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アンリネットの災難

 この世界が夢だと気づいたのは、学園の入学式だ。

 私、杏里はどうやら七色の軌跡、という乙女ゲー、いやクソゲーの夢を見ている。

 不思議なことに幼少期から育つという、めんどくさい夢だ。

 同志たちときっと主人公の幼少期はこうだろうと語っていたからに違いない。

 だって、私が覚えている直前の行動は、大きな地震があり、やばいフィギュアが倒れる、神様助けて!なんでもするから!だったのだから。

 そしてこのクソゲー、語るのも吐き気を催すから割合したい。

 悪役令嬢断罪が流行る中、私は切磋琢磨するライバル令嬢を愛していた。

 黒のウェーブかかった長髪、夜を思わす紫の少し冷ややかな瞳。

 主人公はありきたりだが、まあ可愛い。

 何よりライバルキャラと対のように描かれている。

 攻略キャラの六人もイケメンで、パッケージ買いするしかなかった。

 それなのに、いざプレイしたらクソだった。

 公式の発言もクソだった。

 ドン引きしたのはライバルであるアリアンローズ、ローズの声優さんが未成年にも関わらず、打ち上げと称し深夜まで連れまわしたのだ。

 ありえん、ありえんぞ。

 大炎上する七色の軌跡。

 ついたあだ名は七つの喜劇~金と権力の国の馬鹿な運営~である。

 夢だと気づいてからは、早くクリアして起きねば、フィギュアの確認をせねば、がすべての行動原理であった。

 嫌々一番マシな王子ルートを攻略して、涙目になりながら、ローズごめんなさいと嘆きクリアしたと思った。

 なのに目は覚めることなく、物語はおかしなことに。

 そして気がついてしまった。

 大きな地震で、私は死んだのでは?と。

 涙が溢れて、馬鹿王子に引っ張られローズに近づき、弁解をしようとする。

 

「ヴィー…っ痛いわ、離して、ローズ様、違うのっ」


 そう言い訳をしようとして、あっけにとられることとなる。

 馬鹿王子は自称ローズの婚約者だったのだ。

 第三王子のことは短く、弟がいると一文があっただけだった。

 まさか、ローズの本当の婚約者だとは思わなかった。

 ローズの救いにより、国王様が問いかけてくる。

 本当は日本に帰りたい。

 やりたいことがいっぱいあったのだ。

 けれど、死んでしまった。

 ぐっと手に力を込めて祈るように手を合わせ、一息つきはっきりと告げる。


「私は、教会へ…帰りたいです。私が本当に帰りたいところは、無くなってしまいましたから」

「本当に…?場所を聞いても?」

「はい。きっと誰も知りませんよ。ニホンという小さな島国でしたから」


 そう言えば、悲しそうな表情を見せるローズに涙がこぼれそうになる。

 私は危うく、好きな彼女を傷つけてしまうところだった。

 回避できたのならば、処されようとかまわない。

 あぁ、あの時、不審がらずに薬を貰っておけば、アンリネット、私の母は死ななかったのかもしれない。

 その後、私はローズのおかげで、教会へと戻されることとなった。

 何度か馬鹿王子から手紙が来たが、すべて燃やして捨てた。

 馬鹿王子のどこを好きになれというのだ。

 政略的ではあるが、自称婚約者がいる身で主人公を好きだと言い、頻繁に夜会に連れていき、俺の愛しい人と言い、ローズのことなどいない存在として扱っていた。

 貴族社会であるのに。

 出会いであるローズ六歳の時が真実なら、それもおかしい。

 会話を一切せず、木登りにいそしんでいた馬鹿とローズが意気投合するはずないのだから。

 弟に婚約者ができるはずない。自分が一番だと思っていたのだ。

 滑稽な王子である。

 咎める父と第二王子の話を聞かず、母親に甘やかされたのだろうと、行動から思った。

 王妃の慌てようから、本当は第三王子は国王の子ではないために、辛くあたったのも一因だ。


「アンリネット、お手紙が来ているわ」


 シスターから呼びかけられ、思わず顔をしかめる。

 また、馬鹿からだろうかと思ったのだ。

 しかし苦笑するシスターから渡された手紙には、薔薇の封が押されていた。

 急いで部屋に戻り、封を切って手紙を読む。


『アンリネット様、お元気かしら?

 馬鹿を御せなくてごめんなさいと、国王様が言っていたわ。

 あの後、侍女から聞いたのだけど、ニホンは魔法もなく、争いも少なかったため、この国は過ごしにくかったでしょう?

 どうか、あなたにとって幸せな道に進めますよう祈っています。

 よかったら、あなたを気にしている侍女と、いえ私と会ってくれないかしら?

 良きお返事をお待ちしています』


 ぽろぽろと、涙をこぼして手紙を抱きしめる。

 この世界にニホンという国はない。

 だけど知っている人がいる。

 それは、きっと私のような転生をした人なのだろう。


「あぁ、神様、ありがとう」


 うずくまって数分、落ち着いた私は手紙の返事を書くために、立ち上がる。

 可愛い便箋をわけてもらおうと、扉をくぐった時、優し気な男の人の声がした。


「君の…花嫁のためさ」


 振り返ってみるが、誰もいない。

 気のせいなのだと気がついた私は、はしたなく廊下を駆け出した。

馬鹿が書きたかっただけなんです。

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