第6話 フルール王国と私の過去
――翌朝。
私たちは、村に一つだけの馬車で町へ向かった。
馬車は西部劇で見るような幌馬車で、荷台には桃とリンゴが入った木箱が満載されている。
父さまと母さまは並んで御者台に座り、私は『だっこ布』にくるまれて母さまにだっこされている。
馬は赤毛の馬で、村唯一の馬。
農作業、切り倒した木の牽引、そして今回のように荷物の運搬まで、何でもやる頼もしいお馬さんだ。
町までは三日かかるそうだ。
とんでもなく遠いなと思ったが、これから行く町は本当に大きな町らしく桃が高く売れると思うと父さまが言っていた。
確かに大きな町の方が高級品が売れそうだよね。
町まで三日かかるそうだけど、私は父さまと母さまと初めての旅行なのでとても嬉しい。
妖精のベルは、私のところへ来たり、馬のお尻に乗っかったり、馬車からちょっと離れたりと気ままに過ごしている。
私は父さまと母さまがベルの存在に驚かなかったこと、すぐにベルを受け入れたことを不思議に感じた。
「とうさま、かあさま。ようせいは、めずらしい?」
父さまアランがウンウンとうなずき、馬の手綱を持ちながら答える。
「珍しいよ。でも、高位の魔法使いはフェアリーを連れていることが多いよ」
ほうほう、そうなんだ。
続いて母さまマリーが答える。
「王都では、時々見かけたわ。伯爵以上だとフェアリーを連れている人が多かったわ」
「うん、そうだね」
父さまが、母さまの言葉にうなずくけれど、私は『伯爵以上』というのがわからない。
高位の魔法使いと爵位の関係がわからないのだ。
私はつたない言葉を駆使して色々質問をした。
父さまと母さまは、馬車の上でヒマなこともあって、私のたどたどしい質問に粘り強く答えてくれた。
おかげで大分理解出来た。
まず、私たちの国はフルール王国。
花咲く美しい王国という意味らしい。
そして、私たちが住んでいる開拓村は、フルール王国の新領地と呼ばれる地域で、フルール王国の本国とは離れている。
父さまと母さまは、下級貴族の三男と四女で、貴族社会ではかなり下の立場らしい。
貴族の爵位を継げないので、新領地の開拓に手を上げたそうだ。
新領地の開拓に手を上げると、領地がもらえて新騎士爵という爵位がもらえるそうだ。
新騎士爵とは何だろ? 転生前は、シン○○というのを何度か見かけたけど、シン騎士爵かなぁ……と思ったら、本国の貴族の爵位と新領地の貴族の爵位を分けるために新設された爵位なのだ。
父さまと母さまの話を聞いていて、『えっ……それって名ばかり管理職みたいなものじゃ……』と思ったけど、大人の対応として……。
いや、転生した私は赤ちゃんだけど!
とにかく言わぬが花だなと思って、スルーした。
どうもフルール王国は、そこはかとなくブラック臭がする。
花咲く美しいという雅やかな国名なのに、どういうことだろうか?
フェアリーについてもわかった。
フェアリーは魔力が好きな生き物と知られていて、大きな魔力を持つ高位の魔法使いに懐くそうだ。
魔力というのは遺伝しやすい物で、爵位が高い人物は魔力が高い傾向にある。
ゆえに爵位の高い人物には、フェアリーが懐きやすい。
そのラインが伯爵らしい。
父さまと母さまは、私が魔法の天才と思っていたから、フェアリーに懐かれても当然と考えたらしい。
それでベルを見て驚いていたけど、すぐに受け入れたんだね。
ただ、私の魔力量は決して多くないと思う。
一日にリンゴ二個が限界だし、父さまと母さまは下級貴族だ。
魔力は遺伝するらしいから、下級貴族の子供は下級貴族レベルの魔力だろう。
とても伯爵レベルの魔力には及ばないはずだ。
妖精のベルが私のところに来てくれたのは、私が偶然守り木を生み出したから。
とてもラッキーだったと思う。
この幸運に甘えることなく、魔力を増やしておこう。
いつかフェアリーを連れた高位貴族に会った時に恥ずかしくないように。
私は馬のお尻に座るベルに念話で話しかけた。
『ねえ、ベル。魔力を増やす方法って、毎日魔力を使い切ることで良いのかな?』
『うん。魔力は使えば使うほど増えるよ。使い切ると、うんと増えるよ』
どうやら私が自己流でやっていた魔力増強法は正しかったらしい。
ベルは馬のお尻で揺られながら、首を傾げる。
『ねえ、キャリー。そんなに魔力を増やしたいの? 今の魔力で十分じゃない?』
『十分じゃないよ。一日にリンゴ二つ分だもん! もっと沢山変換スキルが使えるように魔力が欲しいよ!』
『キャリーって真面目だよね……。それって前世の影響?』
私はベルの発した『前世』という言葉にギクリとした。
何で知っているのか? いや……守り木とか妖精とか、ベルは不思議な世界の不思議な存在だ。
大精霊がどうとか言っていたから、私が転生者だと知っているのかもしれない。
『ベルは私のことをどれくらい知っているの?』
『キャリーの魂は他の世界から神様に呼ばれたって大精霊から聞いてるよ』
転生者って知ってたんだ。
そういえば、ベルに変換スキルのことを聞かれたことがない。
『じゃあ、変換スキルも知ってたのね?』
『うん。知ってたよ。でも、内緒! 他の世界とかスキルとか、誰かに話したらややこしいことになりそうだから』
『ありがとう』
ベルが賢い子で良かった。
『キャリーの前の世界のことを教えて欲しいな』
『あんまり良い話じゃないのよ……』
『そうなの? 聞いたら不味かった?』
『ううん。良いの。私はね。父親に殺されたの。それでこっちの世界に転生したんだ』
『えっ!? お父さんに!? 殺された!?』
『そう』
転生前の私は三十五歳で会社員として働いていた。
長らく派遣で転々としていたけれど、奇跡的に派遣から社員に切り替えてくれる職場に巡り会えた。
生まれて初めてボーナスをもらった。
ところが父がどこからか嗅ぎつけてきた。
私の家庭はロクなもんじゃなかった。
父は金と女にだらしなく酒浸り。
母は私が幼い頃に、私を置いて出て行った。
私はどうしようもない父親から離れて養護施設で育った。
幸い勉強は出来たので、借金して大学に通い卒業した。
父とはとっくに縁を切っていたのに、なぜか私の家を知って押しかけてきたのだ。
『金を寄越せ! 恩を返せ!』
父は私に迫ってきた。
私は侮蔑の視線とともに冷静な口調で答えた。
『あなたに恩などない。あなたは血縁上の父親に過ぎない。私は誰の世話にもならず成人した。あなたに渡すお金はない』
父は激高し、私ともみ合いになった。
場所は私の住んでいるマンションの廊下で、父は私を廊下の端から突き落としたのだ。
高さは五階、ひとたまりもなかった。
気が付けば私は死後の世界にいて、神様は私を哀れに思い異世界への転生をすすめてくれた。
私は神様に頼んだ。
『素敵な家族が欲しい。優しい両親のもとに生まれ変わりたい』
神様は私に同情し望みを叶えると約束してくれた。
同時に私が困らないようにとスキルを付けてくれた。
変換スキルなのは、謎だが……。
何でも私の魂に馴染みやすいスキルを選んだら変換だったそうだ。
私が一通り転生の話をすると、ベルは馬のお尻からふよふよ飛んできて私にピタッとくっついてくれた。
ベルの優しい気持ちが伝わってくる。
『キャリー。辛いことを思い出させてごめんね』
『ううん、大丈夫。今は優しい父さまと母さまがいるから平気よ』
『良かったね!』
『うん。だから頑張って魔力を上げて、スキルを使う回数を増やして、リンゴや桃を沢山作るんだ。毎日、リンゴを百個、桃を百個くらい!』
『うふふ。沢山食べられね』
色々な話をしながら、私は町までの旅を楽しんだ。
そして三日目の夕方、大きな町が見えた。





