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第61話:アメリカ最強の男、戦慄 〜その汚れ、神話級につき〜

 S区・相葉邸の二階。

 世界を滅ぼす「終焉の王アポカリプス」の指先を、ペシッとはたき落とした俺、相葉湊。


「ったく……。しつけがなってないなぁ」


 俺はブツブツ文句を言いながら、右手に持った雑巾で窓枠をゴシゴシと拭いた。

 黒い泥のような汚れ。

 なかなか落ちない。油汚れか?


「見てみろよこれ。真っ黒だぞ」


 俺は窓の外にいる巨人(泥だらけの不審者)に向かって、汚れた雑巾を見せつけた。


「君ね、人の家に来る時は、身だしなみを整えてから来るのがマナーだろ? 泥だらけの手でベタベタ触らないでくれる?」


 『……!?』


 目の前の巨人が、ビクリと震えた気がした。

 顔がないから表情は分からないが、なんとなく「えっ、怒られた?」みたいな空気が漂っている。


 まあ、反省しているならいい。

 俺は窓ガラスをキュッキュッと磨き上げ、満足げに頷いた。


「よし、綺麗になった」


 俺は巨人を指差した。


「次からは気をつけるように。……シッ、シッ」


 手を振って追い払うジェスチャーをする。

 そして、俺は窓を閉めた。


 ピシャッ。

 ガチャン(施錠)。


 さらに、遮光カーテンもきっちりと閉める。

 これで完璧だ。

 朝から変なものを見たせいで、コーヒーが冷めてしまった。


「アリスー、コーヒー温め直してくれる?」


 俺はリビングへと戻っていった。

 窓の外で、世界最強の災厄が呆然と立ち尽くしていることなど、気にも留めずに。


 ◇ ◇ ◇


 ——外の世界、S区の庭。


 『……我ヲ……拒絶スルカ……』


 終焉の王は、困惑していた。

 彼は、あらゆる生命を刈り取るために深淵から蘇った概念存在だ。

 その手に触れたものは朽ち果て、その息を浴びたものは灰になる。


 はずだった。


 だが、今の人間ミナトは、王の手に触れても平然としていた。

 それどころか、「汚い」と言って拭き取った。

 そして、目の前で「窓(結界)」を閉ざされた。


 『……入レヌ……』


 王は、閉ざされたガラス窓に手を伸ばした。

 だが、触れられない。

 窓ガラスの表面に、見えない「拒絶の概念」が張り巡らされている。


 それは、湊の「今は誰も入れたくない(休日の朝だから)」という強固な意志が、ダンジョンコアを通じて世界最強の物理結界へと変換されたものだ。


 王は悟った。

 この家は、今の自分の力(半覚醒状態)では突破できない。

 一度、深淵に戻り、さらなる力を蓄えなければならない。


 ズズズズズ……。


 巨人の体が、泥のように崩れ落ち、地面の亀裂へと吸い込まれていく。

 一時撤退。

 だが、これは終わりではない。

 次に現れる時は、この家ごと世界を飲み込む——。


 ◇ ◇ ◇


 ——アメリカ、ニューヨーク。

 Sランク探索者、ジャック・バーンのペントハウス。


「……Jack! Look at this!(ジャック! これを見ろ!)」


 側近が血相を変えて飛び込んできた。

 手にはタブレット。

 映し出されているのは、偵察衛星が捉えた日本の映像だ。


 S区の上空に渦巻く、赤黒い魔力の渦。

 そして、地面から突き出した「黒い腕」。


「What is that...?(なんだあれは……?)」


 ジャックはグラスを置いた。

 背筋が凍る。

 画面越しでも伝わってくる、吐き気を催すほどの邪悪な気配。


「Energy reading... Unmeasurable!(エネルギー反応……測定不能です!)」

「It's bigger than any Dungeon Boss recorded in history!(観測史上、どのダンジョンボスよりも強大です!)」


 側近たちが悲鳴を上げる。

 これは、モンスターではない。

 地球規模の災害だ。


「……End of the World(世界の終わりか)」


 ジャックは呟いた。

 だが、次の瞬間。

 衛星映像の中で、信じられない現象が起きた。


 黒い腕が、何かを掴もうとして——ペシッとはたかれたのだ。

 そして、すごすごと地面に引っ込んでいった。


「……Ha?」


 ジャックは目を丸くした。

 今、何が起きた?

 あの災厄が、まるで「野良犬」のように追い払われた?


 場所は……S区。

 あの家の、二階の窓。


「……Master(師匠)」


 ジャックは確信した。

 あそこには、俺の師匠フレンド、ミナトがいる。


「Hahaha!! Crazy!!(ハハハ! イカれてやがる!)」


 ジャックは爆笑した。

 恐怖が吹き飛ぶ。

 世界の終わりすらも、「窓拭き」のついでに撃退する男。

 それが、俺が認めた唯一のライバルだ。


「But... this is bad.(だが……マズいな)」


 ジャックの表情が引き締まる。

 あれは、ただ追い払っただけだ。倒してはいない。

 奴は必ず戻ってくる。

 次は、もっと巨大な力を伴って。


「Prepare the jet again.(ジェットを準備しろ)」


 ジャックは立ち上がった。


「Are you going to Japan again?(また日本へ!?)」

「Of course.(当たり前だ)」


 ジャックは窓の外、東の空を睨み据えた。


「Master needs help... No, he needs a "tank" for his party.(師匠には助けが必要だ……いや、パーティの『盾役』が必要になるはずだ)」


 世界が終わるその時、俺はあいつの背中を守る。

 それが、eスポーツ(と命のやり取り)で結ばれた友情だ。


「Let's go. To the final battlefield.(行くぞ。最後の戦場へ)」


 ——世界最強の男が、再び動き出す。

 同時に、日本政府、ギルド、そして一般市民も、空の色が変わったことに気づき始めていた。


 日常が崩壊していく。

 しかし、その中心にいる湊だけは、冷めたコーヒーを飲みながら「レンジで温めると風味が落ちるなぁ」と平和な悩みを抱えていた。

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