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竜皇といっしょ。  作者: 凍雅
番外編
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開かれた籠の鳥 6

 開け放った窓の側で、少女が小鳥と戯れている。

「ひさしぶりー。みんな元気だった?」

 初めは僅かに臆していた小鳥たちも、すぐに慣れて、今では厚かましくさえある。

 臆していたのは、少女――シエルが今までのように窓際に置いた敷物の上ではなく、城の主である竜の前足に座っている為だ。

 戻ってきてからというもの、何故か私の前足によじ登るのが気に入っているらしい。

 堅く、冷たく、更にかなり高い場所だというのに、時折昼寝までしている。

 更に頭に上ろうとしたのは流石に止めさせたが、これは活発というべきか、お転婆というべきか。

 それとも。

 どこぞの女から、何か妙なことを吹き込まれているのではあるまいか。

「ねぇ、竜皇。この小鳥ってどこにすんでるの?」

 小鳥を手に止らせながら振り返る。

『この城の庭だろう。そのような体の小さな鳥は、城の周りの森では冬を越せぬし、空を渡るだけの力も無い』

 恐らく、過去の竜皇や巫女達が連れてきて庭に放したものが、同じ種の鳥が少ない中、近い種を求めて子孫を残してきたのだろう。

 もはやなんと言う種の鳥かさえ、わからなくなっている。

 

 巫女姫は、竜に捕らえられた籠の鳥。

 この小鳥たちもまた、この城に囚われた身なのだろう。


 そんな感傷に浸るのかと思えば、シエルは安心したように穏やかに笑った。

「そうなんだ。じゃあ、安心だね」

 安心?

「だって、竜皇のお城にいたら、怖い人とかは来ないでしょう? すんでる森が焼かれることも無いし、誰かに捕まえられることもないし」

 そういう、ものだろうか?

『……この城の庭に囚われた、憐れなものだとは思わないのか?』

 問い返すと、首を傾げられた。

「なんで? このお城の庭なんて、ちょっとした森より広いくらいだし。それに、もともと他の森までは滅多に移動しない鳥なんでしょ? だったら、安心してすめる場所があるんだもの、幸せじゃない?」

 そんな見方も、あるのか。

「普通の人だって、生まれた村から一生出ない人もいる。というか、田舎だったらそれが当然だし。神殿に神官として入った人だったら、他の神殿に行くことはあっても、普段は神殿から門前町まで出ることさえほとんどないよ。それに貴族だって、お屋敷から出ることも少ないし、街から出たり他の国に行ったりするのは、ものすごく特別なことでしょ?」

 ふむ。そんなものか。

「まえ『籠がいるか?』って言ったよね。『人は小鳥を籠に入れて愛でるものだ』って」

 ああ。よく覚えている。

『お前は「鳥は空を飛ぶものだ」と言っていたな』

「うん」

 シエルは手に止めていた小鳥を放つ。

「でもね、必要な空の大きさって、鳥によって違うと思うの。あの鳥なら、この広間でも十分に飛びまわれるでしょ?」

 小鳥に視線を向けながら続ける。

「籠の中に入れられてたとしても、その籠が自分に必要な空よりも大きかったら、籠の中にいることさえ、わからない。籠があることを知らなければ、外に出たいとも思わない。外に出たいと思っても、その中の世界しか知らなかったら、実際に外に出るのはすごく勇気がいることだと思う。出たら帰ってこられないなんていわれたら、そう簡単に出られないよ。何処にも行けないことよりも、帰る場所がなくなるほうが、ずっと、辛いもの」

 それは、鳥のことなのか、己の身の上のことなのか。

 私を見上げ、続けた。

「それに、籠の中にいたいっていう鳥がいても、おかしくないと思うの」 




 籠の中に閉じ込めて、外を夢見て嘆く姿など、見たくはないと思った。

 だが、籠の中にあることが不幸なのでもなく、大空に放たれることが幸せでもないのだという。

 解き放つ覚悟が揺らいでしまった今となっては、もう、籠を無くすことはできない。

 だから、せめて居心地の良いように整えておこう。

 自由に羽根を広げられるような広さに、安心して住まえる場所に。

 そして――。




 部屋の隅で、魔力が動く。

「あ。お迎えが来たみたい」

 見ると、鏡の傍らには、いつもと同じ黒い姿の男が一人。

「お迎えに上がりました」

 城には戻したものの行儀見習い自体は続いており、シエルは数日おきにプリマヴェーラの屋敷へ行っている。

 これは、シエルが人の世のことを学びたいと、自ら望んだ為。

 また、巫女の眷属からの要望として、成長に合わせた装束や身の回りの品を揃える為にも、時折訪問して欲しいと伝えられたことにもよる。

 あちらに行く度に何を吹き込まれているのかと、今となっては幾分、いや非常に不安が残るが。

 伝言を持って来たウォレフは「私は異を唱えましたから」と、きっぱりと私の初動の誤りを指摘してきた。


 確かに。

 あの女の子孫なのだ。警戒するべきだった。


 しかし、今となってはどうしようもない。

 シエルはソイエに懐いてしまっているし、ソイエの方もいたくシエルを気に入っている。

 問題がないことを祈りはするが、私の思う「シエルの為にならないこと」が、ソイエにとっての「姫の為になること」である可能性は否定できない。むしろかなり高そうな気もする。

「それじゃ、行ってきます」

 前足から下りて、笑顔で振り返るシエルに、心の中で溜息を吐いて答える。

『ああ、行って来るといい』

 それでも、シエルが前よりももっと多く、そして心から笑うようになったことのほうが重要に思えるのだから、私にも問題があるのかも知れない。

 


 

 ――そして、籠の扉は開けておこう。

 外の世界を見られるように。

 けれど。

 どうか、あまり遠くへは行かないで欲しい。

 もしも戻らないと知れば、二度と飛び立つことができないように、翼を折ってしまうかも知れないから。

 それでも、扉は開けておく。


「竜皇、ただいまっ!」


 ここが、シエルにとって、帰る場所である為に。

巫女姫シエル編竜皇視点完結です。ありがとうございました。

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