フェールズ暗殺団
暗殺者サムソンを団長とする6人で構成されたフェールズ暗殺団は、各自商人や旅人、冒険者等に変装し別行動でカミルの街へ侵入していた。
実はカミルの街の警備隊は隊長クロエの指示により、変装したフェールズ暗殺団やモス達暗黒騎士団を全員把握していたが街へ素通りさせていた。
これはクロエが自身の想い人、占い師のミユの言葉に従った為であった。
「もうすぐこの街へ刺客が送られて来ますが門兵には素通りさせ好きにさせて下さい、
彼と貴方の願いの為です」
クロエにとってミユの言葉は絶対である。刺客が送られて来る事を事前に知っていれば見抜く事は難しい事では無く、部下達に刺客の存在を伝え怪しい者が来た場合には即座に連絡を入れるように指示をした。
その直後に刺客が見つかる、暗黒騎士団はあからさまに怪しかったからである。
12人の統一された漆黒のフルプレート集団を怪しく思わない方がおかしかった。
「良いんですか?」
「俺を信じろ」
不安気に尋ねる愛弟子ケビンに頷き笑いながら答える。
占いを信じる俺を信じろと言ったらダメだろうなと考え笑いが込み上げて来たのである。
別行動をとるフェールズ暗殺団を発見する事は困難であったが、
ケビンが街へ入ろうとする行列の中で職種はバラバラだが、赤い羽根を胸に挿した人間が居る事に気付いた事で解決する。
「距離を取りつつ尾行しますか?」
「いや放置しろ」
「良いんですか?」
「俺を信じろ」
不安気に尋ねる愛弟子ケビンに頷き笑いながら答える。
数刻前と同じ事を言う自分自身が可笑しく思えたのである。
警備隊に見破られた事に気づく事無くフェールズ暗殺団は街に入ると路地の奥へ向かう。
「それぞれ一人やったら此処へ暗号を残せ、集合は2日後良いな」
団長であるサムソンの声に皆が頷いた時である。
「それは困ります、別れられると探すのが手間じゃないですかサムソンさん」
「貴様っ!カシム!!」
「お久しぶりですね〜サムソンさん」
サムソンにとってカシムは暗殺を失敗した唯一の相手であった。
過去においてタウル・フォン・フェールズ公爵は娘の求婚を断ったカシムを暗殺しようと刺客を何人も送る、その中の一人がサムソンであった。
「あの時と同じ様に逃げられると思うなよ」
サムソンはカシムへ語りかけながらも配下へ攻撃の合図を送る。
小さな音がした。
サムソンの目で追う事が出来なかったが部下の毒針がカシムの刀で弾かれた事は理解出来た。
「おお!即死系の毒針ですね!私の妖刀が喜んでいますよ」
気圧される6人、サムソンは痺れ粉を撒く。
次の瞬間6人は眼を見張る、カシムの振るった刀が空に舞う痺れ粉を吸い取る様に切り裂くと、
痺れ粉の存在が消失してしまったのである。
「今度は痺れ粉ですか!良いですねー使い勝手が良さそうだ」
カシムの方が力量が上だと言う事は過去の経験で知っていたサムソンであったが、ここまで気圧される程では無かった筈と動揺してしまう。
カシムの腰が光を放ったと思った次の瞬間、サムソンの部下達が地面に崩れる。
「な!?」
サムソンは足を踏み出そうとしたが膝をついてしまう。
遅れて感じる腹部への痛み。
「安心して下さい、切れてませんよ。峰打ちです、ただし痺れの追加効果が付属しています」
サムソンは自身が動けない事を知る。
「サムソンさん、この街にはB級北斗のサムソンさんが居て、
貴方が居るとヒナコデスさんの頭が混乱するんですよ。この街にサムソンは二人も要りません」
サムソンはカシムの理不尽な言いように恐怖を感じる。
「貴方にはマシンレディ軍のマシン兵になってもらいます」
「な、に、を」何を言っていると言おうとしたサムソンの口は痺れ上手く喋る事が出来ずにいた。
カシムはアイテムボックスから黒い仮面を取り出す。
「この仮面、王都に居た頃ダンジョンで手に入れた呪いのアイテムで『女王様と奴隷』と言うんですよ、
説明聞きたいですか?」
「や、め、ろ」
「これは白の仮面を被った女性に、黒の仮面を被った男性は絶対の忠誠を誓うと言う呪いの仮面で、
一度付けたら仮面を取っても効果が続くと言う危険な物なんですよー」
「や、め、て」
「呪いの解除方法を教えておきましょうか?」
「お、ね、が、い、し、ま、」
「黒の仮面を付けた奴隷が白の仮面を付けた女王に呪いの解除を頼んで女王が了承すれば良いんですよ。
ただ、絶対の忠誠を誓い心から心酔した女性に自分を捨てろとは普通頼みませんよね」
「や、め、ろ」
「さようならサムソンさん、後のことはラーメン三剣士、具材担当氷結のサムソンに任せて下さい、
貴方は今日からマシン1号です、返事はそうですねー『良いーー!』って事で」
サムソンに黒い仮面を付けるカシム、黒い仮面を付けたサムソンは立ち上がる。
「マシン1号!マシンレディの新たな指示が入るまで自由にせよ!ただし女王の顔に泥を塗る様な真似だけは絶対にするなよ!」
「良いーー!(イーーー!)」
豹変した団長の姿を見て呪いの恐ろしさを知った団員達は恐怖する。
「ところで...黒の仮面が一枚しか無いと思います?」
団員達へ顔を向けたカシムの笑顔に団員達は意識を手放す。
「お前たち!マシンレディ軍として恥ずべき行動だけはするなよ!」
「良いーーー!!」
「さて、まだ他にも奴隷にしなくてはいけない連中が大勢いる様ですし、
忙しい、忙しい」
カシムの笑顔は人間の闇の部分を感じさせる、おぞましい笑顔であった。
この日以来、カミルの街では街の清掃活動に勤しむ黒い仮面の集団が見受けられる事になり、
彼等の挨拶である「良いーー!」より良い事をする集団、「良い団」として認識される事となる。