65話 探偵、3つの能力について考える 中編
「じゃあ、次の能力を見てみるか。次は死神対戦だな」
そう言うと、俺はスキルボードに書かれている『死神対戦』の説明文を見た。
『死神を呼び出して、チェスリルの決闘ができる』
あっさりとした説明文だが、右下をよく見ると『詳細説明』という文字がある。
これを押すと、先ほど見た『強制チェスリル』と同じく、能力の詳しい説明文が出てくるのだ。
さっそく押す。
もっとも、出てきた文章は堅苦しくて読みづらいものだったので、『強制チェスリル』でやったように、質問&回答形式で、わかりやすく書き直した。
これが書き直した結果である。
質問1.
死神って本当に死神?
質問1の回答.
はい。人間達が『死神』と呼んでいる存在そのものです。
質問2.
死神を呼び出せるの?
質問2の回答.
はい。あなたが念じた瞬間、死神をあなたのいる所に強制的に呼び出せます。
質問3.
呼び出した死神とチェスリルの決闘ができるの?
質問3の回答.
はい。死神の到着後、あなたと死神とのチェスリルの対戦が強制的に開始します。
質問4.
決闘に決まり事はあるの?
質問4の回答.
『決闘作法(パターン13)』を守ってください。
(ここから先は、先ほど見た『強制チェスリル』の質問&回答と内容がかぶっているが、一応、改めて書いておく)
質問5.
決闘作法って何?
質問5の回答.
チェスリル・ギルドが定めた決闘の決まり事です。
簡単に言うと『礼儀を守り、無駄口を叩かず、正々堂々1対1で対局して、負けたら賭けたものを支払いましょう』というものです。
細かい内容はパターンによって少し違います。
詳しくはギルドで調べてください。
質問6.
決闘作法を守らないとどうなるの?
質問6の回答.
絶対に守らせます。
正確には、能力の効果が発動している間、決闘作法を厳格に遵守できるよう、決闘する2人には身体に制約がかかります。
質問7.
身体に制約がかかる?
質問7の回答.
例えば決闘作法には『対局中に席を立った者は、不作法の罰として死ななければならない』とあります。
この記述通り、席を立つと、その瞬間に死ぬ体になります。
質問8.
能力の効果は、いつからいつまで続くの?
質問8の回答.
効果の開始は、念じて決闘が始まった瞬間です。
効果の終了は、決闘が終わるか、時間切れ(決闘開始から8時間経っても決着がつかない)になった時です。
時間切れの場合、決闘は無効になります。
質問9.
能力の使用回数に制限はあるの?
質問9の回答.
1回しか使えません。
「死神……とはなんじゃ? ずいぶん不吉な名前じゃが……」
説明文を読み終わったルチルがたずねてきた。
「人の魂を連れ去る、と言われている存在だな」
死神の目撃例は古来より多い。
いずれも人が死ぬ時、身の丈3メートルほどある黒装束をまとった人型のガイコツが現れ、死んだ者の胸から青い光の球を抜き取って、去って行く姿が目撃されている。
――あれは死神だ。
人々はそう噂する。
この世界の最高神は単に『神』と呼ばれており、その神の僕として、炎の神だの、戦の神だのといった様々な小神がいるとされている。
そして死神は『死を司る小神』と分類されている。
もっともこれは人間の勝手な分類である。
神だの小神だのが本当にいるのか分からないし、いたとして死神がその小神なのかも分からない。
が、ともかく人間達はそう考えて、人の死に際に目撃されるガイコツを死神と呼んでいる。
死神は不思議な存在である。
第1に、死神はあらゆる攻撃を受け付けない。
家族や仲間の魂(正確には、魂かもしれない青い光の球)を持ち去ろうとする死神を止めようとして、剣や魔法をはじめとして、これまであらゆる攻撃が死神に対して試された。が、どれも効かなかった。
そして、死神は反撃をすることもなく、平然と無視して去って行った。
100年以上前のことであるが、魔王を倒したことのある勇者パーティーからの全力攻撃も受け付けなかったという。
その時の勇者が言うには、
「あれは魔王と同じくらいヤバイ存在だ。ただし、ヤバさの方向が違う。上手くいえないけど、魔王が巨大な火山なら、死神は闇そのもの……と言えばいいのかな」
とのことである。
第2に、死神は姿が見える時と見えない時がある。
人が死ぬ時、死神は必ずそこにやってくる。特殊なスキルを使うことで、その姿は見ることができるのだ。
だが、普通の人には、その姿は見えない。
ただ時折、おそらく何らかの条件が重なり、誰でもその姿を見ることができる時がある。目撃情報の大半は、この時のものである。
第3に、恐ろしく速い。
速すぎて、常人の目には死神がいきなりパッと目の前に現れ、パッと突然消えるように見える。
だが、高レベルの者であれば、死神がすさまじい速さで現れ、すさまじい速さで去っていくのがわかる。
目撃情報から総合して計算すると、大陸の端から端までおおよそ15000キロを1分ほどで横断できるほどの速さである。
尋常ではない。
おまけに壁も天井も、山すらも通過する。あらゆるものをすり抜けてやってくるのだ。
「とまあ、これが一般に言われている死神の伝承だ」
「つまるところ、人の死に際に魂を持ち去っていく頑丈で透明で速いガイコツ、ということじゃな」
「まあ、そういうことだな」
人間達の間では、死神は有名な存在である。
もっともルチルはその存在を知らなかったので、宝石人のところには死神は現れないのか、あるいは現れるけれども宝石人達は死神が見えない体質なのかもしれない。
「ジュニッツ殿は、この死神とチェスリルの決闘をするのじゃろうか?」
ルチルは俺に問う。
「そういう能力だからな」
「死神相手に決闘とは……ジュニッツ殿は度胸があるのだな」
「今さらビビっても仕方ねえからな」
「そ、そうか……。それで、その死神のチェスリルの腕前はどうなのじゃ?」
「聞いたことがない……が、少なくとも俺よりは強いと思う」
先ほども言ったが、俺のチェスリルの実力は壊滅的である。
ひょっとすると、たった今ルールを覚えたばかりのルチルにすら負けるかもしれない。
死神と戦っても、普通にやれば100パーセント負ける。
「……死神に勝つとどうなるのじゃろうか?」
「ん?」
「いや、この能力は、わざわざ死神を呼びつけて決闘する能力なのじゃろう? 何か得になることがなければ、使う意味がないではないか」
「どうだろうな。決闘には賭けがつきものだ。たぶん勝てば何かが得られるのだろうが……」
死神に勝つと手に入るもの……誰かを殺してもらう権利だろうか?
ひょっとしたら、その権利で魔王を殺させることもできるかもしれない(相討ちで、死神も死ぬかもしれないが)。
「まあ、能力の説明文には『決闘作法(パターン13)』に従えと書いてある。チェスリル・ギルドに行って、そのパターン13の作法とやらを調べれば、勝ったらどうなるか分かるだろう。……負けたらどうなるかもな」
「負けたらどうなるか?」
「相手は死神だからな。負けたら魂を取られたって不思議じゃねえ。つまり、死ぬことになるかもな」
「死ぬ……」
「なあに、もともと俺は魔王と戦うつもりなんだ。今さら対戦相手に死神が1人増えたって同じだろ? それに元よりまともにチェスリルの勝負をするつもりはねえ。やり方はまだわからねえが、何か裏技的な勝ち方を見つけるつもりだ。チェスリルの実力なんざ関係ねえさ」
「う、うむ……」
ルチルが複雑そうな顔をする。
俺1人に、命を張った死神との決闘をやらせることに、罪悪感を感じているのかもしれない。
「……ジュニッツ殿」
「なんだ?」
「死神と決闘する時、それに魔王と戦う時、わらわも同行させてほしいのじゃ。いや、わらわなど、いても邪魔かもしれぬが……、しかしジュニッツ殿が命を張っているのに、わらわ1人、安全な妖精の森でのほほんとなどしてられぬ」
ルチルは真っ直ぐに俺の目を見て言った。
真剣に命をかけようとしている。そんな気持ちが伝わってきた。
「ああ。来てくれ。むしろ必要なくらいだ」
俺の言葉に、ルチルは嬉しそうに「よろしくなのじゃ」と頭を下げた。
ちなみにアマミは「わたしももちろん一緒に行きますよ」と言わんばかりの顔でニコニコしていた。
「お前は黙ってても勝手に着いてくるだろ」
そう言って頭を乱暴になでてやると、アマミは「あはは、そこ、くすぐったいです」と楽しそうな声を上げた。
こうして死神との決闘、および魔王との決戦の場に、ルチルも同行することになった。
それにしても、先ほどルチルが同行したいと言った時、なぜ俺は「むしろ必要なくらいだ」などと言ったのだろうか。
自然に口から出た言葉なのだが、自分でもどうしてこんなことを言ったのかわからない。
ひょっとすると、死神あるいは魔王と対決する時、『ルチルが何か重要な役割を果たす』ということだろうか?
ルチルじゃないとできないような重要な何かがあるということだろうか?
考えてみたがわからない。
俺は頭を切り換えた。
考えてわからないことに時間を割いても仕方ない。
それよりまだ能力を全部見終わっていない。
3つある能力のうち、最後の1つがまだ残っている。
「さあ、最後の能力『スキル復元』を見るぞ」




