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レベル1の俺が魔王を倒すと言ったら、みんな笑った。でも、前世が名探偵だったおかげで本当に倒してしまい……  作者: からくらり
4章 ジュニッツを罠にかけようとしたエリート冒険者を返り討ちにする話
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75話 探偵、読書する 前編

 レコとキーロックが魔王と戦った話を読み終えた俺たちは、もう少しだけ書庫にいることにした。

 閉館までは今しばらく時間がある。

 まだなにか有益な情報が得られるかもしれないと思ったのだ。


 手始めに、レコとキーロックの2人について、何か資料がないかと探した。

 2人の戦闘スタイルとか、得意なスキルとか、そういう情報があれば何かの役に立つかもしれない、と考えたからである。

 だが……。


≪見つからねえな≫


 俺は念話でアマミにそう言った。

 レコとキーロックはS級冒険者である。地元の英雄というか名士というか、そういう扱いで色々と記録が残っていてもおかしくないのだが。


≪どうも、この町では何十年か前に大きな火災があったみたいですね≫


 アマミが古い日記のようなものを読みながら言った。


≪その時に、記録もほとんど燃えちまったってわけか≫

≪ええ。魔王との戦いの記録が残ったのが運が良かったくらいで≫

≪残念だな≫

≪あ、でも、こういうのならありますよ≫


 それは、元冒険者のとある老人が書いた古い日記で、「最近の若い冒険者どもは、なっとらん」みたいな愚痴が延々と書かれていた。

 その中で、若い冒険者達の装備について文句を言っている箇所があり、「おれの若い頃に活躍していたS級冒険者のレコとキーロックは、装備もきちんとしていた」と語っている場面があった。


 まずレコについて、「近頃の魔法職の連中は物語に影響を受けているのか、とんがり帽子にローブを羽織った連中が多いが、あんな目立つ帽子とひらひらした服でまともに戦えるわけがない。その点、レコは目立たず動きやすい格好をしていた。全身黒のぴったりした服で、帽子もかぶっていなかった」と語る。


 キーロックについても、「最近の若い戦士どもは、見た目で選んでいるのか、細くてキラキラした剣を身につけているのをよく見かけるが、あんな細身の剣じゃ実戦ではすぐ折れてしまう。その点、キーロックは分厚くて頑丈な大剣を装備していた。朱色の大剣で、ヒーゼンという見た目以上に重い金属を使っており、その重さで敵を叩き斬るという実に戦士らしい剣だった」と述懐している。


≪とんがり帽子とローブは魔力の通りをよくするためのもので、細い剣は魔力を剣に通すことで斬れ味と耐久度をよくするためのものなんですけどね。かっこつけるためじゃなくて、合理性を追求した結果です。ちょうど老人がこの日記を書いていたころに生み出された戦闘スタイルですね≫

≪まっとうな理由があるってことか。老人はそのことを知らなかったのか?≫

≪知らなかったんでしょうねえ≫


 その後も老人は日記で、レコとキーロックはいつも底の薄い歩きやすい靴を履いていたが、近頃の若いのはやけに底の分厚い靴を履いているだとか、レコもキーロックも両肩に下げるリュックで荷物を運んでいたが、最近の若いやつらはかっこつけて片肩のバッグを使っているとか、この頃の若い魔法職の連中は刃物を持たないが、レコは物理戦闘が苦手なりにきちんと短剣を2本腰に差していたとか、そんなことを長々と書いていた。


 老人の日記からは、これ以上得られるものはなさそうなので、他の本に何か有益な情報はないかと目を通していく。


≪ん?≫

≪どうしましたか、ジュニッツさん?≫

≪この本、見てみろ≫

≪なんです? 『チェスリル決闘こぼれ話集』?≫


 この世界に広く普及しているボードゲームであるチェスリル。

 そのチェスリルによる決闘で起きたおもしろいエピソードを紹介している本だった。


 俺は、いくつかあるエピソードのうち、決闘作法(パターン22)で決闘する話を探した。

 近々俺は、月替わりスキルの能力の1つ『強制チェスリル』を使おうと思っている。

 前にも書いたが、この能力は、指名した相手と決闘作法(パターン22)でチェスリルの決闘を強制的におこなうことができる能力である。

 この能力をどう使うか、そのヒントになるかもしれないと思ったからだ。


 まず、とある国の貴族2人が、お互いの家宝(どちらも大宝石(だいほうぎょく)と呼ばれる大きな宝石を家宝としていた)を賭けて決闘をしたエピソードを読んだ。

 勝った側の貴族をA、負けた側の貴族をBとしよう。


 敗者のBはチェスリルに自信があっただけに本気で敗北を悔しがり、長年の暴飲暴食で血行が悪かったこともあって、ショックで脳出血を起こして死んでしまった。


 一方、勝者のAは歓喜した。

 が、すぐに困惑した。

 Bの大宝石は、彼の領地の神殿内に治められていた。

 その神殿に、決闘直後、偶然にも魔王が出現したのである。この魔王を倒さねば、大宝石は手に入らない。


 おまけに、2人が結んだ契約では、勝った側は1ヶ月以内に自らの手で直接大宝石を取りに行かなければならない、と定められていた。

 つまり、Aはチェスリルで勝ったのに、魔王を倒しに行かねばならぬ羽目に(おちい)ってしまったのだ。


 Bに「なんとかしろ」と言いたくても彼は死んでしまっているし、後継者であるBの息子は「どうぞ契約通り、ご自身の手で大宝石を取りに行ってください」とそっけない。

 といって、大宝石をあきらめるのも、ビビっているようでメンツが傷つく。

 それに契約に『勝者は大宝石を取りに行かねばならない』と明記されている以上、あきらめたら、Aの利権を狙う王や貴族たちが「神聖な契約に違反するとは何事だ。責任を取れ」などと難癖をつけて騒ぎ立てることだろう。


 そういった事情もあり、またチェスリルで勝利したことで「おれはすごいやつだ」と気が大きくなっていたこともあり、Aは家臣団を率いて神殿に乗り込んだ。

 そして、ものの見事に全滅したという。


≪この貴族さんは、もうちょっと冷静になれなかったんですかね≫

≪予想外の出来事が起きたら、人間こんなものさ≫


 続いて別のエピソードを読んだ。

 とある国の富豪であるCとDが決闘した時の話である。


 決闘を始める時、Cは見るからに焦っていた。

 CはいきなりDのところに押しかけたかと思ったら、「け、けっと、けっとと、けっと」と珍獣の鳴き声のような声を上げた後、「けっ、決闘を申し込む! チェ、チェスリルのパターン22の決闘だ!」と叫んだ。


 賭けるものを決める時も、Cは焦った口調で「お、おれが勝ったら、きゅいんか1万枚をもらう!」と叫んだ。

 当然、Dは「きゅいんか、ってなんだ? そんなもの私は持っていないぞ?」と聞き返す。

 決闘では余計な私語は禁止されているが、こういう確認は認められている。

 Cは「ま、間違えた。金貨1万枚だ」と言い直す。当たり前だが、『きゅいんか』のような2人とも持っていないものは賭けられないから、こういう場合は作法として訂正が認められている。


 決闘の場所を決める時も、Cは焦った声で「ば、場所は、ポレの屋敷だ」と口走った。

 ポレとは、当時現役で活躍していた遠い国の勇者の名である。

 有名人ではあるが、CもDも会ったことすらない。

 そんな面識のない人物の屋敷の場所なんてDは知らない。Cは知っているのだろうか? といぶかしげな視線を向けると、Cは「ま、間違えた。おれの屋敷だ」と言い直す。当たり前だが、ポレの屋敷のような2人とも知らない場所では決闘はできない。こういう場合は作法として訂正が認められている。

 DはCの屋敷の場所を知らなかったが、Cは当然知っている。決闘の作法として、知っている側が道中の危険を排除しつつ、案内する。


 そうして決闘場所につき、契約書を交わして、いざ決闘という時もCは焦っていた。

 チェスリルでは決闘を申し込まれた側(つまりD)が先手なのに、Cが先手で指そうとしてしまったり、動かせない位置に駒を動かそうとして危ういところでハッと気づいて思いとどまったり、と終始落ち着かなかった。


 そんな落ち着かない打ち回しをしていたからだろうか。

 決闘はDの勝利に終わった。

 Cは金貨1万枚を支払うことになった。


 金貨1万枚。

 大金である。

 が、富豪であるCには、なんとか支払える金額のはずだった。


 ところがCは、そんな金は持っていないという。

 実はCは最近ギャンブルにのめり込んでいて、先祖から受け継いできた財産を失ったばかりか、借金まで背負ってしまったというのだ。

 Cが焦っていたのは、借金の返済期日がせまっており、近いうちに大金が必要だったからだ。

 そして、2人が交わした決闘の契約書には、勝者が賭け金を徴収できるのは1週間以内と明記されている。

 Cに1週間以内に金を用意できるあてはない。

 結局Dは、勝ったにもかかわらずほとんど金を徴収できず、泣き寝入りする羽目になったという。


≪まあ、さっきの貴族の話と比べれば、マシですね。Dは何も失わなかったんですから≫

≪気分は悪いだろうがな。さて、チェスリルの本はこれくらいでいいだろう。他に何か有益そうな本はあったか?≫

≪それなら、こんなのがありますよ≫


 そう言ってアマミは1冊の本を見せた。

 そこには『死神見聞集』と書いてあった。

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