腐れ縁じゃなきゃ遠ざけてしまうほどの態度の悪い美少女は残念ながら俺の腐れ縁でした。
簡単日記
上市との約束を果たすために待ち合わせの学校へ行きました。
掃除用具を渡され近くの河川敷へ行きました。
ボランティアの清掃活動中に上市の悲鳴が聞こえてきました。
「おい! 上市どうし……た?」
嫌な予感がしていた。
距離にして20~30メートル離れていて1時間以上、上市の姿を見ていなかった状況であの悲鳴、駆けつける間に色々考えてしまう、春と言う季節もあって変質者に会ったんじゃないか、それとも暴漢に襲われているのではないか、そんな不安が込み上がるたびに気が焦り呼吸が乱れ、時間にして5秒ほどだと言うのに遠く長く感じ、ようやくたどり着いた上市の姿を見て困惑してしまう。
そこには何故か河川敷と川の境目で腰上まで川の水に浸かっている上市の姿があった。
「いいから助けなさいって!」
ほんの少しの時間だったけど、結構心配したと言うのにこんなマヌケな姿になっているとは……どうしてこうなるのかわからないがとりあえずは助けた方がいいんだろうけど。
「お前、それ自分で上がれるだろ?」
腰の上程度の水量で土手の高さは肩の高さぐらい、これなら運動神経のいい上市もとい『不可能なんてことはない上市 英梨』にとってみれば簡単に河川敷に上がれるはず、それなのに何故助けを求めているのかわからず、焦っている上市をよそに疑問に思ってしまう。
「上がれるんならとっくに上がってるわよ! 左足が岩に挟まってるせいで上がれないのよ!」
焦っている上市の様子からも俺をからかってるわけでもなくマヌケな見た目より事態は深刻なようですぐに俺は上市の脇を抱えるように持ち河川敷のほうへ引っ張り上げる。
上市の言った通り岩に足が挟まっていたせいか、簡単には上げれずかなり力を入れてなんとか引っ張り上げることには成功した。
「――ありがと」
「っで、どうしてあんなマヌケなことになるんだ?」
「あっ! そうだ」
俺の質問に答えるよりも大事なことを思い出したかのようなリアクションを取った上市は辺りをキョロキョロと見渡す。
「あっ、よかったぁ」
捜していたものを見つけ安堵する上市の視線の先には川を泳ぐ小さな亀の姿があった。
「あの亀がどうしたんだ?」
「ひっくり返ってたのよ。自分でなったのか近所の子供たちが悪戯したのか、わからないけどね。それを元に戻してあげようとして近づいて手に取ったまでは良かったんだけど、亀に気を取られて……」
「川に返そうとしたら足を踏み外したと」
「――そんな感じ」
「言っておくが亀を助けても竜宮城には連れてってくれないんだぞ?」
「そんなのわかってるわよ! ただ――」
「ただ?」
「別に! ――ただ何となく助けてあげただけよ。あんまりにも惨めで滑稽だったから、そう宏みたいにね」
ああ、なるほど、つまりはあの時豚バラを買えず落ち込んでいた俺はさながらひっくり返って戻れなくなった亀のようだったということか。
「って、誰が亀やねん」
「そうね、亀に失礼ね」
そんな軽口を言い合い笑い合う、少し前までの不機嫌さはすでに無くなっているようだった。これが上市の数多くある長所の一つでありここまでの長い付き合いになっている一番の要因、口喧嘩しようが何をしようが気がつけばこうして笑い合えるさっぱりとした性格が一緒に居て心地いいのだ。
「さて、ゴミ拾いでも再開しま――」
そこまで言って重大なことに気づいてしまう。
目の前に立っている上市の上半身が透け始めている。勿論。幽体化しているとか実は上市は幽霊で消滅しかかっているとかそんなオチはない。単純に川に落ちた拍子にでもブレザーのボタンが取れたせいか、前がオープンな状態になっていて腰の上までしか濡れてなかったシャツが徐々に上の方へ浸透していったのかわからないけど、とにかく大事なことはブラがギリギリ見え始めているというこの一点だけだ。
「なによ? なんで顔逸らすのよ? ちゃんとこっち見て話しなさいよ!」
ブラを見た何て知られれば殺されるかもしれないのですぐに上市から目を逸らしたんだけど、逆にそれが気に障ったようだ。
「いや、お前、それ」
このままだ上市の言う通りにすればマジマジとブラを見てしまうことになるのでここは覚悟を決めて指摘したわけだが、言葉にするのが少し恥ずかしくて上市の胸のあたりを指差す。
上市は首を傾げた後その指の先を目で追っていくと自分の胸元にたどり着きようやく自分の状況を理解したのか、顔が赤くなっていく。
「バカ! 宏の変態!」
「なっ、こっちが気を利かせて見ないようにしてやったのに、変態呼ばわりとはひどい奴だな」
俺から下着を隠すように胸元に手を当ててしゃがみ込む上市に俺は釈明しつつも上市に近づき自分の羽織っていたブレザーをしゃがみこんでいる上市に上から被せた。
「……なんのつもりよ」
「寒いだろ?」
「……あっ、ありがと」
『あんたのブレザーなんか着ないわよ』とか悪態をついてくるかと思ったけど意外にも上市はしおらしいと言うか大人しくブレザーを羽織った。
「とりあえず一旦学校に戻るぞ」
「でもまだゴミ、半分くらいしか溜まってないわよ」
「二つ合わせれば一つ分くらいはあるだろ、元々俺は参加予定じゃないし美化委員でもないんだから俺の分を上市の分に足してそれでノルマはクリアってことにすればいいだろ? それにそんなびしょ濡れのまま続けるものでもないだろ?」
「でも……、クシュン」
「たかが弐校生のボランティアだろ? ほら、このまま続けたら風邪引くぞ」
「……わかった」
渋々ながらも上市は納得し二人で学校に向かって歩いていると前から佳奈姐が歩いてくる。
「あれ~、宏君にエリーちゃんだ、二人してどうしたの? 制服デート?」
「違います!」
中学時代からこのやり取りを何度見たことか、俺にその気はなくなっているとはいえ何度も何度も力強く否定される身にもなってほしい(ちなみにエリーとは佳奈姐が上市 英梨につけたあだ名)。
「どんなプレイしたらそんなびしょびしょに濡れるのかな~?」
「別に何もしてません!」
力強く否定する上市のずぶ濡れな姿を見た佳奈姐は首を傾げながら冗談を言うが相手にしないと言わんばかりに上市はフンッと顔を逸らす。このままでは埒が明かないと思った俺が「実は――」と切り出し経緯を説明する。
「――ということがあって現在に至るわけ」
「なるほどね~」
佳奈姐は何か閃いたような顔してニヤッと笑う。ああ、これはどうせまたろくでもないことを考えついたやつだ。
「それならさ~、宏君家でシャワー浴びていけばいいんじゃない?」
「ちょ、佳奈姐、なに言ってんの!?」
やはりろくでもなかった。女子の友達を家に呼んでシャワーを使わせるなんて提案をしてくるとは、どう考えても面倒なことになるのは目に見えている。
「いや、だってさ~こんな肌寒い春風の中びしょ濡れでいたらすぐに風邪引いちゃうよ~、エリーちゃんの家より宏君家のほうがここから近いし乾燥機もあるから制服とかも乾かせると思うんだけど、どうかな~?」
また余計なことを、そう思っている内に佳奈姐がどんどん勧めると上市は少し顔を赤くして、らしくなくモジモジしている。
「それは、そうかもしれないけど……、宏に悪いから」
「そんなこと気にしなくてもいいんだよ~、宏君は女の子『美少女限定』のお願いなら何でも聞いてくれるから」
「美少女限定とか言うな! 人聞き悪いだろ」
「じゃあ、寒さに震えるエリーちゃんが『シャワー浴びたいな』ってお願いしたら断るの?」
「……断らないけど」
って言うか、この状況で断れないだろ。
ブレザーを貸してはいるけど、小刻みに体が震えているのがわかるし、何より濡れてない俺が少し肌寒いくらいだ。きっと上市はもっと寒いに決まっている。それがわかっているこの状況で断る勇気は持ち合わせてない。
「じゃあ決まり、このゴミとかは私が学校まで持って行ってあげるから二人は早く宏君家に行った、行った」
「いいの? 佳奈姐だってどこか行く予定だったんじゃ?」
「いいんだよ~、ゲーセンなんていつでも行けるし、それにこっちのほうが面白そうだったから」
佳奈姐は有無も言わせないようにサッサ、サッサとゴミと火バサミを取って走り去ってしまう。
おかしい、佳奈姐にとってゲーセンに行くのは割と重要なイベントなのにそれをキャンセルするなんて……家でシャワーを浴びせて面倒事を起こさせようとしていただけかと思ったけど、何かもっと企みがありそうだ。
正直このまま佳奈姐の思い通りなるのはしゃくだったが横で上市が寒さを我慢している様子が目に入り、全てを諦めることにした。
「佳奈姐の言った通りにするか?」
「いいの?」
「いいよ、上市さえよければ」
「……じゃあそうする」
もっと抵抗感があるのかと思ったがすんなりと提案に乗ったので余程寒いんだろうなと思っていると上市の口元が少し緩む。
「あんた知ってる? 『情けは人のためならず』ってことわざあるでしょ? あれって情けは人のためにならないから止めておきなさいって使われがちだけど本来は人に情けをかけると巡り巡って自分に返ってくるから人のためだと思わず自分のためだと思って情けを掛けなさいって意味だってこと」
「いや、知らなかったけど、それがどうかしたか?」
「別に、ただ竜宮城には連れてって貰えなかったけど、思ったよりも早く情けが返って来たなぁって思って、亀の恩返し?」
「(ひっくり返ってた亀を助けたことか?)鶴の恩返しみたいに言うなよ、それに上市の家に行くよりも少し早くシャワーを浴びれるだけで恩返しって大袈裟だろ?」
ここから俺の家まで10分、上市の家まで20分ってところだから、たかだか10分早くシャワーに入れるってだけで亀からの恩が返って来たとは大袈裟なこと言う。そもそも亀を助けなければこんなことにならなかったわけだし。
「あんたねぇ」
「なんだよ?」
「はぁ、何でもないわよ、ばぁか」
ため息交じりにそう言って上市はスッと駆け出すが、走ったことによって冷たい風を余計に受けて体が冷えたのかすぐに立ち止まり体を震わせ『クシュン』とクシャミをする。
「お前には言われたくねえよ、バ~カ」
そんなマヌケな姿を見てお返しとばかりに反撃してみるが『うっさい、調子に乗んな』そんな風に再反撃をくらってしまう。
そんな軽口を互いに叩きつつ思う。
こんな言い合い他の誰としたって嫌な気分にしかならないのに、なんでか上市とだけはこうして言い合っていても嫌な気分にならない。
「(これが腐れ縁ってやつなのか?)」
そんな風に思いながら上市と少し冷たくもどこか温かさのある春風と共に家路を歩くのだった。
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