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レベル1の俺が魔王を倒すと言ったら、みんな笑った。でも、前世が名探偵だったおかげで本当に倒してしまい……  作者: からくらり
4章 ジュニッツを罠にかけようとしたエリート冒険者を返り討ちにする話
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68話 探偵、決闘の模擬戦をする 後編

 チェスリルの勝負をする上で、決めなければいけないことがある。

 場所と日時である。


 場所は挑戦者(つまり決闘を申し込む側)が決める。

 決闘で賭けるものが確定した後、1分以内に決めなければならない。

 場所自体はどこでもいいが、挑戦者も対戦相手も知らない場所だとか、魔物が襲いかかってくるような危険な場所とか、そういう現実的に考えて勝負できないような場所はダメである。


 日時は『今すぐ』である。

 決闘作法(パターン22)の場合、日時は『今すぐ』しか選べないのだ。

 他のパターンであれば、3日後の正午とか、一週間後の日の出の時刻とか、そんな風に日時を決めて後日あらためて勝負というケースが多いが、パターン22ではそんなのはない。

 とにかく挑戦者が決闘を申し込み、『何を賭けるか』と『どこで勝負するか』が決まったら、即座に2人一緒に挑戦者が指定した場所に移動し、そのままチェスリル勝負をしなければならない。


「場所はそこのベッドの上です」


 アマミが宿のベッドを指定してきた。

 まるで緊張感のない場所だが、今はあくまで宿の中で決闘の模擬戦をやっているわけだから、仕方ない。


 ちなみに本来の決闘では、勝負の場所は、血とか魔物とかそういう不浄とされているものをできるだけ避けることが推奨されている。

 どうもチェスリルの決闘には、そういう潔癖ともいえる思想があるらしい。

 そのため、たとえば、どの決闘作法のパターンでも、先にチェスリル勝負の場所に着くなどして決闘相手を待っている間は、目に見える範囲に魔物がいたら駆除することが推奨されているし、その際にケガをしたり、死んだり、毒などの状態異常になったりしてはならないと明記されている。神聖な決闘を血で(けが)すことになるから、という考えによるものだろう。


 もっとも今回の決闘場所は魔物など関係のない、ただのベッドである。

 すぐ、2人並んでベッドの上に移動する。

 パターン22の作法では、移動中は2人一緒でなければならず、大きく離れることは禁止されているからだ。

 ベッドに乗ると、俺はどかりとあぐらをかき、アマミはきれいなしぐさで正座する。


 指定の場所に着いたら、すぐに勝負である。

 向かい合うと、アマミは手に持っていたチェスリルの盤と駒箱を、俺たち2人の間に置く。

 俺とアマミは黙々と駒を並べる。

 というより、しゃべってはいけない。作法に反する。


 俺から駒を動かす。

 チェスリルは対戦する2人が交互に駒を動かすゲームである。駒を動かすことを『手を指す』と言う。最初に手を指す人を先手、そうでない人を後手と呼ぶ。

 俺は先手で、アマミは後手である。

 作法で、対戦相手が先手、挑戦者が後手と決まっているからだ。

 チェスリルは元々戦争を盤上に模したものであり、戦場では勇敢に真っ先に攻撃を仕掛けることが名誉とされている。だから「決闘を申し込む側は、相手に敬意を表し、名誉ある先手を譲らなければならない」らしい。


 1手は1分以内に指す必要がある。

 ひっくりかえすと必ず1分で落ちる魔法の砂時計がある。チェスリル・ギルドなどで安く販売している。それを使うのだ。


 チェスリルは平均して100手ほどで決着がつく。

 先手と後手が100手ずつ、合計200手を指した頃に決着がつく、という意味だ。

 双方とも最大限時間を使えば計200分。3時間20分ほどで勝負がつく。


 勝負の間は、ずっと座ったままである。

 作法では、勝負中は、襲ってきた魔物から身を守るなどの正当な理由がない限り、席を立つことは許されない。

 トイレはどうするのだと思うかもしれないが、これはトイレを不要にする薬を使用することで解決する。この薬は安価で広く市中に出回っており、安く安全にトイレを不要化できるということで、危険なダンジョンに長時間もぐる冒険者や、優雅なイメージを崩したくない貴人などに需要がある。

 まあ、あまり長々と書くことではないか。

 ともあれ、そういう薬を服用することで、チェスリル勝負にも集中できるということだ。


 俺とアマミは1手1手、駒を動かす。

 作法では、反則、降参、試合放棄、時間切れによる負けは、どれも神聖な決闘をけがす行為として、死んで償わなければならない。

 要するに、決着がつくまで試合を投げ出さず、最後まで指し切らないといけないのだ。


 勝負はすぐについた。

 予想通りというべきか、アマミの勝ちである。

 俺がどう指したところで、次のアマミの手で俺の王駒は取られてしまう。


 負けた側は即座に賭けの負け分を支払わなければならない。

 今回で言えば、王太子(という設定)である俺は、国王の課す後継者修行を受ける義務がある。模擬戦なので省いたが、普通は賭けの内容を決めた時点で契約書を書いているので、逃げることもできない。

 賭けはきっちり清算する義務があるのだ。


「以上がパターン22の決闘です。お疲れ様でした」


 アマミはそう言って、決闘の模擬戦の終わりを告げた。


「ああ、お疲れ様。で、まとめると、こうなるな」


 俺は決闘の流れを紙にまとめた。



1.挑戦者が対戦相手を直接訪れ、決闘を申し込む。対戦相手は拒否できない。


2.挑戦者、対戦相手の順に、決闘で賭けるものを10分以内に宣言する。お互い拒否できない。


3.挑戦者が勝負の場所を1分以内に決める。対戦相手は拒否できない。


4.即座に2人一緒に勝負の場所に移動する。


5.勝負の場所に着いたらすぐにチェスリルの勝負を開始する。1手は1分以内。反則、降参、試合放棄、時間切れによる負けは死んで償うこと。


6.勝負がついたら、負けた側はすぐ賭けたものを支払う。



 この1~6までが決闘である。

 決闘を申し込んだ瞬間から決闘が始まり、賭けの清算が終わった時に決闘が終わる。

 チェスリルの勝負の間だけではなく、準備と後始末も含めて決闘と呼ばれているのだ。


 そして1~6に書いてあることに、どれか1つでも反したら、死罪である。

 たとえば、決闘で賭けるものを10分以内に宣言しなければ死罪だ。


 俺のまとめを見て、アマミは、こう言った。


「そうですね。これで合っていると思います。

 ただ2点だけ補足が。

 1点目ですが、2の『賭けるもの』は、『わたしが勝ったら金をくれ』というように自分が欲しいものをお互いに宣言することもできますが、『わたしが負けたら聖剣を差し出そう』というように自分が支払うものをお互いに宣言することもできます。

 どっちにするかは挑戦者が決められます」

「ふむ」

「もう1点の補足は、決闘中、禁止されている行為が他に4つある、ということです」


 そう言うと、アマミは紙にこう書き足した。



<禁止事項>

 決闘に関係なく次の行為のうちどれか1つでもしたら、神聖な決闘をけがした罰として、死んで償わなければならない。


・私語

・暴力

・妨害

・離脱



『私語』は、決闘に関係のない余計なコミュニケーションである。

 たとえば、挑戦者が決闘を申し込んだ時に、対戦相手が「やだよ」と反論するのは余計な発言である。作法では、決闘の挑戦は黙って受け入れるものと決まっているからだ。

 あるいは、移動中に「今日も良い天気ですね」などと会話や筆談で伝えるのも、余計なコミュニケーションである。決闘と関係ないからだ。


 無論、決闘に関係するコミュニケーションならよい。

 たとえばチェスリル勝負の場所まで移動に1週間かかるとしたら、道中の宿を取るのに「1晩泊まりたいのだが」などと会話をする必要があるが、こういうのは認められている。


 要するに不必要なコミュニケーションを取るな、ということだ。



『暴力』は言葉通りだ。

 相手が誰であろうと、決闘中の暴力は禁止されている。

 自分で振るう暴力はもちろん、仲間や部下に命じて暴力を振るわさせるのも禁止である。


 もっとも正当防衛はOKである。

 たとえば、決闘相手がいきなり攻撃してくるなど、自分の身に危険が生じたら、反撃してよい。


 要するに、不要な暴力は禁止ということだ。



『妨害』というのは、決闘ができなくなるように邪魔することだ。

 たとえば、チェスリルの勝負の最中に睡眠魔法やマヒ魔法を相手にかけて、まともにチェスリルが指せないようにすることだ。

 あるいは、そこまでひどくなくても、騒音を立てるとか、駒を動かした振りをして相手を惑わせるとかも妨害だ。


 要するに、変な邪魔はするな、ということだ。



『離脱』は逃げ出すことだ。

 たとえば、チェスリル勝負の場所に行く途中で不要な寄り道をしたり、勝負中に席を立ってどこかに行ってしまったり、そういう行為である。


 勝負の最中に魔物が襲ってきたから迎撃に向かうとか、そういう『決闘のため』という理由があれば良いが、なければダメである。


 要するに、必要も無いのにどっかに行くな、ということだ。



 違反した場合にペナルティがあるのは、この私語、暴力、妨害、離脱の4つのどれかに反するか、先ほど述べた1~6のどれかに反する行為をした場合である。

 いずれもペナルティは死罪だ。


「とにかく死罪が多いな」

「といっても、変なことをしなければ、普通は死罪になんてなりませんけれどね」

「まあ、決闘作法(パターン22)はこのへんでいいだろう。残りの2つを見ていこう」


 チェスリル・ギルドで俺とアマミが調べたのは、

・決闘作法(パターン22)

・決闘作法(パターン13)

・チェスリル・ルールブック

 の3つである。


 パターン22は、もう見た。

 残りは2つである。


「と言っても、決闘作法(パターン13)はパターン22と基本は一緒です」

「じゃあ、違う点だけ挙げてくれ」

「了解です」


 アマミは、違う点を列挙した。


1.

 決闘の始まり方が違う。

 死神を呼びつけることで決闘が始まる。

 死神を呼び出す儀式や呪文詠唱が完了した瞬間から、決闘開始である。


2.

 決闘場所への移動方法が違う。

 死神は、挑戦者(死神を呼び出した人間)のところに来る。

 死神が来たらすぐ、その場でチェスリルの勝負が始まる。


3.

 賭けられるものが違う。

 挑戦者は自分の命のみ。

 死神は『死神への命令権1回分』のみ。なお、死神に対してできる命令は、次のうちの1つだけである。

 ・挑戦者が指でさした生き物1体を殺させる。

 ・挑戦者が指でさした生き物1体を、挑戦者が1時間自由に操れるようにさせる。

 ・挑戦者が名前を告げた生き物1体の場所まで、挑戦者を転移させる。



「つまり、呼び出した死神とその場で『俺の命』と『死神への命令権』を賭けてチェスリル勝負をするわけだな」

「ええ、そうです」


 決闘作法(パターン13)の話はこれで終わりである。

 あとはチェスリル・ルールブックの話だ。


「ルールブックの話をするのは、ジュニッツさんがルールの裏をかきたいからですよね?」

「まあな」


 俺の能力『強制チェスリル』と『死神対戦』は、どちらもチェスリルの決闘をする能力である。

 決闘とは、要するに賭けだ。

 金とか命とかスキルとかを賭けてチェスリルの勝負をするのだ。


 賭ける以上、勝たねば意味がない。

 だが、チェスリルが苦手な俺としては、相手が人間だろうと死神だろうとまともに勝負をしては勝てない。


 まともにやって勝てないならルールの裏をつくしかないのだ。


「ジュニッツさんが裏をかけそうなルールというと……なんでしょう?」

「勝利条件だな」


 チェスリルは『相手の王駒を取れば勝ち』のゲームである。実際に決闘の99パーセントは王駒を取ることで決着が付く。

 が、それ以外にもこういう特殊な勝ち方がある。


・時間切れ

・2度指し

・禁止された駒の移動


 時間切れというのは、言葉通りだ。

 決闘ではパターン13だろうと22だろうと、1分以内に手を指さないといけない。

 1分経っても駒を動かさなかったら、時間切れで負け。相手の勝ちである。


 2度指しも、言葉通りだ。

 チェスリルは2人で交互に手を指すゲームである。

 1人で連続して手を指したら反則負け。相手の勝ちである。


 禁止された駒の移動というのは、やってはいけない駒移動をすることだ。

 チェスリルは、駒ごとに動かし方がルールで決まっており、ルールに反する動かし方をしてはいけない。

 例えば、1マスしか動かせない駒を2マス動かしたら、反則負けである。


 この3つ以外にも、特殊な勝ち方はいくつかある。

 だが、どれもチェスリルが得意じゃないと狙えないような勝ち方だ。俺にはできない。

 俺に狙えそうなのは、この3つだけだ。


「でも、ジュニッツさん。どうやって、その特殊な勝ち方を狙うんです?」

「アマミならどうする?」

「うーん。たとえば……決闘相手に睡眠薬を飲ませて、時間切れにさせるのはどうでしょう?」

「そりゃダメだろ。『妨害』になる。『妨害』は死罪だ」

「じゃあ……駒を動かした振りをするのはどうでしょう? そうすれば相手は、ジュニッツさんが駒を動かしたと勘違いし、『次は自分の番だ』と思って駒を動かすでしょう? その瞬間、『2度指し』でジュニッツさんの勝ちですよ」

「それもダメだな。さっき言ったろ? 『駒を動かした振りをして相手を惑わせる』のは妨害に当たる」

「ううん……ううん……じゃあ、もう、さっぱりですね……」


 アマミは両手を横に広げて「降参です」という仕草を見せる。


 俺の方も、まだはっきり答えが全部見えているわけではないので、何も言わない。

 代わりにこう言う。


「チェスリルの決闘作法とルールについては、こんなところだろう。次は町の書庫に行くぞ。人を操るアイテムについて情報を集めたい」

 更新、遅くなって申し訳ありません。

 謎の放置はしたくありませんので、必ず解答編まで書き切ります。


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