幕間
その日、ハルバット領主マウナ・フォン・ハルバットは怒りのまま執務室で秘書官のウルリヒを怒鳴りつけていた。
「カミルの丘の封印が解けたなどと一体どういう事だ!!あの地にオークキングを封印してまだ2ヶ月しか経っていないではないか!!あの封印にどれだけの犠牲を払い、どれだけの金をかけたかわかっておるであろう!!」
「マウナ様、冷静になって下さいませ。お怒りは当然ではありますが、今はカミルの街への指示が大事かと」
秘書官であるウルリヒの冷静な声に幾分か落ち着きを取り戻しはしたが、マウナは怒りを抑える事は出来なかった。
カミルの民への被害を最小限に抑える。
これがオークキング発見から現在に至るまで、変わることの無いマウナの出した答えであった。
その為にこそ領主として全力を尽くし封印したはずであった。
その封印が2ヶ月しか持たなかったという事は自分の判断が間違っていたという事であり、
常に領民を第一にと考えるマウナにとって、簡単に許せる事ではなかったからである。
「2カ月前、あのオークキングを封印する為にどれだけの冒険者が命を落としたか、ハルバット領内でも
屈指の冒険者チームであるB級「銀の剣」の犠牲を持ってやっとの思いで封印したのだぞ?!
封印策はカミルの丘ごと封印する事でオークキングを飢えさせるはずだった!そうだな!?
あの地の生物を奴が食い尽くすのがおよそ2ヶ月!その後餓死するまでの予想が半年!!それを考慮し封印解除は来年のはずではなかったか!!!ウルリヒ!!貴様の策であろう!!」
マウナの怒りに全く動揺することも無く、ウルリヒは右手を胸に当て頭を下げつつ答えていた。
「申し訳ございません、想定外の事が起きたようで。しかしながら封印はオークキングが死亡すると解除されるようになっております。無事オークキングを討伐したという事もあり得ます。」
ウルリヒの自分へ向けての冷ややかな対応によってマウナは逆に冷静になる事が出来た。
「貴様、自分でもあり得ないと解っておって言いよるな。もう良い。
お前に怒りをぶつけるのは筋違いだと解った。急ぎカシムを彼の地へ送り偵察させよ!」
カシムはハルバット騎士団の副団長で、その実力だけで言えばハルバット領地最強の戦力であり、冒険者で言えばこの国に3人しか居ないA級冒険者に匹敵する騎士である。
協調性に乏しく、孤独を好む為副団長の地位としてはいるが、マウナはカシムをいずれ団長の地位にと考えていた。
「よろしいのですか?カシム副団長を失う事になりかねませんが」
「構わない。カシムは私にとって失い難い人材ではあるが、貴族にとって一番大切な事は如何に領民を守る事かだ。それにカシムであればオークキングから逃げる事位可能であろう。」
マウナは一度目を閉じ深く深呼吸をすると更に続けた。
「現在我が領地に居る冒険者で高位の者は?」
ウルリヒは既に答えを用意していたのか淀みなく答える。
「ニター率いるB級「爆撃団」女性冒険者ロウジー率いるB級「キャット」キージー率いるB級「北斗」
以上の3チームが現在我が領内に居る高位の冒険者チームとなります。」
「おお爆撃のニターが居たか!なんと運が良い。
噂に聞く爆撃魔法であればオークキングへの牽制に有効であろう。
ウルリヒ、直ちに3チームに指名依頼をだすのだ。」
ウルリヒは主人であるマウナの目を直視し答えた。
「かしこまりました、指名依頼内容は「カミルの民の避難誘導」という事でよろしいでしょうか?」
この質問は街の放棄を一秘書官が決するというあり得ない質問であったが、マウナは一度鼻を鳴らしウルリヒを見返して答えた。
「当然だ!オークキングの封印が解けたのであればあの街は放棄する!
あと我が家の美術品を換金しA級「三銃士」を首都から呼ぶ手配をしておけ!
前回は予算などと考え封印策などと甘い考えを持ってしまったからこの結果だ!
今回は父上の遺産を処分し私財を使っての討伐だ!オークキングを討伐してみせよ!!」
領主マウナの覇気溢れる答えに秘書官ウルリヒは「かしこまりました」と一言だけ答え執務室を後にした。




