魔物狩りの在り方
僕は今、かご付きの背負子とナイフ、ロープなどが入った袋を渡され、門の前にいる
そこで準備体操を始めたダイジさんに倣って、僕も準備体操をしていたのだけど・・・
「よし!では、参るか!」
そういうと、ダイジさんはすごいスピードで森の中に走っていった
「ほら、ついてこ~いっ!」
そう言われて、慌てて僕も走り出す
「ほっほっほっほっほ~!」
ダイジさんは僕の想像を遥に越えたスピードで走っており、昔の僕ならすぐに置き去りになっていただろう
正直ダイジさんを侮っていた、もしかしてこの世界の住人はみんなこうなのだろうか?
必死になってついていくが、川沿いを走るのと違って木々が邪魔で、なかなかスピードに乗れない
対してダイジさんは、まるで木々が存在しないかの様に、するりと走り抜けてゆく
「どうした?そんなに力んでおると、体力がもたんぞ~?」
「だったらもっとスピード落としてくださいよ~!」
いいながら必死についていくこと15分位、ようやくダイジさんが立ち止まった
「ふむ、このあたりでよかろう」
ダイジさんは腕に巻いていたバンダナの様なものを口と鼻を覆う様につけだした
「よいか、魔物がでるような場所では、極力口と鼻を覆わねばならぬぞ」
「?なんでですか?」
「お主、話を聞いておったのか?」
う~ん、ということは魔物の特徴と関係があるのかな?
「魔物の血肉は人には猛毒だ、返り血が口に入って死ぬ者も少なくないんじゃよ」
「だから口と鼻を覆って侵入を防ぐのですね?ですが、傷口からの侵入はどう防ぐのですか?」
「うむ、何故かは知らぬが魔物の毒は傷口に対してはあまり効かんのじゃ、だから、とりあえずは口を覆っておればよいぞ、ほら、袋に入れておいたバンダナを巻くのじゃ」
言われて袋を調べると、ダイジさんと同じような布があった
急いでそれをつける
「よし、では早速じゃが・・」
魔物狩りか?
「採集を始める!」
・・・どうやら違うらしい
それからしばらくは食べられる物や毒になる物、薬草や有益な物の見つけ方を教えてもらいながら過ごした
「よいか、この薬草は、傷口につけるだけでよい、そうすれば直ぐに傷が治るぞ」
「よいか、このきのこは食べてはいけない、手足が痺れるぞ」
「よいか、緊急時はこれも食べられるぞ、ただし不味いから持って帰る必要はない」
よいか、よいか・・
そういって様々な事を教えられる
頭がパンクしそうになりながら必死に覚えていると、ダイジさんが遠くを見つめだした
「む、どうやらお出ましのようじゃ」
見ると、狼のような真っ赤な目をした獣が、こちらに近づいて来ている
「とりあえずは見本を見せるとしよう、お主は下がっとれ」
そういってダイジさんは一歩前にでた
腰に刺していた刀を抜いて、構える
狼は依然、近づき続ける
そして、狼がダイジさんの一刀一足の間合いに入ると思われる、寸前!
「セイッ!!」
ダイジさんが動いた、初動が全然見えない!
一瞬の内に狼と交差したダイジさんは、攻撃の姿勢を保ったまま、ゆっくりと振り返った
狼の首が殆ど体と繋がってない事に気付いたのはこの時だ
交差の瞬間に放たれた斬撃は、見事狼の首に吸い込まれていたようだ
「この様に、攻撃した後も気を抜いてはいけない、魔物の中には恐ろしく生命力の強い物もある、一瞬の油断が命取りじゃ」
しかし、狼はもうピクリとも動かなかった
「まあ大抵の物は首を刈れば死ぬ、しばらくして少しも動かなければ警戒を解いてもよいぞ」
「すごいです!正直一瞬すぎて何が何だかわからなかったですけど、とにかくすごいです!」
「お主・・・まあいいか、と、忘れてはいかんな」
そういってダイジさんは狼に近づいていった
「何をするんですか?」
「いやなに、特別な例を見せようと思ってな」
そういうと、ダイジさんはナイフで牙を抜いて、手に持った
「この様に、必要だと思われる物を刈り取って、それを自分の物だと思い込むと」
徐々に狼が、黒い霧の様になって消え始める
そんな中、ダイジさんの手の内にある牙だけが残って、他は全て消えた
「ほれ、自分の物として残すことができるのじゃ」
そういってその牙を、僕の背負っているかごの中にいれた
「さあ、採集を再開するぞい!」
そしてしばらくして・・・
「む、また来おったな」
今度は角の生えた兎の様な魔物があらわれた
「では今度はミコト、お主が相手をしてみなさい」
そういって、ダイジさんは僕に視線を寄越した
「は、はい!」
僕はかごや余分なものをその場に置いて、一歩前に出た
兎はこちらを見て、様子を伺っている様だ
こちらもどうするか、様子を見ていると、兎が角を突き出しながら飛び掛って来た!
「ヒッ!」
・・・僕は左に飛んで避けた
「・・・お主、やる気があるのか・・・?」
ダイジさんは呆れた様子でこちらを見ている
「だっ、だって危ないじゃないですか!?」
僕はひたすら避けながら、その言葉に反抗する
「ヒッ!ホッ!ヘッ!フッ!トォッ!」
とにかく避けまくっていると
「ええい!いい加減にせんか!!」
ダイジさんの叱責が飛んだ
「う、うわぁぁ~~っ!!」
僕は叫びながら腕を前に構え、飛びかかってきた兎の角を掴んだ
兎は空中でジタバタもがいている
「うお~~っ!」
僕は角を持ったまま、その兎を地面に叩きつけた
1回では不安なので、2回3回と連続で叩きつけ続けた
「お~い、もうよいぞ~」
ダイジさんの言葉に気がついて、角の根元の方を見てみると
兎だった物が付着していた
「ヒッ!」
僕は腰を抜かしてしまったが、角を持ったまま、これは僕のだと念じた
兎が消えていく
「あれ?」
角も消えていった
「ふむ?どうしたのじゃ?ちゃんと念じておったか?」
「え?あ、はい、確かに僕の物だと念じていたはずなのですが・・・」
「ふむ、子供にもできることじゃし、どうなっているやら・・?」
言外に、子供にも出来る事が出来ないといわれているようで、落ち込んでいると
「いや、そういう意味じゃなくてな、出来てない訳はないんじゃ、ただ、なぜ消えてしまったのか、儂にもわからんのじゃ」
そう言われたので、少し気が楽になった
「しかし、もっとこう、戦い方をスマートに出来んかいな?こっちにまで血が飛んできたぞ」
そういってダイジさんは笑った
そして、僕の初めての、いや、2回目の魔物狩りはこうして終わった
このあたり、説明回が続いてます
矛盾が出来てそうで、ドキドキです