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花は桜、愛でるべし〜女学生が初恋とお役目を全うするまで〜  作者: 倉桐ぱきぽ
3章 にらみ合う二人、遭遇する二人

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合鍵付きのキャラメル

 しばらくの間、グズグズと泣いていた左久夜だったが。突如、宗右真に抱き上げられる。

 そのまま歩き始めたので、さすがに左久夜もぎょっとした。


「ちょっ、ちょっと! ソウちゃん⁉ 待って」


 宗右真は居間を出て、二階へ上がる。結局、左久夜は宗右真の部屋のベッドまで運ばれた。


 宗右真は今日も優しい。

 そう思ってから、左久夜は気づいた。

 今日だけでない。子供の頃から、宗右真は優しかった。


 お腹が空くと、玉子焼きを作ってくれた。宗右真が作る玉子焼きは、カホルが作るものとは違って甘かった。左久夜はこの玉子焼きが大好きで、何度もねだったことがある。もっとも宗右真に言わせると、初めて作った時に塩と砂糖を間違えただけらしいが。


「ソウちゃんって、昔から(・・・)優しかったね」


 左久夜は言った。

 それは『父親の代わり』でもなく、『左々凪を助けられなかった償い』でもなく、『左久夜を傷つけた責任』でもなく。

 宗右真は、変わらずにずっと優しい。


「おかしなこと言ってねぇで、さっさと寝ちまえ」

「うん」


 ころんと寝転んだところに、頭から布団を掛けられる。

 左久夜は布団から手を伸ばして、宗右真の浴衣をつんつんと引っ張った。そして、ふと思いついたことを、口に出す。


「ソウちゃん、一緒に寝よ」


 子供の頃のように、左久夜はわがままを言ってみた。


「……子供か」

「前にクソガキって、言った。未成年は未、成年だって」

「あいにく、このベッドは一人用だ」

「ちょっと我慢すれば、寝れるよ?」

「俺は、そんなに我慢強くねぇ」

「……じゃあ、寝るまで側にいて」

「はいはい。寝るまでな」


 宗右真は笑って、ベットの縁に腰を下ろした。


「おやすみ」


 その言葉に、左久夜はまぶたを閉じる。




 翌朝、左久夜が目覚めた時には、宗右真はいなかった。

 本棚に吊るしてあった制服に着替えて、部屋を出る。昨日、風呂場に吊るしたままにしていたのを、宗右真が、持って来てくれたのだろう。

 一階に降りて、小さく気合を入れてから、居間の扉を開ける。

 

「おはよう!」


 左久夜は、いつもより大きな声で言った。


「……朝っぱらから、元気だな」

「うん。ソウちゃんは、あれだね……」

 

 もしかして、自分がベッドを使ったせいで、よく眠れなかったのか。尋ねると、宗右真は違うと答えた。


「でも、なんか元気ないよね?」


 そう思ったものの、左久夜はすぐさま、思い直す。前にもこういうことがあった。


「ソウちゃんって、寝起き悪い?」

「……悪くねぇ」

「じゃあ、あたしは帰るね。色々とありがとう」


 居間を出ようとした左久夜だったが。


「ちょっと待ってろ」と、引き止められる。宗右真は部屋を出て、しばらくして戻って来た。

 

「口、」

「くち? え? やだ、何かついてる?」


 左久夜は慌てて、口元をぬぐったが。


「違う。開けろ」

「何で?」

「いいから」


 そう言うと、宗右真は黄色い小箱の中から長方形のものを一つ、手に取る。白い包み紙から現れたのは、茶色い塊。


「何、それ?」

「食いもんだ。ほら、口、開けろ」


 促されて従うと、口の中に塊を放り込まれた。

 茶色い物体は、ゆっくりと舌の上で溶ける。じんわり、甘みが広がった。


「……ん? 甘くて、ちょっと苦い? 何これ?」

「あめチョコ」

「あめチョコ? あめなの? チョコなの?」

「その中間みたいな食い物だ。西洋じゃ、キャラメルとか言うらしい」

「お菓子?」

「いや。煙草の代用品って、ふれこみで売ってる」

「それにしては、甘いね」

「だから、お前にやるよ」


 宗右真が左久夜の手を取り、手のひらの上に先ほどの黄色い箱を置いた。さらに、宗右真は箱の上へ、もう一つ、物を乗せる。


「ソウちゃん……あの、これ、何?」


 左久夜は、ドキドキしながら、若草色の組み紐が結ばれた鍵を指した。


「何って、見りゃ分かるだろ。うちの合い鍵だ」

「それは分かるけど!」

「何かあった時は、それで勝手に上がってろ」

「何かって?」

「カホルさんとケンカしたとか、左希斗と大ゲンカしたとか」

「こんなの、もらったら、入り浸るかもしれないよ?」

「そうなったら、たたき出してやる」


 宗右真は、きっと、そんなことはしないはず。そんなことを思いながら、左久夜はポケットに大事にしまう。

 家に帰った左久夜を待っていたのは、母の一時間に及ぶお説教だった。



              4章 終 



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