13. 鏡の中の姿
水面が震え波紋が広がり、水鏡に映る遠坂星子は、リンカーの姿に変わった。その姿は、先程の女性の姿によく似ている。しばらくその姿をじっと見つめていた時、ディーアが声をかけてきた。
「星子、終わったかい?」
はっとして、うん平気と答えた。試着室を出て、気恥ずかしげにワンピース姿の自分を披露した。
「に、似合う?」不安げにディーアの顔を見上げる。
「とっても似合うよ、星子」ディーアはにっこりと微笑んだ。
「本当?なんか変な感じ……。こんな服着た事がないから」
「星子は何でも似合うんだから、もっと自信を持てばいいんだよ」
ディーアの言葉は照れくさかったが、星子は少しばかり自信がもてた。裸にならなくとも自分を女性として見てくれる人が居るのだ。最も、ディーアは人という類ではなかったが、それでも……いや、むしろその方が星子は純粋に喜べた。
「でもこの服じゃ、身軽すぎるかしら」
「心配しなくても大丈夫だよ。アイテムは全て僕の嵌めている四次元リングにしまっておける」
「四次元リング?何それ」
「特殊な宇宙の力を秘めた指輪の事さ。例えば、星の羅針盤を取り出したい時は――」ディーアが目を閉じ念じると、指輪が光り異空間から星の羅針盤が現れた。もうこの程度の事は、この世界では当たり前なのだと星子は驚かなくなっていた。
「へぇ、便利なのね」
「ところで君たちはこれから一体どこへ行くんだい?」と、ガニメドが問いかけた。
「そうだ。羅針盤を見てみないと」星子は思い出したように言って、ディーアの持つ羅針盤を覗き込んだ。
「北北西の方に強い邪星の反応があるみたいだね」ディーアは言った。
「北北西?」
「どうしたんだい?ガニメド」
「いや……確か、その街は闇の商売が盛んな噂を聞いた事があるよ。リンカーと死に星は特に気をつけた方がいい」
「闇の商売、つまり人身売買か」
穏やかでない単語を耳にして、星子は眉根を寄せた。
「怖い所なの?」
「間違いなく」ガニメドは続けて「特に死に星は高く売れる。しかし死に星だけでは成り立たない。連中は死に星の特性を理解している。だからリンカーも狙われるのさ。行くのなら星の紋章を隠して行かなくてはいけないよ」
「その辺は抜かりはないから大丈夫だよ。ガニメド」
「私、怖くなってきた」気がつくと、足が震えていた。ディーアは、そんな星子の前にゆっくり近づくと両頬へ両手をそっと添えた。
「僕は死んでも星子を守る」
ディーアの力強い声と眼差しに、星子の心は落ち着いた。
「もう、死んでるじゃない」
星子は唇だけで笑いながらそう言った。
二人は服屋を出ると、ガニメドに見送られながら次の街を目指す事にした。ディーアは闇の商売人に見つからぬよう、頭まで隠れる黒いマントを被って。星子はこれまでにない気持ちだった。恐怖心や不安を覆い尽くせる位の、胸踊る気持ちだった。その気持ちが消え失せぬように、固く拳を握ると、前へ一歩を踏み出した。
新しい街へ行く前にディーアは立ち止まり、振り返って言った。
「僕は生きているよ。星子の傍にいる限り」




