前兆の在り方
それからは朝起きて、体を洗い、朝ご飯を食べて、ダイジさんと森に入り、終わったら宿に戻て夕飯を食べ、寝る前に魔法を試す
という生活サイクルが出来ていた
「・・・よし!」
ようやく魔物を狩るのにも慣れてきた
今はちょうどゴリラの様な魔物の頭を、平手でハジキ飛ばしたところだ
「しかしお主は、本当に異常な腕力だな」
ダイジさんにして、異常だと言わしめる力で魔物を殺すのだが、
最近、魔物の血を見ていると、何故だか心がザワつく
キケンだ、キケンだ
と、本能が警告するのだが、魔物の血から、目が、離せない
「おい、聞いておるのか?おい?」
「・・・!あ、はい!大丈夫です!」
「ならいいんじゃが・・」
平穏な時間が、終わろうとしていた
「ダイジさんたら酷いんですよ~」
「それはわかったけど、これ、本当にもらっていいのかい?」
「もちろんいいですよ、僕が持っていてもなんの意味もないですから、もらってくれたら嬉しいです」
「ならいいんだけど・・・」
今僕は森から宿に帰ってきて、夕飯をいただいている
やはり何度食べてもここのご飯は美味しい、今日は魚料理だ
因みにおかみさんがこれ、と言ってるのは僕が森から持って帰ってきた物だ
魔物の部位だったり、食べれる野草だったり、フルーツだったり、時には見かけた動物を狩って持ってきた
せめてもの宿代の代わりだ
「そういえば、おかみさんは魔法、使えるんですか?」
「あたしは使っても意味がない質の人間だから、使えることは使えるけど、滅多に使わないねぇ」
「じゃあ料理とかはどうしてるんですか?火を起こす時とか」
「そりゃあんた、魔方陣を使うのさ」
「魔方陣?」
「そうさ、そいつを使えばあたしにだって火を起こすぐらいはできるさ」
「詳しく聞いてもいいですか?」
おかみさんの話によると魔方陣は、
・複雑な形をいくつか組み合わせて、意味のある陣を作り出すことで使える魔法
・使用者の魔法の素質に関わらず、同じ結果を出すことが出来る
・ただし少し気だるくなる
「まあ魔法を使うと気だるくなるのは、当たり前なんだけどね」
「そうなんですか?」
「魔法は意志の力で使うだろう?その意志の力ってのは使った後消えちまうのさ、だから何度も使うとやる気が起きなくなるのさ」
・・・村長の話より100倍分かり易い!
「そうだったのか、僕は魔法が使えないのでわからないんですよ」
「なに、あたしは生まれてこの方魔法なんて5回も使ってないさ、それでも全然生活に支障はないよ、あんたも気にしなさんな」
「そうですよね、ありがとうございます!」
魔法の練習してるのバレてたのかな?
その時である
「ミコトさんはいますか!?」
宿に入ってきて、開口一番にこういったのは、僕も何度か見たことがある村の人だ
「はい!ここにいますよ?」
息を整えながら、その人は僕の元に歩いてきて、
「ダイジさんが呼んでます、いつもと逆の門で待ってるそうだ」
そう言った
「あ、はい、急ぎみたいなので、すぐに向かいます」
「ああ、そうしてもらうと助かる」
「じゃあおかみさん、また後で」
「あいよ、気をつけてね!」
ダイジさんが夜に僕を呼び出すなんて、はじめてだ
何があったんだろう?
・・・嫌な予感がする
僕は急いで門に向かった
門ではダイジさんが待っていた
「む、ミコトか、待っておったぞ」
「ダイジさん、どうしたんですかこんな時間に」
「いやなに、予感がするんじゃよ、何となくだが」
そこでダイジさんは少し躊躇して、だけどもはっきりと言った
「魔物の襲撃がある気がする」
魔物の襲撃、これによってダイジさんの故郷、ライドは滅びたという
その襲撃が、もうすぐ起こるってことか?
「儂は何度か魔物の襲撃を受けておる、その、前兆の様なものがわかるのじゃ」
「それって的中率は・・?」
「・・・・100%じゃ」
言葉が出なかった、数多の国を滅ぼした魔物たちが、今、この村を襲おうとしている
・・・村が滅ぶ?
おかみさんも村長も村人も、ダイジさんも、みんな死んでしまう?
「どうするミコト、今なら逃げれるぞ?逃げたとて、誰も責めん」
「僕は・・・」
僕がどうするかは、決まっていた
みんな、僕を暖かく迎えてくれた
「僕はこの村を守ります、きっと、守ってみせます」
「・・・フン、そう言うと思ったわい」
ダイジさんは、どこか寂しげに、自嘲気味に笑いながらそう言った
「魔物はこの先、つまりライドからこの街道を通ってくるだろう、数はわからんが、おそらくそんなに多くはない、この村が潰せればいいだけの戦力でくる」
「どうしてそんなことがわかるのですか?」
「勘じゃ」
・・・なんとも心許ない
「儂の勘を侮るでないぞ?それだけでこの戦場を生きてきたのじゃからな!」
カッカッカッ!っと快活に笑い、ダイジさんは僕を見た
「なに、儂とお主なら、何とかなるじゃろ!」
「またそんなこと言って、だからおかみさんにも相手にされないんですよ」
「それはそうと、お主の目、だんだん黒くなってきたな」
「え、本当ですか!?」
「ああ、いつか本当に真っ黒になるかもな」
「やった!そうしたらもう魔物と間違えられないぞ!」
「いや、お主は腕のこともあるからな~」
「なんでそういうことを言うんですか・・・」
そうやってくだらない話をしていると、僕の目に何かが写った
「どうやら来たみたいですよ」
「うむ、そのようじゃ」
無数の赤い目が、こちらにやってくる
「準備はいいですか?」
「誰に聞いとるんじゃ」
ダイジさんが刀を抜いて、構えをとる
僕の初めての戦が、始まる
次回、大暴れの予感!
魔方陣は、ただこういうのがありますよ~っていう説明です
大晦日、のけものにされて暇なあなたに捧ぐ