71.再会
今回も前話に引き続き三人称視点での進行です。
前回までの簡単なあらすじ
脱出困難な状況に陥った兄妹。
二人はそこで生きる為に足掻くが・・・
※今回最後辺りで、人によって嫌悪感を感じるような描写が在りますのでご注意ください。
冷たい水に囲まれ、僅かな風がその冷気を孕んで吹き抜ける。
一面を水で覆われた貯水地の真ん中に、建物の残骸が鎮座していた。
二人の兄妹は、そこで身を寄せ合い辛うじて生きていた。
ここに落ちてから彼等の体感で、3日が経とうとしていた。
落ちてから最初の日から少しずつ集めていた木材は暖を取る為に使用していのだが、回収していた物で直接水に浸かっていなかった物は殆ど使い切っていた。
水に浸かっていた物も回収して立て掛けたりなどして干そう試みてはいたのだったが、湿った空気に光源の無いこの場所では単体で即着火する程には乾燥してはくれない。
助けなどあてに出来ず、かと言って自力で脱出するのも困難な状況下。
手持ちの限りある物資が消費されていく。
そして、この3日の間に飲料可能な水は底をつきつつあった。
缶詰の保存食も残り3缶、その内の1缶は食す時には水分が必要になる乾物の類である。
それらを踏まえ、周囲の水を飲料に出来ないものかと兄である彼は思案して暖を取る為の焚火を使って煮沸消毒をしてみたものの、上部の居住地から落ちて来たモノには砂埃や瓦礫だけでなく、生前は人であった物の体液や糞尿も混じっていた。
故にただ煮沸しても鼻を刺激する強烈な臭いが強くなり、とても飲めたものでは無かった。
・・・尤もそれ以前に、同じ人だった物が溶け込んだモノを飲む、もしくは摂取するという行為は彼等の心理的にも困難でもあったのだ。
それから更に4日程経過した頃、遂に水と食料が費えてしまったのだ。
二人は寄り添って、瓦礫から回収していた掛け布団で身体全体を覆い寒さに耐え忍んでいた。
顔色は赤みが抜けて青白くなり、唇は乾燥してひび割れ口の端は切れた様に血が滲んでいる。
更に言うと、ここに落ちて来る前から限られた食料により摂取できている栄養は偏っていた事もあり、外見だけでなく内臓や生理機能にも著しく不調を来たしていた。
上層の居住地全体を照らしている人工太陽による灯りが、二人が降りてきた穴から差し込み、周囲の視界は確保出来ている。
しかしその光は暖を取れる様な程は強い訳ではなく、身体を暖めるには火を起こすしか方法は無いのだが、かき集めた木材や衣類も既に燃料として殆どを使い切っていた。
残っている資材の量では、使えば半日も保たないだろう。
瓦礫に残っている物で直ぐに燃料として使える程に乾燥している物は既に回収済みであり、残りは水没している物ぐらいしかない。
だが、たとえ湿っていても回収してある程度脱水しておけば、残った資材と一緒に燃やす事で何とか燃料として使う事は出来るだろう。
そう考えて、彼は立ち上がろうとした。
すると、頭がグラリと揺れる感覚を覚えた。
焦点が一瞬だけ合わずに、世界がぼやけて見えた。
栄養失調と低体温症。
簡単に挙げれば彼の身体はこれらの状態により、不調を来たして悲鳴を上げていた。
それでも、彼は疲弊した身体に鞭打って無理矢理動かした。
彼は立ち上がった後、自分が立ってしまって捲れてしまった掛け布団を自分のすぐ横で寄り添っていた妹に掛け直し、瓦礫の中にまた入って行く事を伝えた。
妹は表情を曇らせ、彼の服を掴み行ってほしくないと行動で訴えかけようとしたが、空腹と栄養不足により力が出ないのか掴む力は弱く、服はするりと妹の手から滑り落ちる。
そんな彼女の姿を見て、彼の心中は大きく揺さぶられる。
現状を打開する手は無く、心も体も疲弊していく自分と妹。
この状況を何とかしないとと云う焦りと、母親を追うためとはいえこんな所に考えなしに来るべきではなかったと云う自身の浅はかさに対する後悔が彼に影を落としていく。
だからこそこの廃墟の下で何かを探してこなくては、妹だけでも生き永らえさせる事が出来る何かを。
止めようとする妹を置いて彼は妹の為に暖を取れるものを、願わくば妹に食べさせられる物を求めて歩き出した。
瓦礫の中。
使えそうなものは片っ端から壊して持って上がっていた為に、中は彼の頭では使えない物が散乱している、彼はその中を進む。
やがて彼はその場所についた。
彼が初日に探索するのを諦めた場所。
開ける事を恐れた扉の前。
扉の周囲には亀裂が入っているがそこから水が入っている様子は無い。
彼はゴクリと乾燥した口内にある筈の無い唾を呑み込み、扉に付いたドアノブに手を掛ける。
今、彼の頭の中には三つの思考が渦巻いていた。
一つ目は扉の先に待ち受けてるかもしれない現実に対する恐怖。
母親の死体。
認めたくない現実そのものに対する恐怖。
そして、二つ目は資材。
暖を取る為の物。
震えている妹を助ける為に必要な物。
そして三つ目である食料。
飢えを満たす為の物。
飲料も食料も尽きている現状で最も渇望している物。
探索していない扉の向こうに、運が良ければ見つけられるかもしれない。
食料・・・食べ物。
彼はふと考える。
考えてしまった。
食べ物・・・肉・・・・・・人肉。
回しかけたドアノブが止まる。
自分は今何を考えたのか。
人肉・・・昔、本好きの友人が話していた。
遭難して、食料も無い極限状態の人間が苦心の末に選択した・・・生きる為の選択。
人肉食。
彼は思わず自分の口を手で覆った。
母親・・・自分の母親を食う・・・?
無理だ。
そんな事出来る訳が無い。
そんな事・・・そんな事っ!?
彼の思考が歪んでいく。
栄養不足による思考力、判断力の低下が彼の思考を乱していく。
彼は歯を食い縛って、先程迄口を覆ていた手を下げて握り拳を作る。
作った握り拳に力が入り、掌に爪が食い込んで血が滲み出ていた。
彼は自身の思考を苦しみながら振り払い、再びドアノブに手を掛けてそれを回す。
外開きの扉は予想していた通り水の抵抗は無く、簡単に開く事が出来た。
開くにつれて視界がドアの向こう側を捉えていく。
最初に彼の目に映ったのは辺り一面を占める水だった。
水面からは突き出る様に幾つもの瓦礫が飛び出していた。
扉の外を確認するため、彼は扉を跨ぎ外に向かって歩を進めた。
一歩一歩と進んで行くと、徐々に水底の風景が顕わになっていく。
水底には瓦礫が所狭しと散乱して、コンクリートに鉄筋等の建材の瓦礫と観賞用の造花が紛れて、布の切れ端が瓦礫の隙間に挟まって水の中でユラユラと揺れていた。
そして、無数の瓦礫に紛れたそれを見つけた。
それを見てしまった。
それと目が合ってしまった。
彼と妹が此処まで降りて来た理由である母親が其処に在った。
母親は目を見開き、口を開け、水底を漂っている。
下半身は瓦礫に押し潰されて見えないが、上半身は千切れ遺った一部の筋肉と皮膚で下半身に辛うじて繋がり、浮上することなくそこに在った。
今回も最後まで読んで頂き有難うございますっ!!
はい。
早速一か月以内の更新を超過しました。
すいませんでした!
これで今年最後の投稿になりますが、来年もボチボチと続ける所存でありますので何卒宜しくお願いしますっ!!
では皆様、今年は有難うございました!
来年も宜しくお願い致しますっ!!
良いお年を!
ではっ!!




