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第41話:走る電流と、踏み出す一歩


 雷のダンジョンへ足を踏み入れてからしばらく、四人は言葉を最小限に抑えたまま、足元と周囲の気配に意識を集中させながら慎重に進んでいたが、入口付近とはいえ、この場所がすでに“通常のダンジョンとは異なる領域”であることは、空気そのものが発する違和感によって十分すぎるほど理解できた


 壁は岩でできている


 だが、その表面は完全に静止しているわけではなく、微かに青白い光が内部を流れるように走っており、それが一定ではなく不規則に揺れることで、まるで洞窟そのものが呼吸しているかのような錯覚を生み出していた


 足を踏み出すたびに、靴底から伝わる感触がわずかに変わる


 乾いた石の硬さの中に、ほんの微かに混ざる“痺れ”


 空気に触れているだけで、皮膚の表面に細かな刺激が走り続けている


 ピリ、ピリ、と


 目には見えないほどの弱い電流が、空間全体を満たしている


 ミミが腕をさする


「……なんか、ずっとビリビリしてるんだけど……」


 カイルが短く答える


「慣れろ」


 それだけだった


 だが、その声には油断の欠片もない


 ニナは壁に触れない距離を保ちながら進んでいる


 視線は常に動き続け、空間の揺れや流れを見逃さない


「……壁、触らないほうがいい」


 短く言う


 その直後


 バチッ


 壁の一部を走る光が一瞬だけ強く弾ける


 遅れて、小さな焦げた匂いが漂う


 アルトはその様子を見て、ゆっくりと息を吐く


(……環境そのものが攻撃だな)


 ただ進むだけでも消耗する


 それが、このダンジョンの前提だった


 そのとき


 前方の空気が揺れる


 今度は分かりやすい


 形がある


 壁の陰から現れたのは、細長い体を持つ魔物だった


 トカゲに似ている


 だが、鱗はなく、代わりに体表を青白い光が走っている


 目は細く、鋭い


 口元から小さく火花が散る


「……来る」


 ニナの声が落ちる


 次の瞬間


 トカゲが地面を蹴る


 速い


 一直線に距離を詰める


「――っ!」


 アルトが前に出る


 迎える


 噛みつき


 同時に、電流が走る


 バチィッ!!


 衝撃が腕を伝う


 だが――


 崩れない


 足は止まったまま


 衝撃は受け流される


 地面へと逃がされる


「いける」


 短く言う


 カイルが横から踏み込む


 剣が振られる


 今度は――


 当たる


 確かな手応え


 トカゲの体が弾かれる


「上層は普通だな」


 低く言う


 そのまま追撃


 二撃目


 確実に仕留める


 トカゲの体が崩れる


 その場に、小さな核が残る


 ミミがそれを見る


「……ちっちゃ」


 カイルが拾い上げる


「質も低いな」


 その言葉通りだった


 光は弱い


 重みもない


 アルトはそれを見て、ゆっくりと視線を上げる


(……これじゃ足りない)


 街が暗くなる理由が、はっきりと分かる


 そのとき


 ミミが一歩前に出る


 さっきよりも、少しだけ速く


「次、ミミやる」


 声に迷いがない


 カイルがちらりと見る


 ニナも視線を向ける


 アルトは少しだけ笑う


「任せる」


 その一言で十分だった


 ミミが構える


 手の中の魔法道具


 魔力が集まる


 次の気配が来る


 トカゲが二体


 同時に動く


「来るよ!」


 ミミが声を上げる


 今度は、前に出る


 逃げない


 構えたまま、タイミングを待つ


 距離が詰まる


 一体が跳ぶ


 その瞬間


「今っ!!」


 引き金を引く


 ドンッ!!


 圧縮された衝撃が正面から叩き込まれる


 トカゲの体が弾ける


 そのまま崩れる


 もう一体が横から来る


 アルトが動く


 受ける


 流す


 ニナが地面を歪ませる


 動きが止まる


「そこ!」


 ミミが二発目を撃つ


 命中


 崩壊


 静寂が戻る


 ミミが息を吐く


「……当たった……!」


 その声には、明確な変化があった


 恐怖ではない


 達成感


 そして――


 少しの高揚


「……なんか」


 一歩、踏み出す


「楽しいかも」


 小さく言う


 だが、その言葉は軽くない


 カイルが口元を歪める


「いい傾向だ」


 ニナは何も言わない


 だが、視線は確かにミミを捉えている


 アルトはその様子を見て、少しだけ息を吐く


(……変わってきてる)


 それは力だけじゃない


 戦い方も


 立ち位置も


 意識も


 すべてが少しずつ変わっている


 だが――


 壁の奥で、再び電流が強く走る


 バチバチと音が重なる


 空気が一瞬だけ重くなる


 アルトの視線が奥へ向く


(……ここからだな)


 上層はまだ“分かりやすい敵”


 だが、この先は違う


 核を直接狙う戦い


 形のない敵


 そして――


 この空間そのもの


 四人は止まらない


 そのまま奥へ進む


 雷が走る洞窟の中へ


 本当の異常が待つ領域へと、確実に踏み込んでいくのだった

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

もしよかったら感想などいただけると、とっても嬉しいです…!

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