第56話:決戦の地:湊の家の庭 〜その武器、ダイソンにつき〜
S区の上空一万メートル。
そこから一つの流星が落下した。
ヒュゴオオオオオオオオオッ!!
大気を引き裂く音。
真っ赤に燃える魔力の光。
それは、S区の結界(湊の家の庭)に向かって一直線に突き刺さる。
ズドォォォォォォォンッ!!!!
轟音と共に、庭のアスファルトが砕け散り、土煙が舞い上がった。
衝撃波で、周囲の「雑草」たちが一斉に悲鳴を上げる。
『キャアアアッ!』
『ウグッ!』
その光景を、一台のドローンカメラが至近距離で捉えていた。
「み、皆さん! 見えますか!? 今、空から『爆撃王』が降ってきました!」
実況するのは、ジャージ姿の銀条レイナだ。
彼女の配信チャンネルは、今や同時接続数300万人を超え、世界記録を更新し続けている。
土煙が晴れる。
そこに立っていたのは、金髪碧眼の巨漢。
全身から真紅のオーラを立ち昇らせ、不敵な笑みを浮かべる男。
ジャック・バーン。
アメリカ最強のSランク探索者だ。
「……Heh. Not bad.(へっ、悪くない)」
ジャックは、足元のクレーターを見下ろしてニヤリと笑った。
パラシュートなしの着地。
自身の魔力障壁だけで衝撃を殺し、無傷。
これぞ、世界最強のパフォーマンス。
コメント欄が爆発する。
『うおおおおお! ジャックだ!』
『本物が来た!』
『パラシュートなしかよwww』
『人間核弾頭』
『これでS区も終わりか……』
ジャックは、ゆっくりと顔を上げた。
目の前には、古びた一軒家。
そして、その玄関から——一人の男が出てくるのが見えた。
◇ ◇ ◇
——ガチャリ。
ドアが開く。
現れたのは、灰色のジャージを着た男。
顔には、マジックで『へのへのもへじ』と描かれた茶色い紙袋を被っている。
そして、その手には。
剣でも、杖でもなく。
右手に、コードレス掃除機。
左手に、100均のハエ叩き。
ジャックの眉がピクリと動いた。
「……Hey, Paper Bag. Is that your weapon?(おい紙袋。それが武器か?)」
ジャックの問いかけに、紙袋の男——相葉湊は、明るい声で答えた。
「ハロー! ナイス・トゥ・ミーチュー! ウェルカム・トゥ・ジャパン!」
湊の紙袋の額には、マジックで『WELCOME』と書かれている。
手作り感満載の歓迎ムードだ。
◇ ◇ ◇
——湊の視点。
「うおー、すげぇ演出!」
俺は感動していた。
庭に穴が空いたのはビックリしたが、きっとこれは最新の演出技術だろう。
さすがアメリカのプロゲーマー。登場から派手だ。
目の前にいる金髪のマッチョマン。
彼が、対戦相手のジャックさんか。
キャラ作りが完璧だ。映画俳優みたいにかっこいい。
(言葉は通じないけど、ゲーム愛があれば通じ合えるはず!)
俺は精一杯の英語で挨拶した。
そして、自慢の愛機(掃除機)を持ち上げた。
「イエース! ディス・イズ・ダイソン! グッド・サクション!(吸引力すごいよ!)」
俺は掃除機を自慢した。
今日の対戦(オフ会)のために、部屋中を掃除して充電マックスにしてきたのだ。
S区は埃っぽいから、ゲストを迎える前に庭も少し掃除しておこうと思って持ってきた。
◇ ◇ ◇
——ジャックの視点。
(……Mocking me?(俺を愚弄しているのか?))
ジャックのこめかみに青筋が浮かんだ。
世界最強の自分を前にして、掃除機を見せびらかす?
「お前など、ゴミ掃除のついでだ」と言いたいのか?
「Hahaha! Funny guy.(ハハハ! 面白い奴だ)」
ジャックは笑った。だが、その目は笑っていない。
殺意のボルテージが最高潮に達する。
「Reina. Translate.(レイナ、通訳しろ)」
「Yes, Sir.」
二人の間に、レイナが立った。
彼女は、世界中に向けて、厳粛な声で宣言した。
「これより、日米頂上決戦を開始します!」
「ジャック選手の言葉を、私が責任を持って通訳(超意訳)いたします!」
ジャックが右手を突き出す。
そこには、圧縮された熱核エネルギーが渦巻いている。
「I'll turn you into ashes along with your trash bag!(そのゴミ袋ごと、灰にしてやる!)」
レイナが湊に向かって通訳する。
「『素晴らしい掃除機ですね。ぜひその吸引力を見せてください』と仰っています!」
湊がパァっと明るくなる。
「オーケー! 任せて!」
湊は掃除機のスイッチに指をかけた。
ジャックは魔法の発動準備に入った。
認識のズレが、限界点を突破する。
「Die!!(死ね!!)」
「スイッチ・オン!」
ジャックの手から放たれたのは、Sランク極大魔法『ヘル・フレア(地獄の業火)』。
湊の手で起動したのは、最新型サイクロン式掃除機『ダイソン(改)』。
ゴォォォォォォォッ!!
キュイイイイイイイッ!!
灼熱の炎と、吸引の風。
二つの力が激突した瞬間、世界中の視聴者は、物理法則が崩壊する瞬間を目撃することになる。
「うわっ、熱っ! これ4D演出!? すげぇ!」
湊は、迫りくる業火を前にして、楽しそうに笑っていた。




