が半分になった

子供が想像する、シーツを被っただけのおばけが、ありえない程巨大化したと言えば想像できるだろうか

もはや訳がわからない

こんなのを相手に、どうやって戦えというんだろう?


「・・・」


おもむろに弓を構えたフーさんが、矢を放つ

しかしやはり遠近感がおかしくなっていたようで、魔物には届きそうもない

もし届いたとしても、大きさが違いすぎる

鯨に蚊が刺した程度のダメージも与えられないだろう


「・・・っ!いかん、このままでは札の効力が無くなってしまう!!」


隊長の話では、お札の効力が持つ15日とは普通に魔物が襲撃してきた時の場合で、こういった規格外の魔物を相手にした場合は効力がどんどん削られる可能性が高いらしい

つまり、


「あれを倒せって事ですか・・」


沈黙が場を支配する

しかし、動かなければ始まらない


「とりあえず、あれの足元まで行ってみよう」


という隊長の言葉に従い、港に向かった



港には、レフィさんが言った通りに何も無かった

船着き場も家も何もかもが押し潰された様な、海に引き込まれた様な状態になっていた

そしてそこから魔物を見上げる


・・・相変わらずでかい

でかいという言葉がチープに感じるほどのでかさだ


よく見ると、お腹が半円に凹んでいる

どうやらお札が効いている様で、それ以上はこちらにこれないらしい


「どう、します?」


相変わらず打開策は見えない


「・・・」


フーさんが隊長に耳打ちする


「いや、あるにはあるが・・」


隊長がお札を取り出した

まだ持っていたのか


「これが最後だ」


残りのお札は2枚だ

これをどうするのだろう?


「・・・」


フーさんは僕たちそれぞれに目を合わせる

きっと何か作戦があって、それの了承をとりたいのだろう


「やれるってんならやってみやがれ!!必要なら手ぇ貸すぜ?」


グランさんが威勢よくしゃべる


「問題ない、やってみてくれ」


レフィさんが賛成する


「僕も手伝える事は手伝います!」


もちろん僕も賛成する


「では、やってみてくれ」


隊長の許可もでた


「・・・」


フーさんは頷いて、作戦の説明を始めた



今、フーさんは弓を構えている

その背中に隊長、グランさん、レフィさんがそれぞれ手を置く

レフィさんとグランさんの手にはお札がそれぞれ一枚ずつ

僕は魔法がからっきしなので、必要ないみたいだ


「それでは、始めてくれ」


隊長の合図と共に、フーさんの詠唱が始まった


『私は一人だった、暑い日も、寒い日も、ずっと一人だった』


ラギさん程ではないけれど、すごい力を感じる


「受け取れ!!」


グランさんからフーさんに、力が流れる


「頑張って!」


レフィさんからも、力が流れる


『けれど、私を助けてくれる人がいた、私を気にかけてくれる人がいた』


「ふん!!」


隊長からも、力が流れる


『私はいつからか、一人じゃなくなった』


グランさんがお札の一部を千切って、フーさんに貼り付ける


「いくぜ!!」


その瞬間、お札から溢れんばかりの力がフーさんに流れ込む

フーさんの髪が浮き上がり、顔が僅かに歪む


『私には、仲間が出来た』


レフィさんがお札の一部を千切って、さらにフーさんに貼り付ける


「どうかこらえてくれ!」


さらにお札から、恐ろしい程の力が流れ込む

体中を暴れる力を、矢に集中していく

フーさんの髪から、色素が抜けていく


『仲間の夢が叶うように、一人でも誰かが救われるように』


「フィオレ!もう一息だ!!」


隊長が叫ぶ

お札と4人、合計1万4人分の力が、フーさんの中で暴れ狂う

フーさんは顔を歪めながらも、必死に一点に集中する


『もう、私のような子供が生まれないように!』


フーさんの目から、涙が流れだす

力が全て、矢に収束する!



『下弦の月の涙!!』



音もなく放たれた矢は、魔物に吸い込まれる

矢を放ったフーさんは倒れてしまった

髪の色素が全て抜けて真っ白になっている


一秒


二秒


永遠とも思える時間が過ぎて、


三秒


魔物の中心が、爆発した

矢の当たったであろう部分から、まるでスローモーションの様に穴が開いていく

たった一本の矢だけど、その矢に1万人以上の力が込められているのだ

矢は、進みつづける

見たところ、この魔物には実体がないみたいだ

いや、正確には体が液体で出来ている

飛び散った体は、まるでゼリーみたいだ

矢は、進みつづける

恐らくもう魔物の中心は過ぎたはずだ

・・・ん、何かが見えた・・・?

矢は、進みつづける

なにか、骨の様な物が見える

後、なんだろうか、紅い物が見える



そしてようやく、矢は魔物を貫いた


「ははっ、やったぜ・・っ!!」


グランさんが呟く


「まさか本当に貫くとは・・」


レフィさんが唖然としている


「よくがんばったな、フーよ」


隊長が、意識を失っているフーさんに話しかける

僕は魔物の観察を続ける

もしや、あれって・・


「おい!どうなってるんだ!!??」


グランさんが声をあげる

魔物の傷が、じわじわと塞がっていくのだ


「そんな!?あれだけの攻撃が効いてなかったのか!?」


レフィさんも想像していなかった事態のようだ

しかし、アレがもし僕の思った通りならば・・・


「隊長、あと、頼みます」


「お、おい、何処に行くんだ!」


隊長の言葉を無視して、僕は走り出す



絶対に、フーさんの攻撃を無駄にはしない!

フーさんの髪について色素が抜けたと書きましたが、元の髪の色について書いた事がなかったので、もし最初に白髪だと想像してらした方がいましたらすみません

私は具体的な描写を極力避けているのですが、こういった時に困るのですね・・orz

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