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異世界フランケンシュタイナー  作者: 雪村宗夫
感謝祭
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感謝祭

マリーンドルフ伯爵は、目下に迫る軍勢を眺めながら呟いた。

「最早、これまでか...」

マリーンドルフ伯爵の籠る城はフェールズ領軍とジャヌス領軍に包囲されつつあった。

マリーンドルフ伯爵領軍1000に対しフェールズ領軍4000ジャヌス領軍3000、

最後の頼みであった隷属化した魔物も既に数の暴力の前に敗れ去っていた。

「ハルバット領でドラゴンゾンビを失ったのが大きかったな...」

マリーンドルフ伯爵は考えていた、ハルバット領で戦力を失ったタイミングでの攻勢、

最初からフェールズ公爵の計画で王が亡くなる事も知っていたのでは無いかと。

「もはや意味なき事か...」

城門が破られるのも時間の問題であり、最早マリーンドルフ伯爵に生き残る手は無かった。

「伯爵様、ご用意が出来ました」

マリーンドルフ伯爵配下、四人の魔導師達が伯爵の前に並ぶ。

「そうか、では参るとしよう」

マリーンドルフ伯爵は四人の魔導師達を引き連れ、城の地下へとむかう。

城の地下には牢が並び、牢の中からは血の匂いが漂っていた。

マリーンドルフ伯爵はこの地下で隷属した魔物達に人間を食わせ、

人工的に進化させる事によって強力な魔物を使役する事に成功していたのである。

「まさかコイツを頼る事になるとはな」

地下の最奥でマリーンドルフ伯爵が語りかけた魔物は狂気の目をした一体の鬼であった。

その鬼は幾重にも重なる鎖によって固定され身動き一つ出来ずにいたが、

その狂気の眼光はその場にいた全ての者を震わせるものであった。

「脱力と睡眠の魔術を込めた鎖で縛ってもその眼光、今はそれすら頼もしい。お前達、後は任せる」

「よろしいのですね?まだ転移し再起を図る手もあるのでは?」

「逃げた先に再起を図る機会があると思うか?構わん、貴様らの研究成果を見せてみよ!」

「ははっ!では参ります!合成魔方陣を起動せよ!」

きっかけはオークジェネラルの転移失敗にあった。

2体のオークジェネラルを転移させた際に地震が起こり、驚いた術者が転移先を重ねてしまった結果、

転移先には2体のオークジェネラルでは無く1体のオークキングが存在していたのであった。

それまで幾ら人間を食べさせてもオークジェネラル止まりだった進化、それが転移を重ねる事で更なる進化する事を知ったマリーンドルフ伯爵は合成魔方陣の研究を指示する事になる。

そしてその合成魔方陣の研究の成果がこの鬼の存在であった。

数々の魔物を合成し続けた結果、隷属魔法すら弾く強さを身に付けた鬼を封魔の鎖で縛り地下の最奥へ封印したマリーンドルフ伯爵は、鬼をオーガエンペラーと名付け、いつの日かこの鬼を使役するつもりでいた。

「42年人として生きた、フェールズ公爵!ジャヌス伯爵!私の人としての道を奪った報いは受けてもらうぞ!」

光の中で叫ぶマリーンドルフ伯爵、光が地下牢全体に広がりその眩しさに目を閉じる4人の魔導師達。

目を開いた魔導師達の前に立っていたのはマリーンドルフ伯爵の面影が残った鬼であった。

「は、伯爵様?」

伯爵の面影を残した鬼は自身の右手を見つめる。

その右手が握られた瞬間、拳は青い炎に包まれる。

「なるほど、真の力を持つとはこう言う事か」

理性的な伯爵の言葉に安堵する魔導師達。

次の瞬間、マリーンドルフ伯爵は魔導師達が見た事も無い魔方陣を浮かび出させる。

「伯爵様!?」

「召喚魔法よ、この体を得た事で可能となった。今の私の魔力は人であった頃の10倍以上よ」

伯爵の言葉に目を見開く魔導師達、何故ならば人であった頃の伯爵の魔力でさえ魔導師達を超えており、

王国最強の魔導師とはマリーンドルフ伯爵の事であると皆が思っており、

その王国最強の魔導師が10倍以上の魔力を持ったと言う途方も無い話しに驚いたからである。

次々と召喚魔法により召喚される魔物達、オークキングを始めとしたS級の魔物ばかりである。

「選べ。オークキングの餌になるか、私、いや余に使える為にオークキングと一体になるか」

4人の魔導師達は互いに顔を見合わせて伯爵へ答える。

「我等は終生マリーンドルフ伯爵にお仕え致します」

「良い返事だ!共に魔王国を建国するとしようぞ!」


数刻後、マリーンドルフ伯爵領へ攻め込んでいたフェールズ領軍4000とジャヌス領軍3000は突如現れた魔物の軍勢と、魔法を駆使して戦う知性あるオークキングの存在により軍の三分の一を失い敗走する事となる。

マリーンドルフ伯爵領はこの日を境に魔都と化す。

この日は神の誕生を祝う感謝祭であった、だがこの世界に魔王が生まれた日にもなったのである。


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