第39話 ごえもん登場
――春!
「ミリー♪ ミリー♪ やほほほほ!」
「キャッ! キャッ!」
私がミリーをあやすと、ミリーは手をばたつかせて喜ぶ。
ふふ、元気でかわいい。
春になり私は三歳になった。
おむつは卒業だ。
私のおむつは生活魔法クリーンをかけてミリーのおむつになった。
この世界のおむつは布製だからね。
リサイクルしないともったいない。
私がクリーンをかけたので、当然ながら新品同様のドヤった感じのおむつが誕生した。
そこはかとなく腹が立ったが、どうせミリーのうんちまみれになるのだ。
せいぜいドヤっとけ。
私とミリーがいるのは、守り木の根元。
私が使っていた藁で編んだ籠にミリーが収まっている。
母さまは畑仕事に精を出している。
父さまはニューゲートの町へ取り引きに行った。
ミリーが生まれてから、私は父さまに同行しなくなった。
なぜなら私がミリーの面倒を見るから。
お姉ちゃんだからね!
エッヘン!
「もう、本当にミリーは可愛いよ。ねえ、ベル?」
「あー、はい、はい。かわいいですぅー」
妖精のベルは守り木の枝に寝そべってやる気なさそうにテキトーな返事をする。
ベルはミリーが苦手なんだよね。
ミリーがベルをギュッとつかんでくるからだ。
多分、ミリーとしては動く物をつかんだだけで何も悪気はないのだと思う。
けれど、つかまれたベルの方はたまったものではないよね。
ベルがミリーに苦手意識を持つのも仕方がないと思う。
「ねえ、ミリー。お姉ちゃんは、去年大変だったんだよ」
私はミリーに沢山話しかけるようにしている。
話しかけた方が言語能力の発達が良いと前世日本で聞いたことがあるからだ。
「でもねえ。秋になったらミリーが生まれて、畑も大豊作、それから桃とリンゴも大豊作。それに、ぶどうも採れたんだよ」
ぶどうはベルの能力で一回。
秋にもう一回収穫できた。
守り木パワーは凄いよ。
本当に守り木さまさまだよ。
私は守り木に手を当てた。
目をつぶって心の中で感謝の祈りをとなえる。
――守り木さん、ありがとうございます。妹のミリーも守ってね。
「ワウ!」
「えっ!?」
私の目の前に黒い犬がいた。
垂れた耳、長くて黒いモフモフの毛、頼りがいのある大きな体、穏やかそうな優しい表情。
ニューファンドランドかな?
お座りをして尻尾を振っている。
私を見る目がとても優しい。
「この子はどこの子かな?」
「守り木だよ」
私の疑問にベルが答えた。
「え? 守り木?」
「その黒い犬は守り木よ」
「えっと……守り木の分身ってこと?」
「そんな感じ」
「投げやりな説明をありがとう」
いや、ちっともわからないよ。
私は黒い犬をなでてみる。
うわ~モッフモッフ!
私がなでると黒い犬は気持ちよさうに目を細めた。
「君は守り木なの?」
「ワウ!」
「私がミリーを守ってとお願いしたから現れたの?」
「ワウ!」
「そうなんだ。ありがとう」
バタバタバタと尻尾を地面に叩きつけてる。
嬉しいんだ。
「じゃあ、紹介するね。この子がミリーだよ。世界で一番可愛い私の妹。ミリー大きなわんちゃんだよ」
黒い犬が、籠の中で横になっているミリーをのぞき込む。
ミリーは興味津々の目で黒い犬を見ている。
黒い犬がミリーのお腹にアゴをのせると、ミリーは黒い犬の大きな垂れ耳をつかんだ。引っ張ってる。何だか気に入ったみたいだ。
守り木の枝の上からベルが微笑む。
「ミリーと守り木は仲良しじゃない。良かったね」
「餌をどうしよう?」
「いらないわよ」
「いらない? どうして?」
「本体はこの守り木なの。その黒くてでっかい犬は精霊みたいなものだから食事なんてしなくても元気よ」
そういうものなんだ。
何だか凄いな。
「ねえ。何で守り木の精霊が犬なの? 矛盾というか、おかしいというか、整合性がとれてないよね?」
「せいごう……。キャリーは難しいことを言うわね。じゃあ、守り木がトレントみたいにウニョウニョ動く方が良いの?」
「それはそれでキモイね。犬の方が良い。私は犬好きだし」
「良かったじゃない。名前を付けてあげてね」
名前ねえ……。
黒い毛、黒い瞳。
元日本人としては懐かしさを覚えるね。
だったら和風の名前で良いかな?
「五右衛門」
「は?」
私が黒い犬の名前を口にすると、キャリーが聞き返した。
「ご、え、も、ん」
「ゴエモーン……、変な名前ね……」
「ゴエモーン。じゃなくて、ごえもん。変じゃないよ」
私は念話をベルに飛ばす。
『私が転生する前にいた国の名前だよ』
『ああ! そうなんだ! キャリーが元いた国のイケメンの名前?』
『あー……、うん……』
イケメンかどうかは考えてなかった。
すまぬ、ごえもん。
でも、可愛い名前だから良いよね。
「じゃあ、君の名前は『ごえもん』だよ。よろしくね!」





