和解
翌朝俺は目を覚ました。
一日経って冷静になった俺は、昨日の事を思い出していた。
昨日、フィーネに酷い事を言ってしまった。
あれだけの事を言ったんだ。もう会うこともないだろう。
しばらく経てば、昨日の経験も夢の中のように感じるのだろうか。
ただ、もしまた会う機会があれば、その時は謝りたいと思った。
そして今度は冷静になってきちんと話を聞きたいとも思った。
後の祭りなのは理解している。
それでもそう思わずにはいられなかった。
とその時、カラカラッと部屋の扉が開いた。
一瞬、フィーネかと思ったが、
「竜〜。おはよう!」
部屋に入ってきたのは、母さんだった。
「さっき先生にあったけど、あんた今日退院出来るみたいよ!」
母さんはそんな事を言ってきた。
昨日のフィーネとの会話が思い出される。
『あなたは、作られた存在』
母さんは、もちろんこの事を知るよしもない。
もし知ったらどう思われるのだろうか。
人間じゃないと分かっても、家族とみなしてくれるだろうか。
多分今までと何も変わらない態度で接してくれるだろう。母さん達の人間性はよく知っているつもりだ。今まで通り息子として、家族として迎え入れてくれるのだろう。
「そういえば昨日、あんた明日香に何か言わなかった?あの子、昨日なんだか落ち込んだ感じで帰ってきたけど...」
母さんがそんな事を聞いてきた。
...明日香?そういえばそんな名前を昨日聞いた気が...
そうだ!フィーネが昨日そう名乗ったではないか!
「明日香は家にいるのか⁉︎」
「そりゃあ、いるでしょうよ。家なんですもの。」
母さんは「何を言っているのかしら?」というような顔でこちらを見ながら答えた。
どういうわけかフィーネは家にいる。
まだどこかに行ったわけじゃない。
なら、まだ謝るチャンスは残されているという事だ。
「母さん!早く帰ろう!」
俺は母さんを急かすように帰宅の準備をした。
「今すぐに、という訳にはいかないでしょう。母さんは今から先生と話してくるわね。
後からもう一度荷物を取りに来るから。」
母さんはそんな事を言って部屋から出て行った。
それから4時間ほどが経過して、再びカラカラッと部屋のドアが開いた。
「母さん、遅いよ!」
今か今かと待ちわびていた俺はドアの方を向いて固まった。
ドアのところには明日香、いや、フィーネが立っていた。
謝ろうと思っていたが、実際に会うとまだ心の準備が出来ていなかったのか、何も言葉に出来ない。
フィーネも困ったような顔をしている。
しばらくの気まずい沈黙の後、
『昨日は悪かった!』
『昨日はすみませんでした!』
同時に謝罪の言葉を口にしていた。
そして再び気まずい沈黙が流れる。
「ぷっ、あははは!」
なぜか俺は笑ってしまった。
昨日あれだけの言い争いをしたのに(俺が一方的に言ったようなものだが)、翌日に二人して同時に謝るっていうのが、なんだか可笑しかった。
「なんで笑うんですか!昨日、あれから真面目に考えて、真面目に謝ったのに!」
フィーネはプクッとした表情で抗議してきた。
「いや、ごめん!なんだか面白くって!」
「ちっとも面白くないですよ!」
今度は少し笑った表情をしている。
昨日の件は少しは水に流してもらえたのだろうか。
「昨日考えたんですよ。貴方からすると昨日の出来事は何から何まで急過ぎたと。なのに、私はきちんとした説明もせずにどんどん話を進めました。」
フィーネが話し始めた。
「ですから今度はきちんと説明しながら話をします!貴方もわからないことは、どんどん聞いてください!」
フィーネは先程までの笑顔から決意に満ちたような表現になっていた。
「俺の方こそ悪かった。違う違うと否定してばっかりで聞く耳を持っていなかった。今度はちゃんと話を聞くし、受け入れるよう努力するよ。」
フィーネが歩み寄ってくれたんだ、俺もその努力をしなければならない。
「まずはお互いの事をもっと良く知らないといけないな!」
「そうですね!とは言っても私は貴方の事は生まれる前から見てきたので、主に私の自己紹介をしないといけませんね!」
....生まれる前?
「生まれる前から見てたって?」
聞き逃せない発言に対して早速質問した。
「はい、そうです。もうかれこれ5000年近くになるんじゃないですかね。」
「5000年⁉︎」
「貴方は現在103代目の転生者なんですよ。」
フィーネのビックリ発言はまだまだ続きそうだ...。
俺はしみじみとそう感じた。