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test  作者: test
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第三章 - 犬猿の発展(Ⅲ-5)

 初夏の夜風がそよそよと頰に当たる。


 雲の翳りが一切見えない、真っ黒に塗り込められた空に、星が点々と輝いている。


「こうして何もせずボーッと空を見てるだけでも、すげえリラックスできるな」


「……そうね。明日から戦いが始まるなんて信じられないわ」


「時間に直せばあと11時間ってところか。7時くらいには起きていたいよな」


 俺と狗上は、それぞれアウトドアチェアに深く腰掛けて高原の夜に身を委ねていた。

 うーん、と大きく伸びをすると、連れて隣から「ふあぁ……」とあくびが聞こえてくる。


「……念のため目覚まし時計を5個ほど用意したけれど、もしあたしが起きなかったら――」


「オーケーわかった、直接起こ――」


「――午前中はひとりでがんばってちょうだい」


「どうしてそうなる!? 身体揺さぶってでも無理やり起こすわ!」


「殺すわよ、そんなことをしたら。殺したあと、猥褻未遂で警察に突き出すわ」


「理不尽すぎるだろ! お前の倫理観が心配だ!」


「うるさいわね。他人に寝顔を見られるなら死んだほうがマシよ」


「……いや、お前さっき後ろのベッドでぐーすか寝てただろ。寝息聞こえてたぞ」


「……………………」


「おい無言でラケットを手に取るな! 俺の頭はボールじゃねえぞ!」


 ぼすっ、と隣からふたたび椅子に腰掛ける音が聞こえたので、俺も安心して姿勢を戻す。


 下校後、大会に向けての最終調整を終え、その足でねえさんのレンタルした3人就寝可のキャンピングバンに乗り込み、俺たちは竜宮ヶ丘へとやってきた。


 道中で食事をしたり、ついでに温泉に入ったりと小旅行チックな風情を感じたが、大会が翌日に迫っているという緊張から解放されるかのようだった。


 ねえさんは慣れない運転疲れからか、キャンプ地点に着いたとたん「もうだめだ限界」と、運転席のリクライニングを限界まで倒して早々に寝入ってしまった。


 車をレンタルする際、簡単なアウトドア用品もオプションで付けたらしい。男ひとり、女ふたりの組み合わせ。さすがに同じ空間で寝るのは(ねえさんはともかく)どうかと、俺ひとりが椅子を使って外で寝るつもりだったのだが、なんの気まぐれか狗上も外に出てきていた。


「キャンプといったら焚き火ってイメージがあるけど、後処理が面倒だしな。明日早いし」


「それ以前に、あたしの近くで火を焚かないでくれる? 顔が煤で汚れるし、肌も乾燥するしで良いことないんだけど。せっかくお風呂入ったのに汚れるなんて御免だわ」


 椅子に沈み込んだままなので、隣にいる狗上の表情は窺えないが、そう言う声はどこかほんのりと焦りの色を帯びていた。


「で、朝が弱い狗上さん? どうしてわざわざ外に出てきたわけだ?」


「……寝付けないのよ」


「あー、さっき寝こけてたから? でも今あくびしてただろ」


「そうじゃなくて」


 呼吸を一拍置いて、透徹した声が響いてきた。


「たぶん、あたし緊張してるんだわ」


 ……そうか。


 俺だって緊張している。

 きっと、大会に出る人間は、みんな等しく。


 遊興ついでにテニスをしに来る人だっているだろうし、俺たちのように本気で優勝を狙っている選手もいるはずだ。万人が同じ思想を持っていることなんてありえない……けれど。


「ねえ、明日の予選を勝ち上がったら、竜宮ヶ丘の宿泊所に泊まるのよね?」

「ああ。予選通過者だけじゃなく、希望者には大会側が宿を用意してくれるらしいけどな」

「でもあたしたちは、負ければすぐに帰るわけでしょう?」

「……そうなるな」


 予選がおこなわれるのは土曜日で、決勝トーナメントは日曜日。その次には月曜日がやってくるわけで、学生である俺たちは普段どおり高校に通う日々へと戻ることになる。いくら遠出したからといって、いたずらに宿泊日程を延ばすメリットもない。金もかかるしな。


「明日、この空をどこで見ることになるんだろう。勝ち残って宿泊所で見る空と、負けて帰って自分の部屋から見る空とでは絶対に景色が違う……そう考えていると、落ち着かなくて」


「お前ってたまに詩的な言い回しするよな。無駄にロマンチックというか」


「……からかってるの? 殺すわよ?」


「大会後にいくらでも殺されてやるから、それまでは待ってくれよな」


 少しでも心を落ち着かせる足しになればと軽口を叩く。

 ただ、それでも逸る心をおさめるには足りなくて、俺は続けて口を開いた。


「狗上。俺は大学に行きたい。あわよくば賞金も欲しい。それが大会に出る理由だ」

「……なによ、いきなり。そんなこと知ってる」

「俺とお前が初めて会った日。試合をして、なし崩し的にペアを組むことになったよな」

「なに。このタイミングで過去を思い返しているの? 気持ち悪いわよ?」


 狗上の悪態を受け流して、俺は核心に迫った。


「今まであえて聞かなかったんだけど……どうしてお前、俺と大会に出てくれるんだ?」


 試合に勝てたらペアを組むことを考えてあげてもいい――あの時、狗上はそう言ったのだ。


 考えてあげてもいい。

 つまり、考えるだけでいい。


 こうしてダブルスを組んで大会に出る――その選択を取らなくてもよかったはずなのだ。


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