6 憧れと尊敬
理想
「なんとか終わったかな・・・」
一通り整理が終わる頃には夕方近くになっていた。必要な家具を文明の力を駆使して運び終わる。元々紗耶の家にはそこまで大きな家具はないので俺と紗耶だけでもほとんど運べた。まあ、そもそも俺の家に物が少ないので丁度いいくらいだ。
「お疲れ様です。すぐに夕飯作りますね」
「ありがとう。でも、紗耶も疲れてるだろうし出前頼もうか?」
「大丈夫です。作りたいんです」
そう言いながら髪をくくってエプロンを着ける紗耶。いつもはロングの髪を縛らずにそのままでいるが、こうして料理の時には縛るのでなんとなくそのギャップが好きだったりする。
「ふんふんふーん♪」
トントンと軽快に包丁を動かし鼻歌まじりに調理をする紗耶の姿になんとなく見とれている紗耶は聞いてきた。
「つっくんは両親の馴れ初めって聞いたことありますか?」
「いや、軽くしか知らないかな」
「そうなんですか。私はいつも聞いてました」
「いつも?」
「はい。私からしたらとっても素敵な話なんです」
そう会話をしながら調理を続ける紗耶はどこか嬉しそうに話す。
「二人がまだ恋人になる前のことです。こうしてお母さんが料理をしているとその姿を見ながらお父さんが言ったんです。『これからも俺のために料理を作ってくれないか?』と」
「なんだか硬派なお父さんだね」
「これだけならそうですね。それにお母さんも答えたんです。『こうしてあんたの前で作ってるんだから最初からそのつもりよ』って」
「お母さん強いね」
なんとも強気な返答な紗耶のお母さんに俺は思わず苦笑すると紗耶もくすりと笑いながら言った。
「かもしれませんね。でも私もこうして料理をしているといつも思うんです。素敵な男の子に同じように告白されたいなって」
「そっか・・・」
俺がその台詞を言ってもいいのだろうか?いや、そんな下心で彼女を救ったわけではない。弱っているところに漬け込むなんて手段で女を堕としたくはないかな。それに下手に告白なんかして紗耶とのこの先の関係を崩したくはない。でもこれだけ言いたい。
「紗耶の料理姿は凄く魅力的だよ。みとれてしまうくらいにね」
「・・・ありがとうございます」
微笑む紗耶。少しだけ物足りないような様子を見せるが嬉しいことには嬉しいのだろう。しかしこうして話していると本当に素敵な両親に恵まれたんだろうなと思う。それは俺にはないものなので少しだけ羨ましい気持ちにもなる。割りきっていてもやっぱり昔欲しかったものはなかなか諦められないものだ。
ま、そんなことは言わないと思うけどね。