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レベル1の俺が魔王を倒すと言ったら、みんな笑った。でも、前世が名探偵だったおかげで本当に倒してしまい……  作者: からくらり
4章 ジュニッツを罠にかけようとしたエリート冒険者を返り討ちにする話
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64話 探偵、3つの能力について考える 前編

 俺は『月替わりスキル』というスキルを持っている。俺が所持する唯一のスキルである。

 このスキルを持っていると、1000個の能力が使えるようになる。

 使える能力は月ごとに変わる。

 新しい月になると、先月まで使えていた1000個の能力が全部使えなくなる代わりに、今月分として新しく能力1000個が使えるようになる、というわけだ。


 もっとも、1000個といっても、腕力を上げるとか、炎を放つとか、そういう戦闘に直接役立ちそうな能力は1つもない。

『レベルを上げて力で魔物を倒す』ことが常識のこの世界では、誰も好きこのんでこんなスキルは取らない。


 だが、俺はこの月替わりスキルを使い、今まで3体の魔王を倒してきた。

 そして今回も、このスキルの能力で、全ての問題を解決しようと考えている。


 今回、俺が目星をつけた能力は3つ。

 俺はスキルボードを表示させ、その3つの能力をアマミとルチルに見せた。

 ルチルが「チェ、チェスリルって何じゃ?」と、とまどいの声を上げる。

 スキルボードには、こう表示されていた。


----------

1.強制チェスリル

 指名した相手と、金・アイテム・スキルを賭けて、ボードゲーム『チェスリル』で決闘ができる。


2.死神対戦

 死神を呼び出して、チェスリルの決闘ができる。


3.スキル復元

 スキルの状態を24時間前のものに戻せる。

----------


「ふうむ。この3つの能力で魔王を倒すんですか?」


 アマミのそんな問いかけに、俺はこう答える。


「倒すし、ルチルの仲間たちも救い出す」

「どうやってです? またなんか変な使い方をするんですか?」


 アマミは好奇心に満ちた顔で、俺にたずねる。


「俺にも、まだ分からん。いくつかの仮定が成り立てば、この3つの能力を上手く使うことで出来そうな気が、なんとなくするんだが……」

「それにしても、能力の説明文がずいぶんとあっさりしていますね。もうちょっと詳しい説明はないんですか?」

「あるぞ。ほら、どの能力も、説明文の右下に『詳細説明』という文字があるだろ。ここを押せば、具体的な説明が表示されるんだ」

「じゃあ、さっそく見てみましょう」

「そうだな。まずは1つめの『強制チェスリル』から詳細を見て……ん?」


 そこでふと、ルチルが何か言いたげな顔をしていることに気づく。


「どうした、ルチル?」

「ああ、いや……その、話の腰を折ってしまって申し訳ないのじゃが、素朴な疑問があって……」

「構わねえさ。むしろ、そういうシンプルな疑問から何かヒントが得られるかもしれねえ。遠慮せず聞いてくれ」

「う、うむ。では、ありがたくたずねるのじゃが……チェスリルとは何じゃ?」


 俺は一瞬、目をパチクリさせた後、「ああ」と理解した。


「宝石人のあいだでは知られていないものだったか」


 俺は説明した。


 チェスリルとは、古来からある2人対戦のボードゲームである。

 まず、盤を挟んで2人で向かい合って座る。

 盤上には、双方の駒がいくつか置かれている。

 プレイヤーは交互に自分の駒を動かす。

 そして、最終的に相手の王様の駒を取った方が勝ち、というゲームである。


 人間達の間では知らない者がいないほど世界中で広まっており、町の広場でチェスリルの対局をしていたり(上手い対局ならそこに人が集まっていたり)、酒場でチェスリルの賭け勝負がおこなわれている光景は、よく目にする。

 平民だけでない。王侯貴族のような偉い連中もチェスリルをやる。高価な材料を使って精巧な細工が施された仰々しい盤と駒をもちいて、社交や儀式の場などで指す。


 チェスリルが強い人間は、多少の敬意が払われる。

 この世界はレベル至上主義であり、レベルが高い人間こそ偉いが、「レベルが同じくらいの者同士なら、チェスリルが強いほうが偉いよね」と見なされる程度には、敬意が払われる(無論、レベルが低くてチェスリルだけ強くてもゴミ扱いであるが)。


「つまり、チェスリルとは人間のあいだでは定番のボードゲームなのじゃな」

「ああ、そうだ。ついでだし、具体的なルールも説明しよう」

「よろしく頼むのじゃ」

「じゃあ、まず駒の動かし方からだが……」


 俺は説明を始めた。

 説明をしながら、なんとなく(あ、これ、どうでもいいな)と気づいた。

 駒の配置だとか、駒の動かし方だとか、そういうチェスリルの詳細なルールは、今回の推理の役には立たないだろう。

 そう思ったのだ。


 理由は後で話すが、今回俺がまともにチェスリルをやることはないだろう。

 まともにやらない以上、普通のルールなんてどうでもいい。


 とはいえ、説明を途中でやめるわけにもいかない。

 最後まで話す。


「なるほど、よくわかったのじゃ。ありがとうなのじゃ」


 一通り説明が終わると、ルチルはそう言って頭を下げ、礼を言うと、

「邪魔をして申し訳なかったのじゃ。話を戻して欲しいのじゃ」

 と先をうながした。


「わかった。ええと、たしか能力の詳細説明を見てみよう、というところまで話したな。まずは1つめの能力『強制チェスリル』の詳細を見てみるか」


 俺は強制チェスリルの説明文を改めて見る。


『指名した相手と、金・アイテム・スキルを賭けて、ボードゲーム『チェスリル』で決闘ができる』


 その右下にある『詳細説明』という文字を俺は押した。

 すると、新たに文章が表示された。

 もっとも表示された文章は文体が堅苦しく、読みにくかったので、このように書き直した(前世でよく見た質問&回答形式である)。



質問1.

 誰と決闘できるの?


質問1の回答.

 50メートル以内にいる10歳以上のヒト種なら、誰でも決闘相手にできます。

 貴方(あなた)は、決闘したい相手を直接見て念じるだけでOKです。

 貴方とその相手との決闘がすぐ始まります。



質問2.

 決闘に決まり事はあるの?


質問2の回答.

 正式な『決闘作法(パターン22)』を守ってください。



質問3.

 決闘作法って何?


質問3の回答.

 チェスリル・ギルドが定めた決闘の決まり事です。

 簡単に言うと『礼儀を守り、無駄口を叩かず、正々堂々1対1で対局して、負けたら賭けたものを支払いましょう』というものです。

 細かい内容はパターンによって違います。

 詳しくはギルドで調べてください。



質問4.

 決闘作法を守らないとどうなるの?


質問4の回答.

 絶対に守らせます。

 正確には、能力の効果が発動している間、決闘作法を厳格に遵守できるよう、決闘する2人には身体に制約がかかります。



質問5.

 身体に制約がかかる?


質問5の回答.

 例えば決闘作法には『対局中に席を立った者は、不作法の罰として死ななければならない』とあります。

 この記述通り、席を立つと、その瞬間に死ぬ体になります。



質問6.

 能力の効果は、いつからいつまで続くの?


質問6の回答.

 効果の開始は、念じて決闘が始まった瞬間です。

 効果の終了は、決闘が終わるか、時間切れ(決闘開始から8時間経っても決着がつかない)になった時です。

 時間切れの場合、決闘は無効になります。



質問7.

 能力の使用回数に制限はあるの?


質問7の回答.

 1回しか使えません。




「決闘作法……と書いてあるが、これはなんじゃ?」


 ルチルがたずねてきた。


「そうだな、どこから話すか……。えっとだな、まず話の前提として、チェスリルってのは決闘によく使われるんだ」


 チェスリルは平民から王侯貴族まで、人間達の間で広くプレイされている。


 そんな風に広まっているチェスリルだからだろう。

 しばしば決闘の場でも用いられる。

 決闘というのは、剣や魔法を使って戦闘で決着をつけるのが正式な形であるが、この世界の人間はスキルが使える。スキルで威力を増大させた剣技や炎魔法は、人を容易に殺せる。決闘で人が死ぬことなど、ざらなのだ。

 だが、本当に重要な決闘ならともかく、ちょっとした(いさか)いによる決闘なんかで、いちいち命など懸けてられない。


 そこでおこなわれるのが、チェスリルを使った決闘である。

 これには、きちんとした作法がある。

 チェスリルギルドというギルドが、『決闘作法』と呼ばれている正式な作法を定めているのだ。


 もっとも、『決闘作法』とはその名の通り作法であり、チェスリルのゲームルール(駒の初期配置とか動かし方とか)とは関係ない。

 決闘の日時の決め方とか、何を賭けるかを決める方法とか、対局前の挨拶の仕方とか、そういうのが定められている。


「どのような作法なのじゃ?」


 ルチルがたずねてくる。


「いや、はっきりとは覚えていないな……」


 何かの折りに聞いた記憶はあるが、具体的な内容までは覚えていない。

 何しろ、俺はチェスリルは苦手だし、それで決闘しようなど考えたことすらないからだ。


「アマミはどうだ?」

「わたしも正確には覚えていないですね」

「まあ、具体的な作法は、後で調べればいいさ」


 ある程度大きな町なら、チェスリルギルドはある。

 いま俺たちが滞在しているエルンデールの町にも、ギルドはあるだろう。

 そこに行けばわかるはずだ。


「それで、その……ジュニッツ殿」

「なんだ、ルチル?」

「つまるところ……この『強制チェスリル』という能力は、その決闘作法とやらに従ってチェスリルの対戦をする能力なのじゃな」

「そうだな。目で見た人相手と、強制的に対戦できる能力らしいな」

「しかも、金・アイテム・スキルが賭けられると書いてある」

「ああ、そうだな」


 金とアイテムなら、普通の決闘でも賭けられるが、スキルまで賭けられるのはすごい。スキルというのは、他人に譲渡するのも、他人から強奪するのも不可能とされており、本来なら賭けの対象にはできないからだ。

 もっとも、金・アイテム・スキルを賭けられると言っても、「どうやって対戦相手と賭ける内容の合意を取るのか?」などの疑問はあるが、そのへんは決闘作法を調べればわかるだろう。

 いずれにせよ、この能力を使えば、強制的に賭けができる。


「チェスリルが強いやつが使えば、無理やり他人からアイテムやスキルを奪い取ることができそうだな」


 そう俺が言うと、ルチルがこう返した。


「つまり……この能力は、チェスリルで他人のアイテムやスキルを奪う能力。だから、チェスリルが強い者が使わねば意味がない。そういうことじゃよな?」

「ルチルの言いたいことはわかるぞ。俺のチェスリルの腕前が知りたいんだろ?」

「う、うむ。ぶしつけな質問で申し訳ないが、その……心配になってのう」


 仲間の命を俺に託しているルチルとしては、俺が自分の能力を使いこなせるのか、気になるのだろう。

 俺は、はっきりとこう答えた。


「俺は弱い」


 具体的に言うと、俺は人生で一度もチェスリルで勝ったためしがない。

 どうにもこう……盤上の駒を動かすというのが肌に合わないのだ。

 駒の動かし方はわかるし、反則しない程度にはプレイできるが、それだけである。


 アマミが言うには、

「魔王を倒すのにはあれだけ悪知恵が働くのに、不思議ですねえ。まあ、相性が悪いんでしょう。(いにしえ)の賢人ペンフィールドも、200年前の知将ガル・ダ・ザールも、知恵はあるのにチェスリルは絶望的なまでに弱かったと言いますし、そういう性に合わないというのはあるんでしょうね」

 とのことである。


「そ、そうか、弱いのか……」


 俺の言葉にルチルの表情が沈む。

 そんな彼女を安心させるように、俺はこう言った。


「なあに、勝つためだったら、普通にやる必要はねえさ」

「え? どういうことじゃ?」

「普通じゃないやり方で勝てばいいってことさ」


 能力『強制チェスリル』は、チェスリルで勝たなければアイテムもスキルも手に入らない。

 だが、俺はチェスリルが弱い。

 普通にプレイすれば必ず負ける。


 だから、普通のプレイのやり方(駒の種類とか動かし方とか)は、正直どうでもいい。

 代わりに、何か裏技的な勝ち方を考えればいいのだ。


 先ほど、『理由は後で話すが、今回俺がまともにチェスリルをやることはないだろう』と書いたのも、こういう意味である。


「む……な、なるほど……。して、具体的にどのような裏技があるのじゃ?」

「まだわからん。まあ、そのへんも調べればいいだろう」


 話をまとめると、能力『強制チェスリル』は、近くにいるヒト種に対して、『決闘作法』に(のっと)ったチェスリル勝負を強制できる。しかも、決闘相手には、アイテムやスキルを賭けさせることができる。

 しかし、チェスリルで勝たないと賭けさせたものは手に入らず、誰よりもチェスリルが弱い俺としては、勝つためには何か裏技的な方法を取るしかない。

 それゆえ、まずは、決闘作法や裏技について、チェスリルギルドに行って調べる必要がある。

 といったところである。


「じゃあ、2つ目の能力を見てみるか。次は『死神対戦』だな」

2022/5/13 誤字脱字修正

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