第四話『寡黙な召喚執事と鯉の会』3
★夜衣花★
「今更の話なんですが………大丈夫なんでしょうか?」
樹海の道無き道を歩いて、でいだらぼっちの封印場所に向かっている最中、不意にエレアがそんな事を言った。
「何?心配なの?」
「べ!別に心配なんかしていません」
………ツンデレみたいな事を言う………
「ツンデレでもありませんから!」
私の考えを読んだのか、そんな口にもしていない否定をするエレア。
「っで、何が大丈夫なんでしょうか?なの?」
「ガルンですよガルン………あいつと命子と二人っきりにさせて」
あ~………
「まあ、流石のガルンも『今の状態』なら大人しくしてるでしょ」
「どうでしょう?逆にエレアは今の状態の方が心配なんです。場合によっては、命子が襲われる可能性だってあるんしゃないですか?」
襲うって……………
「っそ………そんな非常識な事を、流石にしないんじゃない?」
若干顔が引き攣りつつ否定すると、エレアは分かってませんねって感じに首を振って溜め息を吐いた。
「あいつに『こっちの常識』を守ろうって気はほとんどありませんよ?じゃなきゃ、絡んできた不良とかを瀕死になんかしませんって」
「………まあ……そうね」
ガルンは基本、無口で無愛想で無害な奴なんだけど………どうも過剰な正義感の様な物を持っているらしく、あからさまに悪な奴を見かけると………大暴れして、相手を半殺しにした事が何度も………まあ、相手のほとんどが暴力が日常茶飯事の連中だから、その事はどうでもいいんだけど………
「………でも、いくらなんでも、『それ』と『あれ』とは別でしょ?一緒に考えるのはどうかと思うけど?」
「それはそうかもしれませんが………」
「第一、知り合ったばかりの人と」
「するのがガルンですよ」
私の言葉を遮って私の考えを否定するエレア。
………何だか………エレアが余計な事を言うから心配になってきちゃった………みょんネエ………何事もなければいいけど………
★命子★
拳にべっとりと付いた血を呻き声を上げながら倒れている男性の服で拭き、ゆっくりと立ち上がった。
ちょっと……いえ、かなり怖いけど………
「ガルンさんですよね?」
私の問いに頷いたガルンさんは、特に何も言わず、倒れている人達を歯牙にも掛けずに歩き出しちゃって、
「え!え?あの………この人達は?」
呻き声を上げて倒れている人達を指差してみるけど、ガルンさんは特に何も言わないで駐車場の方に行ってしまう。
倒れている人達を介抱し様か迷っていると、何だかまた妙な感じがした。
………なんか、動いているみたいな………そんな感じ…………って事は、もしかして!今張られている人払いの結界って、ガルンさんを中心に張られてる!?このままじゃ!阿鼻叫喚のこの場所に、私がいるのを目撃されちゃう!見た感じ、どう見ても倒れている人達はまともな人達じゃなさそうな格好だし……………ん~………よし!ほっとこ。うん。そうしよう。
そう結論付けた私は慌ててガルンさんの後を追うと、ガルンさんはトラックの隣に停めてあったオープンカーの前で足を止めた。
私が疑問を口にするより早く、ガルンさんはそのオープンカーに手を掛けて………一気に持ち上げた!?
そしてそのまま……………口をありえないぐらい大きく開けて………トーストみたいにオープンカーを食べ始める!?
あまりの光景に私は唖然とするしかなくて…………そりゃ、『人間じゃない』って夜衣花ちゃんから聞いてはいたけど………って、
「人のを勝手に食べちゃだめです!」
と思わずなんか違う注意をしてしまった。
★???★
でいだらぼっちが封印されている樹海の奥。
その場所に、一人の女性がいた。
右目を前髪で隠し、蜘蛛の糸を模した模様が入った着物を着ているその女性は、目の前にある一本の大樹を見上げ、溜め息を吐く。
周囲の樹とは明らかに違う全てが黒いその大樹は、風も無いのに不気味に揺れている。
この樹にでいだらぼっちは封印されているのだが、所々枯れている所があり、封印の限界が迫っている事をありありと示していた。
その為か、ある種のプレッシャーの様な物を女は感じ、女は正直帰りたかったが、ここまで来て何もせずに帰るわけにはいかない。
「行きなさい土蜘蛛」
女の命令に、周囲の木々によって出来ていた影の中に無数の赤い光点が生じ、カサカサと影の中から大量の蜘蛛が現れる。
まるで蜘蛛の絨毯の様に現れた蜘蛛達は、女を避けてでいだらぼっちが封印されている大樹に向かい、群がった。
そして、木々を食べ出す蜘蛛達の姿を確認した女は、袖から一枚の札を取り出し、地面に落とす。
札が地面に落ちると同時に、女をあっさり飲み込める程の穴が生じ、女はその穴の中に落ち、消えた。
札によって出来た穴が消え、ほどなくして、バッキンと何かが割れる音が生じる。
何度も何度もその音は生じ、その度に蜘蛛が群がった大樹が揺れ、終にはまるで爆発でもしたかのように吹き飛んだ。
木片と共に吹き飛ぶ蜘蛛達が次々と霧散していく中、その爆発の中心・大樹があった場所に、巨大な白い球体が現れる。
が、全ての蜘蛛が消え、爆風が収まっても、その球体には何の変化も起きない。
………だが、
「今のは一体なんです!?」
「分からないわ………でも、この異常な魔力はどうか考えても!」
二人の女性の声が聞こえた瞬間、球体は波打ち、唐突に手、足が球体から生え、胴体となった球体が人の胴体へと変化し、頭が生えた。
そこに現れたのは、白い巨大な巨人だった。




