中学からの後輩じゃなきゃ惚れてしまうほどの優しい後輩は残念ながら中学からの後輩でした。
ラファの影が薄いと言ってしまったのが聞かれてしまい不機嫌になりました。
機嫌を直すためゲームをプレゼントすることになりゲームショップに出かけました。
何を買うか悩んでいたところ美少女後輩の黒部 鈴蘭子に出会いました。
「……じゃあ、ゲーム探すとするか」
「はいっす! で、結局なんのゲーム探しているんっすか?」
結局振り出しに戻ってしまったか、とにかくなにを探しているか分からなければいくら鈴蘭子がゲームオタクといっても探しようがない、何か思い出さないと、たしか……。
「そうだ! 今日発売って言ってたな」
「今日発売したゲームっすか? それならこっちっすよ」
そう言って鈴蘭子に連れてこられた先には新発売と書かれたゲームが置いてある棚があった。
「今日発売なら、たぶん……人気があるこのどっちかっすね」
いくつかある新発売と書かれたゲームソフトの中からほんの少し吟味したのち二つのソフトを手に取って俺に見せてくる。
「二つあるのかぁ……」
ため息交じりに二つのソフトを見比べてみる。
一つはファンタジーのような世界感で表紙にはいかにもRPGと言う感じのデフォルメされたキャラが書かれていた。
もう一つは怪しい仮面に白いヒゲを生やした太鼓のようなキャラが表紙に描かれていた。
見比べてみたが前にも言ったとおり最新のゲーム事情に疎い俺にはどっちがラファの喜ぶゲームかわからなかったので、とりあえず二つのゲームがどんなものなのか鈴蘭子に聞いてみることにしよう。
「この二つのゲームの内容ってわかったりするか?」
「当然わかるっすよ、軽く説明しましょうか?」
鈴蘭子のその言葉に俺は頷くと鈴蘭子はゲームの説明を始める。
「じゃあ、最初はこっちから説明しますね。この『風のクロロア5』は結構昔から続いてるゲームの続編っすね。RPGっぽく見えますけど、どっちかと言うとアクションゲームっすね、表紙どおりのカワイイ、ファンシーなキャラを操作して各ステージをクリアするって感じっす」
なるほど、シンプルでわかりやすいだけじゃなく内容もなんとなくだがわかる。昔から出ている続編って言っているがこの手のゲームは佳奈姐の趣味じゃなかったせいか、俺は全く触れてなかったからな。この説明は助かる。
「それで、こっちの『太鼓の怪人』は音ゲーっすね。音楽にあわせてタイミングよく決められたボタンを押してスコアを競うシンプルな内容っす、あと見れば分かると思いますけど両方『スイット』で遊べるソフトっすよ」
鈴蘭子の説明を聞いてなんとなくゲームの内容は理解したはいいけど、どっちがラファの喜びそうな物だろうと考えたがどっちも決め手に掛ける。ラファの好きなゲームの傾向は格ゲーやRPGが好きで最近は佳奈姐の影響でギャルゲーにもはまっているらしい。つまり女子が手を出しにくいゲームを好む傾向にある、つまり女子に人気がなさそうなゲームを選べばいいと思い、鈴蘭子に単刀直入に聞いてみた。
「女子に人気のないゲームはどっちだ?」
「人気がないほうっすか? どっちも男女関係なく好きな人は多いと思いますけど、強いて言えば『風のクロロア5』じゃないっすか? アクションゲームより音ゲーのほうが幅広い層に人気がありそうですし」
「そっか、じゃあ――」
鈴蘭子の話を聞いて『風のクロロア5』に手を伸ばした瞬間ある出来事が脳裏によぎった。
「(待てよ、そう言えば少し前にゲーセンへ佳奈姐と二人で遊びに行った時に佳奈姐が音ゲーをやり始めたら、それがやたらすごかったらしくどんどん人が集まってきてそのほとんどの人が『すげー』とか『マジか』とか驚きや称賛の声をあげる中、女子高校生と思われる二人組みが『ひくわー』とか『キモッ』とか言っていたな)」
「ん? 宏先輩?」
急に一時停止した俺を見て鈴蘭子は少し心配そうに首を傾げたので俺は「いや、なんでもない」そう言って再度考え直す。
「(俺は基本的に音ゲーをしない……と言うか出来ないからよくわからないが佳奈姐のレベルが尋常じゃなく、そこまでいくと常人に引かれるのはなんとなくわかる、そしてたぶんだがこの鈴蘭子も佳奈姐と同じで常人じゃない。つまりこれに関しては鈴蘭子の感覚は信用できない、だったら――)」
「あれ? そっちでいいんっすか?」
「こっちのほうがオタク受けするんだろ?」
「オタク受けっすか? まぁ、ある程度いくと出来る人は限られてくると思うっすけど」
手に持った『太鼓の怪人』を見せながらその言葉を聞いて確信した。今まで何度か佳奈姐が音ゲーをプレイしている画面を見たことがあるがとてもじゃないが目で追えるような速さじゃなかった。
その時は俺が最近ゲームをやらなくなったからそう見えるだけで、現役でゲームをやっている人から見ればこれくらい普通なのかと思っていたがあれは佳奈姐というか出来るほうが普通じゃない、つまり音ゲーはオタクのためのゲームと言っても過言ではないはず。
俺はゲームをレジまで持っていき会計をしようと財布に手を伸ばすが店員から思いがけない言葉が返ってくる。
「すみません、この商品は現在在庫切れで」
「えっ、マジ」
「はい、予約されている物しか当店には残っていなくて、すみません」
「宏先輩しょうがないっすよ、なにせ今日発売の大人気ゲームなんっすから、品切れになるのも仕方ないっすよ」
俺と店員のやり取りを横で聞いていた鈴蘭子が慰めるようにそう言ってくれる。
「そっか、そうだよな(ん~、困ったなぁ、ラファへのプレゼントどうするかな?)」
「……仕方ないっすね。店員さん、私が先払いで予約していた『太鼓の怪人』この人に渡してください」
落胆している俺を見かねてか鈴蘭子はそう言って俺を指差すと店員は「わかりました」と言ってレジの後ろの棚から『太鼓の怪人』を探し始める。
「鈴蘭子、このゲーム予約してたのか!?」
「そうっすよ、今日ここに来たのもこのゲームを取りに来たのが目的でしたし、暇つぶしに店内を見て回っていたところで宏先輩を見つけたんっすから」
鈴蘭子とそんな会話をしていると店員はゲームを袋に入れて俺に手渡してくれたので俺はそれを受け取り、俺たちはとりあえず店を出た。
「おい、これ」
レジに並んでいる人たちがいたからとは言え、そのまま店の外に出たはいいが俺は手に持った袋に目を落としながら本当に貰っていいのか確認する。
「いいんすよ、なにやら宏先輩にも事情があるようですから特別に譲ってあげますよ」
「いいのか? 鈴蘭子だってこのゲームを楽しみにしていたんじゃないのか?」
「そりゃあ、楽しみにしてましたよ。じゃなきゃこんな早い時間からゲームショップには来ないっすよ」
「だったら――」
「でも、ゲームはいつでも出来ますから、その代わり明日、私と映画を見に行きましょう、もちろん宏先輩のおごりで」
「映画? 別にいいけど」
「そう来なくっちゃ! さすがは宏先輩! じゃあ、決まりっすね!」
「ああ、それで時間とかは――」
明日の集合場所や時刻を聞こうとした瞬間、鈴蘭子のスマホが鳴った。
「あっ、もうこんな時間っすか。すみません宏先輩。私この後友達とショッピングに行かないと行けないんっすよ。だから明日のことは夜にでも詳しくラインするっす、それじゃあ宏先輩、明日楽しみにしてますから」
「あぁ、またな」
テンションが上がった様子の鈴蘭子の勢いに少々圧倒される俺に手を振りながら鈴蘭子は走り去って行った。
「相変わらず騒がしい奴だな(でも、なんで急に映画なんて? 何か見たい映画とかあるのか? 一人じゃ見づらい奴とかなのか? まぁ、いいか、鈴蘭子のおかげでラファの機嫌も直りそうだし)」
「あっ、しまった。このゲームの代金、鈴蘭子に払わないと――」
気づいた頃には時すでに遅し、すでに鈴蘭子の姿はずいぶん遠くなっていて今から追いかけるのは気が引ける。
「(電話でもかけて――いや、いいか。友達と会うのにわざわざ呼び止めるのもな、時間もなさそうだったし。それにどうせ明日会うんだからそのときに払えばいい)はぁ、出費がかさむ」
ようやく咲き始めた桜を散らしてしまうのではないかと思う程の深い深いため息を漏らし、軽い財布の中身すら見ようとしない俺はそう思いながら家に帰ることにした。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
ブクマだけでなく評価までして頂きありがたい限りです。
なんとか週三投稿出来ました(今回少ないのはご容赦ください)
今後も出来る限り頑張っていくので応援のほどよろしくお願いいたします。
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