第四話『寡黙な召喚執事と鯉の会』2
★???★
高速道路のサービスエリア。
ゴールデンウィークを利用して旅行などに出かけている人達の車で埋め尽くされた駐車場の中に、一台の大型トラックが止められていた。
一見なんの変哲もないトラックに見えるが、魔力を探知できる者が見れば、様々な魔法具が組み込まれた特別仕様のトラックだと言う事が分かる。
そのトラックの運転席には、黒色の肌に、銀色の髪、赤い瞳の執事服の男が乗っており、目をつぶって静かな寝息を立てていた。
この男・ガルン=バーガは、夜衣花の最後の仲間であり、今まで夜衣花の『もう一つの退魔士能力』に必要な退魔士道具の改造・調整の為に別行動を取っていた。
本来の予定なら、今日はのんびりと黒樹家本家へと帰るはずだったが、昨日の夜に夜衣花に緊急のS級退魔が入った為、急遽ガルンは完成したばかりの退魔士道具をトラックに乗せ、徹夜でここまで走ってきたとわけだ。もっとも、受けた依頼内容はあくまで再封印なので、余程の事がない限り、トラックの退魔士道具は必要ない。あくまで念の為と言う話だった。
そして、今は新しく仲間に入ったと言う相島命子と合流する為にここで待っているのだが………
唐突に耳をつんざく派手な音が聞こえ始めた。
最初は特に気にしていなかったガルンだが、その音の発生源が隣に停車した事で流石に寝ていられなくなり、目を開けて隣を見る。
派手なオープンカーが三台止まっていて、いかにも頭の悪そうで時代錯誤な感じの男達がヘッドバンギングしながら乗っていた。
他のパーキングエリア利用客は、恐怖に近い困惑の表情を浮かべ、オープンカーの近くから次々と離れていく。
そんな中、ガルンは無表情で運転席から降り、隣に止まったオープンカーの隣まで移動した。
接近してくるガルンにオープンカーの一人が気付き、うろんげな視線を向けてくる。
ガルンは無言でくいっと顎を振り、その意味を理解したガルンに気付いた男は、隣の男の肩を叩き、何事かをその男の耳元で叫び、
「やっちゃう?」
「やっちゃおうぜ」
などと言い合い下品な笑みを浮かべた。
彼らは知らない。
目の前にいる男が、
★命子★
夜衣花ちゃんの最後の仲間ガルン=バーガさんと合流する為、私は高速道路のサービスエリアに来ていた。
なんでもそのガルンさんは、夜衣花ちゃんのもう一つの退魔士能力を使う為の道具を改造・調整しに行ってたらしいんだけど………このトラックだよね………
夜衣花ちゃんの退魔士道具を運んでいるって言うトラックは見付けたんだけど………運転席には誰もいなかった。聞いていた外見とバックナンバーは同じだから間違いないはず………ん~どこに行ったんだろう?
レストランで食事でもしているのかな?
そう思って、私は教えられたガルンさんの携帯電話に電話を掛けたんだけど、いくら掛けても繋がらない。
仕方がないから、直接本人を探そうとして、ある事に気付いた。
私、ガルンさんの顔を知らないや………
その事にちょっとどうしようか悩んでいる時に、タイミング良くエレアさんから電話が掛って来た。
ガルンさんがトラックにいない事を教えると、エレアさんの機嫌があきらかに悪くなる。
………どうもエレアさんはガルンさんの事が嫌いらしい………それでも、若干怒りながらガルンさんの特徴を教えてくれたので、ガルンさんを探しにパーキングエリアの施設に入ろうとして、妙な感じがするのに気付いた。
………もしかして………これが魔力?
今まで感じた事がない感覚にちょっと戸惑いつつ、感覚を日向さんに言われた通りに研ぎ澄ませる。
私の身体は、日向さんによって疑似魔法使いして貰ったらしく、こういう今までにない感覚に戸惑うばかりで………こっちかな?………
何となく魔力を感じる方向へと歩いて行くと、妙に人がいない場所に………何故か人が避けて歩く場所を見付けた。
人払いの結界だっけ?何でこんな所で………何だか物凄く嫌な予感がする………でも、人払いの結界が張られているって事は………もしかしたらガルンさんの身に何かが起きているのかもしれない。
そう思った私は、後ろにチラッと視線を向けてから、人が避けている場所へ一歩足を踏み入れた。
その瞬間、私は物凄くこの場から去りたい気分になり、すぐさま反転したくなったけど………我慢!………根性ぉ!
人払いの結界の中で、認識障害とか意識変換とかはそれを認識出来ていれば、根性でどうにかなるものらしい。
実際に、二歩目を何とか踏み出した時、不意に去りたい気分が無くなった。
どうやら結界を抜けたみたいだけど………結界を抜けた途端に何だか鈍い音が………
音の正体を咄嗟に思い付かなかった私は、何も考えずに音の発生源へと顔を向けてしまった。
そして、直ぐに後悔。
だって、聞いていたガルンさんの特徴にぴったりの人が、こっちに背を向けて………誰かに馬乗りになっていたから………これはどう考えても………
顔が思いっきり引きつると同時に、ガルンさんらしき人が拳を振り上げ、
「や、ひゃめてく」
馬乗りにされている人が制止の言葉を言い切るより早く、ガルンさんらしき人は拳を振り下ろし、鈍い音が聞こえ、私は思わずびくっと身体を震わしてしまった。
あまりの事に視線をその二人に固定出来ず、周りに向けると、周りには呻き声を上げながら倒れている男性が無数に……………って!
「何をしているんですが!?」
我に返った私が大声を出すと、もう一撃放とうとしていたガルンさんらしき人がその拳を止め、ゆっくりとこっちへ振り返り、ぞくっとする様な赤い目を私に向けた。